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人次元では最推しです  作者: 聿八路彰
第八章 女王国の第十七王女
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8-17 晩餐・2

「いやっ! いやよ! もういや! なんで私が、またあんな光景を見なくてはならないの!?」


「あなたが見た『あんな光景』の中での行為を、日常的に、一方的に与えられている女性たちのことを、あなたが馬鹿にしたからです」


「私はそんなっ……そんなつもりじゃ!」


「あなたにそんなつもりがなくとも、あなたのしたことはその女性たちを愚弄し、侮蔑し、その女性たちの生活を危うくする愚行でしかない。そんなことをしでかした人間を、放っておく選択肢は俺にはないんです」


「そんなっ……わかったから! もういやってほどわかったから! だからやめてよ、もうやめてよ! 私もう、あんなもの、見たくない……!」


「『あんなもの』とあなたが言うような扱いを、実際に受けている女性はこの世に山といる。そしてそういった女性たちは、もう嫌だと言おうが、泣いてすがろうが、その事実を本当に理解しようがしまいが、この先もずっとそんな扱いを受け続けなくちゃならないんです。俺はあなたの言動に、せめて三日間同じ目に遭い、苦痛を味わうほどの責任を果たすことを求めます」


「いっ……いやぁぁぁっ!!」






 ライシュニディアがどれほど泣き叫び、拒絶しようとも、ロワのやることは変わらなかった。各種術法を駆使しつつ、ライシュニディアとジュディオランに、かつて自分が見たものと同じ光景を幾度も幾度も体感させる。ひたすらに、何度でも、どれほどいやがろうとも繰り返し。


 そのたびにライシュニディアは泣き叫び、もう見たくないと叫んだが、ロワはその行為をやめはしなかった。一日が終わるまでに、数百回はくり返すことになっただろう。最後にはもうライシュニディアは泣き疲れ、もうほとんど反応もできなくなって、ぐったりと倒れ伏すことしかできなくなっていたが、ロワはそんな少女に向けてこう言った。


「明日も同じ時間に始めますから、またこの屋敷に来てください。遅れたならばその時点で、女王陛下の裁可に反したものとみなしますので」


 その言葉にライシュニディアは呻き声を上げ、うっ、うっとむせび泣く声を漏らしたが、ロワはそんな少女に容赦なく告げる。


「今日、何度も何度も言いましたけど。そんな風に、どんなに泣こうとも、絶望しようとも、逆らうことを許されず、男に一方的に凌辱され続けている女性たちを、あなたは愚弄し、侮蔑し、その生活を危うくした。あなたにはその行いの責任を取ってもらいます。また明日、今日と同じ時間にこの屋敷に来てください」


「………。さ、姫さま。こちらへ……私がお運びいたしますゆえ。しばし、失礼を……」


 ライシュニディアをそっと抱きかかえ、ロワに苛烈な殺意を込めた一瞥をくれたのち、女騎士は応接間を出て行く。ジュディオランもその後に続いた。ジュディオランがいなければ、一瞬で王宮と行き来することはできないのだから、当然だが。


 女騎士が最後まで暴発しなかったのは、少し意外だった。ああもライシュニディアを、というかビュセジラゥリオーユ女王国王女を崇敬している人間が、ロワの行いに、幾度も怒り、殺意を込めて睨みつけたりはしながらも、怒鳴り散らし『授業』の邪魔をすることは、最初以降一度もなかったのだ。


 少し気にはなったものの、すぐにあまり考えないことにしようと結論づける。こちらは向こうがいつ殺しにかかってこようとも対処――するのは難しいだろうが、まぁ慌てないよう心構えをして、できる限りがんばって抵抗できるようにはしておかないとならないのだ。あまりいくつも考えることを抱え込んでいては、そんなことすらおろそかになってしまう。


 それよりも、ライシュニディアの反応から、明日からの授業方針を固めなくてはならない。少なくとも、今日は予想通り、ライシュニディアに自分たちが味わったほどの衝撃を与えることはかなわずとも、打ちのめすことはできた。彼女のあの力なく倒れ伏したそぶりに、嘘はなかったはずだ。同調術で感じ取ることができた限りでは、間違いなくそのはず。


