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03,姉妹

 気が付くと僕はベッドの上だった。

 目に入ったのは天井ではなく、屋根の骨組みがむき出しになっている構造。住宅というよりは、あばら家と言うほうが正しい家屋だ。

 ベッドのそばには少女がいて、僕の腹部に両手を当てて目をつむって念じていた。

 ボウっとした温かみを腹部に感じる。


「ここは?」


 起き上がろうとすると腹がじくりと痛む。


「あ、まだ起き上がってはダメです」


 隣の少女が焦ったように僕を見る。

 あのとき、イノシシから襲われていた姉の方だった。見たところ僕と同じくらいの歳かな。


「僕は……どうなったの?」


 腹を見ると傷がなく、激痛もなくなっている。シャツは脱がされており、ベッド横のイスを見ると血まみれのシャツが掛けられていた。


「ひどいケガだったんですよ。何とか私のヒーリングで治療できました」


 そういってほほ笑む彼女。胸にグッとくる笑顔だった。


「ヒーリング?」


 そんなゲーム世界のような能力を持っているのか、この少女は。

 目の前で僕を見つめているのは、目が大きく鼻筋が通った美少女だった。

 しかし、服はみすぼらしい物で、くすんだ色をした麻のような布を服の形に縫い合わせたような感じだ。和服のように帯でウェストを結んでいる。ボリュームのある胸なので、谷間が自然に強調されていた。


「はい、私のスキルはヒーリング能力なんです」


 そうか、やはりここは異世界だったのか。

 ところで、彼女の言葉が理解できるのはどうしてだろう。

 耳から聞こえてくる言葉は聞いたこともない言語だ。しかし、それは日本語として理解できる。また、僕が話している言葉も知らないものだが、それも勝手に口から出てきて正常に会話ができるのだ。

 これも継承された能力のおかげなのか……。


「これを飲んでください」


 渡されたのは陶器のカップで、中には緑色の液体が入っていた。青草っぽいというか、独特な匂いがする。これは飲み物なのか。


「薬草から作った回復薬です。我が家に代々伝わっている秘伝の妙薬なんですよ」


 そう言って、ニコッと天使のような笑顔をされたら男として飲むしかない。


「はあ、そうですか……じゃあ、いただこうかなあ……」


 僕は液体をググッと喉に流し込んだ。

 不味い! 以前、おばあちゃんに勧められて青汁を飲んでみたことがある。それを何倍も濃くしたような味だった。

 飲み干して深呼吸する。口の中に苦さが残って取れない。


「それはケガや病気に良く効く万能薬なんです。貴重なポーションなんですよ」


 そう言って、いたずらっぽく笑う。

 確かに、さっきまでダルさが残っていたが、スウッと倦怠感が抜けていく。

 RPGゲームをやっていたときはポーションを頻繁に使っていた。勇者は不味いのを我慢して飲んでいたのかなあ。


「ありがとう。気分が楽になったよ」


「いいえ、どういたしまして。あなたは命の恩人ですから」


 彼女はコップを持って部屋から出て行った。

 窓を見ると外は薄暗くなっていて、空には月が二つ輝いていた。


「やっぱり、異世界だ……」


 急に眠くなり、いつの間にか寝付いていた。



  *



 翌朝、まぶしさで目覚めた。

 上半身を起こして部屋を見渡すと、窓から朝日が差していた。

 カーテンはないので、朝日が部屋の床を照らしている。


 ベッドから降りて靴を履いた。

 立ち上がっても体の不調はなくて気分は爽快だ。あのポーションが効いているのか。

 ドアを開けて部屋を出ると、姉妹がテーブルに着いていた。


「おはようございます」


 笑顔がまぶしい美少女。


「あ、おはようございます」


「おはよう! お兄ちゃん」


 元気な声を出したのは妹のほうだ。

 小柄で幼い顔をしている。美人というよりは可愛いという感じ。

 姉に似て黒い髪にぱっちりとした瞳だ。


「朝食ができています。どうぞ」


 姉は、そう言って鍋から皿にスープを注いだ。


「あ、どうも」


 イスに座って皿を見ると、草と豆が入っている薄味といったスープだった。

 スプーンで一口すする。


「あ、けっこう旨いですね」


 質素な料理だが、味は一流だ。一気に皿を空にしてしまう。

 お代わりをしようと思ったが雰囲気的に、その余裕はないようだ。この姉妹は裕福というには程遠い生活をしているよう。


「ごちそうさまです」


 姉が皿を持って壁際の流し台に持っていく。

 居間と台所が一緒になっている部屋だ。


「お兄ちゃんは何ていう名前なの?」


 妹が身を乗り出して聞いてきた。興味深そうに大きな瞳が輝いている。


「僕の名前は加賀冬也だよ」


「カガトウヤ? 変な名前」


 そういって小さく笑う。あと4,5年たてば僕のストライクゾーンだろう。


「君の名前は」


「クリスの名前はねえ―、クリスティンっていうのよ。クリスティン・パーマー。お姉ちゃんはスザンヌよ。お姉ちゃんは、けっこう美人でしょう。胸も大きいのよ」


 そう言って自分の胸を両手でグイっと持ち上げた。スザンヌと違ってツルペタ……というよりは微乳というべきか。


「もう! クリス。変なことを言うのはやめなさい」


 皿を洗っているスザンヌが顔を赤らめて注意する。


「お兄ちゃんは何歳なの?」


 小さい顔をかしげるしぐさが、とてもキュートだった。女性に免疫がない僕は少しドキドキしてきた。僕はロリコンじゃない、ロリじゃないんだあ。


「僕は18歳だよ。高校3年生」


 まあ、不登校だが。


「クリスはねえ、14歳だよ。お姉ちゃんは17歳。……コウコウって何?」


 そうか、スザンヌは僕よりも1歳年下か。

 ここには学校というものは存在しないようだ。まあ異世界だからなあ。


「高校というのは、つまらないところだよ。いばりんぼうが威張りたくて弱い者いじめをしている場所さ……」


 自分で言って、気持ちが少し落ち込んできた。


「ふーん、変な所だね。それで、お兄ちゃんはどこから来たの?」


「僕は日本から来たんだ」


「ニッポン? そんな村は聞いたことがないよ」


 なんと説明すればよいのだろう。クリスを納得させるのは難しいな。


「まあ、遠い場所だよ」


「田舎から来たんだ」


「ああ……そうだね」


 適当にごまかすしかない。


「カガさんでしたっけ」


 洗い物を終えたスザンヌが聞いてきた。


「良かったらこれを着てください」


 差し出されたのは、荒い生地のシャツだった。

 そういえば上半身が裸。着ていたシャツは破れて血まみれだから捨てるしかないだろう。


「ああ、どうも……」


 着てみるとゴワゴワして着心地が悪い。


「あ、そうだ。スザンヌさん。この辺に鳥居がありませんか」


「トリイ?」


 スザンヌが首をかしげる。


「木でできた、こんな形の物ですが」


 両手で鳥居の形を示す。


「さあ……?」


 彼女は困ったように妹を見るが、クリスは首を振る。

 そうか、鳥居はないのか……。すると、どうやって日本に帰ればいいのだろう。


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