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人次元では最推しです  作者: 聿八路彰
第九章 聖国の灰聖女
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9-13 黄金の雲・6

「………つまりですねっ!? 美少女の美質の塊、みたいなもんなんですよ美少女聖職者って!! フツーの美少女ならえげつないこととかいっくらでもやらかすんですよ、顔がキレイだからって心もキレイだとは限らない、あったりまえの話ですよね、でも顔がキレイだってだけで許されちゃう、愛されちゃう! 許せなくないですか!? ど汚い性根の女も顔がいいってだけで許しちゃう連中も、許されようとする女どもも! でもね!? 美少女聖職者はそういうんじゃないんです、ほんっきで心の底から清らかなんです! 世界の不幸を憂いて、世界の幸せを願って心の底から祈る、そういうこの世の清らかさを集めたような、本気で心の底から清らかで優しくて可愛い、そういう普通ならこの世にいるわけないって思っちゃうような存在なんですよ僕の聖女ちゃんたちは!」


「うんうん、なるほどなるほどー。それでそれで?」


「そういう聖女ちゃんたちをね、一時だけでも、ど汚い女連中からの嫉妬からも、クソ汚らわしい女だったら誰でもいいような男どもの魔の手からも隔離して、一時だけでも心の底から清らかに安らかに生きてほしいっていう、僕の願いの結晶なんですイシュニの聖女制度は! いやそりゃわかってますよどんな美少女もいつかはクソ汚らわしい男の手に落ちちゃうっていうのは、でもね!? それでもね!? 一時でもいいからその美質を完全に安全に保つことで、世界がどんなに救われるかわかりますか!? どいつもこいつもど汚い連中ばかりのこの世の中で、ほんのわずかでも絶対的に超越的に清らかな、そういう存在がいる、それだけで世界の救われてる感500%増しですよ! 世界を救ってくれてるんです僕の聖女ちゃんたちは!」


「クソ汚らわしい男の手、って言ってましたけど、女の手っていう可能性は考えないんですか?」


「えーっ………いやまぁ、聖女ちゃんたちが最終的にその相手を選ぶなら、どんな相手だって文句は言えませんけど………でもですね、その、女の手だからって汚くない、汚らわしくない、とか僕全然思ってないので! 世の女どものほとんどは、性根までど汚い最低最悪の連中なんですよマジで! 女だからって許されると思ったら大間違いです、むしろそのど汚い女の性質を感染させないように、聖女期間中は断じて女どもなんて聖女ちゃんに近づけませんから!」


「ふーん、男もダメ女もダメってなると、イシュテさん的には実のところ、聖女ちゃんたちのお相手には自分こそが立候補したい派だったり?」


「いやいやいやいやいやいやそれはないですマジないです世界がひっくり返っても断じてないです!! 自分で言うのもなんですけど、僕自分が世界でもトップレベルのクズだって自覚あるんで!! そりゃ僕の聖女ちゃんたちはこの世の誰より清らかな身も心も美少女ちゃんたちですから、僕のクズな部分も優しく受け止めて愛してくれるでしょうけど、だからってそんなクズが聖女ちゃんたちの隣に立つとか、誰より僕が許せないですよ!! 僕みたいなクズに許されるのは、聖女ちゃんたちの清らかでありつつも眩しい輝きを遠くから見つめて、ただひたすらに感謝の祈りを捧げることのみなんです!!」


「エベっちゃんエベっちゃん、どうよこれ? はたから見てて身につまされるとこない?」


「ぅぐっ………た、確かに正直、自分の言動とかぶってるとこあるなー、とは思いまくりですけども………でも私、ここまで勘違いしたっていうか、思いこみが強いっていうか、女に対して一方的な視点にしか立ってないっていうか、そういうところは………いや、まぁ確かに冷静に自分を鑑みて、全然違うと自信を持って言いきることはできなくはありますけれども………!」