 せっかく女神さまたちから賜った術法なのに、自信を持って言いきることができないのがなんとも情けないが、それはもう仕方ないと割り切るしかない。そもそも自分の能力に自信を持つことができていないのだから、なにをやっても『うまくできていないんじゃないか』『なにかとんでもない失敗をしているんじゃないか』と考えてしまうのは既定事項なのだ。それよりも少しでもことを効率的に運べるように、成功した場合と失敗した場合の対応策をそれぞれ考えておいた方がいい。


 自分の感覚の正誤がどちらにしろ、明日も朝から昼頃までは今日と同じことをくり返す。ライシュニディアの反応次第になるだろうが、うまく彼女の心を折ることができたなら、そこから話し合いを始めることになるだろう。彼女が同調による体験を心の底から厭い、もう二度としたくない、あんな目に遭うくらいなら死んだ方がマシだと思ってくれているなら、誓約を結ばせることもできるだろう。それがだめなら、せめて心の底から約束をさせなくてはならない。


 もしライシュニディアの精神が予想以上に強靭で、自分のしたことなどではなんら痛苦を与ええないのであれば、自分の実体験に同調してもらうしかない。自分の味わった苦痛と、絶望を、直接体感してもらうしかないだろう。それならば少しは心を動かすことはできるはず。まず心を折ることができるだろう、と考えてはいるのだが――三日間それを続けてもだめだった場合はもはや、最終手段に訴えるしかあるまい。


 自分の命を賭け金に、ライシュニディアとジュディオラン、そしてビュセジラゥリオーユ女王国を呪い、誓約を護らせる。その場合はたぶん、自分は死ぬことになるはずだ。ビュセジラゥリオーユ女王国の人間が王女と国を呪う相手を癒してくれるとは思えない以上、自傷行為を行った直後に仲間たちが戻ってくる、なんて奇跡でも起こらない限りは傷を癒してくれるあてはない。


 ……正直、割に合わないとは思っている。ライシュニディアとジュディオランのように、娼婦たちを軽んじ蔑む人間はこの世に山ほどいるだろう。彼女たちは、たまたまロワの目の前で、その蔑みをあらわにしてみせただけにすぎない。そんな二人に、失言を撤回させ、行いを後悔させ、今後一切そのような振る舞いをしないと誓わせるためだけに、自分が命を捨てるというのは、あまりに無駄が多い話だ。そんなものはただ目に入った、罰しやすい相手を罰したにすぎない、片手落ちだと大半の人間は言うだろう。


 だが、それ以外に、どうすればいいのかわからない、というのも本音なのだ。ロワは故郷の女性たちを見捨てた。あの人たちを置いて、自分一人だけ逃げ出した。そんな人間が、あの人たちが蔑まれるのを見過ごすなんてことは、絶対に許されない。撤回させるために、心の底から反省させるために、死力を尽くさないなんてことは、絶対に許されるべきではない。そのために必要ならば、自分の持つものを放り捨てるのも当然。命を捨てるのも選択肢に入れなければならない。――ロワには、そう感じられてしまう。


 自分のそういった感情が、強迫観念と呼ばれるものだろうことは理解している。自分が命を捨てたところで、自分の見捨てた人たちが楽になるわけではない。幸せをつかめるわけではない。それなのに無駄に命を捨てることを是としていいわけがない。仲間たちについてはまぁ、自分はこの先足手まといにしかなれないだろうからいいとしても――女神さまは、女神エベクレナについては。自分に声をかけてくれたあの優しい女神が、自分の死に深い悲しみを覚えないわけがない、と思うのだ。


 そんな真似をして嬉しいわけがない。あの方の心を傷つけたいわけがない。そんな真似をするくらいなら、自分は誇りも矜持も放り捨ててかまわない。だが、それとは別に、『故郷の女性たちを軽蔑し、苦しめることをなんとも思わない人間を放置する』という選択は、それこそ選んだ瞬間に自分の喉を掻き切らずにはいられないほど、強烈な拒否感と嫌悪感を覚えるのだ。


