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人次元では最推しです  作者: 聿八路彰
第十章 貧乏国の娼婦
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10-4 不幸な少女・2~幸福な女神・2

「俺、今日あの女……アミと話してくっから、わりーけど稽古とかにはつきあえねぇわ」


 朝食の席でヒュノが告げた言葉に、場の空気は一気に緊張した。緊張したというか、殺気で充満した、と言った方がいいか。カティフは目を見開いてぎぎろぎろっ、とすさまじい迫力でヒュノを睨みつけ、ジルディンはむぅっと唇を尖らせてじろじろと不満げな視線をヒュノにぶつけ、ネーツェでさえもあからさまに眉間に皺を寄せる。ロワ自身、腹の底にぐっと重くなり、懸命に冷静さを保つために、思いきり奥歯を噛みしめなければならなかった。


 代表して、ということなのだろう、ネーツェがヒュノを(じろりと)見つめて、なんとか冷静を装おうとしている顔で問う。


「アミというのは、お前が昨日声をかけた女の子、ということでいいんだな?」


「ああ。アミニュエタっつーらしいぜ、名前。娼館に売られた時に家族と縁切りすること選んだから、ただのアミニュエタなんだと。で、愛称がアミ」


「………そうか。今日も、その子と、お話してくる、と?」


「ああ。今日一日はそれに使う予定だな。ちっとでもあいつのこと知って、ちゃんとわかっとかねぇとだしよ」


「………ふぅん。まぁ、わかった。確かにそういう心がけは大事だな。せいぜい頑張ってくることだ」


「おう」


 あっさりとうなずいて、朝食の味の薄いスープを飲み干す。この宿の食事はだいぶ珍しいというか、調味料をできる限りケチっているのだろう、全体的に味が薄く、育ち盛りの自分たちからしてみると正直物足りない感じはあるのだが、味そのものは決して悪くなく、盛り付けにもきちんと気を使っていることがわかるという、不思議な印象の料理だった。素材に不足しているのは間違いないのに、料理人がきちんと味の調和に気を配り、できる限り素材の味を活かして、ちゃんと料理を作ろうとしているのが伝わってくる、という。


 普通貧乏であるならば、生活にも精神にも余裕がなくなるから、そういう『気を使わなくても生きてはいける』という部分の技術はどんどん雑になり、安かろう悪かろうの風潮が当然のこととなるのが普通だろうに。この宿の料理はちゃんとした料理人が作った、(育ち盛りには物足りないながらも)おいしい料理だ、と言っても過言ではないほどだ。ロワもそれなりにあちこちの街を巡り、方々の土地の料理人の料理を食べたが、こんな料理を出してくる貧乏国なんて出くわしたことがない。イシュニが援助してくれてるからなのかな、ととりあえず納得してはいるが。


 ヒュノは宣言通りに、食事を終えるとさっさと宿を出ていった。自分たちはとりあえずネーツェの部屋に集まり、車座になって(そのくらいの空間はある広い部屋なのだ。それなりの格の宿だと感じたのは間違いではなかったらしい)話し合う。


「で………どうするんだ。今日もやるのか?」


「当たり前だろうがよ」


 据わった目で全員を睨み回すカティフに、ネーツェははぁ、とため息をつく。


「昨日ロワの提案に素直に乗った僕が言うのもなんだが。いい加減空しくならないか? ヒュノがあの女の子……アミを気にかけて、男女の関係を構築しようとしているのは確定したわけだし。そういう関係になったとしても、これからも僕たちと冒険し続けると断言もされたわけだし。同じパーティの仲間だとしても、これ以上個人的な関係に首を突っ込むのは………」


「だからって、こんな中途半端なとこでやめられっかよ。俺の仲間が! 俺に先んじて! 五つも年下のくせにっ、しれっと当たり前みてぇに女の子口説いてんだぞ!? 同じ街ん中で! そんなん他のこと手につくわけねぇだろ、どんだけ見たくなかろうとこの世から消え去ってほしい光景だろうと、最後まで見とかねぇわけにゃいかねぇだろうがよっ!!」


「本当に見たら死ぬほど落ち込むことがわかりきってるだろうに………」


「わかってても見るしかねぇだろうがっ!! 見たら見ただけあのクソ野郎をぶち殺したくなるのはわかっててもっ、そんで天地がひっくり返ってもあのクソ野郎には勝てねぇっつぅ死ぬほどクソな現実にへこむこと確定なのは知っててもっ、最後まできっちり見とかねぇとっ、腹の据わりようがねぇだろうがよぉぉ………ちくしょう俺本音じゃこんなことぜってぇ言いたくねぇのに………なんで俺は二十歳越えで童貞なのにあのクソ野郎はまだ成人したてだってのに女口説けてんだよぉ、ふざけんじゃねぇぞどちくしょう………」


