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神は神

聖女候補のせいで死にかけた少女

作者: 月森香苗
掲載日:2026/03/12

当方では珍しく神が割と人に寄り添っている。

追記:寄り添ってますが所詮神は神です。同じ舞台にいるなどという傲慢な考えを捨て、神は高次元の存在で人間には理解出来るわけない、と言う考えで読んでください。


聖女の定義を今回はいずれ花嫁になる存在としています。

人を治癒したりとか結界を張ったりとかの力はありません。

 神殿の最奥。そこが私の職場であり生活の場である。




 三年前、私はある事件に巻き込まれた挙句、冤罪により退学処分を受けた。小さく力の無い子爵家の次女の声は誰にも届くことなく、突然の事に呆然としている私を多くの生徒が嘲笑った。

 後に、私には何の罪もないと判明したけれど、三ヶ月間の拘留期間とその間に醜聞を避け家を守る為にか、家から除籍をされて貴族ではなくなっていた。

 どれだけ謝罪されても私の時間と立場は失われて戻らない。人への信用も信頼も失った。


 私はただ移動の為に歩いていた。ただそれだけの事で全てを失った。

 帰る家も家族も名誉も未来も何もかも。

 その時の私は平民となっていて、ただの「アリッサ」になっていた。

 貴族である内は貴族牢だったけれど、平民となってすぐに移動させられ、鉄格子の嵌められた石造りの牢に入れられた。

 硬いパンと汚い水。体を清める事も出来ない環境で弱りきり、熱を出して起き上がれなくなっていた。

 たかが三ヶ月かもしれない。体力のある者ならば耐えられたかもしれない。しかし、ごく普通の貴族の娘として育った私にはさほど体力はなく、清潔とも言い難い環境とまともに摂取出来ない食事は、あっという間に私から生きるために必要な力を奪った。

 調査が終わった時、ただ一人、私は全くの無関係だと判明して慌てて調査官が牢に来たそうだけれど、私は死にかけていた。体にかける布一枚すらなく、汚れたドレスだけが唯一の防寒具。

 肉体的、精神的な疲労による高熱と絶望。硬いベッドの上で私は意識を失っていた。

 すぐに救助されたようだけれど、私の意識は中々戻らなかったそうだ。

 王宮の特別な客室を宛てがわれ、侍女達が甲斐甲斐しく世話をしてくれるおかげで、私は何とか長時間起きて言葉を発せるようになった。


 その事件には王族と聖女候補、高位貴族などが関与しており、慎重な調査が必要であったが、その所為で最も家の爵位が低かった上に除籍された私は後回しにされた。


 王子が、聖女候補が、高位貴族の令息達が私の療養する部屋に押しかけて来て謝罪を、と言ったけれど。


「私は家族に捨てられました。学園も退学させられました。牢に入れられ死にかけました。家名を失い平民になりました。ただ、偶々歩いて移動していただけ。それだけの事で。それで、皆様は私に何をお求めですか?」


 彼らが一言、私を見た事がないと言っていたならば。冤罪だと判明しただろうに。

 私が失ったものを羅列する度に気まずそうな顔をするその姿は、私に責められた被害者に見えるけれど、私にとって彼らは加害者でしかない。


「本当に謝る気持ちがあるならば、未だ療養が必要な私の元に押し入りなどはしないでしょう。皆様方はただ、謝罪をして罪悪感を無くしたいだけでしょう?」


 カッ、と顔を赤くした人の名前を私は知らない。

 本当の事を言われて怒るなど、おかしい話。冤罪で理不尽に、問答無用で牢に入れられた私は怒ることすら出来ないくらいに疲弊していたのに。


「聖女候補様。私は貴方にも罪があると思いますよ。彼女達は貴方を害した。ですが、神に仕え、神の花嫁になる女性が、多くの異性と親密な距離で共にいる。神罰を恐れ注意するのは当たり前です。貴方様は聖女にはなれません。神は花嫁の不貞をお許しにはなりませんから」


