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01,能力の継承

いじめにあって不登校になった高校3年生の冬也。

一人暮らしになった冬也は異世界への入り口を見つける。

自分をいじめた人間に、特殊な能力で復讐する物語です。

 病室の窓からは強い日差しに照らされた山々が見える。


「高校は夏休みに入っているよな……」


 僕はベッドの横に置いてあるパイプイスに座り、ボンヤリと蝉の鳴き声を聞いていた。

 本当なら大学受験のために塾で勉強している頃なのだろう。しかし、6月から不登校の僕には進学も何も関係ないという気分。


「とう……や……」


 か細い声で僕を呼んだのは、ベッドに横たわり点滴チューブなどが取り付けられている祖母だった。


「冬也、お前に頼みたいことがあるんだよ……」


 とうに髪は白くなっており、顔のシワが増えている祖母が声を震わせて僕を見る。


「なんだい? おばあちゃん」


 僕は祖母が大好きだった。良く言う、おばあちゃん子というやつだ。昔は兄と一緒に実家に帰るのが楽しみだったんだ。しかし、兄が病院に見舞いに来ることはないし、両親もめったに来ない。


「代々、加賀家には『ある力』が伝承されているんだよ」


「ある……力?」


 おばあちゃんは寝返りを打って体を僕に向けた。呼吸が速くなり、それだけで疲れているのが分かる。おばあちゃんは80歳を超えて急激に体力が落ちているよう。


「ああ、一族に伝わる特殊能力でね、よほど特別な場合でなければ使ってはならないものさ」


 使うのが禁忌とされている能力など、それを持っている意味があるのだろうか。


「冬也……あんたが能力を継承しておくれ」


「能力の継承?」


 急に言われても……何と答えればいいのだろう。それで、能力とは何なんだ。


「ああ、光雄に言ったんだが、鼻で笑われてしまってね……信じてくれなかったんだよ」


 確かに、父さんならバカ臭いと言って一笑に付すだろうな。


「この能力は、ずっと子孫に伝えていかなければならない。そして、鳥居を守っていく、それが加賀家のお役目なのだよ」


 おばあちゃんの目は真剣だ。認知症ということはない。


「冬也、受け取ってくれるかい」


「ああ……いいけど。鳥居というのは?」


 おばあちゃんの頼みは断りたくない。先の短い老人の願いなのだから。


「じゃあ、行くよ」


 質問に答えずに、冷たい手で僕の手首を握った。

 おばあちゃんは目をつむって何かを念じている。

 握られた手が熱くなり、その熱が上腕を伝わって僕の体に入ってきた。


「あ! 何!」


 振りほどこうとするが、病床の老人の力とは思えないほどの握力だ。

 冷房の効いた病室。僕の体が熱くなる。


 やがて、握っていた力が失せ、おばあちゃんは息を荒げて仰向けになった。

 僕の手首を見ると赤くなっている。そして、胸の奥に熱が残っているが不快ではない。


「冬也……元気でね。強く生きるんだよ……」


 おばあちゃんの呼吸がさらに速くなっていた。素人でも普通でないことが分かる。


「おばあちゃん!」


 焦った僕は、ベッドサイドにぶら下がっているナースコールのボタンを押した。



  *



 10畳の居間。広い座卓の前に座り、僕はペットボトルのコーラを一口飲んでから大きくため息をついた。

 セミの鳴き声がうるさい。この古い木造2階建ての実家にはエアコンがないので扇風機の風だけで涼をとっている。


 前は、おばあちゃんと二人で暮らしていたが、今は一人になってしまった。

 両親とケンカして、追い出されるように祖母の元に引っ越してきたのだ。母の前で思い切り壁を蹴飛ばして壊してしまったら、出て行けと父に怒鳴られたので、僕はその通りにしてやった。

 唯一の理解者の祖母が亡くなって一人きり。これから僕はどうなるのだろう。


 親への反抗は学校でのいじめが原因だった。

 小柄でオタクの僕は、不良たちから目を付けられて毎日のように迫害を受けたのだ。

 トイレの個室に入っていたときは上から水を浴びせられた。

 机の上にはゴミが山盛り。女子更衣室に放り込まれたこともあった。

 面倒ごとになることを恐れて担任は何も言わない。

 嫌になって僕が不登校になったのは仕方がないことだろう。


 思い切りテーブルを叩く。バーンという音が居間に響いた。僕の鬱積した不満はテーブルにぶつけるしか行き場がない。

 学校でのことを思い出すと頭の芯が燃え上がるようだ。思わず、またテーブルを叩く。掌がしびれて指の関節が鈍く傷みだした。


 いたたまれなくて立ち上がる。そして、気分を紛らわせるために家の中をさまよう。

 無駄に大きい家だった。昔の家は複数の世帯が同居することが普通だったので部屋数が多い。廊下を歩いていると古い木材から漂ってくる独特な匂い。

 台所を覗くとカップラーメンの容器が積み重なっている。……そろそろ捨てないと。


 トイレに入って手を洗う。鏡にはボサボサの髪をした自分が映っている。顔立ちは整っていると思うが、女の子にモテたことはない。情けないような顔だなと自虐的に評価する。

 2階に上がって自分の部屋に入るが、落ち着かなくて外に出た。


 この古民家は山の中腹に建っている。

 近くに家はなく、スーパーに買い物に行くには自転車を30分以上も走らせなければならない。


 ふと、僕は裏庭に行ってみた。

 少し離れた場所に木造の小屋がある。その前に立って頑丈な扉を見るとゴツイ南京錠が掛けられていた。


「鍵はどこにあるのかな……」


 小屋の裏に回ろうとしたが、山の斜面と密着している。それは前から変な構造だなと思っていた。

 家に戻り、おばあちゃんの部屋に入る。


 そこは質素な部屋で、タンスと鏡台、それに古いローテーブルがあるだけ。

 人の部屋に勝手に入るのは気が引けるが、もう本人から了解を得ることもできない。

 鏡台の引き出しを開ける。1段目には化粧品などが入っていた。2段目を見てから3段目を引くと本のような物が入っていた。

 それは古い和紙を紐で束ねた古文書のような物。達筆すぎて良く分からないが、表紙には「お通り様」と書いてあるようだ。開いてみると中の文章も崩した文字なので読むことができない。


 引き出しの奥を見るとゴツい鍵が入っていた。

 それを手に取り、書物を引き出しに戻してから小屋に向かう。

 扉の南京錠を開けて中を覗くと、古い家具などが押し込まれていた。かび臭いので、長い間、誰も入っていないのだろう。

 あちこち探ってみたが変な物は置いていない。

 少しがっかりしているのは、特別な物が隠してあるという期待が僕にあったのか。

 小屋の外に出ると強い日差しは西に傾いていた。


「そういえば、どうして小屋は斜面と繋がっているんだろう」


 僕は家から軍手とマスクを持ってくると、装着して小屋の中に入った。

 中の物を片っ端から外に出す。

 奥には大きな棚があった。僕の背よりも高い木造の棚で、かなり重そうだ。

 持ち上げることはできなかったので、横にスライドさせようと押してみるとズズズッと動く。さらに力をこめて押し出すと、棚に隠された穴が出てきた。


「これは洞窟なのか……」


 暗闇はずっと奥まで続いている。立って進める程度の大きさの洞穴だった。


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