 途中で勢いを失い、泣き崩れて嗚咽を漏らし始めたカティフを、ネーツェは深いため息をつきつつ見やり、次いで残る自分たちに視線を向けた。


「お前らはどうなんだ。見ても嫌な気分になるだけだというのはわかるだろう。それを承知でこのまま見続けるつもりか?」


「……別に、見てーわけじゃねーけどさ。なんか、このままってのも、腹の据わりわりーし……ほっぽっとくのもおちつかねーし……見てーわけじゃ、ぜんぜんねーんだけど……無理して気にしねーフリしてんのもムカつくから、一応最後まで見る」


 絵に描いたような仏頂面でそう告げるジルディンに続き、ロワもできるだけ正直な気持ちを口にする。


「俺も、同じく、かな。面白くないのは間違いないけど………このまま見ないままでいても、気持ちの方が落ち着かない。こんな屈託を抱えたままじゃ、連携にだって支障が出るだろ」


「………まぁ、そうだな。パーティの連携にだって支障が出るしな。それならまぁ、他のパーティメンバーの精神的な問題の解消のために、同じパーティメンバーを、相手に気づかれないようにしながら監視するぐらい、許されてしかるべき、という判断はそこまでおかしくないかもしれない」


「ネテさー、そーいう風に、どんな時もいちいち遠回しに言い訳作んのってめんどくね? ムカつくし落ち着かねーから見てーってことでいーじゃん」


「お前と違ってまっとうな良識と理性を備えている人間にはな、自分を納得させるための理屈というものが必要なんだっ! ………とにかく。今日もやる、ってことになるが、かまわないな?」


『…………』


 こくり、と無言でうなずく仲間たちに、小さくうなずきを返すと、ネーツェはジルディンと並んで呪文を唱え、この街のどこかで実際に起こっている事態を詳細に映す幻像を創り出し始めた。見れば見ただけ、ひたすらに地獄を味わうと、自分たち自身わかっている幻を。






『あっ………! お、おはよう、ございます』


『おう、おはようさん。早起きなんだな。俺、待たされる覚悟してきたってのに』


『それは………だって。お、お客さまを、待たせるわけには、いきませんから』


「かあぁぁぁっ!!! ふっざけんなてめぇふっざけんなよ、なんだその余裕っぷり! 口説く女の子相手を軽くからかうみてぇなどうっしようもなくムカつくその口ぶり! てめぇどこでそんなもん習ってきたってんだ、優男には標準装備だとでも言いてぇのかっ俺と同程度の一般人面しやがってる分際でっ!!」


「カティうるせー! ……まー、ヒュノの言い方、なんっかムカつくのはホントだけどさ」


「まったくだ。ほんの少し前までは女性に相手にされることのない、底辺冒険者をやっていた人間が言えた台詞か、それは? 少し環境が変われば昔のことは忘れて調子に乗った醜態を見せるなぞ、自身の愚かさをあらわにしていることに他ならないということにも気づかないのか」


「……………」


『お客さまって、別に俺お前買った覚えねぇけどな』


『………はい。でも、あなたは、店にお金を積んでくださったでしょう?』


『そりゃま、見習いの時間をもらうわけだから、それなりの筋は通さねぇとだしな』


『そういう風に………あなたが、私の立場を気遣ってくださったから。私は、なんの気兼ねもせずに、あなたと、普通に話ができるんです。そんなこと………私には、もう二度と訪れることなんてないって、思ってたのに………』


「見習いの子と、ただ話をするためだけに、店に金を積む、だあぁ? ふっざけんななに調子に乗ってやがんだっ、そんなキザったらしいことやって許されんのはなっ、金持ちの色男だけなんだよっ! いや金持ちの色男でもそんな偉そうなことやる奴とかぶっ殺すしかねぇけどな! ちょっと小金を手に入れた一般人面が通ぶってそんな真似やりやがるとか、心底許されねぇわ、ぶっ殺すしかねぇわっ!」


「まぁ、曲がりなりにも娼館の見習いに時間を取らせるというのなら、娼館に相応の金を積むのが一番手っ取り早い、というのはわかる。金は人間社会の中ではたいていの無理を通すことを可能にする、娼館という人間の尊厳を売り買いする店ならばなおのことだろう。だがな、それならそれでとっととその子の身柄を解放してやればいいだろうがっ! そのくらいの金は持ってるくせにわざわざ店を通すなんぞ、下心があると宣言しているようなものだぞ!」