 理屈以前に、死んでも嫌だと心が勝手に絶叫している。最後の手段なんて選びたいわけがないのに、このまま流れに身を任せていけば、自分はその選択をしてしまいかねない自覚がある。そんなやり方をしても意味はないし、誰も幸せにはなれないとわかっているのに、そうしなければならない、それ以外は許されないと心が勝手に自分に枷をはめてしまう。自分でも、嫌で嫌でしょうがないというのに。そんな真似をしてはならないと理性も感情も警告しているのに。それでも、自分はきっと、やってしまう。


 深々と息をつく。本当に、こんな自分が、女神さまの加護を受けるところだったなんて、笑い話にもならない。あの時エベクレナの言葉を拒否できたことだけは、自分の人生の中で唯一褒められるべき選択だったのかもしれないな、とロワは幾度も嘆息しながら内心呟いた。






「――晩餐の準備ができている」


「………あ、はい」


 予想外に早く戻ってきたジュディオランに声をかけられて、ロワは顔を上げた。ジュディオランはもうドレスも脱いで男物、と言っていいのかはわからないがとにかくごく簡素な服に着替えている。笑顔を浮かべてすらいない無表情で、それでもわざわざ夕食の時間を知らせてくれるその親切さに、少し驚く。もちろん、その理由の大半は女王陛下が自分たちに食事と寝床を用意すべし、と明言したからなのだろうが。


 踵を返すジュディオランを追いかけて、食堂に入る。そこにはちゃんと二人分の食事が並べられていた。野菜のスープ煮とパン、豆とこま切れ燻製肉の炒め煮に酢漬け野菜、とごく簡素な料理ではあったが、当然文句を言う気はない。


 さっさと着席して無言で食べ始めるジュディオランに続いて、ロワも食事が用意してある席に着いて食事を始める。味もゾヌでまだ金がない時に食べていた宿屋で一番安いくず魚肉やらくず野菜やらのごった煮定食よりまだ落ちる程度だろうが、こちらとしては用意してもらえるだけありがたいというものだ。


 お互い無言で食べ進めることしばし、先にジュディオランが口を開く。


「……言っておくが、別に君にまずい料理を食べさせようと思っているわけではないからね。もともと、僕に出される料理というのはこの程度なんだ」


「そうなんですか。いや、別に嫌がらせで質の悪い料理を出されてる、とは思ってなかったですけど」


「だが、ゾシュキーヌレフの安宿で食べた料理よりもまずい、と思っているんだろう?」


「………まぁ、それは。でもゾヌは豊かな国ですし、食料生産国でもあるわけですから、食事の質が高いのは当たり前でしょう。ビュゥユ女王国は隣国で、一番食料が流れやすい国のひとつとはいえ、ゾヌが力を入れているのは海運貿易の方でしょうし」


「そして我が国はその流れてくる食料を、充分に買い付けるだけの財力も有していない、と?」


 感情の感じられない声で言われたので、一瞬どう答えるべきなのか迷ったが、結局素直にうなずく。


「そうですね」


「はっきり言ってくれる……ま、ごまかしたところで見え透いた嘘にしかならないんだから、そうとしか言いようがないか。そうだね、我が国、ビュゥユ女王国は、決して裕福な国ではない。主産業は製造業、といってもほとんどが手工業で、それも原材料はすべてゾヌから仕入れざるをえないし、売り先もゾヌ以外ありえないんだから、金が貯まるわけがない。国内での食料自給率向上を目指して、農村を少しずつ増やしてはいるが、強力な魔物の出没などからはかばかしい結果は上がっていない。そして強力な魔物に対処するため、軍事にも手は抜けないとなれば、これはもう貧乏国まっしぐらだ。ビュセジラゥさまが授けてくださった女聖術によって、軍というか、騎士隊はそれなりに強力ではあるけれどね」


