1話 これが運命
公爵令嬢フェリス・S・モーリスの人生は極めて退屈だった。
何もかもが生まれる前から決まっていて、なぞるだけの日々。
望まれたことを、望まれたように。
可も不可も表に出さない、寡黙な操り人形。
だったはずなのに。
「あっ、ちょっと待って鼻血出る」
その日、運命を取り戻した。
***
きっかけは父親、アルファルド・モーリス公爵の帰宅だった。
月に一度の登城を終え、四頭立ての馬車に乗って帰ってきたのだ。
慣例として迎えに出たフェリスの目に映ったのは、父ではなかった。
黄金の尾をたなびかせ、左後ろ足の先だけが白く、鼻筋を流星が飾る。
たった一頭の、金細工のような馬だった。
目に飛び込んだ、きらきら輝くその光が、神経を通って脳まで熱を伝える。
どこか遠くで、大観衆の歓声が聞こえたような気がした。
そうしてフェリスは思い出した。
自分の本来の生き方を。そして、この世界のことについて。
「あっ、ちょっと待って鼻血出る」
脳に多大な負荷がかかったのだろう。
まずい、と思ったときにはもう遅かった。
上品なドレスに大量の血が滴り、フェリスはひっくり返ってしまった。
TIPs
「星」とは馬の顔の模様のこと。白い点一つから、馬の額から鼻先にかけて伸びて見える「流星」まで個性豊か。
面白いものだと、三日月の形をしている、と言われたり、電話の受話器に見えるものも。