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鈍感男子はコーラ味

作者:
掲載日:2026/01/31

 場所は高校の屋上。

 私はクラスメイトのまつもとどんすけと向かい合っていた。

 髪は少しぼさっとしていて、眠そうなひとみ

 ワイシャツのネクタイを緩めていて寄れ曲がっているところが男らしい。

 百八十センチの身長からろされる羊のような視線に胸がキュンキュンする。


 「田島さん、話ってなに?」


 中性的な声でそう言って、松本は手に持った缶コーラを一口飲んだ。

 のどぼとけがゴクゴクと動いて、首の血管が浮き出ている。

 こしに手を当てて飲む姿はテレビCMに出ているはいゆうのように、とても様になっていて思わずれてしまう。


 ああ、かっこいい。

 アイドルなんか目じゃないぐらいのカリスマ性。

 そんな男子がクラスメイトでしかもフリーだなんて、こんな機会は一生訪れないかもしれない。

 私は深呼吸して、


 「好きです!」


 祈るように両手を合わせて告白した。

 彼は缶コーラを目の前に持ち上げて、軽く揺らす。

 そして、にっと顔をほころばせた。


 「ん?ああ、この缶コーラ俺も好きだよ。美味しいよな」


 白い歯が太陽に反射してまぶしく輝いている。

 ずこんと私はその場で、すってんころりん。大げさにくずれ落ちた。


 「だ、大丈夫?そんな何もないところでこけるなんて心配になるよ。足腰鍛えたほうがいいんじゃない?ああ、最近女子の間でダイエットが流行っているらしいから、それの影響?俺はあまりお勧めしないけどなぁ……」


 「違うわよ!」


 私に向けられている紳士のようなうれいるひとみもこれじゃ台無し。

 イケメン、高身長で優しい性格の彼が持つ、ただ一つの欠点。

 それはとんでもなくどんかんだということだ。

 

 これで松本に告白するのは三回目。

 ド天然の彼に私は今回もみごとげきちんしたのであった。


★★★


 「まいどうだった?告ったんでしょ?」


 昼休み、机にうつ伏せになっていると友達の真由美が声をかけてきた。

 

 「さぁ?あれは告ったうちに入るのかしら……」


 結局、あの後は松本と缶コーラトークをしただけで終わった。

 告白のやり直しなんて恥ずかしくてできない。

 

 「あはは、もう諦めなよ。きっと脈なしだからわざと話をそらされたんでしょ?」


 裏表がなさそうな彼がそんなひどいことをするとは思えない。

 あんなな表情が演技だとしたら大物俳優になれるわ。アカデミー賞だって夢じゃない。


 「そんなことない。彼は究極の鈍感男なんだわ。でも、そのおかげで今もフリーなんだから、良し悪しね……。でも、絶対諦めないから」


 「ふ~ん、じゃ、私も試しに松本君に告ってみようかな」


 そう言う真由美の顔は赤くなっていた。

 

 「ちょっ!本気なの?」


 「うん……」


 別に真由美が松本のことを好きになるのは不思議じゃない。

 松本は今も女子に囲まれながら楽しそうに雑談しているぐらい、モテている。

 だけど、同じぐらい女を泣かしていることで有名だ。その鈍感さで。

 