 忘れていたのだろうか。顔を青ざめさせた聖女候補。神殿ではきつく厳しく教えているはずなのに。

 男性達も同じ。聖女候補は聖女になる為に修行をする。

 その一環として学園に通うのは、少しでも同年代の女性と思い出を作ると同時に信仰を広める為である。まかり間違っても異性と親しくなるためでは無いのに。

 聖女とはいずれは神の花嫁として召し上げられる存在。決して神以外に恋をしてはならないのに。


「貴方は、聖女にはなれません。神は見ておられました。貴方がそちらの男性方全員と口付けを交わし、身体に触れ、体を重ねた者もいることを」


 毒を含ませる。

 男たちは自分だけが彼女の特別だとおもっていたのだろう。しかしそれは偽りで、しかも純潔ですらないと知った時の反応はそれぞれで異なっていた。

 一度死に瀕した私には恐れるものはない。

 何よりも私は出会ってしまったのだ。


「神の裁きの時間です」


 私が何故、王宮の特別な部屋で療養しているのか。

 何故、平民になったのに丁重に扱われているのか。

 私の前髪がふわりと風もないのに舞い上がる。そこには、人の手では描けない独特の紋様が刻まれていた。


「その、額は……まさか、君は!」

「私は、皆様が不適切な関係になり、それにより傷付けられた令嬢達が自らの手で罰を与えようとし、それに巻き込まれた結果死にかけました。聖女候補による因果が無実の私を最も悲惨な目に遭わせた。死の淵で私は神にお会いしました。そして、私を救って下さったのです。神は私を新たなる花嫁に選びました」


 額に刻まれたのは神紋。候補の内は手の甲にあり、正式に花嫁として認められたら額に現れる神聖なる紋様。

 私は候補を飛ばして神に選ばれた。正式な聖女であり、死後は神の花嫁になると。

 聖女候補として持て囃された女は、黒い光を身に受けた。

 突如現れた黒い光は神罰の証としてよく知られている。

 聖女候補の絶叫が部屋に響く中、私は偉大で愛しい力に守られていると感じていた。


 光が消失し、残されたのは顔や腕、足に至るまで黒の茨の痣が施された姿の聖女候補だった女性。


「まあ。凄いわ。どれだけの男性と不埒な行いをすればここまでの断罪の茨を刻まれるのかしら」


 罪の数に応じて刻まれる、決して消えることのない『断罪の茨』。全身の肌を覆う数ともなれば相当である。

 あまりの夥しい数に驚きが隠せない。


「呆然とされている皆様、他人事ではございませんよ。確かにそちらの方は軽率で倫理観も貞操観念もございませんでしたが、皆様は神学で学んだはずです。聖女候補はいずれ聖女となり、神の花嫁になる為に決して触れてはならないと。分かっていてされたのでしょう?神などいないとお笑いになって。ですので神はいると自らの身で証明なさって下さいませ」


 恐怖に引き攣った声を出されても、神は逃がすことなどなさらない。容赦無く黒の光に包まれた彼らは顔に断罪の茨を刻まれた。

 それは痛みを生み出すもの。いつ痛むか分からないからこそ、常に恐怖に苛まれる。


「皆様のせいで罪人になった女性達は、神も哀れみを感じたそうですよ。元聖女候補がいなければならずに済んだ罪人。神は三ヶ月の神殿での奉仕活動で許しを与えよと仰ったのでそのようになるでしょう」


 顔を手で押さえた男性達。元聖女候補は未だのたうち回っている。

 私の手でなにかした訳では無い。私は神のお言葉を伝えただけで、神が裁いた。それだけの事だ。


「申し訳ありませんが、彼らを外に」


 壁の前で静かに控えていた騎士と侍女に声を掛けると、私に対して礼節を持って対応してくれた。


 聖女と聖女候補では立場が変わる。

 聖女は神殿においての位がない。唯一無二の存在だからだ。

 それに対して聖女候補は選ばれるまでは神官と同等の身分である。聖女だから特別なのであり、候補はそうではない。身を清め神に見初められるように修行するのが聖女候補である。

