表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/16

3話 アルファルド

 翌朝になれば、心配そうな顔をした侍女が様子を見に来た。

 大量出血した上に半日寝込んでいたのだから気を揉んでいたのだろう。


 大切なお嬢様が起き上がれるようになったことを知ると、大喜びで父を呼びに行った。


 フェリスの父、アルファルドは公爵だがまだかなり若い。

 長い茶髪を一纏めにした、線の細い優男。穏やかな笑みが印象的な、変わった人だ。

 最悪に言うならば、普通に胡散臭い。一挙手一投足、全部怪しく見える。

 実際、『星々の誓い』をプレイしていたときには絶対黒幕だと思った。


 結果としては普通にいい人だったのだが。

 どうして未来のフェリスがああなるのか、今のフェリスには分からない。


「気分はどうですか? 父は心配していましたよ」

「大丈夫。もう立てますから」


 するとアルファルドは、んん、と喉を鳴らして口元に手を当てる。これは彼の癖だ。

 こういうところがすこぶる怪しいんだなあ。


「……それなら、それで。何かあればすぐに人を呼びなさい」

「はい。お父様」


 大した会話をすることもなく、アルファルドは帰っていった。

 王城から帰ってきたばかりで仕事が溜まっているのだろう。


 というか、思い返すと元々そんなに会話のある家庭でもない。

 フェリスを産んですぐに母は亡くなり、他に兄弟はない。

 父も、娘にどう接していいか分からないようだ。

 前世の記憶がある状態でラブラブ家族ごっこするのも辛いから、助かったともいえる。


 まずは情報を整理しよう、と小さな黒板を取り出した。


 現時点でのフェリス・S・モーリスは、公爵家の一人娘。

 絹のような銀髪と珍しい金色の瞳、それらに負けない美貌で知られている。

 この国の第一王子との婚約が決まっているが、仲は良くない。

 性格は冷静沈着、無口で表情も豊かではない。


 『星々の誓い』での情報とも食い違いはない。

 つまりまだ、物語のレールの上、という訳だ。


 前世の記憶というイレギュラー故に、今後の振る舞いはよく考えたほうがいいだろう。

 例えば、これから起こるはずの事件について口走りでもしたら、疑われるのは必至。

 平民な前世が滲み出しすぎても、公爵令嬢がおかしくなったと思われるので注意する。

 なお、馬は貴族の趣味としてもおかしくないからヨシ!


 それにしても、原作のフェリスはどうして国家の崩壊など企んだのだろう。

 ゲームでは主人公と攻略対象の恋愛がメインで、フェリスのことを知る余裕はなかった。

 フェリスはあくまで、恋愛のライバルではなかったのだ。


 フェリスの造形はどこまでも、お伽話の魔女で公共の敵(パブリックエネミー)

 たとえ、彼女の婚約者と主人公が結ばれるルートでさえも徹底していた。


 しかし、そこに至るまでの説明は一切なかった。

 設定資料集でも読めば分かったのかもしれないが、今となってはどうしようもない。

 こうしてフェリスとして15年生きてきても、不満という不満はなかった。

 ただ、退屈だっただけ。


(……まさか、なあ)


 もし本当に「退屈だったからそうした」としたら、フェリスは正真正銘の人格破綻者だ。

 自分がその性質を抑え込んで生きていけるか少し心配になる。

 馬がいれば何とかなるだろうが、馬に関われなくなったときが怖い。

 というか既に体内の馬成分が切れかけて手が震えている。


「よし! 馬を見に行くぜ!」


 気が逸り、使用人たちが聞いたら卒倒するような言葉使いが飛び出た。

 こういうのに気を付けようね、という訳だ。


 そういえば、昨日の綺麗な馬は屋敷の厩舎にいるだろうか?

 一瞬見ただけで鼻血が出てしまったのだ。もったいないことをした。


 しかし、困ったことに記憶を取り戻す前のフェリスは馬に興味がなかった。

 つまり、どこに厩舎があるのか分からないのだ。

 どうしたものか、と思っていると、再び侍女がやってきた。

 先ほどの気の迷いが聞かれていないかびくびくしながら、用件を待った。


「お嬢様、先ほど王城からお手紙が届いたそうですよ」

「……そう」

「イウェン殿下がお見舞いに来てくださるとか。よかったですねえ」


 その言葉に元々鉄面皮だった顔がさらに凍りつく。

 イウェン。この国の第一王子にして、フェリスの婚約者。

 ────そして、いつか殺し合う運命の人だ。


TIPs

ちなみにモーリスという馬もちゃんといる。

某ソシャゲでも有名なグラスワンダーの直系の孫にあたる。

日本とオーストラリアで種牡馬として活躍中。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