なないろのうた(冬童話2026)
今から200年以上も前のお話です。
たくさんの漁船があつまる南の海岸沿いの街で、アリアという一人の女の子が産まれました。
つむぎたての糸のように輝く黒髪、サファイア色をしたきらきら輝く瞳を持った美しい女の子でしたが、生まれつき耳が聞こえませんでした。
『あの子は耳が聞こえないんだよ。
だから一緒にお話もできないからつまらないよね。』
『お歌も歌えないから、大好きなレコードを一緒に聞くこともできないもんね。』
クラスの子供たちは誰一人、アリアに近付きませんでした。
アリアは友達ができずにいつもひとりぼっちでした。
そんなアリアの一番の楽しみは夜空のきれいな星を見上げることでした。
星たちがまたたくたびに自分に微笑みかけているようで、少しだけ元気な気持ちになれるのです。
ある夜、アリアは空に散りばめられた星たちが音符の形になって七色に輝きながら揺れているのを見つけました。
ーまぁ、なんてきれいなのでしょう。
あの星たちが歌ったらどんなに美しい音色を奏でるのだろう。
まるで夢の中のようなその景色にうっとりしていると、アリアの目の前にソリの形をしたふわふわな雲が浮かんでいます。
ーあの雲に乗って、七色の星たちの近くに行けたらなぁ。
そのとたん、大きな風がびゅうっとひとつ吹きました。
ーうわぁ!びっくりした!
アリアの体はふわっと浮き、雲のソリの上にすべりこみました。
アリアは空に浮かんだ音符をひとつかみ、そしてもうひとつかみ、次々と音符を集めてカーディガンのポケットに仕舞い込みます。
ーひとつ、ふたつ、みっつ。
いつのまにかアリアは遠い遠い南の島にたどり着きました。
灯台の下にぽつんと建てられたちいさな教会の中でカーテンの向こうに最後の音符が光っています。
ーあの音符で最後ね。
ごめんなさい。ちょっとだけお邪魔します。
開け放たれた教会の窓から部屋の中に入ると、赤い音符に優しく照らされながら優しく微笑む男の子がベッドの中で眠っていました。
優しい風に吹かれてたなびく金色の髪は、まるで流れ星のよう。
あまりの美しさに、アリアはうっとりします。
どれくらい長く見惚れていたでしょう。
そのときアリアは思わずベッドの柵をガタンと鳴らしてしまいました。
驚いて飛び起きた男の子にアリアは
『ごめんね!びっくりさせるつもりは無かったの』
といつも首にかけているノートに書いて男の子に差し出します。
しかし、男の子は怖い顔をしてただ
『わぁっ!なんの音?誰かいるの?なんなの?』
と繰り返すだけで、アリアのノートを見てくれようとしません。
ーきっと寝ぼけてびっくりしていたんだわ。
暗くて顔が見えにくかったから怖がせてしまったのね。
男の子の近くにある赤い音符に手を伸ばし、優しく手のひらで包み込んだそのときでした。
ポケットで光る星の音符たちはアリアのポケットから次々にならんで、空へと階段をつくりはじめました。
星の階段は遠い遠い北の海のほうへと続いています。
アリアはきらきら輝く音符の橋をわたり、遠い遠い北の海岸へと帰って行きました。
『ぉ、おばあち、、ゃん!』
男の子は隣の部屋で眠るおばあちゃんを呼ぼうとしましたが、驚いていたので声がかすれてうまく出ません。
しばらくすると窓の外からは優しい子守唄のような心地よいメロディが聞こえて来ます。
どこかで聞いたことがある歌。
不思議なことに、そのメロディは自分が眠る前に歌った歌とおなじメロディでした。
『これは全部夢だ。きっと夢を見ているんだ。』
男の子は星の階段から降り注ぐオルゴールの音色を口ずさんでいるうちに、また眠りにつきました。
次の日も七色の星を見つけたアリアは、ソリの雲にのって星を集めながら南の島の教会に行きました。
アリアが窓から部屋を覗くと今日も赤の音符に照らされてすやすや眠る男の子がいます。
今日は怖がらせないように、音を立てないように、カーテンの隙間からそっとのぞいていよう。
気持ち良さそうに眠る男の子を見ていると、アリアの心はあたたかくなるのです。
するといきなり部屋の奥のドアがガチャっと開きました。
『テオ、起きているのかい?』
アリアは驚いて隠れましたが、アリアのポケットで光る音符の輝きがカーテンを七色に染めます。