 百年に一度、神は人間の中から花嫁候補を選び、相応しくなったところで神託を下す。歴代の聖女は神の花嫁に選ばれ、寿命を迎えた後に霊が召し上げられる。

 神は一柱だけではない。多くいる神の中から花嫁を求める神がその時に見出すのだ。元聖女候補を選んだ神は己の見る目が悪かったというのかとお怒りだったので、より苛烈になったのだろう。


 聖女候補の内は見定められている。本当に神に寄り添う存在として相応しいのか。人間を花嫁に選ぶ神もいれば、獣姿の神は同じ獣から選ぶ事もある。

 女神であれば男性を選ぶけれど、異なる大陸から選ぶそう。

 女性はこちら、男性はあちら、みたいな形にしておくことで、神への信仰での争いは起きにくくなるそう。

 神にもそのような仕組みがあるのだと面白くなった。


 私はある程度体力が戻ったところで神殿に身を移した。

 神殿にて神に仕える人々は聖女候補の奔放さを把握しきれておらず、冤罪事件が起きたことを何度も私に詫びた。

 悪いのはあの元聖女候補であり、本人が弁えていなければ意味が無い。

 三ヶ月間の奉仕活動を行う令嬢達も、無関係なのに巻き込んだ事、それに中々気付かなかったこと。そもそも、自らの手ではなく大人を頼るべきであったと反省していた。

 今回の件は大人の手に委ねるべきだったと私も思う。聖女候補が神を裏切る行いをしているのだ。静観など許されない案件だった。


「神は皆様を哀れんでおられました。あまり思い詰めないでくださいませ」

「ありがとうございます」


 元聖女候補は神殿から追い出された。神殿は神座であり、神罰を与えられた者を置いておく訳には行かない。

 平民として暮らしていた時はとても善良な娘だったようだ。魂の輝きに神も彼女ならばと選んだ。しかし、聖女候補として神殿に招かれ、傅かれ、丁重にもてなされて。

 次第に彼女の魂の輝きに翳りが出てきた。

 それでも神は多少のことを許した。環境の変化。それまでの生活から一変すれば浮かれるものだと。

 しかし、彼女は愚かにも学園に入学して出会った、神をも蔑ろにする多くの令息達に持て囃されて神の花嫁になる資格を失った。


 神罰を与えるべく場を整えている最中に私が死の淵に瀕し、体から魂が半ば抜けているのを神は見つけてくださった。

 私は神のお姿を見て、一目で恋をした。

 立派な角をお持ちの、遍く森を支配する神。泰然としたお姿に、深き緑の御髪(おぐし)

 畏れ多いのに、心が穏やかになる心地で、私を花嫁にとお選び下さった事に歓喜した。

 聖女候補はその瞬間から全てを失っていたのだけれど、神はお許しになることは無く、私の目の前で神の裁きを与えると仰った。

 私の心の慰めになるように、と。なんてお優しい方なのだろう。私が苦しんだから、それ以上の苦しみを与えて、私の慰めにしようと。

 候補など飛ばして聖女の証が出た私を、地下の牢屋で見つけた調査官は血の気が引いたことだろう。

 聖女候補に纏わる事件で容疑者として囚われていたはずの女が、冤罪で、尚且つ聖女になっていたのだから。

 聖女と候補では何もかもが違う。早急に最高の治療の場が用意され、世話をする者も厳選された。

 もしもこのまま死ぬ事があれば。神は許さないだろう。幸せに天寿を全うする事を神は聖女に願う。その為に国を守ってくださるのだ。聖女が幸せで居られるように。


 元聖女候補は神罰により断罪の茨を刻まれて外に出された。貴族よりも平民の方が信仰心が深い。神により聖女の候補として選ばれたはずの娘が、夥しい罪の証を身体に刻んで戻って来れば。

