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17,仕返し

 僕は高田に引っ張られて、裏庭のピッチング練習場に行った。


「そこに立っていろ。逃げたらグシャグシャに殴ってやるからな」


 バックネットの前に立ち、僕は彼がバケツからボールを取り出すのを見た。

 またやるのか……。しかし、どういうわけか前のような恐怖心はない。


 振りかぶり、僕めがけて投げつけてきた。

 それは1メートルも離れた場所に当たる。


「こんな……こんなはずじゃねえんだ……」


 悔しそうに2投目。

 それは僕の右肩付近に来た。しかし、怖いという感じはしないので動かない。彼が投げた瞬間に、ボールがどのような軌跡をたどるかが分かるのだ。これも彼から吸い取ったエナジーのせいなのか。野球の名選手は人並み外れた感覚を持っているらしい。


 3球目は僕の顔面に当たることが分かったので、少し頭を傾けてボールを避けた。ボールは跳ね返って高田の前に転がる。


「この野郎!」


 高田はムキになって投げ続けたが、僕に当てることはできない。疲れてしゃがみ込んだ。


「もう、やめようよ。高田君さあ」


 僕は近くに落ちていたボールを拾う。

 やつの投球スキルなども吸い取っていたという感覚がある。

 ゆっくりと振りかぶり、高田の股間めがけて投げつけた。


「ギャー!」


 命中した。

 ボールのコントロールが思いのまま。体とボールが調和しているような感じだ。天才ピッチャーというのは、こういった感覚なのか。


「加賀! この野郎!」


 やつが股間を押さえたまま向かってきたので、今度は腹に当ててやった。

 うめいて倒れる。

 続いて肩に。顔に当てるのはまずいよな。

 やつはフラフラと逃げ出した。

 最後はケツに照準を定めて思い切り投げつけてやる。やつは悲鳴を上げ、尻を押さえて走り去っていった。


 ああ、せいせいした。ざまあみろ。


 でも、あいつはこの先どうなるのだろう。

 減少したエナジーは回復すると言われたが、どれくらいの期間が必要なのかは分からない。完全回復するのに1年もかかるのだったら、大学の特待生になるのは無理だろう。プロからスカウトされているという話も聞くが、それもダメになってしまう。

 さっき見たような底辺の未来に進むのだろうか。


 だが、すぐに回復したらどうなるのか。


 高田は、有名大学に特待生として楽に入学。野球部で活躍して、卒業したら多額の契約金をもらってプロ野球選手だ。

 そこでも実績を上げれば人格的にも認められる。そして、美人のファンと結婚して子供を作り、家庭を持つ。

 幸せな生活の中、たまに過去を振り返る。

 若い頃は結構、やんちゃをやっていたな。そういえば、俺がいじめていた加賀というやつは今、何をやっているかな、と思い出す。どんくさいやつだったから、平凡なサラリーマンでもやってるんだろうな、などと……。または、忘れてしまって名前や顔も思い出せないかもしれない。