「はぁ」


 なるほど、やはり女聖術は美容術としてだけでなく、女性たちの肉体強化術としても活用されているわけか。しかもその効能が女性同士で励めば励むほど強力になるとくれば、国を挙げて女性同士の交わりを奨励するのは、たとえ国是とされていなくとも、当然の国策と言えるだろう。


「それなのに神秘なる女王国というのを売りにしている関係上、見栄を張る必要があるところではきちんと見栄を張らなくてはならない。王宮も、城下町も常に美しく保ち、廃屋や破れ屋が出ないようにしなければならない。これで自力で国家の体制が保てるわけがない。ビュゥユは建国当初から、ずっと借金経営で回っているし、その借金は増える一方だった。当代の女王陛下が即位するまではね」


「そうなんですか?」


「そう。ヒレーナキュディオラ女王陛下は、建国以来初めて、ゾヌへの借金を減らすことができるほどに、ビュゥユの経済を活性化させた女王なのさ。職人の姿を術法でこっそり写し取った絵を商品に付け加えて、ゾヌの中のこちらに分のいい商売をしてくれる商人たちだけに売って、ビュゥユの製品にさらなる特別感を付与することに始まり、国家予算を投資に使ったり、美容製品の製造に力を入れたり、とあの方が始めた経済政策は枚挙にいとまがないし、そのことごとくが成功している。それほどにあの方の経済感覚は突出しているんだ」


「なるほど……それで騎士団の方々も、揃って当代の女王陛下に強い忠誠心を抱いているわけですね」


「……まぁね。あの方は国家が使える金を増やすことだけじゃなく、国民に適切な機を見計らって金をばらまくのもうまいんだ。騎士団のみならず、国民のほとんどが当代の女王陛下を支持している。あの方の代になってから、懐に入る金が激増したのはみんなわかっているからね。……だが、それでも我が国は、決して裕福とはいいがたい。それは、たぶん大陸のほとんどの国とは真逆の理由によって、だろうね」


「真逆の理由……人手不足ですか? 働き手が増えにくいから……」


「そうだ。ビュゥユは術法に頼らなければ子供が作れない。それは、子供の数を制御できるという利点もあるけれど、『子供を作るためには親の意志に加え相応の金が必要になる』という不利な点も持ち合わせているんだ。しかも、女聖術による妊娠には、『お互い心の底から愛し合った女性同士』が必要になる。心の底から愛し合い、かつ心の底から互いの子供が欲しいと願う二人の女性の間にしか、子供が作れないようになっているんだね。まぁ、人間的に考えれば、真っ当な親以外には子供を持たせないという正しいやり方ではあるんだろうけど……人口に比して、子供の数が少なくなるのは必定ではあるわけだよ」


「そうでしょうね。愛し合い、かつ子供が欲しいと心の底から思っている恋人同士なんて、どんな国でもそうそういるもんじゃない。それにこの国では、女聖術のおかげで、死の間際まで若さを保ち続けることがたやすい。他の国なら人の手を借りなければ生きられない老人であるだろう年でも、自分の食い扶持を稼ぐのはそう難しくないでしょうしね」


「そうだね。それは働き手を確保するという意味ではこの上なく助かりはするんだけれども、子供を増やそうと思うならば大きな妨げになる。実際、ビュゥユの人口は建国時からじわじわと減少の一途をたどっているんだ。他国から女性同性愛者が移住してくることはあるにしろ、減少をくつがえすほどの数じゃない。かといって、産めよ増やせよと国策で多産を奨励するのも、女性同士の愛を至上とする国是にもとる。ヒリラ女王陛下もその辺りには不干渉を貫くつもりのようだしね」


