10:「責任、とってよ!」
目の前が真っ白だ。
ー おれは死んだのか。
星太は真っ先に優衣を思い出していた。
ー 本当に…優衣はそんな女だったのか…??
そんなハズはない。きっとあの場で気が動転していて、判断力を見失っていただけだ。
そう…死んだ今となっては、もう関係のないことだけど……。
バンッと、勢いよく扉の開く音がした。
星太はそっと目を開けてみる。
すぐ目の前に金属バッドが数センチの所で震えている。
いや、あの振り下ろした勢いを止めていたからだ。
状況を理解するのに数秒かかった。
ー ようするに…まだ…死んでない??
「やめてよ!お兄ちゃん!!!」
星太の耳に一番に入ってきたのは、可愛いというより、美しい女の声。
声の先には、あの駅前で出会ったあの美少女が、威勢良く立っていた。
「……!?」
「澪…!なぜここに!!」
「いいから!!その人に手を出したら、お兄ちゃんと縁切るわよ!」
「……!!!!?????」
綾渡は信じられないほどの衝撃を受けたようだった。
「…しかしッ!澪!この男はお前の……!!」
「うるさい!!とりあえずこの人は私が預からせてもらうわ!」
そういうと、美少女は腰が抜けている星太の手を掴み、星太を立ち上がらせた。
「歩ける??」
「う…はい…。」
本当は足が震えて、とても歩ける様ではなかったが、必死に動かした。
「お兄ちゃん、次は、本当に、怒るわよ?」
区切るごとに言葉を強く放って、美少女は星太を連れてビルを後にした。
星太は聞き逃さなかった。あの日下部という男が、最後に冷や汗まじりに呟いた一言を。
「……かなわねえ…。」
ひとまず、ビルから数メートル離れた小さな公園で腰を下ろした。
「ごめん…。怪我してない?うちのお兄ちゃん、私の事になると見境ないから…。」
ため息まじりに、美少女は濡れタオルを星太に渡した。
「…えっと………はい。…あ…あなたは?」
「赤石 澪。あなたと同じ、麗月高校一年よ。」
「…。」
やっぱり同じ高校だったのか、と星太は思った。
ただ、同学年だったことは予想外だった。
「さっきの人が私の実兄。
分かったと思うけど、この如月町を仕切る暴力団、『赤石組』の現総長。」
暴力団の……妹。
星太の中でいろんなピースがつながった。
優衣は何も関係ない。
星太が『手を出した』のは優衣ではなく、綾渡にとっての『妹』だったのだ。
つまり、『れいの男』は『例の男』ではなく『澪の男』。すべて勘違いしていたのだ。
たとえあの状況でなくともここまで説明を受けなければ理解に時間がかかる内容の濃さだ。
思わず星太は引きつった笑いを浮かべた。
が、すぐにあの事を思い出した。
「……。あの…この前は……。」
「……っ!!……そう、あれのせいで…あなたはこんな目にあったのよ。」
淡々と冷静に話を進めていた澪だったが、この前の話題を振られて、少し顔を赤くした。
「……。」
もちろん星太も自分で持ち出しておいて真っ赤である。
気がつけば、もう陽も落ちかけて、二人と同じように赤色に染まっている。
俺は…最低だ…!
澪に対して、本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
自分のしたことは、その人の大切な一生の一部を、一生治せないもので汚してしまったのだ。
「ごめんっ…なさい…!!!」
星太は振り絞るように声を出し、頭を深く下げた。
「……そのことはもう……いいわ。」
「…!!」
「私、あれ、初めてだったのよね…。」
「…。」
星太の胸に痛みが走る。
「…でも良いの。」
「……な…なんでですか??」
星太は再び声を絞り出した。
「あなたが、私の、結婚相手になってくれるなら…。」
一瞬星太は何を言われたのか相手が何を言っているのか理解できなかった。
「………はぁ!?」
「そりゃ…あんなことしたんだもの。しかも暴力団総長の妹に。」
澪は星太に背中を向けて夕日に向かって歩く。
最期に振り返って。
眉をつりあげて。
でも、笑顔でこう言った。
「責任、とってよ!」
澪:「責任、とってよ!」
第一部、完結です。
たった十話ですがここまで読んで頂いた皆様に深く御礼を申し上げます。
昨日この話を投稿する予定でしたが、風邪をこじらせてしまい、
頭痛も酷かったので見送らせて頂きました。申し訳ないです。
とりあえず、活動報告通り、目標は達成いたしましたので
いったん閉幕させて頂きます。
第二部の開幕の希望が多かった場合は早めに復帰したいと思っています。
活動報告、小説自体にでも構いませんので、
皆様のご意見・ご感想・ご希望をお待ちしております。
ありがとうございました。