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ある者の語り

ある追放者の酔言

作者: ヒイラギ
掲載日:2026/06/30

「お前を追放する、か……」

「まさか、こんなことになるなんてなぁ」

「ははっ」

「予想もしてなかったわ」

「あいつを追い出して、上手くいくと思ってたんだけどなぁ」

「……だけど」

「俺は、間違ってねぇ」

「…………」

「んぐ、んぐ、……ぷはっ」

「はぁ……」

「そうだ……」

「俺は間違ってねぇ!」

「あいつを追放したことは!」

「弱いやつは追放されて当然だろ!」

「お荷物抱えて戦えるかよ!」

「それなのに……」

「実は陰で支えてました、だぁ?」

「知るわけねぇだろ、そんなもん!」

「俺は必死に魔物を倒してたんだ!」

「がむしゃらに戦ってたんだ!」

「それを自分の実力だと思って、何がおかしい!?」

「……」

「ああ、そうだよ」

「あんたの言う通りだよ」

「あいつを虐げた俺が悪い」

「あいつの力を見ようとしなかったのも、俺だ」

「調子に乗ってた……」

「雑用を押し付けた、何度も怒鳴った」

「なんか気に食わなかったんだ」

「最低だった」

「でもよ」

「人の力で成り上がってたなんて」

「俺は弱いままだったなんて」

「あまりにも馬鹿みたいじゃねえか……」

「………」

「……おい、もう一杯くれ」

「んぐ、んぐ」

「……でも、よぉ」

「あいつのことがわかんなかったんだよ」

「幼なじみだったんだ」

「一緒に冒険者になって、パーティー組んで」

「仲間が増えて、ランクが上がって」

「俺は傲慢になっちまった……」

「その結果がこれだ」

「笑えるよな」

「だけど」

「あいつは変わらないんだ」

「ガキの頃から、ずっとだ」

「なあ、気味悪ぃだろ……?」

「笑うんだよ」

「泣くんだよ」

「怒るし、悲しむ」

「ちゃんと、そうする」

「なのに、どこにもあいつが見えねぇんだよ……」

「おかしいだろ?」

「なあ、おかしいよな?」

「機嫌が悪けりゃ、嬉しいことだって喜べねぇ日があるだろ」

「嫌いなやつには、冷たくなるだろ」

「褒められたって、素直に笑えねぇ時もあるだろうが」

「人間って、そういうもんだろ……?」

「なのに、あいつは違うんだよ」

「いつだって、正しいんだ」

「悲しむ時に悲しんで」

「怒る時に怒って」

「綺麗すぎんだよ、あいつの人生」

「……何なんだよ、あいつ」

「あ?」

「優しいだけだって言いてえのか?」

「俺の負け惜しみだって?」

「ははっ、そうかもな」

「ああ、そうだよ」

「ただの酔っぱらいの戯言だ」

「聞き流してくれ」

「あぁあ、飲み干しちまった」

「空っぽだ、俺と同じだな」

「……悪い、忘れてくれ」

「あいつに助けられたやつは大勢いる」

「だから、間違ってたのは俺なんだ」

「俺なんだよ……」

「あいつは」

「ちゃんと悲しんで、ちゃんと立ち直って、ちゃんと見返して」

「ちゃんと俺にまで手を差し伸べた」

「順番通りに」

「優しいよなぁ……」

「優しすぎるよなぁ……」

「そう思わねぇ……?」

「……」

「だよな」

「いや、悪ぃ」

「困らせちまったな」

「あいつが正しい」

「それだけでいいんだよ」

「……でも、俺は認めねぇ」

「あいつが俺を許しても」

「手を差し伸べても」

「そんなもんに乗っからねえ」

「仲間はどっか行った、金も名誉もなくなった」

「実力も……俺のもんじゃなかった……」

「けど、俺は力ずくで成り上がってやる」

「改心なんてしねえ」

「あいつなんて、だいっきらいだ」

「どんだけ一緒にいても」

「どんだけ笑い合っても」

「なんもわかんねえあいつが大嫌いだ!」

「……」

「つい、熱くなっちまったな」

「酔いも覚めちまったし、帰るわ」

「愚痴に付き合ってくれてありがとよ」

「隣に座っちまったのが運の尽きだったな」

「ここは俺が奢ってやるからさ」

「でもよ」

「俺はあいつみたいにちゃんとは立ち上がれないからさ」

「また会ったら、話聞いてくれよ」


男はくしゃくしゃの紙幣を置いて、ふらつきながら酒場を出ていった。夜風に煽られ、一度だけ転びそうになりながら、それでも足を止めなかった。

腰に差した、不釣り合いなほど手入れされた剣を、そっと握りしめながら。

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