「……ご自身でやたらめったら子供を作ることで、国民に子供を作ることを勧めているのかな、と思ったんですけど」


「それは……そういうわけじゃないさ。あの人のは……」


 そこまで言ってしばし沈黙してから、ジュディオランは首を振る。


「ともあれだ。ビュゥユは貧乏国家だし、ヒリラ女王陛下がいくぶん盛り返したとはいえ、たぶんこの先も貧乏国家だろう。だというのに、やたら数のいる王家の子供一人一人に、金をかけて教育できるわけがない。やる気のある娘ならば将来の女王候補だ、金をかける甲斐もあるけれど、この国を出ようなんて考えている子供相手に、たとえ娘であろうとも、金をかけて教育する余裕なんてビュゥユにはないんだよ」


「そうなんですか」


「……君、僕が言いたいことわかってる? 僕はビュゥユには、たとえ王家の子供だろうとも、やる気のない子供に教育する余裕なんてない、って言ったんだけど?」


「あなたがライシュニディアに対して、たいていの人が考えるよりも、きちんと保護意識を持っているんだってことは、ちゃんと伝わってます」


 ジュディオランが家族に対して隔意を持っていることも、そんな中で縁を結んだライシュニディアをできる限り守りたいと思っていることも、最初からちゃんとわかっている。だが、それでも。


「だけど、俺には俺の行動原理がある。退くわけにはいかない理由がある。たとえライシュニディアの言動が、環境と社会の現状から鑑みてやむをえないものだったとしても、俺はなんとしても彼女の言葉と行いの責任を、取らせないわけにはいかないんです」


「………ふぅん」


 ジュディオランは低く呟いて、それからは無言で食事を続けた。ロワも無言でやや味気ない料理を飲み下す。こんな食事はさっさと終えて、自分が今抱え込んでいる仕事に精力を傾注しなくてはならない。その仕事に、自分がどんな感情を抱いていようと、仕事に――今やるべきことに専心するのは、ごく当たり前の話なのだから。


 食事を終えたあとは、手早く風呂を借りて身づくろいをすませ、ジュディオランに与えられた寝室――昨日仲間たちが眠っていた部屋で休んだ。ロワ自身は昨日別の場所で休みはしたが、どの寝台が自分の割り当てかということくらいはちゃんと覚えている。


 寝台に横になって目を閉じれば、すぐに眠気がきざしてきた。そのままゆっくりと呼吸をしているうちに、ことっとあっさり眠りに落ちる。なにも考えずに、感じずに、一時の安らぎの中へ、しばしの救いの手の中へと。




   *   *   *




 ――誰かが、自分に手を伸ばしている。


 その誰かは、必死に懸命に、自分を助けようとして手を伸ばしてくれている。それがはっきりわかるのに、ロワの方から手を伸ばすことはできない。自分にはできないと、許されないと、勝手に目を閉じて思い込んで、自分で自分に枷をはめてしまっているのだ。


 その誰かが胸が痛くなるような痛切な哀しみの声を上げているのに、ロワは耳を塞ぎ閉じこもって、自分からその誰かとの関わりを断っている。その誰かは本当に、心の底から自分を案じてくれているのに、我がことながら腹が立つほど頑迷に、ロワは自分で自分を縛っていて、ついにはその誰かも手を伸ばすのをやめ、どこかに立ち去りかけて――




   *   *   *




「っ………!」


 恐怖の叫びをあげかけながら、ロワは飛び起きる。もう寝室の中にも薄日が差してきている、つまり時刻が朝であることを認識し、それから自分がさっきまで見ていたものが夢でしかなかったことを理解して、思わず愕然とした。


 さっきまで自分が見ていたのは夢だ。ただの夢。ロワ自身が自分の心の中から勝手に抽出した、ただの幻。


 他者とはなんの関係もない代物で――ここ一節刻(テシン)ほど、ずっと自分を見守ってくれていた女神さまとなんて、関わりのあろうはずがないものにすぎなくて。


 つまりそれは、ロワが女神から見捨てられた証なのではないか。自分のあまりの醜行に呆れ果て、女神さまはもう自分と関わりを持ちたくないとお考えになったのでは?


 否定する言葉はそれなりに思いつくけれど、それでも根も葉もないとは言い難い、それなりに根拠があると感じられてしまう想像に、ロワはぞっと、胸を冷やした。

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