「っていうかさー、金を払わなきゃなんねー関係とか、なんかムカつく。なんつーかさー、金で相手いいようにしてる、みたいな感じっつーかさー、えらそーじゃん! だってのになんであの女嬉しそーなわけー!? わっけわかんねー」


「……………」


『じゃ、悪ぃけど、また昨日の話の続きしてもらってもいいか』


『私の、話、ですか………? 私の話なんて聞いても、なにも面白く、ないと思いますよ………?』


『面白ぇとか面白くねぇとかじゃなくてさ。お前のことをちゃんと知りたいんだよ。できる限りちゃんと。だから、お前がこれまでどういう風に生きてきたか、どんなことを想って生きてきたか、教えてほしいんだ』


『………、はい。私なんかの、話で、よかったら………』


「けえぇぇぇっ!! なぁに抜かしてやがんだかっ、尻が痒くならぁっ!! その顔でよくまぁしれっと言えたよなぁ、てめぇの分際もわきまえずによぉ!! 一般人面でそんな気障男台詞抜かして平気な顔してるとか、どんだけ面の皮厚ぃんだよこんちくしょうがっ!! ちっとでも良識ってぇもんがあったら一般人面の童貞がそんな台詞言えねぇっつのこのクソ達人精神野郎がっ!!」


「カティ、なんかちょっと褒め言葉になってね? まー俺も見ててムカつくけどさー。なんっだよホントにもー、なんでヒュノの奴、女の子に好き好き大好きって顔で見られててへーきなわけ? へーぜんとした顔でえらそーなこと言っちゃってさー、ホンットムカつく!」


「お前の言いようも微妙だと思うがな……まぁ少なくとも、釈然としない気持ちは僕も一緒だ。お前は自分を何様だと思っているんだ! なんで常に視線が上からなんだっ! そういうところですでに相手を金で買っているという優越感が滲み出ているんだよっ、それとも現代の文明社会に生きる人間かっ、少しは自分の人間性を見直せ!」


「……………」


『………だから、私は最初からわかってたんです。私は、すぐに売られていく子なんだって。顔が少しばかり整って生まれついたから、家族のためにって建前で、親や家を残す役目の兄弟たちが、安楽な生活をするために、娼館に売られていくって決まってるんだって………』


『うん』


『私、ずっと家族を、親を、兄弟を恨んでました。なんでこんな奴らのために売られて、地獄に落とされなくちゃならないんだって、ずっとずっと憎んでた。殺してやりたいって思ってた……私の何倍もの苦しみを味わわせて、殺してやらなきゃ気がすまないって、それが当然の道理だって、そんな願いもかなわないこの世界はおかしいって、ずっと思い続けてきたんです………』


『そっか』


『……こんな私、おかしいですよね。ごめんなさい、変な話ばっかりで』


『いや、別に変な話とは思わねーよ。ごく普通の話だろ。誰が思ったっておかしくねぇ話だ』


『ヒュノさん………』


『なぁ。なんなら、俺が殺してきてやろうか?』


『えっ………』


『お前の、家族……親と、兄弟か? そいつらを殺してきてやろうか、って話。何倍もの苦しみを味わわせるってのはできなくても、殺してくるくらいならできるぜ』


『っ………そんな。ヒュノさんが、そんなことする必要………』


『なくもねぇだろ。俺はお前に、俺の勝手でつきあってもらってんだから。そのくらいのお返しするのも道理のうちってやつだ』


『で、でも………そんな、ヒュノさんにそんなことまでさせられません。ヒュノさんに手を汚してもらうわけには………それにもし、ヒュノさんがそのせいで捕まっちゃったりしたら………』


『ま、そこらへんはなんとでもなるから心配すんな。ってか、手を汚すもなにも、俺剣士だぜ? 人を斬ったのだって十人や二十人って話じゃねぇし、数えきれねぇほどの命を奪ってる。ま、無抵抗の奴なんて斬って、剣を汚すのは嫌なんだけどよ』


『っ………』


『ただまぁ、俺はお前を幸せにしてやらなきゃだしな。そんくらいのことはしなきゃならねぇのかなって思ったんだよ』


『ヒュノ、さん………。………いいえ、やっぱり、いいです。ヒュノさんに、そんな……私の捨てたものを、背負ってほしくなんてないですから』


『そっか? それならいいんだけどよ』


『はい………。あいつらに感謝なんて金輪際する気ないですけど、それでも……ヒュノさんと会えたのは、私のこれまでの、どうしようもなく最低の人生があったから、だから………もう関わりのない、あんな奴らを殺したりして、私とヒュノさんの人生に関わりを作りたくないなって、思ったから………』


