エスティ・ジトパングは妹に家督と婚約者を譲り渡し、妹の代理として領地運営に励んでいる。
エスティ→ティエス→ティーエス→TS
ノマル→ノーマル→普通の子
ワルノット→ノットワル→not悪→悪くはない
ジトパング→トジパング→(モ)トジパング→元日本人
シャラ・ユーツプ
→ユーシャラツプ→you shut Up→黙れ
イシャト・ウールサ
→シャ(ウ)ト・煩い←叫ぶ・煩い
です。
ジトパング伯爵家のエスティは伯爵代理として、領地に引き篭もり、華やかな社交界には領地経営の為に必要な時にしか出て来ない。そしてそう言った時は大抵、重要度が高い案件を抱えており、伯爵夫妻と共に参加するのだが、伯爵夫妻はエスティの妹とその夫であった。
嘗て妹・ノマルの夫・ワルノットはエスティの婚約者であり、エスティこそが伯爵家の後継であった。しかしノマルがエスティからワルノットを略奪し、それに伴い、爵位は妹のものになった。
ーーと言う情報を頭の中で流しながら、シャラ・ユーツプ侯爵令嬢は、「どうしたものか」と目の前で起こる出来事を見ていた。
「聞いているのか!! この淫売共が!!! 貴族の風上に置けん!!」
怒鳴っているのはシャラの元婚約者であるイシャト・ウールサ辺境伯子息である。何故、「元」婚約者なのかと言えば、たった今、「婚約破棄だ!」と叫ばれたからだ。勿論、これだけで本当に婚約破棄出来る訳ではないが、公爵家主催の夜会で大声で宣言され、恥を掻かされたシャラは腹を立てていた。何と言うか勢いでの婚約破棄宣言だったのだが、売り言葉に買い言葉、では無いが彼女の胸中は婚約破棄に同意をしていた。
尚、イシャトが婚約破棄を叫んだ理由は今、彼が非難している事に大いに関与している。
イシャトとシャラは同年齢で、辺境伯を継ぐ予定のイシャトとシャラの婚約は幼い頃に決まった。家の後継者には早い目に婚約者を決められる傾向が有り、彼等も例に漏れなかった形だ。
貴族の結婚は早くて学院を卒業した年度、つまり15才、遅くても17才まで、と言うのが普通だ。結婚が早いか遅いかはそれぞれの事情に拠る。
イシャトとシャラの場合、侯爵家から辺境伯家に嫁ぐに当たって、次期辺境伯夫人として、現辺境伯夫人より教育期間が結婚前に取られた為に、17才で婚姻予定だった(成人は学院を卒業した年度に当たるが、結婚前は男子は子息、女子は令嬢と呼ばれる設定)。
現辺境伯夫人が結婚前に辺境伯夫人教育を行うのは、辺境伯夫妻は基本的に領地運営を代理に任せる事が無いからだ。
領地持ちではない貴族も領地持ちの貴族も関係無く、大抵の貴族は王都での人脈を欲しがる。その為、後者の貴族が領地運営を代理に任せる事は良く有る事だった。
しかしそれは言ってはなんだが、そう責任の重くない領地の話で、重要な領地となれば代理等置かず、直接自分達で治める。そして社交界に参加する時は何か大きな案件が有る時のみとなる。それ以外で参加する事があるならば、そちらに代理を置くのだ。
そしてシャラの実家の侯爵家は王都に住み、領地経営は代理に任せているが、イシャトの辺境伯家は自身達で領地運営を担っている。育った環境の差を思えば、婚姻して、正式に次期辺境伯夫人として扱われる前にシャラの教育を行うのも理解出来る話だ。
シャラ自身もそれが必要である事を知っており、不満は無かった。イシャトを支える為だと思っていた部分も有る。
処でそんな辺境伯領地の隣には、伯爵代理であるエスティが治める伯爵領地があった。領地が隣同士で有る為、付き合いがあった。
エスティやノマルとイシャトの年齢差から決してそんな話にはならなかったが、もしもっと年齢が近ければ、彼女達のどちらかと婚約していたのかも知れない。つまりそれだけの深い関係が領地同士にはあったのだ。
故に教育の為、既に辺境伯領地へ移動していた(婚姻前なので離れ住まい)シャラも領地を直接治めるエスティと面識があったし、イシャトが彼女の境遇に同情していたのも知っている。