 「……悪いこと言わないから、やめたほうがいいわ。きっと、傷つくことになる」


 「ひどい。舞奈は松本君を取られたくないだけでしょ?」


 半分正解。

 もう半分は本気で心配している。

 勇気を出して告白したのに、それを真剣に受け止めてくれないのはフラれるよりショックが大きい。

 三回目だというのに、それでも心に深い傷を残していくほどだもの。

 まして、恋愛したことなさそうなな真由美ならなおさらだ。


 「それなら好きにすればいいわよ。私は松本の彼氏でもなんでもないんだから、いちいち許可なんていらないわよ」


 「……そうよね。もし、私が松本君と付き合えてもうらんだりしないでね?」


 「気が早いことで」


 「もう、そんな生返事して、後で後悔しないでよ」


 そう言って、真由美は松本を囲んでいる女子のに入っていった。

 私はその会話を盗み聞く。


 「松本君って可愛い顔してるよね」


 真由美が近くの椅子に座って、さっそくアピールしていた。


 「あー分かる。なんか、ぷりぷりしてて赤ちゃんみたい」


 「私も結構タイプ~」


 真由美についじゅうして、他の女子も会話に乗っかる。

 一見、和気あいあいとした空気。

 だけど、私にはバチバチ火花が散っているのが見えていた。

 当然、松本はそんなことに気づくはずもなく、


 「あ、やっぱみんなも同じこと思ってたんだ」


 「え?同じことって?」


 松本のさわやかな笑顔に私は嫌な予感がした。

 困惑気味に聞き返す真由美に、


 「俺もこのコーラグミ、ずっと可愛いと思ってたんだ。むとぷりぷりでさ。めちゃくちゃタイプなお菓子だ」


 そう言って、手に持っていたグミを口に入れて美味しそうな表情を見せる。

 一瞬のせいじゃくの後、黄色い笑い声に包まれた。


 「あはは、松本君面白~い」


 「だよね~、私もコーラグミ好き~」


 「え?えと……そうだね?」


 周囲の女子はれたもので、即座に軌道修正。

 だが、真由美は困惑気味な様子で愛想笑いを浮かべている。


 「だから、忠告したのに」


 真面目な子ほど傷つくのよね。

 もういっそ、誰かと付き合っちゃえば被害を受ける女子は減るのに。



 放課後、真由美が松本の席に歩いていくのが見えた。


 「あの!松本君……、そ、その、えと、今から話したい事があるんですけど、時間ありますか?」


 「うん、もちろん。どうしたの?」


 「ここじゃ話せないので、ついてきてくだちゃい!」


 「あはは、噛み方可愛いね」


 「ひゃいっ」


 二人は一緒に教室を出て行った。

 

 「分かりやすいわね」


 顔を赤らめて、おどおどとした真由美に私はため息をついた。

 これから告白でもするのだろう。

 クラスの女子達もざわついている。

 きっとフラれるだろうけど、その時のなぐさめ役として友達の私がいたほうがいいはずだ。

 そう思い、二人の後をこっそり付いていくことにした。


 放課後は誰も通らない校舎裏。

 松本と真由美が二人向かい合っている。

 私は校舎の壁を利用して、ちょうど二人から見えない位置を足音立てずに陣取った。

 角から頭を出せば二人の姿が近くに見える距離。


 「それで話って何かな?あっ、提出物を代わりに出しに行ったことは気にしなくてもいいよ。ちょうど先生に用事があっただけだから」


 「そ、それは、ごめんね。みんなのプリントを提出するのが私の仕事だったのに……。私あの先生苦手で……」


 あー、あの時の話か。

 真由美が私に「あの先生怖いから誰か代わりに行ってくれないかな」って冗談で言ったときに、たまたま通りがかった松本がひょいっと風のようにさっそうとプリントのたばを持って行ったのだ。

 ああいう無意識な優しい行為が女子を勘違いさせてしまう。


 って、このシチュエーションで何でその話だと思うのよ。

 放課後、人のいない校舎裏、男女が二人きり。

 どう考えても告白以外にありないじゃない。

 さすがに真由美がわいそうになってしまう。

 私は頭を抱えながら、耳をました。


 「誰にだって苦手な人ぐらいいるよ」


 「……ありがとう、えっと、ここに呼んだのはそのことじゃなくて」


 「あれ違ったか、他に何かあったかな」


 「あの!」


 真由美が大きな声を出す。


 「私、ずっと松本君のことが好きでした……。よかったら付き合ってください!」


 ついに言ってしまった。

 その鈍感さで女子を泣かしてきた松本に告白をしてしまった。

 なんて言ってフラれた真由美を慰めようか。私は三回もフラれているよって言おうか。

 いや、ちょっとぎゃくすぎて嫌だな。


 うーん、それじゃ男なんて星の数ほどいるってのはどうだろう。

 イケメンで、背が高くて、優しくて、羊のようにのんびりしている男。

 意外と周囲の人を見ていて、困っている時にはさりげなく助けてくれるそんな男。

 制服を着崩していて、髪はぼさっとしているのに、そういうヘアスタイルと言われたら納得するぐらいっていて、コーラが好きで暇があればコーラを片手に持っているような男。


 ……星の数ほど、


 あれ、なんか静かすぎない?

