06,買い物
目が覚めると午前9時前だった。
カーテンを閉め忘れたので、朝日が容赦なく部屋の温度を上げている。
朝食はカロリーメイトとコーヒー。
風呂場でシャワーを浴びてから、身支度を調えた。
これから何をするべきか決まっている。まず、スザンヌ達への恩返しをしなければならない。
まず、日本の食料品をスザンヌにプレゼントしよう。それから、食器などの生活用品を持っていけるだけ持っていって、彼女に喜んでもらうんだ。
問題は異世界転送の方法だ。
行くときは鳥居を使えば良いと思うが、帰りはどうするか。
僕は、どうやって戻ってきたのだろう……。特別なことをした覚えはない。この家のことを思い浮かべたら勝手に来てしまった。鳥居ではなく、家に転送したのだ。ということは、強くイメージを思うことによって、その場所に帰るということ?
結構、都合の良い能力だなあ。
僕は玄関を出て自転車に乗り、町を目指す。家は山の中腹に建っているので、行くときは下り坂だ。舗装された道路を疾走すると汗が飛んで気持ちが良い。30分くらいでスーパーマーケットに着いた。
田舎のスーパーは総合雑貨店や100円ストアーなどと同じ敷地内にあり、共通の駐車場が広い。
僕はスーパーに入り、スザンヌが喜びそうな食品を片っ端から買い物カゴに入れた。
セルフレジで精算してから商品をリュックに入れ、それに入りきらない物はビニール袋に詰めて自転車のカゴに置いた。
おばあちゃんが大金を残してくれていたので資金は余裕。
帰りは上り坂なので汗だくになった。
帰宅して冷えたコーラを飲む。シャワーを浴びて、スッキリしてから異世界に行く準備を調えた。
ふと考える。
転送して、またイノシシと出くわしたらどうしよう。
戻るときは行き先をイメージして帰ってくるのだから、行くときもスザンヌの家をイメージすれば、そこに転送するのではないか。
「とりあえず、それを試してみよう」
念のために武器を用意する。小屋に魚を捕るための銛があったので、それを持っていくことにした。
背中にリュック、左手には目いっぱい詰め込んだビニール袋、右手には武器を握る。
懐中電灯を探すと、小屋にLED式のヘッドライトがあったので、それを頭に装着した。
「これで、準備万端だ」
一応、思念によって転送できるか試してみよう。
僕はスザンヌの家を思い浮かべた。
スザンヌの整った顔、クリスのあどけない表情。それらを明確に思い浮かべた。しかし、転送される気配はない。
「やっぱり、日本から転送するには鳥居が必要なのか……」
僕は深呼吸してから洞窟に足を踏み入れた。
そこは迷路のように入り組んでいる。だが、僕の能力を使えば迷うことはない。
洞窟の空気は冷えていたが、荷物が重いのでジットリと汗をかいている。
やがて、紅い鳥居の前に着いた。
「よし、行くか」
スザンヌの家を強くイメージする。
彼女の家に行きたい、スザンヌの笑顔を見たい。
すると、すぐに視界が白いノイズで徐々に染まり、やがて黒で浸食された。
*
視界が元に戻ると、目前にスザンヌの家。
「ああ、成功した。一度、行った場所なら思っただけで転送することができるのか」
銛を壁の近くにおいて、ドアをノックした。
ちょっと間をおいて、窓にスザンヌの顔が現れて引っ込む。
ドアが勢いよく開いた。
「お兄ちゃん!」
クリスが僕に抱きつく。
「トウヤさん、ご無事でしたか」
スザンヌが近寄って心配そうに僕を見る。
「お兄ちゃん、いきなり消えたんで心配していたんだよ」
ハグしたまま上目遣いで僕に視線を向けていた。
「トウヤさん、今までどこに行っていたんですか」
もっともな質問だ……何と答えるべきだろう。スザンヌに嘘をつきたくないし、ごまかす必要もないかな。
「ちょっと日本に帰っていたんだよ」
「ニホンですか……」
スザンヌが首をかしげる。
「細かいことは後から説明するよ。とにかく中に入ろう。食料とかお菓子とか持ってきたからさあ」
太陽は真上に鎮座している。
とにかく、僕たちは昼食を食べることにした。
スザンヌは例の、具が少ない豆と野菜のスープを用意した。
僕はリュックからパンと紙パックのジュース、魚の缶詰などを取り出してテーブルに並べる。
クリスがパンを食べて驚く。
「このパン、柔らかくておいしい!」
「信じられない。トウヤさん、このパンはどこから仕入れたんですか」
スザンヌも目を丸くしていた。
「ニホンから持ってきたんですよ。魚の缶詰もどうぞ」
そう言ってパカンと蓋を開ける。僕は少し得意な気分になっていた。
「煮魚ですか……これって腐らないんですね。とても不思議です」
スザンヌは鯖の味噌煮など今で食べたことがないだろう。
ここは海から離れているのかな。
食後のデザートはフルーツの缶詰。その後に紅茶のティーバッグと一緒に角砂糖を出すと、さらに姉妹は驚いていた。
「砂糖なんて貴重な物……お茶に入れるのはもったいないですね」
カップの紅茶をちびりと飲んで、ため息をつくスザンヌ。
「甘ーい! ニホンには砂糖がたくさんあるの?」
そう言ってクリスが紅茶をグビグビと飲む。
そうか、この世界で砂糖は貴重品なんだ。これは売れるかな。
「ところで、トウヤさん……そろそろ説明してもらえませんか」
スザンヌがカップをテーブルに置いて僕を見た。真剣な表情も可愛いな。
「そうだよね……」
僕は今までのことをすべて話した。
理解してもらえなくても構わないから、事実を伝えたのだ。
話し終えると、姉妹は僕を見たまま固まっていた。