 しかも、彼女は森を支配する神の怒りを買った。森に逃げ込む事は出来ない。身を隠すには最適の森は彼女を受け入れない。

 かつては憧憬を集めた少女は、今や神の怒りを与えられた罪人である。彼女の親は彼女を受け入れるのだろうか。


 私が神殿に入ってすぐ、かつての家族が来たそうだ。籍を戻すからとかなんとか。出来るわけがないのに。

 私が療養している間に先触れを寄越してやって来た国王陛下に、私はたとえ何があろうとも私を捨てた家に戻りたくはないと告げたのだ。

 あっさりと見捨てたのに、掌を返してきたのは、聖女を出した家という箔をつけたかったからだろう。

 そんなこと、許せるはずが無い。籍を残してくれていたら私はあんな酷い地下牢に移動させられる事はなかった。

 除籍されたからこそ、死にかけて神の目に留まり、聖女となった。

 罪なき娘を信じること無く、保身の為に直ぐに除籍した非道な家族として見られればいい。

 私が許したくないのは、聖女候補、それを囲っていた令息達、家族だった人達、そして退学を命じられた時に嘲笑った人々。

 あの中には、私が友人だと思っていた者もいた。彼女達は簡単に私を捨てた。だから、私も彼女達への情を捨てた。


 神殿には神の像がある。お姿を正確に写すのは神への冒涜であるとし、誰にも似ないようなお姿になっている。あまたの神々への祈りはこの像を通じて捧げられていて、私も日に一度、私の神に祈りを捧げている。

 私の神とはこの時にお話が出来るのもあり、ついつい長時間祈ってしまっては、神官にお体を冷やすからせめて肩掛けをと注意されてしまう。

 その祈りの時間に、かつて友人だと思っていた人達が来たけれど、一瞥して視線を逸らした。先に捨てたのはあちらだ。

 私如きに相手にされなくても生きてはいけるのだから、泣いて詫びの言葉を告げようとしないで欲しい。

 神はこのような捻くれた性格の私でも良いのかと思ったけれど、構わないと仰ってくださった。大事なのは神に恋をして愛しているかどうかだから。

 それならば大丈夫。私の心は神に囚われているから。



 神殿での生活はとても穏やかだ。

 罪人になってしまった令嬢達は三ヶ月の奉仕期間を終えて元の場所に戻った。その内の一人は、神がお許しになったにも関わらず、家族から冷たい視線を向けられて耐えられなくなり戻って来た。

 彼女は私の話し相手としてそばに居てくれる。

 また、他の令嬢達も手土産を持って遊びに来てくれる。

 私は神官達とは異なり、神の花嫁になる前に神の家で暮らしていると言った立場なので、食事や娯楽の制限はない。だからと言って贅沢をしたいとも思わないけれど。

 令嬢達が持ってくるケーキを食べるくらいは怒られない。


 彼女たちの話によると、元聖女候補は亡くなったようだ。誰も断罪の茨を刻まれてしまった彼女に近寄ろうとはしなかったようだ。彼女の親もだ。大切な娘だとしても、既に神の裁きを与えられてその証が刻まれた彼女を守り抜くことは到底無理だっただろう。

 痛みに苛まれ、誰にも救われることなく彼女は身を潜めていた路地裏で亡くなったらしい。

 正直、自業自得だと思う。令息達を侍らせ、令嬢達を見下していたのは事実だから。私に謝罪に来たと言った時でさえ、男性に囲まれて大事にされている私、を演出していたから。