『あら?お客さまかしら』
部屋の奥から大きな影があらわたのと同時に、優しそうなおばあちゃんの声が聞こえます。
おばあちゃんは少し驚いた顔をしましたが、にっこり笑うと
『おやおや、素敵なお客様だねぇ。中に入っておいで。』
と言って、アリアを部屋の中に入れて暖炉の火をつけてくれました。
アリアは昨日起こった出来事、自分の耳が聞こえないこと、ここまで星を集めてたどり着いたことをノートに書いておばあちゃんに説明します。
おばあちゃんはアリアの話を聞いてたいへん驚きましたが、にっこり笑って
『まぁ、そんなことがあったのかい。
きっとあなたがここに来てくれたことは神様からテオへの贈り物なのね。』
と言いました。そして
『明日また来てちょうだいね。テオと3人でたくさんお話しましょうよ。』
まるで少女のように目を輝かせながら、おばあちゃんは嬉しそうにアリアに言いました。
次の日、アリアはわくわくしながらテオの家をたずねました。
テオは少し照れたように
『おばあちゃんから聞いたよ。こないだはどなったりしてごめんね。』
とおばあちゃんの後ろに隠れながらアリアに謝りました。
『どなったりしてごめんね、ってテオが言ってるよ』
アリアのノートに書いたおばあちゃんは舌をぺろっと出しながらアリアに言いました。
それからテオとアリアはお互いのことをたくさんたくさん知りました。
テオの家が火事になってお父さんとお母さんが死んでしまったこと。
そのあとテオの目が見えなくなったこと。
家がなくなったテオたちに神父さんが教会で暮らしてください言ってくれたこと。
アリアの耳が生まれつき聞こえないこと。
夜空に浮かぶ星たちを追いかけながら、アリアがテオのところにやってきたこと。
そして二人とも長い間友達がいなかったこと。
アリアとテオはすぐに仲良しになりました。
アリアは音符の星の美しさをなんとかテオにも知ってもらいたくて、7本の色鉛筆で夜空のスケッチをしながらテオのもとへ行くようになりました。
完成した絵をおばあちゃんに説明してもらいながら、音楽が得意だったテオは音符のドが赤、レが藍色、ミが青色、ファが緑色というふうに音ごとに色分けされていることに気づきました。
『いつか僕も見てみたいな。七色の星たちを。
もちろんアリアと一緒にね。』
そんなある日、南の国で戦争がはじまりました。
戦争がはじまると、空の星は炎と煙に飲み込まれてテオがいくら歌っても星の音符は消えてしまいます。
目が見えないテオはそれに気づきません。
いくら歌ってもアリアは来てくれないのです。
それでもテオは毎晩歌い続けます。
耳が聞こえないアリアは南の国で戦争が始まった知らせをラジオから聞くことができません。
アリアは毎晩、夜空を見上げて音符を探しました。
『テオ。あなたはもう歌ってくれないのかしら。
私に来てほしくなくなってしまったの?』
テオのおばあちゃんは、戦争の最後の日に大怪我をしてしまいました。
逃げる時にテオをかばって、兵隊の鉄砲玉に当たってしまったのです。
ベッドのそばで泣き声をあげるテオに、おばあちゃんは最後の力をふりしぼって言いました。
『・・テオ。これからもあきらめずに夜空に祈りながら歌い続けるんだよ。』
『テオの歌声はきっと・・きっとまた夜空に輝く星になるからね。』
そう言い残すとおばあちゃんは死んでしまいました。
たった一人の家族を失ってしまったテオは悲しみに暮れました。
大好きなおばあちゃんはもういなくなってしまって、アリアも来てくれなくなってしまって、真っ暗な世界にひとりぼっちです。
『ぼくは大切な光を全部失ってしまった。
もうアリアが来てくれないとしても、アリアだけは幸せになってほしいよ。
どうか、どうか、、』
テオはいつもアリアの幸せを願いました。
アリアもいつもテオの笑顔を祈りました。
その年のクリスマス、サンタさんにプレゼントをお願いをする二人。
サンタさんは二人のお願いに困ってしまいます。
『困ったのう。
わしは子供たちにプレゼントを配ってあげることしかできない。
はぁ、どうしよう。困ったのう。』
ストーブの周りをくるくる回りながらサンタさんはずいぶん考えました。
『、、あっ!待てよ!