だがまさか自身達にとって、卒業より数ヶ月後に行われる初夜会出席(公爵家主催)にて、そのエスティを裏切った事になる伯爵夫妻に出会った挙げ句に即怒鳴り込むとは思わなかった。
勿論、シャラは当初、宥めに入ったのだが、何をどう解釈したか、「君はこの2人の味方をするのか!? 君がそんな人間だとは思わなかった!!! 婚約破棄だっ!!!」と叫ばれてしまい、思わず今まで培って来た想いが一気に枯れ果てる程にドン引いた。何と言われようと、イシャトを止めねばならない事は分かっていたが、その様な熱情も最早有る筈もなく、「これ、結婚してたなら離縁だって叫ばれてたわよね……」と言う呆れと諦めに支配されて、口を噤んだのだ。
「何をしている?」
そうこう見守っている内に夜会を主催した公爵家当主とその跡継ぎが騒ぎを終息させようと近付いて来た。
結果、イシャトと伯爵夫妻は別室に隔離された。公爵自らが仲裁を買って出てくれた為だ。本来ならばイシャトだけが会場処か屋敷から追い出されるのが普通だが、やはり件の伯爵夫妻は評判が悪く、それ故にイシャトの正義感は許されたのだ。
その際、「婚約者殿もどうぞ」と言われたが、「婚約破棄を受け入れるから赤の他人だ」と言う気持ちを伝え、彼女は1人、馬車での帰路に着いた。
彼女が帰宅したのは勿論、実家だ。馬車自体は辺境伯爵家のものなので、御者に会場に帰る様に伝えた。彼女の両親は居なかった。例の夜会に参加しに出たのだ。今回の夜会は次代を担う新成人がメインだった為、彼等は早い内に会場入りするのだが、一方で新成人以外はある程度、時間をずらして会場入りする。その為の行き違いだ。
会場が騒いでいた頃はまだ家を出発していなかった彼女の両親は、されど彼女が帰宅する少し前には家を出ていたのだ。
もし、この行き違いが無ければ未来は変わったのかもしれない。
最初に娘から経緯を聞かされていれば、また印象も変わり、娘の為に手を打ったかもしれない。或いは初めからその場面を見ていれば、話を上手く治めに迎えたかもしれない。
しかしそんな「もしも」は起こらない。
両親が会場入りをした時、既に「シャラがノマルとワルノットの不実に味方し、イシャトに愛想を尽かされた」とシャラに都合の悪い評判が立っていたのである。その様になったのはノマル達の評判がそれだけ悪く、シャラが婚約破棄を受け入れた為に起こった事だった。どちらか1つでも話が違っていれば、また違っていただろうが。
シャラの判断ミスと両親のすれ違いに寄る手の打ち損ねは、その後の話し合いを困難にし、ドンドン後に響いた。その間、シャラの評判は「不実な二人を応援しているから婚約破棄」→「きっと本人も不実な事をしているに違いない、婚約破棄は正解だ」→「浮気をして婚約破棄された女」→「浮気三昧で婚約破棄、もしかしたら誰とも知らない男の子供を妊娠しているのでは?」→「昔から浮気三昧で妊娠と墮胎を繰り返していた」とドンドン地に落ちていく事になる。この辺りの落差度には社交界に於ける派閥関連も有るが、それ故に払拭する事は難しかった。
そしてこうなってしまえば、婚約継続は難しい。
結果、シャラは婚約破棄され、実家からも追い出され、修道院へと出された。そこではシャラの評判を聞かされていた為、シャラへの心象は悪く、またシャラも不本意過ぎる世間の荒波を受け、疲弊していた。相互理解を妨げられ、レッテルは剥がれず……、そしてある時、彼女は拗らせた風邪を肺炎へ悪化させ……、
一方、イシャトはエスティから貴族らしくも冷たい怒りを浴びせられた。要約すれば「外野がいちいちウルセーよ、カワイイ妹を良くも虐めてくれたな、この勘違い野郎が!」的な事を不敬に当たらぬ様にネチネチ言われ、流石に反省した。勢いでシャラに婚約破棄を言い渡した事も深く後悔し、謝罪も兼ねて、修道院に入っていたシャラを迎えに行く。寝込んでいると知らずに。
