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10,スキル

 しばらくしてシスターが牧師を連れてきた。

 やはり、牧師もキリスト教と同じような服装。これは僕の世界から何らかの影響を受けているのだろうか。例えば、過去に日本から転送してきた人がいて、その人が宗教を広めたとか……。


「スキル授与は小金貨10枚になります」


 シスターが笑顔で僕に言う。この人は若いのだが、戒律があって結婚していないのだろうな。


「あ、はい。分かりました」


 僕はショルダーバッグから袋を取り出し、そこから金貨を10枚取って渡した。

 定番なら、鑑定をすると水晶玉が輝き、最後には割れてしまって「ああ、何という魔法力だあ!」と皆が驚くことになるんだけどな。

 できれば剣聖とかのスキルを得ることになるのなら嬉しい。


「では、早速始めましょうか」


 そう言って60歳くらいの牧師さんが、木の箱から水晶玉を取り出して、机に設置されている台に置いた。


「では、座りなさい」


 言われたとおりに僕はイスに座る。机の上にはソフトボールくらいの水晶玉が光っており、それを挟んで牧師と対面状態だ。玉には牧師の顔が上下逆に映っている。

 牧師は何か呪文みたいな言葉を唱え始めた。


 しばらくして僕の体が熱くなる。何だろう、これ。


「あ、あの……何か体が熱くなっているんですけど……」


 するとシスターが人差し指を口に当てて静かにするように合図した。

 シー、というジェスチャーは日本と共通なのか。

 やがて水晶玉が光りだし、いきなり光が消えた。


「うむ、スキルは降りてきた。だが……」


 牧師は言葉を濁している。何か問題があったのかな。


「少年よ、君のスキルはドレインだ」


 牧師は眉をひそめて、申し訳なさそうな表情をしている。


「ドレイン? ドレインって……」


「ドレイン能力とは、他のものからエナジーを吸い取る能力だ」


「はあ、そうですか」


 ドレイン能力か……なんか地味だなあ。

 それにエナジーとは何だろう。生命力のようなものかな。振り向いてスザンヌを見たが、彼女は小さく首を振るだけ。


「ドレイン能力は、滅多に出ないので私も初めてなのじゃ」


 そう言って牧師は咳払いした。


「最初に相手に触ってリンクする。それから、エナジーを自分の体に引き寄せるのだ。そして、吸い取ったエナジーは自分の体力を向上させることに使えるし、他人に分け与えることもできる……それぐらいしか分からん」


「はあ、そうですか」


 ファイヤーボールとかを飛ばせたら攻撃に使えたのに……。

 チート能力で無双できたら、現実世界でもハッピー生活、とか考えていた時期もありました。でも、僕だからなあ、こんなものか。


 僕とスザンヌは牧師達に礼を言って教会から出た。


「スザンヌはドレイン能力を知っているの?」


「さあ、聞いたことがありませんね」


 スザンヌは首をかしげる。


「私の能力は治癒能力で、妹が持っているのはサーチ能力なんです」


「サーチ能力?」


「はい、それは探査能力と呼ばれていて、半径100メートル内の動物を感知できる能力なんですよ」


「ふーん、スザンヌの方はともかく、言っちゃ悪いけどクリスの能力はパッとしないなあ」


「そんなことはないですよ。薬草を取りに行くとき、近くにキングボアがいないことを確認できるので」


「なるほどねえ」


 あの大きなイノシシはキングボアという名前なのか。


「どんな能力でも使い方によるんじゃないですか。トウヤさんのスキルも使い方によっては何かに役立てることができますよ」


 スザンヌの笑顔が姉のように頼もしく見えた。今まで姉妹二人だけで生き抜いてきたんだから、そこに苦労もあったんだろうな。


 しばらく話しながら歩いていると、露店の方からクリスの大声が聞こえてきた。

 急いでクリスの元に向かう。

 見ると、露店の前でクリスと大柄な男がもめていた。


「だから、誰の許可を得て商売してやがんだよ!」


 それは、ガッシリとした、筋肉質で頭がツルツルの目つきが鋭い男だった。僕よりも一回り大きい。


「許可ならギルドからもらっているわよ! 何よ、あんた」


 対するクリスは必死に虚勢を張っているが涙目だ。まあ、14歳の少女なのだから仕方ない。


「なんですか? あなたは!」


 スザンヌがクリスの前に割って入る。


「なんだ、姉ちゃんが店の主人か」


 男はスザンヌの体を無遠慮に上から下まで見た。


「そうですけど。何かご用ですか」


 彼女は毅然として男を睨む。


「あんたらは、かなり儲かっているらしいじゃねえか。ここでの商売はなぁ、ショバ代を払ってもらわないと困るんだよ」


 そう言ってゴツい手をスザンヌの肩に置いた。


「そんなの聞いてません。ちゃんとギルドの許可を取っています」


 そう言って男の手をパンと払う。


「ギルドとは別だ。俺に払えって言ってんだよ」


 男は身をかがめ、上目遣いで脅した。

 まったく、この世界にも無法者はいるんだな。怖いけど放っておく訳にはいかない。


「ちょっと、やめろよ!」


 男の腕を引いてスザンヌから引きはがす。


「何だ、てめえは……引っ込んでろ!」


 思い切り突き飛ばされた。背中を地面に打ち付けて、一瞬息が止まった。


「トウヤさん!」


 スザンヌが僕に駆け寄る。

 僕は大きく深呼吸をしてから立ち上がった。男は僕を見て鼻で笑う。


「そんな弱っちいガキより、俺と付き合わねえか。あんたの体でショバ代を払ってもらってもいいんだぜぇ」


 嫌らしい視線でスザンヌの体をなめ回す。

 周りの人は、関わり合いにならないように無視して通り過ぎていく。


「いい加減にしないとギルドに報告しますよ」


 スザンヌの強気は変わらない。


「なんだと、てめえ」


 男はスザンヌの胸ぐらをつかんだ。


「やめろよ!」


 男をスザンヌから放そうとしたが、また突き飛ばされる。

 チクショウ。僕はスザンヌさえも守ることができないのか。何か方法はないのか……。そうだ、スキルを試してみよう。


 立ち上がって男の肩に触れる。男と繋がるイメージを思い浮かべた。すると、見えないパイプのようなものが作られたような気がする……これがリンクというものか。

 間髪を入れずに、男から何かを吸い取るイメージを思う。と同時に、何かが僕の体に吸い取られていく。それは目に見えない煙のような感じで、言葉にするのは難しいが、これがエナジーというものだろう。


「何してんだよ、てめえは!」


 男はスザンヌを放し、僕の髪をつかんでグリグリと回した。そして、僕の腹を殴って放り投げる。腹の痛みに思わずうめき声をあげたが、リンクは切れていないようだ。直接、触れていなくても一度リンクを構築すれば離れていてもドレインはできるようだ。

 僕は必死にエナジーを吸い取った。

 鬼のような形相で男が近寄ってくる。これはヤバいかなと思ったとき、男の両目がフラフラと揺れてばったりと地面に倒れた。


「どうしたんですか!」


 ギルドの制服を着た人達がクリスと一緒に駆けつけてきた。

 スザンヌはギルドの人に経緯を説明した。すると、ギルドの人は男を商業ギルドの方に連行していった。


「大丈夫ですか、トウヤさん」


 スザンヌが僕の腕を握って泣きそうな目で見ている。


「ああ、平気だよ、スザンヌ」


 殴られた腹がさっきまで痛かったのだが、今はなんともない。エナジーを吸い取ると、それで体の不調を治すことができるのかも。


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