『ふーん? そっか?』


『はい。ヒュノさんがいてくれれば、私………あんなどうしようもない過去に囚われずに、前を向いて生きていけるって、思うんです………』


「ぐあぁぁあぁぁなに抜かしてやがんだあのクソボケタコ野郎ぉぉぉぉ!!! なぁに調子こいたこと抜かしてんだ、君のためなら人だって殺すよ、ってか!? そんなもんほんっきで微塵も大したことじゃねぇだろうがっ!!! 前線なら人なんてぱかすか死んでくわっ、その程度のことで女の子にちやほやしてもらえるってぇんなら俺もいっくらでも人殺すっつぅの!!!」


「いや待てお前それは普通に犯罪だしどう考えても比較対象としておかしいからな!? まぁ、ヒュノの発言が常識をまったく考慮していない上に、パーティメンバーに対する影響もまるで考えていない、脳味噌をまるで使っていないことがはっきりわかる最低の言い草だったことも事実だが……! まったくなにがお前を幸せにしてやらなきゃだ、お前はいくつだと思っているんだ身のほどを知れ身のほどを、というか世間と一般常識というものを知れっ! ……ただその、なんというか、この、アミ? という女の子も、なんだか微妙におかしくないか?」


「あーそれ俺も思った! なんっかこの女妙っつーか、地雷系? って感じするよな! 地面に埋め込む型の爆発系術式とおんなじで、ふとしたきっかけで起動して大爆発、みてーな! まー、そんな女にもまるで引かねーで、しれっと相手してるヒュノも、なんっかムカつくっつーかイライラすんだけどさー!」


「……………」


 そんな風に、ヒュノとアミニュエタの会話を見守りつつ、ああだこうだとひがみを喚いて、文句を言いながら一日ずっと騒いでいたロワたちは、一日ずっとアミニュエタとあれこれおしゃべりしていたヒュノが返ってきた時には、なにも言わず迎え入れた。いつも通りにああだこうだとしょうもないことを話しつつ、一緒に食事をして、寝室に引き上げる際にはおやすみと声をかけあう。


 つまり要するに、どれだけヒュノの行動に苛立ちや腹立ちを溜めていようとも、それが理不尽なひがみや嫉妬でしかないことを、全員理解していたのだと思う。そんなものを相手にぶつけるような見苦しい真似は、いくらなんでもしたくないと思うぐらいには、理性と羞恥心を残していたのだ。


 まぁそれはそれとして、腹の底に鬱屈が溜まっているのも、事実ではあったのだが。それはそれぞれがそれぞれなりのやり方で、なんとか呑み下していくしかない代物なのだろう。そんなことを思いつつ、ロワは自室のベッドの上で目を閉じた。






 ―――そして気がつくと、神の世界以下略。


 ―――そして神の世界でも、ロワは男女の親しげなおしゃべりを見守る羽目になっていた。


「わかるわかる、わかります! 自分もそうです、自分も友達いなかったせいでブロマンスにハマったってところあります!」


「ディグさんもそうなんですか!? うわー、嬉しい、私一人じゃなかったんだって感じでちょっと感動してます、私……! そうですよね、友達いない子が気の置けない友情関係にめちゃくちゃ憧れるのって、すごい普通ですよね!?」


「そうですよ当然ですよ! っていうかですね、自分のいた世界って、いや世界っていうのは言いすぎでたまたま自分が生きてた時代とか国とかのせいかもしれないんですけど、フィクションの中でもわりと友情関係がないがしろにされてるシチュが多くって。主人公が、女には積極的に声をかけるのに、友達相手にはすごく適当っていうか、どんな風に扱ってもいいもの、みたいにみなしてる作品多くって! そうじゃねぇだろもっと友達大切にしろよクラスで体育の時間体操の相手になってくれるのは女じゃなくてその友達なんだぞと言ってやりたくなることが腐るほどあったというか………!」


「わかる~~~! めっちゃくちゃわかります! そうですよね、男女関係より、恋愛より、まず友達ですよね!? 私人と語り合うことがあっても、そこらへんがズレてる相手とばっかりで、どうにも納得いかないことばっかだったんですよ! ホントみんな友達いない寂しさなめてるというか! クラスで誰も話す人がいない人間が、休み時間の教室内でどれだけ身の置き所のない気持ちしてるかわかってないというか! 本読んだり勉強したりしながらもずっといたたまれない、自分ここにいちゃいけないんじゃないかって思い続けなきゃならない辛さを理解してないというか………!」


