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18,プール

 月曜の朝。僕はスザンヌの家で朝食を食べてから、直接、高校に転送した。

 裏庭に茂みがあるので、そこに転送すれば誰にも見られない。

 日本の秘密基地である、おばあちゃんの家から電車で通学するよりも、ずっと楽だ。異世界転送能力は便利だなあ。


 野球部の高田は登校していなかった。

 それだけ、心の傷が重かったのか。まだ、エナジーが回復していないせいなのだろう。


 昼休み、図書館に向かっていたら後藤達に呼び止められた。


「おい、犬。ちょっと来いよ」


 サッカー部の滝沢が角張った顔を近づけて僕を脅すように言う。


「なんですか? 僕は用があるんですけど」


「いいから来るじゃん。いいとこに連れてってやるからさー」


 小太りの後藤が僕の肩をつかむ。

 またか、こいつらも飽きないようなあ。でも、仕返しするチャンスがあるかも。


「まあ、いいから来なさい、ね。低能君」


 いつも上から目線の秀才、内藤の人をバカにするような口調。

 僕は無理矢理、外に連れ出された。


 両腕を捕まれ、引っ張られて行ったのはプールの側。


「今日は暑いねえ。残暑が厳しくて大変じゃん」


「何をするんだよ!」


「泳いでみろ、犬!」


 滝沢から腹を蹴飛ばされてプールに飛ぶ。3人の笑い顔を見た後に視界は波に乱れた。

 腹の痛みと共に底まで沈み、慌てて水面に浮上した。


 咳き込んでいる僕を見て、あざ笑っている3人。


「ほら、犬かきしてみるじゃん、ワンちゃん」


 後藤が歪んだ笑いを浮かべて言った。

 学生服を着たまま立ち泳ぎをしている僕をバカにしながら彼らは去って行く。


 チクショウ、チクショウ、チクショウ! 何で僕だけがこんな目に遭うんだ。

 プールから上がり、しずくを垂らしながら更衣室に向かう。

 あいつらは絶対に許さない。やつらの人生のリソースを金貨に換えてやるぞ。


 昼からはジャージで授業を受けた。

 授業が終って教室の掃除をしていると、クラスメートの美代子さんが近寄ってきた。


「加賀君、昼休みに何かあったの?」


 首をかしげて僕に聞く。ポニーテールが少し揺れていた。

 彼女を見ると、つい、スザンヌと比べてしまうのは、どうしてだろう。

 美代子さんは可愛いという感じだが、スザンヌは美人という表現が適切だと思うんだよな。


「別に……何もないよ」


「そう? だったら、どうして昼の授業からはジャージだったの?」


「別に……特に理由は」


 僕に構うと君もいじめられるよ、清水美代子さん。


「とにかく、何かあったら先生に言うべきだわ」


「そうだね……」


 言っても何もしてくれないよ。先生は面倒ごとを嫌う。僕の話よりもスポーツ特待生の言うことを信じるさ。それに、告げ口したんだなと、あいつらから後でボコられる。


「あんたら仲がいいじゃないの」


 見るとクラスメートの上田尚美だった。

 大きな目を細めて皮肉っぽく笑っている。後ろには取り巻きの女の子、二人がいてニヤニヤ笑っていた。


「ねえ、清水。あんた加賀と付き合ってんの?」


 茶髪で唇を赤く染めている上田。結構、派手に遊んでいるという噂を聞く。

 背は僕よりも少し低いが、胸が盛り上がっていてグラマーだった。男子からはボン・キュ・ボンと呼ばれている。クラスでも美人な方だった。


「別に私は……ただ、加賀君が心配だったから」


 そう言う彼女は視線を揺らす。


「へえー。加賀は少し可愛いから苛めたくなっちゃうんだよね。清水もそうじゃないのぉ?」


「そんなことないわ!」


 言い放って上田を睨んだ。


「学校内で虐めとか、そんなの良くないと思う。校内で虐待行為とか間違っている。そんな場所じゃないでしょ、学校は」


 そう言って清水さんは深呼吸した。


「はい、はい、お堅いことで……。いつも真面目だねえ清水女史は……」


 上田達は冷笑を浮かべながら教室を出て行った。

 清水さんは向き直って僕を見る。


