12:「よだれ出てるぞお前。」
「んで?その後赤石さんとはどうなったの?」
単刀直入に飛風が切り込む。
「えっと…あの……。」
濁す星太。
「なんだよー。
その学年トップクラスの女子からもアプローチ受けたーとか言うなよー。」
まぁ、ないけどなー。という顔で篤史が笑う。
「……。」
涙ぐむ星太。
「え…マジ?」
珍しく動揺する飛風。
星太が話を切り出したのは、ここから十分後のことだった。
「なるほどねー。その言葉の真意は読めないな。」
飛風が興味深めに納得する。
「…おれ、どうしたら…。」
冗談抜きで凹みまくる星太に、地雷を踏んで気まずそうな篤史。
「んー。でもまぁ…相手も『清楚可憐』で通ってるキャラだし、
そんなズカズカと切り込んでくるような女子じゃないでしょ。
とくに赤石さんは二組だし。
わざわざこんな隔たり跨いでまで接しに来たりしないと思うな。」
そこまで飛風が言ったところで、休み時間が終わった。
星太は一年八組。
赤石 澪は一年二組だと飛風は言った。
飛風が言った通り、星太と澪は、普通ではどうやっても関わりはない。
クラスメートや学年にバレる可能性は低い。澪が下手なことを仕掛けてこない限りは。
星太は心の隅に残る黒い感情をどうにかして吐き出したかった。
授業もまともに耳に入らず、淡々と時間の流れに身を任せる。
『入江くん!入江!』
澪が自分を呼んでいる妄想が星太の頭に広がる。
『入江…せ…星太…。』
恥じらう様で上目遣いで自分を見る澪の姿が脳裏に浮かぶと同時に、我に返る。
「入江星太ァ!!!」
バシッ!と鈍い音が鳴る。軽い痛みが頭上を走る。
「片肘をついたまま私の授業で寝るとは良い度胸だな…。」
生徒指導部長、数学主任教師、新垣先生が教科書を振りかざしていた。
ちなみにこの先生、このスペックで美人女性教師である。
「いって…。べ…別に寝てないですよ。」
星太は反射的に頭を押さえる。
「よだれ出てるぞお前。」
腕を組みながらため息まじりにそう呟くと、クラスは笑いに包まれた。
星太は口元を拭うと、恥ずかしさに赤面する。
チラリと優衣の方を見ると、優衣もクスクスと笑っていて、
恥ずかしいながらも自分も少し笑ってしまうのだった。
終業のチャイムのあと、早速篤史と飛風が星太の元にやってきた。
「良かったじゃねーかー。
学年トップクラスの女子二人からアプローチ受けて
その上新垣先生に個人的に注意受けれるなんてよー。」
篤史がうらやましげに笑った。
「うるせーよ…。」
星太はその皮肉さに思わずため息を吐いた。