あれが!あれがあったじゃないか。
でも、しかし、あれは、、』
二人の手紙にはこう書かれていたのです。
『南の海に住むアリアによく聞こえるをさずけてください テオより』
『北の国のテオによく見える目をプレゼントしてあげてください アリアより』
クリスマスの朝起きると、テオの目には教会の天井のステンドグラスが美しく光っているのが見えました。
まだ夢の中なのかな、と思いまぶたをこすろうとすると自分がメガネをかけていることに気づきます。
アリアは小鳥たちの忙しそうなおしゃべりで目を覚ましました。
びっくりしたアリアはおそるおそる自分の耳を触ろうとすると、耳には大きな耳当てが付いていたのです。
その夜、テオは夜空を見上げながら歌を歌いました。
テオの歌声は音符の形になって夜空に浮かんでいくのです。
アリアは今日も星たちの中から七色に光る星を探します。
すると、音符たちは揺れるたびにシャラシャラと鈴の音を鳴らしながら夜空に楽譜をえがきながらアリアの部屋までやってきます。
あわててテオの部屋に向かうアリア。
そこにはメガネをかけたテオが窓からのぞいているのが見えました。
『テオー!アリアだよー!』
『アリア!来てくれたんだね。
おばあちゃんの言う通りだったよ!』
二人は声をあげて手をつなぎ、そのままくるくると回りながらたくさん笑いました。
『おばあちゃん!テオとアリアが!
見つめ合って笑い合っていますよ!
きっと天国からも見えていますよね。』
神父さんは喜びのあまり涙を流しながら二人のダンスを見ています。
実は昨日の夜、トイレに起きた神父さんは偶然サンタさんに出会いました。
そして、2人の不思議なメガネと耳当ての効果は5年しかないことをサンタさんから聞いていたのです。
4年と364日が過ぎました。
テオ19歳、アリア21歳。
神父さんは次は悲しみの涙を流しながら二人にそのことを伝えます。
また見えなくなること、聞こえなることにさびしさを隠せない二人は、お互いの目を見つめたまま立ち尽くしました。
しばらくするとテオが
『君の目に光る美しい輝き、七色の星の音符たちをぼくはずっと覚えているよ。』
と言いました。
アリアは
『私だって。
あなたのその美しい歌声は私の宝物よ。
を いつまでも心の中でぽかぽかと私をあたたかくしてくれるわ。』
と答えます。
そして二人は最後の夜にクリスマスイブの教会で一緒に歌いました。
夜空にきらきら輝きながら舞い上がっていく音符を、夜があけるまでずっとずっと二人で眺めていました。
また目が見えなくなってしまったテオでしたが、いつも頭に浮かぶのはアリアの美しい笑顔でした。
もちろんアリアも毎日テオの優しい歌声を思い出すのでした。
二人はもう決して心のなかのきらきらを失うことはありませんでした。
アリアとテオは神父さまやシスターさんたちに助けられながら、あの教会でいつまでも一緒に仲良く暮らしたのでした。
あのクリスマスから200年以上たった今でも、テオとアリアが暮らした南の島の教会では、毎年クリスマスイブのミサではあの歌が演奏されています。
サンタさんもあの歌が大好きで口ずさみながらプレゼントを配達しているんですって。
クリスマスの夜、大切な人と星空を見上げてみてください。
夜空の星に耳を澄ますとサンタさんの歌声が聞こえてくるかもしれませんよ。
ご覧いただきありがとうございます。
初めて描いた物語ですので、拙い文章力で読みづらい部分が多々あるかと思います。
どうか、感想などお聞かせ頂けましたら幸いです。