 こんな調子で、神々の会話はなんのかんので弾んでいるようだった。ギシュディオンニクに促され、話し始めたイキシュテアフは、しだいしだいに語調の勢いを増し、エベクレナを思わせるような怒濤の勢いで喋りまくるようになったのだ。


 ギシュディオンニクはあくまで冷静に、笑顔で受け止めてさらに言葉を引き出している。ギシュディオンニクは会話に長けた神のようだったから、こういう仕事も慣れたものなのかもしれない。実際、イキシュテアフに似た人格を有した人間が、話し上手の人間と相対した時に、こんな風に話し上手の思い通りに転がされて、あっさり懐いて思い通りに操縦されてしまう、という展開は、何度も見たことがあった。


 もちろん、神々のことなのだから、ロワには計り知れぬあれこれがあるのは間違いなかろうが。そもそもどんなことを話しているのかまるでわからないただの人間の視点からでは、そういう理解のしかたが精一杯なのだ。


 喋りたおすことしばし、とりあえず言いたいことを言い終えた様子で口を閉じるイキシュテアフ(ギシュディオンニクに向ける視線には明らかな信頼と好意があり、少なくとも関係性についてはさほど的外れな理解ではなさそうだ、とこっそり思った)に、声をかける。


「よろしいでしょうか。イキシュテアフさま、イシュニの人間たちにどうご意思をお伝えになるか、お考えはまとまりました?」


「ぁっ! そ、そうだ、その話をしてた、んだよね。ぅ、ぅうん、どうしよう、どうすれば………」


「や、そこは単純に、意思……『その儀式は自分が望んだものではない』ってことだけ伝えて、儀式をこの先も執り行うかどうかは人次元にんじげんの子たちにゆだねる、って感じでいいんじゃないですか? 基本人次元(にんじげん)の子たちに口出し厳禁っていっても、せっかくの機会なんですし」


「ぇっ、い、言っていいんですかね、そういうこと………」


「どうしてほしいとか言わないで、単に事実だけ伝えればいいんじゃないですか? その儀式をしろって言ったわけでも、してほしいわけでもないのもホントなんでしょ? 事実を誤解なく伝えるのは、やれる時にやっておいた方がいいと思いますけど?」


「そ、そう、ですかね………」


「まー、神次元しんじげん人次元にんじげんっていう次元の違いがある以上、自分の言葉の影響が必要以上にでかくならないように、ちゃんと考える必要はあるでしょうね。でも、今回の場合、影響がでかくなっても、誰も困らなくないですか? 宗教的なあれこれはあるにしろ、その儀式が普通に考えて聖女の子に負担になってるのは確かだろうし。フェド大陸の有識者たちにとっても、儀式があまり感心できるもんじゃない、ってことは図らずもロワくんジルくんたちが証明してくれちゃいましたし」


「そ、そう、なんですか………」


「まー宗教的にはそれこそ一国をひっくり返すような話ではあるでしょうけどね。その儀式がある意味聖女の子たちの精神力を鍛えてたって側面はあるかもですし。でも、宗教ってーのは、究極的には人の気を楽にするためのもんですし。だからこそ神職の人らは厳しい修行して精神を鍛えなきゃならない、ってーのもわかりますけど、尊崇の対象になってる聖女の子が、自傷行為で国を救ってるって現状を、手放しに受け容れてる国民ばっかじゃないと思うんですよ」


「そ、それは、そうかも………ですね」


「だから、事実だけを正直に伝えるぐらい、いいんじゃないですか? まぁ、聖女の子だけに伝えるってだけだと、側近やら幹部やらが、聖女の子に対する不審の念を持っちゃったりするかもですけど」


「えッ!!? 不審の念!? なんでですか!?」


「そりゃま、いっくらトップの言葉とはいえ、一人の人間の言葉だけで、これまで続けられてきた伝統をやめちゃうのって勇気いりますからね。それにその『伝統』で、一番つらい思いしてたのは、その伝統やめようって言い出した本人なわけですし。普通に考えて、『これあいつがつらいの嫌だから嘘ついて伝統やめさせようとしてんじゃないの?』とか考える奴くらい、いっくら心清らかに生きてる聖職者の人たちの中にだっているでしょ」


