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16,いじめ

 裏庭にはピッチング練習用の小さなバックネットがある。

 僕は、滝沢と後藤に両腕をつかまれたまま、バックネットに連れていかれて腕を左右に引っ張られている状態で固定された。


「じゃあ、いくかな」


 高田がバケツに入っているボールを一つ取り上げた。


「何をするんだよ」


 何をされるのかを想像できたので、僕の体がこわばる。


「ピッチング練習だよ。夕方から練習試合だからな」


 高田はニヤニヤ笑い、ボールを上に軽くポップさせてからキャッチした。


「じゃあいくぜ」


 そう言うと高田は思い切り僕めがけてボールを投げてきた。


「ひっ!」


 ボールは顔のすぐ側のボードに当たった。

 板に当たった衝撃が僕の頭に伝わってきて足が震える。


「おい、高田。顔に当てるなよ、傷が目立つからな」


 そう言って後藤がキヒヒと笑う。

 高田が振りかぶって2球目を投げてきた。


 それは股の下に当たって跳ね返った。

 股間がキュンと縮こまる。


「やめろよ! 高田君」


 あの速球が急所に当たったらマズイ。


「うるせえよ。黙ってろ、犬」


 そう言って、ゆっくりと振りかぶり、3球目を投げた。


「ギャン!」


 股間に激痛が走った。


「あったり―!」


 高田がガッツポーズをする。

 腕が解放されたので、僕はうずくまって股間を押さえた。言いようもない下腹部の痛み。


「10点だな。もしかして、つぶれたんじゃないか」


 そう言って笑う滝沢。

 痛みに耐えながら片膝をついている僕の前に高田が立っていた。


「なんで、こんなことをするんだよ……」


 いつも思うことだ。


「なんでって、面白いからに決まってんだろ。ストレス解消に最適だぜ、お前はよお」


 口の端を曲げて嫌な笑いを浮かべている。


 チクショウ、チクショウ、チクショウ! こいつは絶対に許さない。許してはいけない人間だ。

 僕は高田の膝にタッチした。リンクをつなぐ。


「何してんだよ」


 僕は顔を蹴られ、のけぞって倒れる。でも、リンクはオーケーだ。

 口の中に鉄の味が広がる。鼻血が出ているようだ。僕は思い切りドレインでエナジーを吸い取った。

 奴は平気な顔をしている。イノシシや叔父さんと違って鈍感なのか。


 ドレインしていて、異様な感じを受けた。

 叔父さんの時も感じたのだが、奴の中に光る玉のようなものがあるのだ。だが、深く考える必要はない。とにかく、吸い取ることができるものは吸い取ってやれ。

 奴のエナジーを自分の中にもぎ取っていった。


「じゃあ、試合の準備もあるから帰るか」


 4人は僕に背を向けて去っていく。


「ああ、それから……」


 高田が振り向く。


「次は潰してやるからよお」


 そう言って笑いながら野球場の方に歩いて行く。

 僕はドレインを続けた。奴とのリンクが切れるまで、ずっと吸い取り続けた。


 誰もいなくなってからチンコを見てみた。

 赤く腫れている。ああ、良かった。潰れてはいないようだ。

 しばらく見ていると、腫れがドンドン引いていく。普通ではない回復力だ。これは吸い取ったエナジーが被害を治癒させているのだろうか。


 10分もたつと完全に回復して、通常状態になった。鼻血も止まり、痛みもない。


「チクショウ、今に見ていろよ」


 僕は立ち上がって野球場の方に向かう。


 球場の水飲み場で顔を洗ってから応援席に行った。

 他校との練習試合は、すでに始まっていた。

 高田の野球部は甲子園で準優勝をしている。相手にとって、今日の試合は胸を借りるという感じだ。


 高田は先発ピッチャーで、マウンドに立って投球練習をしている。

 軽く投げているようだが、コントロールが定まらなくてキャッチャーから肩の力を抜くように注意されていた。


「プレイ!」


 審判が試合開始を告げる。

 高田は大きなモーションで思い切り投げた。

 それは大きくそれて、バックネットの上部に当たる。


「リラックス、リラックス!」


 キャッチャーが肩を上下させて、高田にアピールした。

 2投目。

 ベース前でワンバウンドして、それをキャッチャーが体で止める。

 3投目。

 キャッチャーがジャンプして取った。


 観客席からでも高田の表情がゆがんでいることが分かる。

 ドレイン能力は、体力だけでなく投手としてのスキルも吸い取ることができるのか?


 4投目のモーション。焦っているのか、高く足を上げたらバランスを崩してドテンと後ろに倒れた。

 観客は大爆笑。高田はミットを地面に叩きつける。


 その後、高田は4連続フォアボールで1点を差し出し、デットボールで交代させられた。


 僕は高田を探して球場の回りを歩き回った。

 すると、花壇のベンチに高田のユニフォーム姿。


「高田君、さっきは大変だったね」


 心配そうに声を掛けてやったが、内心は彼をバカにしているのだ。

 やつはキングボアの様な鋭い目で僕を睨む。

 彼は泣いていた。


 いじめっ子でも泣くことがあるのか。そんなにナイーブな心を持っているのなら、他人を攻撃するようなことはやめてくれよな。


「高田君、誰にでも調子の悪いときはあるよ。あまり気落ちしないでね」


 その原因を作ったのは僕だ。ざまあみろ。


「うるせえ!」


 やつはキックを飛ばしてきたが、軽く避ける。

 あれっ、僕はこんなに反射神経が良かったっけ?


「高田君。スパイクシューズで蹴るのは危ないよ。シャレにならない」


「うるせえ! うるせえ! うるせえ!」


 立ち上がって僕の襟首をつかむ。


「俺はなあ、お前みたいなチンコロ犬とは違う人間なんだよ。いい加減にしねえと玉を潰してやるぞ!」


 涙と怒りでクシャクシャになった顔。悔しいのだろうが、僕が味わった悔しさには遠く及ばないだろう。


 そのとき、突然、ドレインのリンクが繋がった。

 自分で意識していなくても自動で高田とリンクしたのだ。一度リンクしていれば、次は近づくだけでリンクが成立するようだ。


 僕の頭に高田の過去のイメージが流れ込む。

 彼の小学校時代。野球が好きで友達と一緒に草野球をしているイメージ。中学校では、神童と呼ばれてもてはやされた。高校にスポーツ特待生として入学。野球部のピッチャーとして活躍する。


「何だ、これ?」


 僕は戸惑う。まるで自分で体験した事のように、彼のイメージが頭の中に入り込んできたのだ。


 さらに、その先のイメージも流れ込んでくる。

 高田はノーコンになり、野球部を辞めることになった。その後は特待生の資格を失い、不登校になる。不良仲間とつるむようになって卒業を待たずに退学になった。

 その後のイメージは漠然として良く分からなかったが、社会の底辺の生活に落ちぶれたよう。


「何だよ、これは?」


 ドレイン能力には相手の過去や未来を探る力があるのか。


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