「ホンットにね! 超同意ですよ! 恋愛関係を否定するわけじゃないですけど、まず孤独な人間がなによりほしいのは友達! ごくシンプルに相手を大切にしあう、単純で大切な関係なんですよ! 恋愛関係にまで至るのは、そこがちゃんと充実してからですよね!? それを理解せずに、ボッチキャラって設定のくせに、学校で唯一普通に話せる友達って設定の相手を、どんだけ適当に利用してもいいとか考えてるとかマジ絶許としか! ボッチなめんなそもそも学校に普通に話せる友達がいる時点でボッチじゃねぇわ唯一の友達ならもっと大事にしやがれよと本破り捨てたくなったのが何度あったことか!」


「うっわそれホンットにひどいですね! でも私もそういう作品何度も読んだことあります………! あとね、唯一の友達とか同性の幼馴染って関係の相手が、主人公裏切って陰で悪行三昧やってる、みたいな設定の作品もありませんでした!? そのくせ異性の友達とかは絶対に主人公のこと裏切らないで優しく純粋に主人公のこと想ってくれる、みたいなの私腐るほど見てきたんですけど! なんだそりゃと、ふざけんなと、この作者友達のことはどうでもいい扱いしていいと思ってるくせに女からは大切にされたいとか正気かと、てめぇが人に誠実じゃねぇから人から大切にされねぇんだろと言ってやりたくなったことが何度あったことか!」


「あるあるあるあるある!! そういう作品って結局恋愛関係のことも全然大切にしてないんですよね! どうとでもいい扱いされていい人間を作っていい、なんて考えてる人間が、人間関係をまともに描けるわきゃねぇだろうって話で! 誰も友達がいない、夢見がちなボッチが求めてるのは、誠実でまっとうな人間関係なんですよね! 欲望じゃなく、下心もなく、単純に素直にお互いを大切にできる関係! もちろんそれが夢見てるのはわかってますけど、日々自分がボッチだってのを思い知らされてると、そういう夢でも見なけりゃ息もできないっていうか! そして、そのきれいな夢を、一番純粋な形で見せてくれるのが、ブロマンスっていう友情関係なわけで………!!」


「わかるわかるわかるわかる………!!!」


 激しくうなずき合い、水晶板越しに手を伸ばし合い。時には目を潤ませながらも、お互いに対する好意をあらわにして、頬を朱に染めながら。


 最初の挨拶をすませ、会話に移るや、すぐにエベクレナとディグラジクナフェは、ロワには『なにを言っているのかさっぱりわからない』話を始めた。ときおりロワがいることに気づいて、ロワにもわかる話をしようと試みるも、すぐに『なにを言っているのかさっぱりわからない』話に戻る。そして、その話をしている時の方が、ディグラジクナフェも、エベクレナも、明らかにずっと楽しそうなのだ。


 なんで俺、ここにいるんだろ、とため息をつくこともなくロワは考える。どう考えても自分は邪魔者だ。いない方がいい存在だ。なのにこんなところにしゃしゃり出てきて、いったいなんの意味があるというのか。


 いや、その考え方は正しくない。ロワ自身、きちんとわかっている。そもそも自分は神の世界の機構の問題を調べるために頻々に呼び出されているのだから、技術部の神々による調査のために、置物としてでもそこにいることが重要なのだ。


 だから、つまり、ロワがこんなことを考えるのは。疑いようもなく、エベクレナに対する独占欲と、ディグラジクナフェに対する嫉妬によるものでしかないのだろう。


 なんなんだかなぁ、とため息をつきたくなるのを無理やり呑み込んで、考える。よくない。本当によくない。女神に独占欲を抱く、なんて不遜どころの話じゃないし、しかもその女神と親しい男性神に嫉妬するなど、それこそ神罰を与えるに値するほどの思い上がりだ。


 でも、それでも、心の中のどろどろとした鬱屈は溜まり続ける。自分でも嫌悪の対象でしかない黒く暗い感情は鬱積し続ける。


 結局、これもヒュノの行動に対するひがみと同じものでしかないのだろう。筋違いだと自覚している恨み。見当違いだと理解している憎しみ。そんな代物と同じように、自分一人でなんとか呑み下すしかないものなのだ。


 黄金にきらめく光の差す世界で、美しい神々が楽しげに語らうかたわらで、ロワはそうやって一人、いつものように自分への嫌悪を募らせていた。

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