 彼女にとって聖女候補と言うのはいつの間にか特別な女性として持て囃されるステータスに変わったのだろう。


 殿下や令息達も立場を失った。

 当然のはずだ。神学で神と聖女と聖女候補について学んでいるはずなのに、神などいないと言って候補に近付き、あまつさえ体の関係になった者も一人や二人ではなかった。

 聖女候補でなくとも一人の女性を取り囲み、共有しようとする感性は受け入れられるはずもない。

 我が国では王族や高位貴族が正室以外に側室を娶ることが許されているが、法にて厳密に定められている。正室の許しがある事、正室の家と敵対していないこと。子供の継承順位。爵位と資産から持てる側室の数。

 更に貴族院の許しだって必要になる。

 側室に求められるのは正室以外にも血を確保しておくことであり、側室の扱いは正室に委ねられる。

 現国王にも王妃以外に側室がいらっしゃるが、王妃が二人の王子殿下をお産みになった後、これ以上の出産は困難だと医師から診断され、あと一人は万が一の為にと王妃様がお選びになった方を側室とされて王女殿下がお生まれになっている。

 そのように政治的に必要なものだから許されるのであって、元聖女候補と殿下や令息達の関係は違った。愛欲だけの爛れた関係でしかなく、大人達ですら眉を顰めたことだろう。

 更に、こう言ってはなんだが、元聖女候補は平民だった。

 神の花嫁になる聖女になる為に修行するからこそ認められるのであり、それを取り除けば平民でしかない。

 私はまだ、家の浅はかさにより除籍されたけれども子爵家生まれの貴族、として見られている。

 貴族か平民か、と言うのは大きい。我が国は貴賤結婚は認められていない。身分が低い者と結婚したいならば、己が持ちうる特権は全て捨てなければならない。

 そもそもの話、刷り込まれた徹底した身分制度により高位貴族になればなるほど平民を「民」とは思っても「人」として考えてはいない。

 税を納める「民」ではあるが、自分達と対等な「人間」ではなく支配され庇護される存在という認識なので、殿下達のことはさぞや理解出来なかっただろう。

 私は平民たちと近いところにいる上、今は神殿で多くの平民を見るから彼らも「人」だと分かっているけれど、高位貴族の人々にとって平民は視界には入らない。平民も貴族を恐れ別の存在だと認識している。

 だから、元聖女候補と触れ合う令息達に対して上の人ほど特殊な趣味を持っていると思われたようだ。

 令嬢達も聖女候補が神の花嫁になるべき存在、とは別に、平民と男女の仲になろうとするのは信じ難い事だったのだろう。

 平民以下と言われたも同じなのだ。それは傷付くに決まっている。

 令息達は輝きし未来を失った。神を信じず、神の花嫁候補を堕落させ、神の怒りをその身に刻んだ。殿下とて同じだ。

 幸いにして彼らは家が面倒を見てくれる事で生きていられる。これは貴族だからだし、断罪の茨も一つだからこその温情。


 私は今、とても心穏やかに愛する神への気持ちに満たされている。元聖女候補は神の愛よりも多くの令息の愛を求めたようだけれど、何が良かったのだろう。

 突如変わった生活で彼女自身も変わったのか。こんなにも心穏やかに満たされる気持ちよりも、一時的で刺激的な幸福を選んで破滅してしまったようだけれど。

 それとも、あくまでも一時的なもので、最後は神の花嫁になれると思っていたのだろうか。人間として生きている間に贅沢を手に入れ、死して後は神の花嫁として人々に憧れられる存在になれると?

 それは無理では?

 何の為に聖女は神以外に恋してはならないと厳しく教えられているのか。


『我等は花嫁と決定するまでは声もかけぬからな』


 まあ。そうでしたのね。


 私のプライバシーへの配慮の為か、この像の前で祈る時以外は会話は無いけれど、像の前に来れば私の声は神に届く。声を出さずとも考えるだけで伝わるからこそ、神官達は静寂の中祈り続ける私を心配してくださるのだけれど。


『あれも初めはきちんと祈っていたのだが、学園とやらに通うようになり変わった。それもまた試練ではあるのだがな。年頃の娘が同じ年頃の異性を前にしても我等への思いを無くさないでいられるか』


