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廣田探偵事務所の事件簿~助手業始めました!~  作者: 七海飛鳥
高校の呪い

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6/10

「しっかりしろ!お前は向こう側には決して渡さない!」

 俺は、湊音のその声にはっとした。逃げたい、死にたいという考えに染まっていた思考や、怪異たちからの誘惑を、何とか遮断する。

 何とか気を取り直し、じっと閉まり切ったこの教室の戸を睨みつける。

 少し待っていると、その戸が動き、見事に開け放たれた。


 木戸、友永、松山は顔面を、家庭科室にいた時よりも、涙と鼻水と埃でグチャグチャにしていた。

 制服も、ところどころ埃っぽい。あと、友永は丸出しのでこが、赤くなっていた。


 この旧校舎は埃が積もっている所が多い。そこまで、駆け巡って全ての怪異を連れてきたのだろう。


「中まで入って来い!」

 湊音に言われ、三馬鹿は俺の背後へと走り出した。


 どんどん、と窓が叩かれる。見るまでもない。怪異が外にいるのだろう。


 湊音に言われたことを思い出す。あいつら怪異は、俺たちが怯えると、より強力になる。


 三馬鹿は、窓を全て開ける。中へ、怪異が入ってくる。


 全員、俺を狙っている。旨そうな俺を。俺は、気丈に振舞う。決して、奴らに怯えないように。

 震えそうになる足を叱咤する。じっと、顔を上げて、前を見据える。近くに、怪異がやってくる。


 犬や猫と、人間が混ざったような、不気味な造形。湊音が言っていた、生贄に使われた犬と猫だったんだろうか。

 今まで嗅いだことがない、ひどいにおい。もう、一体何のにおいかもわからない。ただ、人型の異形たちが、何体も折り重なって、俺の方へと向かってくる。


 それはまるで、見たこともない黒くなっていた水晶の、黒色のように蠢いていた。


 怪異たちは、目の前の餌である、俺に群がろうとしていた。ライバルにとられるまい、と我先に押し合い、牽制し合い、俺に近づいていく。だからこそ気が付かなかった。


 戸の死角に立っている、狩衣姿の男の存在に。



「掛けまくも(かしこ)き、瀬織律比売(せおりつひめ)()ふ神。

 (けが)れを祓い、(まが)を流し給へ。

 水の音に乗せて、罪と穢れを遠津(とおつ)の国へ。

 祓へ給へ、清め給へ。

 瀬織津比売の御名を以て、()(まつ)る。」



 凛とした湊音の声が、教室中に響き渡った。


 湊音が祝詞を唱え始めた瞬間から、空気が変わり始めた。

 水の中にいるような、神秘的で静かな空間。

 それが俺にとっては心地よく、同時にどこか他人行儀だった。


 湊音の手の中の棒が、湊音の動きに合わせてシャカシャカと鳴った。

 その音はまるで、美しい女性の笑い声のように感じた。


 湊音に漂っていた、神聖な雰囲気が、この教室中に広がる。

 なんだか、体の中のよどんでいたものが、綺麗に押し流された感覚がした。


 俺は、禍々しい気配が消えていくのに安堵するとともに、壮大な力に、圧倒された。


「「「「「「「グオオオオォォォォォ――――…………・・・」」」」」」」

 怪異たちは、そんな呻き声と共に、段々と薄くなり、そしてついには消えていった。


 俺たちは、そんな光景に、ただ呆然とする他なかった。

 そこには、すっかり腰を抜かし、床に座りこんだ男子高校生四人と、したり顔で笑っている狩衣姿の男がいるだけだった。



 夕日は、相変わらずあたりを赤く照らし、校門は何事もなかったように、学校の外と中をつないでいた。

 先程までの喧騒とは違い、すっかり辺りは静まり返っていた。しかし、それを不気味には思わなかった。


 帰ってきた。そんな気持ちだけが、安堵と共に心を満たしていた。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 翌日。


 あの事件は、どこにも爪痕を残さずに終わった。あのひしゃげた校門も、家庭科室でまき散らした塩も、まだ片付けていなかった吐瀉物も、怪異を倒した後は、跡形もなく、最初からなかったかのように消え去っていた。


 俺たちは、今までどこにいたのだろうか?まさか異世界……?なんて、馬鹿な考えも過ってしまったほどだ。ありえないのは分かっているが。



 ただ、あれだけの衝撃を受けてもなお、壊れなかった鍵が壊れていたらしい。

 それは、あの出来事が実際にあったことだ、という確証もないのに湧き上がる実感と共に、じわじわとした恐怖を俺たちに運んできた。


 あとは、水晶も割れたままだった。しかし、そもそもそんな教室、事情を知っている人物しか入ったことがなかった上、湊音が昨日校長とか教頭とかに説明していたため、大きな騒ぎになることもなく、内々で済まされた。


 三馬鹿は、それに対しほっとしていたが、その後、かなり長い間校長と教頭から説教をくらっていた。俺も巻き込まれたのだが、物凄く怖かった。

 三馬鹿は本気で泣いていた。ざまあみろ。俺を巻き込んだ報いだ。



 俺たちの怪我と言えば、擦り傷と俺が三馬鹿を殴った痕だけで、特に大きな怪我をしていなかったという事もあるのだろう。ただの喧嘩で済まされた。


 クラスは、「あの仲がよかった三馬鹿が!?」と驚いていた。休み時間になって、クラスメイト達から質問攻めにされていたが、正直ざまあみろ、と思った。あれだけ巻き込まれたのだ。俺は悪くない。



 親への詳しい事情説明はなかった。正直、そういう話を、信じるような人たちでもないため、頭がおかしくなったんじゃ、とか言われずに済んで、ほっとしている。普段、不満しかない学校からの采配を、ここまで感謝したことはなかった。


 とは言っても、学校としてもこれが公になるのを避けたかっただけで、ただの利害の一致だ、という事もわかっているが。



 だからこそ、俺はいまだに夢を見ていたんじゃないか、と考えてしまう。

 だが、木戸、友永、松山も同じ体験を記憶しているし、何より水晶が割れている。旧校舎の三階、右から二番目の教室の立ち入り禁止は解かれていたし、禍々しい気配は欠片も感じなかった。


 もう、現実味のない出来事の連続で、俺は何が現実で何が夢か、分からなくなっていた。

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