 真由美が告ってから何分経った?一分?二分?

 なんで何も聞こえてこないの?

 ちょっとだけ、ちょっとだけのぞいてみようかな?


 ちょっとだけ……。


 私は角から顔を出した。

 真由美の髪に手を置いて、松本はおおいかぶさるようにして顔を近づけていた。

 まるでキスしているかのように……。

 

 バキッ。

 静かな空間に小枝を踏む音が鳴り響く。

 

 「あっ……」


 「えっ?」


 松本が音に驚いて振り向いた。


 「あれ、田島じゃん」


 「あっ……」


 おだやかな瞳と怒ったような瞳が私をつらぬいている。

 ゆっくりと、松本が近づいてくる。

 

 「あっ、ご、ごめんっ!」


 「ちょっ、おい!待てって」


 ……星の数ほどいるわけないじゃない。


 私は無理やり足を動かして走った。

 走って、走って、走った。

 上って、上って、上った。


 顔はもうぐちゃぐちゃだ。

 鼻水だってれている。

 でも止まらない。あふれる涙が止まらない。

 

 バタンと勢いよくドアを開けるとそこは屋上だった。

 ひざに手を当てて、息を切らした体を落ち着かせる。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ。真由美に悪いことしちゃったな」


 勝手に告白が上手くいかないと決めつけていた。

 私がダメだったんだから真由美もダメに違いないと、いや、上手くいってほしくなかった。

 フラれることを望んでいたんだ。

 こんな性格の悪い女が、松本にふさわしいわけがない。


 「でも、でも、でも。私だって松本のことが好きなのに」


 「だったら、そう言えよ」


 「わっ!」


 開けっ放しのドアから身をかがめて松本が屋上へ入ってきた。

 ワイシャツのボタンを外して、暑そうにバサバサさせている。

 髪には変身前のたぬきのように葉っぱがついていた。


 「お、驚かせないでよっ」


 「はぁ……それはこっちのセリフだ。急に泣き出したかと思ったら、走り出すし、追いつくの大変だったんだからな」


 「……ごめん」


 私を追ってきてくれたんだ。

 ちょっとだけ嬉しく思っている自分が嫌になる。

 

 「勘違いするなよ」


 「何がよ?」


 「佐藤のことだよ」


 真由美のことだ。

 勘違いって、またその鈍感さで私にぬか喜びさせるつもりね。

 走ったら少し落ち着いた。

 松本のことを諦める覚悟もできた気がする。


 「真由美のこと大事にしなさいよね」


 「だから、違うって」


 このおよんで、まだしらを切るつもりらしい。

 優しさは時に人を傷つけるってこと知らないのかしら。

 なんだかしょうにイライラしてきたわ。


 「真由美とキスしてたでしょ!告白を受け入れたんじゃないの?」


 「あれはな、佐藤の髪に草が付いてたから取ってあげてたんだよ」


 「はぁ?告白されたタイミングで、そんな勘違いさせるようなこと普通しないでしょ!」


 「しょうがないだろ?ちょうどそのタイミングで草が付いたんだから」


 自分でも悪いと思ったのか、視線を下げて頭をかく。

 

 「それで、お前は俺のことが好きなのか?」


 真剣な瞳に見つめられ、顔が熱くなる。

 そのことにげんきゅうされないように、話をそらしていたのに。


 「そうよ!私は松本のことが好き。大好き。付き合いたい!だから、真由美に取られたと思って泣いちゃったの!?悪い!?」


 イライラした勢いで、そう言い切った。

 私の思いを全力投球。

 

 「悪くない。俺もお前が好きだ。彼女になってほしい」


 「……嘘つき」


 「本当だ」


 「なら証明してよ」


 そう言って見上げると、松本が私の肩に手を置いた。

 私はそっと目をつぶりくちびるひなのように突き出す。


 「ひょうたんみたいだな」


 「なっ……んっ」


 文句を言うために口を開けようとした瞬間、彼の唇でふさがれた。

 目が合うと、羊のような穏やかな瞳が優しく細められる。

 ファーストキスはコーラの味がした。

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