 なるほど、試練。

 誘惑がある中で心を強く持てるかを確認されるのは、まあ、ありでしょう。

 そして彼女は簡単に誘惑に負けた。


『多少ならば目溢しはする。だが、あれはやり過ぎた。そして無関係の者を巻き込んだ。それは許されない』


 神のお声の力強さ。揺るがぬ気配。

 この時間はとても愛しく尊い。早く神の元へと行きたい。


『はは。それはならぬ。そなたの命はまだ潰えぬ。そなたはまだ若い。人として広き世界を見、美しさと汚さを見、多くを知り、心を満たせ。心を豊かにせよ。我は酸いも甘いもを知り熟したそなたを花嫁とする』


 神がそう仰るならば。

 ならば私は外に出て世界を見なければ。

 美しいだけではない、汚さもまた心を豊かにするというのであれば。


『それでよい。そなたは既に我の花嫁として印がついている。そなたの身を害する事は出来ぬ。ついでだ。そなたのそばに居るムスメにも我の加護を与えよう』


 それはとても嬉しいことだ。私一人が安全でも共に居てくれる彼女が危険に晒されるのは嫌だもの。

 やはり私の愛する神はお優しい。


『我の依り代を授けよう。それがあれば何処でも我に声が届く。我の声も届く』


 光の塊が現れ、それに手を伸ばせば、木で出来た小さな剣が収まっていた。人を傷つけることは無いだろう。とても温かな木剣を胸に抱く。



 そうして私は手始めに国内を巡る事となった。

 森の神故か、自然に関わる力のおかげで果樹の実りが良くなるなどして、私の神に対しての民の信仰は深まっていく。

 私と伯爵家の令嬢だった彼女と、私達を護衛する女性の聖騎士の三人での旅は神の仰せになられた通り綺麗なものだけでは無いものも見た。


 いずれ私はこの命を終えて神の元へ行く時、神のお心に適う魂になれていることを願っている。

男神が花嫁を見つける大陸では聖女。

女神が花婿を見つける大陸では聖人。

そう呼ぶことで周りに「神の伴侶になる人だから手を出すなよ!」と注意喚起してます。

獣の神は大陸問わず自分の嫁/婿を見つけたらお持ち帰りします。

地上の子は可愛いもん!ってノリです。


今回人名を一度しか出さなかったのは敢えてです。読みづらかったらすみません。


候補飛ばしてアリッサが聖女になったのは、神に一目惚れしたのが伝わったし、魂がいい感じだったし、裏切りそうにないなと思ったから。

元聖女候補はイケメンに囲まれ、平民に負けた貴族令嬢への優越感とかでああなりました。


追記

親愛や敬愛などは問題ないです。要は「他に対して性欲感じるなよ」ってことです。

異性にほんのり憧れを抱くとかまでは流石に咎めません。ただ、放置してたら厄介だから神殿では「神の花嫁なんだから他に恋するなよ」と言ってます。


毎度神様作品書く時に言っていますが、神は理不尽だし人間を対等とは思ってないです。

花嫁と言ってますけど神の国の実情など誰も知らないです。

今回の神は人(アリッサやその周り)に寄り添ってるけど、神ですから。

神は神。人ごときが神に合わせてもらおうなど烏滸がましい。神がそうだと言うならそれに従うのです。

というのが私の作品の基本です。悪しからず。


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― 新着の感想 ―
神は狩られる物、それ以上でもそれ以下でもない。 何時だって一番恐ろしいのは人類だからだ。 この世界を舞台にした神様の採集決戦始めようぜ! ※誤字ではありません。
とても面白いです。元家族がその後どうなったかも読みたかったです。
後書きを読んで納得。 神の存在に一目惚れして魂のすべてを差し出した少女に、「ならば受け取ろう」と自身の印を付けた神という感じなのですね。 この世界の神様は何柱もおわすが故に、「聖女」のタイプも神様の好…
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