ある追放者の酔言
「お前を追放する、か……」
「まさか、こんなことになるなんてなぁ」
「ははっ」
「予想もしてなかったわ」
「あいつを追い出して、上手くいくと思ってたんだけどなぁ」
「……だけど」
「俺は、間違ってねぇ」
「…………」
「んぐ、んぐ、……ぷはっ」
「はぁ……」
「そうだ……」
「俺は間違ってねぇ!」
「あいつを追放したことは!」
「弱いやつは追放されて当然だろ!」
「お荷物抱えて戦えるかよ!」
「それなのに……」
「実は陰で支えてました、だぁ?」
「知るわけねぇだろ、そんなもん!」
「俺は必死に魔物を倒してたんだ!」
「がむしゃらに戦ってたんだ!」
「それを自分の実力だと思って、何がおかしい!?」
「……」
「ああ、そうだよ」
「あんたの言う通りだよ」
「あいつを虐げた俺が悪い」
「あいつの力を見ようとしなかったのも、俺だ」
「調子に乗ってた……」
「雑用を押し付けた、何度も怒鳴った」
「なんか気に食わなかったんだ」
「最低だった」
「でもよ」
「人の力で成り上がってたなんて」
「俺は弱いままだったなんて」
「あまりにも馬鹿みたいじゃねえか……」
「………」
「……おい、もう一杯くれ」
「んぐ、んぐ」
「……でも、よぉ」
「あいつのことがわかんなかったんだよ」
「幼なじみだったんだ」
「一緒に冒険者になって、パーティー組んで」
「仲間が増えて、ランクが上がって」
「俺は傲慢になっちまった……」
「その結果がこれだ」
「笑えるよな」
「だけど」
「あいつは変わらないんだ」
「ガキの頃から、ずっとだ」
「なあ、気味悪ぃだろ……?」
「笑うんだよ」
「泣くんだよ」
「怒るし、悲しむ」
「ちゃんと、そうする」
「なのに、どこにもあいつが見えねぇんだよ……」
「おかしいだろ?」
「なあ、おかしいよな?」
「機嫌が悪けりゃ、嬉しいことだって喜べねぇ日があるだろ」
「嫌いなやつには、冷たくなるだろ」
「褒められたって、素直に笑えねぇ時もあるだろうが」
「人間って、そういうもんだろ……?」
「なのに、あいつは違うんだよ」
「いつだって、正しいんだ」
「悲しむ時に悲しんで」
「怒る時に怒って」
「綺麗すぎんだよ、あいつの人生」
「……何なんだよ、あいつ」
「あ?」
「優しいだけだって言いてえのか?」
「俺の負け惜しみだって?」
「ははっ、そうかもな」
「ああ、そうだよ」
「ただの酔っぱらいの戯言だ」
「聞き流してくれ」
「あぁあ、飲み干しちまった」
「空っぽだ、俺と同じだな」
「……悪い、忘れてくれ」
「あいつに助けられたやつは大勢いる」
「だから、間違ってたのは俺なんだ」
「俺なんだよ……」
「あいつは」
「ちゃんと悲しんで、ちゃんと立ち直って、ちゃんと見返して」
「ちゃんと俺にまで手を差し伸べた」
「順番通りに」
「優しいよなぁ……」
「優しすぎるよなぁ……」
「そう思わねぇ……?」
「……」
「だよな」
「いや、悪ぃ」
「困らせちまったな」
「あいつが正しい」
「それだけでいいんだよ」
「……でも、俺は認めねぇ」
「あいつが俺を許しても」
「手を差し伸べても」
「そんなもんに乗っからねえ」
「仲間はどっか行った、金も名誉もなくなった」
「実力も……俺のもんじゃなかった……」
「けど、俺は力ずくで成り上がってやる」
「改心なんてしねえ」
「あいつなんて、だいっきらいだ」
「どんだけ一緒にいても」
「どんだけ笑い合っても」
「なんもわかんねえあいつが大嫌いだ!」
「……」
「つい、熱くなっちまったな」
「酔いも覚めちまったし、帰るわ」
「愚痴に付き合ってくれてありがとよ」
「隣に座っちまったのが運の尽きだったな」
「ここは俺が奢ってやるからさ」
「でもよ」
「俺はあいつみたいにちゃんとは立ち上がれないからさ」
「また会ったら、話聞いてくれよ」
男はくしゃくしゃの紙幣を置いて、ふらつきながら酒場を出ていった。夜風に煽られ、一度だけ転びそうになりながら、それでも足を止めなかった。
腰に差した、不釣り合いなほど手入れされた剣を、そっと握りしめながら。




