三.縁を繋ぐお守り
盆祭になると子供にとってはつまらない日となる。普通のお祭りなら屋台や花火で楽しいのだが、小さな村にそんなものはない。
神社に置かれた長テーブルに持ち寄られた料理が並べられて、村人たちが酒を飲んで盆踊りをする。
飲めや歌えやと騒ぐ大人たちを見ても子供にとっては面白くもない。明日葉以外の子供もちらほらいるけれど、あまり仲良くできず一人でお宮の前に座って暇をつぶしていた。
これなら妖怪たちが騒ぐ姿を見ていた方が面白い、家に戻ろうかとも思ったけれど両親も祖父母も祭に参加していて一人で帰してはくれそうにない。
そもそも、家に一人は少し怖かったので明日葉は早く終わらないだろうかとぼんやり大人たちを眺めた。
「明日葉」
声がして振り返るとお宮の裏からひょこっと緑禅が顔を覗かせていた。人前には出ないのではと思っていた明日葉が「お兄ちゃん?」と首を傾げると、彼は手招きをする。
どうしたのだろうかと駆け寄れば、お宮の裏へと手を引かれた。
「どうしたの、お兄ちゃん」
「お前は明日には帰ってしまうだろう?」
「そうだよ」
祭を終えた次の日の朝には明日葉は自宅のある都会へと帰る。それを聞いて緑禅は「俺は見送りができないからね」と会いにきてくれたようだった。
「また夏に遊びくれば、りょくお兄ちゃんに会える?」
「会えるよ。俺はお前を諦めないからね」
「お嫁さんのこと?」
「そうだよ」
どうやら緑禅は明日葉を嫁にすることを諦めないようだ。そんなに気に入られてるのかと明日葉は思いながらも、嬉しいと感じてしまっていた。彼と一緒にいるのは楽しいから。
だから、「また来るよ」と明日葉は言っていた。緑禅は嬉しそうに頬を緩ませるとぽんぽんと頭を撫でる。
「また来てくれることを信じてお前にこれをやろう」
そう言って緑禅が差し出してきたのは薄紫の勾玉がついたブレスレットだった。子供には大きすぎるそれに明日葉は「腕にから外れそう」と思わず口に出てしまう。
緑禅は「大人用だからね」と笑うと身につけなくてもいいと言った。これはお守りのようなもので持ち歩いているだけでいいのだと。
「大きくなったら腕につけなさい」
「わかった!」
「誰にも内緒だからね?」
「うん!」
明日葉はブレスレットを受け取るとにこっと元気のよい笑みを見せる。緑禅が暫くその表情を見つめていたけれど、彼は笑みを返すだけだった。
その笑みに明日葉は見惚れてしまった。目鼻立ちは分からないけれど眩しく見えて、綺麗だなとそう思って。