 しかし、いじめられていた被害者の方はどうか。

 いじめられていた記憶がずっと残り、トラウマになっている。それが原因で社会になじめずに引きこもりになってしまうかもしれない。

 いじめられた側は絶対に忘れることはないのだ。それが、いじめという罪の重さ。



  *



 金曜日、学校が終ってアパートに帰る。そして、支度をしてから電車で、おばあちゃんの家に向かった。

 おばあちゃんの家は僕の秘密基地だ。僕に譲ると、おばあちゃんから言われているし、叔父さんからは自由に使って良いと承諾を得ている。

 日本における僕の活動拠点だ。


 基地で一泊してから翌朝に買い物。

 そして、土曜の昼前にスザンヌの家に転送した。



  *



 一週間ぶりにスザンヌと会えて嬉しい。彼女も喜んでいるようだ。

 でも、クリスはすねていた。


「お兄ちゃん、5日も会えないなんて寂しいよお」


 そう言って僕の手を握り、ブランブランと揺する。

 キングボアの件もあるので心細いのかもしれない。


「ごめんね。でも、来年3月になったら、毎日のように来るからさあ」


 そう言ってごまかす。


 昼から3人でリフローの町に行った。

 見つからないようにするにはバギーを町の1キロほど手前に隠す必要がある。そこからリヤカーを引いて町に向かった。


 露店で商品を売り切ってから、僕とスザンヌは商業ギルドの建物に入っていった。

 その建物は大きく、中には多くの部屋があった。その一つの部屋に入る。


 正面にカウンターがあって、係員が数人いた。彼らは、のんびりと仕事をしていた。


「ここがエナジーを買い取ってくれる所なの?」


 スザンヌに聞くと、彼女はウンと言ってうなずいた。

 高田のエナジーを持っていれば何かと活用できるだろうが投球などの感覚に、鍛えていない僕の筋肉では負荷が大きいのだ。


「いらっしゃいませ」


 スザンヌがカウンターに近づくと女性の係員が応対する。


「あのう、エナジーを買い取って欲しいんですけど」


「ああ、はい。エナジーを売るんですね」


 その係員は棚から木箱を持ってきて蓋を開く。中にはソフトボールより少し大きい水晶玉が入っていた。

 台に設置されている水晶玉を取り出してテーブルに置いた。


「では、これにエナジーを入れてください」


「はい、分かりました」


 そう言ってスザンヌは僕に目配せをする。


「入れろと言われても……どうやれば」


 そんなことをやった事がない。


「エナジーを吸い取った感覚は分かるでしょう。その逆をイメージすればいいんですよ」


「ああ、そうなんだ……」


 スザンヌが僕の両手を水晶玉の上に引き寄せた。

 僕は目を閉じて高田から吸い取ったエナジーを玉に移す事をイメージした。

 高田のエナジーは自分のものと区別できる。やつのエナジーだけを玉に移動させた。


「終ったかな……」


 目を開けると水晶玉が鈍く光っていた。


「では、鑑定いたします」


 係員が玉の上に手のひらをかざす。


「こ、これは珍しいスキルですね!」


「スキル?」


 高田の野球選手としてのセンスのことを言っているのだろうか。


「このようなスキルは見たことがありません。500万ペセタで買い取りましょう」


「うわー、すごいです、トウヤさん」


 スザンヌが興奮している。


 だが、僕は急に怖くなった。他人から吸い取ったエナジーをお金に換えてしまって良いのだろうか。それは高田が持って生まれた才能かもしれないが、普通以上の努力をした結果でもあるだろう。そういった人間のリソースを売り飛ばして良いはずがない。


「あ、あのう……キャンセルすることはできるんですか」


「玉に入れたエナジーをあなたに戻すということですか?」


 そう言って係員が目を細める。


「は、はい……まあ……」


 どうして、というような顔でスザンヌが僕を見ていた。


「それは販売が成立していないので可能ですが……」


 係員は不満そうに玉を見ている。よっぽど貴重なエナジーなのか。


 他人のリソースを吸い取って金銭に換える。それは悪いことに違いない。それは泥棒のようなものかもしれない。

 だが、やってはいけない事なのか……本当に?

 弱い者いじめをする人間から大事なものを奪い取って販売する。いじめられた人間が復讐して何が悪いのか。いじめを見ても他人は何もしてくれない。自分で解決して何が悪いのか。

 もしも高田と立場が逆だったらどうなるか。

 やつだったら僕から抜いたエナジーを売って、良い小遣い稼ぎになったと喜ぶだろう。僕のことを心配することは全くない。それは間違いないこと。

 僕はドレイン能力を得て、高田よりも強くなったのだ。強くなったから弱い高田をいじめても構わないのだ。弱い者いじめをするということは自分よりも強い人間にいじめられることを承認しているのだ。

 だが、そういったことは言い訳かもしれない。

 言葉を飾っても意味がないよな。僕は高田から奪い取ったエナジーを売って利益を得たい、それが本音なのだ。


 それを僕が望むのだから仕方がない。


「やっぱり、売ることにします」


 そう僕は告げた。


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