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11,願い

 スザンヌの家に戻ったときは夕方になっていた。


「夕食にしましょうか」


 スザンヌがシチューを用意してくれた。

 町で野菜などを買っているので具が豊富な料理。

 彼女の料理は旨い。食材さえそろっていればプロ級の料理を作れるようだ。


 そろそろ帰ろうとすると、スザンヌが近寄ってきた。


「町で背中を打ったでしょう、ヒーリングしてあげますよ」


「ああ、そう……」


 別に痛くはないのだが、せっかくスザンヌが言ってくれるのだから……。

 シャツを脱いで背中を彼女に向ける。

 スザンヌは濡れたタオルで背中を拭いてくれた。


「トウヤさんのおかげで私たちは助かっています」


「ああ……はい」


 背中が温かくなる。スザンヌがヒーリング能力を使っているらしい。


「べつにケガはないようですね」


 ちょっと残念そうな声のトーン。


「僕がドレインでエナジーを吸い取ったので、それによって回復したんでしょうか」


「そうですね。トウヤさんの能力は特別ですから」


「ドレイン能力って知っていました?」


「聞いたことはあるんですが、詳しいことは分からないんですよ」


 そうか、レアな能力なんだろうか。もっと分かりやすくて現実世界でも活躍できる能力なら面白くなるのだろうが。


「僕から吸い取られたエナジーは戻るのかなあ」


 あの暴漢が体力を回復してリベンジしてくるかも。


「そうですね、消耗したエナジーは回復しますけど、ドレインで吸い取られたものはどうなるか聞いたことがありません」


「そうか……じゃあ、その対策も考えておかないとね」


 日本で武器を調達しておくか。


「そういえば、エナジーは売ることができるんですよ」


「あ、そうなんだ」


「ギルドに行けばエナジーを買ってくれます。多分、吸い取ったエナジーも売ることができると思うんですけど……」


「へえ、スザンヌも売ったことがあるの?」


 彼女が黙り込む。まずいことを聞いたか。


「……ええ、お金に困ったときは売ることもありました……」


 沈黙が流れる。


「本当にトウヤさんには感謝しているんです」


 僕の心臓がドクンと動く。両肩にスザンヌの手が置かれていた。

 女の子の手は、こんなにも柔らかくて暖かい物だったのか。しっとりとした感触が肩の皮膚に染みこんでいく気がする。


「これからも私とクリスを助けてくださいね」


 振り返ると彼女は悲しげな微笑みを浮かべている。

 この厳しい異世界で、不安と闘いながら今まで生きてきたんだろうな。


「もちろんだよ、スザンヌ。僕にできることは何でもするから安心してよ」


 言われなくても助力は惜しまない。

 おばあちゃんがいなくなって、僕にはスザンヌたちと夜空に月が二つ浮かんでいる、この世界しかないんだ。


「ありがとうございます。トウヤさん」


 表情から悲しみが消えて肩に置かれた手に力がこもっていた。



  *



 日本に帰ってから町で武器を買い集めた。

 クロスボウを買おうと思っていたのだが、銃刀法で規制されているので無理だった。それで、ボールベアリングボウという物を買った。

 それは、矢の代わりに金属のボールを打ち出すもので、たくさんの弾を装填できて連射が可能だ。


 昼過ぎ、スーパーで買った食料と一緒に武器をリヤカーに積んで、洞窟の中に入った。

 3輪バギーのエンジン音を洞窟の中に反響させながら奥に進む。

 おなじみの鳥居の前に到着。僕はスザンヌの家を思い浮かべた。



  *



 おなじみのスザンヌの家。

 僕はバギーを降りて、ドアの前に立って合図のノックをする。

 乱暴に玄関のドアが開いた。


「トウヤさん、早く中に入って!」


 引きつった顔のスザンヌ。


「どうしたの?」


「いいから、早く!」


 彼女は僕の手を引いて強引に中に引き込む。

 部屋の隅っこでクリスが震えていた。


「キングボアです。あいつが現れたんですよ」


 そう言ってスザンヌが僕の腕に抱きつく。


「あのイノシシかぁ……」


 殺されそうになった記憶がよみがえる。あの時は何とか生き延びたが、それは運が良かったのだろう。スザンヌのヒーリングがなかったならば生きてはいない。

 窓から外の様子を見た。すると、家の近くを大人ほどの大きさのキングボアが横切る。

 そいつは左目がつぶれていた。以前に僕が木の棒を突き刺したやつだ。左目の仕返しをするために来たのだろうか。


「自分の縄張りから出ることはめったにないんですけど……」


 僕の腕に彼女の胸が強く押し付けられている。


「とにかく、家から追っ払わないとね。何とかリヤカーから武器を持ってくることができれば……」


 このままでは家から出ることもできない。やつに痛い思いをさせて撃退すれば、しばらくは来ないだろう。


「クリスはサーチ能力を使えます。ボアが家の反対側に行ったとき外に出て持ってくればいいんじゃないでしょうか」


 そうか、クリスは100メートル以内の動物を把握する能力があったんだ。


「分かった、そうしよう。クリス、頼めるかい?」


「うん、分かった、お兄ちゃん。やってみるよ」


 クリスは椅子に座って手を組む。そして、目をつむって黙り込んだ。


「見える……キングボアは家の周りを歩いているよ」


 そうか、家の中にいてもイノシシの場所が分かるのか。


「お兄ちゃん、ボアは川で水を飲んでいる」


「よし、分かった」


 僕は窓から外を見て、やつがいないことを確認してからドアを開けて外に出た。

 走ってリヤカーに行き、積んでいた武器を取り出して家の中に戻る。

 スザンヌが急いでドアを閉めた。


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