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05,風呂

 帰宅してから、すぐに夕食を食べた。

 町で買ってきた食材があるので、朝よりも豪華なメニュー。


「それで……トウヤさん。お風呂はどうしますか」


 空になった食器を片付けながらスザンヌが僕に訊ねた。


「風呂ですか……。風呂があるんですか?」


 この家で湯船などを見たことがない。


「ええ、風呂といっても、お湯で体を拭くだけですけど……」


 台所のかまどでお湯が沸いている。

 そうか、湯船にザブンとつかることはできないのか。汗をかいたのでシャワーとか浴びたいな。


「えっと、家の隣に小川が流れていますよね。僕は、そこで体を洗うことにします」


 暑いから、それで構わないだろう。


「そうですか。では、上流で洗ってくださいね。排水を川に流しているんで」


「はい、分かりました」


「わーい、お風呂だー」


 クリスが服を脱ぎ出す。

 急いで僕はタオルとガウンを借りて外に出た。

 家のすぐ側を小川が流れている。

 トイレは川の上に設置されていて、そのまま流していた。一応、水洗トイレというものだ。

 僕は服を脱いで川に入る。服や下着を流水で洗った。それから、川底に座り込んでタオルで体を拭く。なんか、ワイルドだなあ。


 辺りを見渡すと月明かりで森の影がボンヤリと浮かび上がっていた。

 遠くから野獣の鳴き声が聞こえている。

 あのイノシシは、ここまでやってくることはないのだろうか。


「今頃、スザンヌさん達は風呂……というか、体を拭いているのかなあ……」


 よからぬ妄想が頭に湧き上がる。

 家に視線を移した。ぼろ小屋と言って良いほどの古ぼけた家。その家でスザンヌさん達は今まで暮らしてきたのか。


「そろそろ彼女たちは終った頃かな」


 頭にザブザブと水を掛けてからバシャバシャと顔を洗う。

 タオルで体を拭いてから、ガウンを羽織って家に戻った。

 居間に入ると、テーブルの上に3つのカップが置いてあった。


「トウヤさん。お茶でもどうですか」


 そう言うスザンヌもガウンを着てヒモで締めている。下着はないようなので、肌に直接着ているのか。


「ああ、どうも」


 イスに座ってカップを見ると赤茶色の澄んだ液体が湯気を立てている。

 飲んでみると紅茶の味だった。この世界にも紅茶があるのか。テーブルにシュガーポットがないので、砂糖を入れる習慣はないのかな。


「おいしいでしょ。この茶葉は高価なんですよ」


 そう言ってスザンヌが一口飲む。つい、その唇に目が行ってしまった。

 いかん、いかん!

 強引に視線を移す。窓を見てからドアを見た。

 そういえば、この家にはトイレの個室を除けば部屋は3つしかない。一つは食事をする居間だから、僕が一つの部屋を使えば、スザンヌとクリスは一つの部屋で寝ているということか。

 たぶん、スザンヌの寝室を僕が使っているんだろうなあ。僕のために自分の部屋を明け渡してくれたのだろう。結構、迷惑を掛けているのかもしれない。


「ということは、僕が使っているベッドは……」


 スザンヌが寝ていたのか……。

 また、よからぬ妄想がモクモクと膨らむ。


「なんですか?」


「あ、いえ、何でもないです」


 健康な男子は悩みが多い。


「……ところで、ずっと僕がここにいるのは迷惑だよね?」


 スザンヌは大きな目を見開いて僕を見る。そして、隣のクリスと目を合わせた。


「そんなことはないよ、お兄ちゃん」


 大きく横に首を振るクリス。ガウンの胸が開いて肩があらわになっている。


「そうですよ、トウヤさん。今日なんか荷車を引いてもらって助かりました。命の恩人ですし、ずっと同居しても構わないですよ」


 スザンヌの表情は真剣だった。気を遣っているような感じではない。

 しかし、彼女たちは裕福というわけではないのだ。それは貧乏といった方が正しいような生活状況だ。何とかしてあげたいが、僕には力がない。


 ……そうだろうか。

 日本と異世界では文明の水準が違う。日本の物をリフローの町で売れば大きな利益になるだろう。

 それに、こちらの金貨と日本の金相場では価値に差があるようだ。町で稼いだ金貨を日本で換金する。そのお金で商品を仕入れてリフローで売れば、錬金術のように無限に儲かることになるんじゃないか。


「何とか日本に帰ることができれば……」


「え、なんですか? トウヤさん」


 スザンヌが首をかしげている。


 日本に帰りたい。カップラーメンを食べて風呂に入って服を着替えて……それにスザンヌ達を救いたい。ぼくは、おばあちゃんと一緒に住んでいた古い木造の家が恋しくなった。

 落ち込んで引きこもっていた古民家が、はっきりと脳裏に浮かぶ。


 すると目の前が白っぽくかすんできた。


「トウヤさん!」


 スザンヌの叫び声が遠くから聞こえ、視界が黒く染まった。



  *



 気がつくと古い家の前。おばあちゃんの家だった。

 辺りは暗くて空に浮かんでいる一つの月。その明かりが僕の影を薄く地面に落としている。


「日本に帰ってきたのか……」


 どうして戻ってこれたのだろう……。

 とにかく家の中に入った。照明を点けて、スマホの日付を見る。

 異世界に転送されてから1日以上経過している。異世界と日本は平行して時間が流れているようだ。


「とにかく寝るか」


 いろんな事があったので今日は疲れていた。

 お湯を沸かしてカップラーメンを食べ、冷蔵庫からコーラを取り出してグビグビと飲んだ。1日ぶりの糖分で体が喜んでいる。


 服を脱いでベッドに入り、スザンヌのことを考えていると意識が闇の中に落ちていった。


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