しかしそれが幸いした。ずっと看病してくれたイシャトに冷める前よりもっと深く想いを懐いたのだ(健康体だったら意地でも戻らなかっただろう)。しかし既に婚約は解消され、結ばれる事は敵わない。
イシャトの父に相談した結果、家は従兄弟が継ぐ事になり、2人はエスティの治める領地に行き、彼女の手伝いをする事となり、すったもんだも経験しながらも、それなりの幸せを築いたのだったーー。
それから数十年後。イシャトとシャラの血を引く者がジトパング伯爵家に迎えられる事になるのだが……、その者がワルノットの遺した日記を見付けたのだーー……。
以下日記内容ざっくばらん版(笑)。
「目の前を通るナイスバディな美人。思わず目を奪われた。しかしそんな僕の耳を奪ったのは婚約者エスティの呟き。『良い乳してんな〜、ケツもプリンプリンしてるし、揉みしだきてぇ……』。この時の僕の衝撃は言葉に出来ない。」
「正直、エスティの説明は大半が理解出来なかった。『モトニホンジン丿テンセイシャ』、『チカントセクハラノモウソウダイスキナスケベジジイサ』、『テクニハジシンアリ』とか言われても良く分からなかった。何とか僕が理解したのは『エスティの中身が男である』と言う点だ。僕は男と婚約させられたのだ。」
「何故、僕は婚約者とのデートで『イイ女ウォッチング』に付き合わされているんだろうか。楽しくない訳では無いが、最早、僕等は婚約者とは言えないと思う。」
「『物心着いた時に母親に欲情して不気味がられている』。こう聞かされた僕は何と返すべきだろうか。後になっても答えは出なかった。」
「僕等のデートに妹のノマル嬢が参加し出した。エスティは猫可愛がりをしているが、偶に『チ、ノマルの前では流石に不埒な事は言えねぇ……』とか呟いている。ねぇ、僕、ノマル嬢はもう知っていると思うんだよ。」
「とうとう僕等は婚約解消した。そしてノマルと婚約する事にした。この計画は前からエスティによって考えられていた。『爵位も婚約もノマルに譲り、代わりに伯爵代理として雇われる、これで男と結婚しなくても良いし、先行きも困らない。ノマルも良い男(今までの付き合いでワルノットを高く評価している)を捕まえられた。母親も喜ぶ。良い事尽くめだな。後は父親か……。』、って事を呟いていたから、そうなんだろうと思う。因みに『ん? 修道院? 彼処猥談も出来ねーだろ、有り得ねぇ』とも言っていたので、絶対に領地引き篭もりを選ぶだろう。」
「昨夜、僕とノマルは結ばれた。結婚もまだだったが、エスティが『父親を説得するには既成事実が一番だと思うんだ、あ、勿論、ノマルと話し済みだから』と言って来たから……。まあ、肉欲に負けた僕に何も言う資格は無いね。しかしあんなに猫可愛がりしている妹に良くそんな提案が出来たものだ……。まあ、それも今更だろう。こんな婚姻、絶対にこれからの評判が死ぬのだから……。」
「僕とエスティの婚約は元々家同士の繋がりも含まれているから安易に婚約解消なんて出来ない。でもだからこそ、姉から妹への乗り換えが可能だった。……僕は貴族を辞めたいなんて思わない。それはエスティも同じだ。姑は自分に欲情したエスティを怖がっているから、ノマルを跡継ぎにしたがっている。ノマルは母の希望を叶えてあげたいし、エスティとも仲が良い。後、僕の事……、まあ皆丸く納まる為の案では無いだろうか。舅以外は……。因みにエスティが生まれた時から見ているノマルにそう言った目線を向ける事は無い様だ。」
「僕等は茨の道を選んだ。数少ない選択を、それでも自分の意思で選んだ。だから僕はノマルと家族が幸せに過ごせる様に生きるんだ。」
以上。
取り敢えず、イミフな言葉もあったが、この日記は公開され、新たなる波紋を呼ぶのである。
お読み頂きありがとうございます。大感謝です!
前作への評価、ブグマ、イイネ、大変嬉しく思います。重ね重ねありがとうございます。