「あのねえ……苛められるのは加賀君にも責任があると思うの。何をされても何も言わないのが悪いのよ。たまにはガツンとやっちゃえば」


 彼女の視線がキツイ。この人は弱い人間の気持ちが分からないんだな。

 確かに理想はそうだけれども、ガツンとやったらガツンガツンと返されちゃうんだよ。だが、正論だから言い返せない。


 掃除が終って、僕は軽音楽同好会の部室に向かった。


 文化部の部室は旧校舎にある。

 後藤が所属している軽音楽同好会の教室は2階の中央で、そこに近づくと、やかましいと僕には思われる音楽が流れてきた。

 窓から中を覗くと、小太りの後藤がリードギターを務め、さらにボーカルも担当していた。

 ロック音楽などは知らないが、そつのない演奏だということは僕にも分かる。


 ギターの後藤、それにキーボードとドラムの3人バンドで、すでに音楽プロダクションと契約していて、高校を卒業後はプロデビューを約束されているという。


 やがて、演奏が終り、3人はタオルで汗を拭きながらコーラを飲み始めた。

 僕は、引き戸を開けて中に入っていく。


「やあ、後藤君。ノリノリだよね」


 そう言ってスタスタと近寄る。

 今まで笑って仲間と話していた後藤の顔が曇った。


「何の用かじゃん。ワンコロ」


「いや、ちょっと後藤君の演奏を聴きたくて」


「何だよ、こいつ。後藤の子分か?」


 ドラム担当がいぶかしむ。


「いーや、こいつは俺が飼っているワンコロだよ。そうだろ、パシリ」


 そう言ってキヒヒと笑う。


「ワンコロはひどいなあ。ああ、これが後藤君のギターなんだね。かっこいいなあ」


 そう言って、机に立てかけてあったエレキギターのネックを握った。


「触るな! ゴミ野郎」


 僕からギターを引ったくる。引っ張られた振りをして彼の肩に手を当てた。リンク完了。リンクを繋ぐのにも慣れてきたな。

 僕は後藤のエナジーを吸い取り始めた。


「さっさと出て行けよ、ワンコロ野郎」


「そんなことを言わないで、一曲だけでも聴かせてくれないかなあ」


 薄ら笑いで依頼する。慣れると、話しながらでもエナジーを吸い取り続けることができた。

 こいつも鈍感なようで、エナジーを吸い取られているのに何も感じないらしい。

 後藤の中にも光る球のようなものを感じる。これが一芸に秀でている人間のスキルというものなのかな。僕は遠慮せずに球をもぎ取った。


「邪魔なんだよ。出てけ、ワンコロ!」


 やつの表情がさらに険しくなる。


「まあ、待てよ、後藤。こいつはパシリなんだろ。なんか買ってこさせろよ」


 ドラムの男が僕をあごで指す。

 後藤は、小さくため息をついた。


「そうだな……なんか甘い物を買ってこい、ワンコロ」


「買ってきてもいいけど、その前に音楽を聴かせてよ。卒業したらデビューするんでしょ。プロ級の演奏を聴いてみたいなあ」


 ほとんどのエナジーを吸い取ってやった。どうなるか、その結果が楽しみ。

 後藤が舌打ちをする。


「まあ、一曲やってやるか」


 他の二人は同意し、ドラム担当のスティックの合図で演奏が始まった。

 イントロが終り、後藤が歌い出す。

 それは、さっきの演奏と、まったく違うことが素人の僕にも分かった。


「ちょっと、待て! 後藤」


 ドラム担当が演奏を中止して怒鳴り声を上げる。


「お前、気を抜きすぎだろう。練習でも気合いを入れてプレイしろよ」


「ああ、分かった」


 後藤は首をかしげて、青ざめた顔。


「よーし、もう一回、行くぞ」


 ドラムの合図で再度、演奏が始まったが、やはり後藤のギターも歌もダメダメだった。リズムもでたらめで歌も音痴。これでは僕が歌った方がマシだろう。

 練習どころではなくなり、怒鳴りあいになって後藤が吊し上げられる。


「お取り込みの様なので、僕は帰りますね」


 上手くいった。自分が大切にしているものを奪われるという苦しみを思う存分味わえばいいのさ。

 僕は教室を出て、本校舎に向かった。


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