14,説得
「うーん……」
叔父さんは腕を組んで目をつむる。
そして、組んだ腕をテーブルの上にのせて僕を見た。
「いくらボウズの話でも、それは信じられないなあ」
「でも、本当の話なんだ」
簡単に納得してはくれないと思ったけど。
「では、私たちを異世界とやらに連れてってくれることはできないの?」
お姉さんの声を始めて聞いた。
彼女の眼がぎらついている。もしかしたら、金貨に興味があるのか。
知的な社長秘書という外見なのだが、性格は肉食系なのかな。
「えーと、今まで他人を転送したことはないんだけど……」
「でも、リヤカーとかの物体は一緒に行くことができたんだろう?」
そう言う叔父さんは腕組みをして目を細めている。言われてみれば、物を転送できたのだから人間も連れていくことができるのだろうか。
「そうだなあ……まず、俺にドレインとやらを試してみろよ」
そう言って叔父さんが腕組みを解く。
「でも、エナジー……というか、体力を吸い取っちゃうんだよ」
「構わねえ。やってみろよ、ボウズ」
叔父さんは信じていないようだ。でも、叔父さんが良いと言っているんだからドレインをかけてみるかな。
「じゃあ、ドレインをやってみるよ。いい?」
異世界だけじゃなくて、日本でも使えるよな。
「バッチ来い」
ニヤリと笑って親指を立てる叔父さん。
右手を叔父さんの手首に置き、僕は目をつむって精神を集中した。
リンクを繋ぐと叔父さんの腕がビクンと振るえた。
エナジーを吸い取ろうとしたら、違和感に気が付いた。あの暴漢と違って吸い取る対象が広い。バケツとバスタブくらいの違いがあった。
とりあえず深く考えずにエナジーを手繰り寄せる。
「やめろー!」
叔父さんは乱暴に手を振り払った。
目を開けると叔父さんは引きつった顔に汗をかいていた。
暴漢の時は嫌がることはなかったのに、あのキングボアのように叔父さんは敏感なのか。
「どう、信じてくれた?」
「ああ、分かった。信じるしかないようだな。今まで感じたことがない体験だったぜ」
呼吸を荒くして手首をさすっている。汗が止まらないようだ。
「どんな感じだったの?」
僕が聞くと叔父さんは首を横に振る。
「なんていうか、とてつもなくヤバい感覚だった。何か大切なものが失われていくような……」
「でも、エナジーを吸い取られても回復するって聞いたけど」
「そうかあ……そんな感じじゃなかったけどな」
しばらく無言が続く。お姉さんは金貨をジャラジャラといじっている。
「でも、異世界に行くのはヤバいんじゃないのか?」
叔父さんは平静を取り戻していた。
「えっ、どうして」
「異世界と日本は環境や気候が全く違う。それぞれに別の感染症があるかもしれないだろ」
「感染症というと……風邪の病原菌とか?」
「もっとヤバい細菌もあるだろう。お前が向こうに病気を持っていく可能性があるよな」
何も言えない。
そうか、そういった危険もある。僕がスザンヌたちに治療方法がない病気をうつしてしまうかもしれない。
「逆もある。お前は大丈夫なのか」
「……僕は特に異変はないよ」
「死んだおばさんがボウズに言った、能力を使ってはいけないというのは、そういったことかもしれないな」
そうか、叔父さんの言うとおり、気軽に異世界に行ってはダメだったのだろうか。
「でも、現在は冬也さんとスザンヌさんたちは病気になっていないですよね」
秘書のお姉さんが僕を見る。
「うん、そうだけど」
「だったら、とりあえずは、いいんじゃないですか。こんなに金貨を稼ぐことができるんだったら、異世界に行かないのはもったいないですよ」
ちょっと鼻息が荒い。
「うん、そうだね」
多少の問題があってもスザンヌと会いたい。
「まあ、分かった」
叔父さんが深呼吸する。
「ボウズ、この家はお前に任せるよ。取り壊したりしないから好きに使え」
「いいの? おじさん、ありがとう」
「まあ、いいってことよ」
「じゃあ、この金貨も換金してくれないかな。質屋だと換金率が悪くて」
「ああ、いいよ。相場の正規レートで換金してやる。お金に換えたらボウズの口座に振り込んでやるからよ」
「本当? ありがとう、叔父さん」
「それに、必要な物があったら言ってくれ。普通では手に入らないような物でも調達するからさ」
「ああ、助かるよ」
貿易商の叔父さんは特別な入手ルートを持っているらしい。
とにかく、おばあちゃんの家を守ることができた。これで今まで通り、スザンヌに会うことができる。
向こうでのスローライフを楽しむことができるのだ。僕の世界は日本ではない。スザンヌがいる異世界こそ僕が生活する本当の場所なのだ。
学校において、やるべきことを済ませたら異世界でスローライフを満喫することにしよう。