「はあぁぁ!!? そんなんで僕の聖女ちゃんの言葉疑うっていうんですか!? クソ汚らわしい男どもが、僕の聖女ちゃんの言葉を!?」


「いや俺に迫られても。イシュテさんが加護与えてる国の国民のことですよ?」


「ぁっ、ご、ごめんなさい………じゃ、じゃあ、僕が直接、そいつらに、し、神託、みたいなことすれば………」


「まぁ、疑う人はほとんどいなくなるでしょうね。一方的でも、自分たちにも神託が与えられれば。ただまぁ、その場合、『これはイキシュテアフ神御自らがなんとしても果たすべしと命ぜられたことなのだ』って儀式やめろって強制されてる感が強くなって、その結果『それならなんでこれまでさっさとやめろって言い出さなかったんだろう』って話になるだろうとも思いますけど」


「ぁっ!! そ、そっか、そうなっちゃうんだ………ど、どうしよう、それじゃどうすれば………」


「それでしたら、俺が口添えすれば問題ないと思いますよ」


 挙手してそう口を出すと、イキシュテアフはぎょっとした顔になって身を退いてから、おずおずとこちらに問うてくる。


「ど………どう、いうこと?」


「ジリオシャクラ猊下には詳しく御心をお伝えになって、その他の宗派の幹部の方たちには端的に、一方的に神託をお告げになって。で、翌朝に、『それならなんでこれまで』って話になる前に、俺に訊ねられたから答えることができたんだ、って俺が解説を入れますから。そもそも神々が人界に極力介入しないようにされていることは間違いのない事実ですし、イキシュテアフさまのお気持ちをできる限り翻訳してお伝えすれば、普通に考えて納得してくれると思います」


「え、ほん、翻訳………?」


「神さまっぽく受け取ってもらえるよーに話す、ってこと。ロワくんは伊達にこれまで何度も神次元しんじげんの案件に関わってきたわけじゃないわけよ。でしょ? エベっちゃん」


「そうです、その通り! うちの推しをなめないでいただきたいですね! 考えなし邪神も百合スキー神も、これまできっちり説得したり言い分を翻訳したりして、話をいい感じにまとめてきてくれたんですから!」


 むんっ、と胸を張るエベクレナには正直照れくささを覚えたが、それでも誰より感謝する女神が自分を認めてくれているのは(たとえそれが他の誰にでもできるような会話術についてでも)嬉しいし、その信頼になんとしても応えたいとも思う。だからロワはあえて真正面からイキシュテアフを見つめて、きっぱり断言した。


「はい。この一件は、たとえ俺であろうとも、両方の事情を知っている人間が適切に口添えすれば、神と人、どちらにとっても問題なくかたをつけることができる話だと思います」


「ぅ、ぅうん………まぁ、そこまで自信持って断言するんだったら………この件に関しては、まかせても、いい………ですかね?」


「いや俺に聞かれても。信じて託す相手を決めるのは、人に頼っちゃダメですよ」


「ぁっ、ご、ごめんなさい………じゃあ、その、ぇえと………お願い、できるかな?」


「微力を尽くします」


 こっくりうなずいて宣言する。ジリオシャクラ関連のことで、自分たちパーティ(特にジルディン)はイキシュテアフに相当な怒りを抱かれているだろうと思っていたので、ロワにできる限りの奉仕によって少しでも怒りを静めたい、という意識は最初からあったのだ。いうなれば既定事項なので、仕事が増えたという意識すらない。


「ぁっ! そそっ、そうだっ、きっ、君たちパーティ、っていうかあのクソガキっ!! 僕の聖女ちゃんを、何度も何度も泣かせた相手じゃないかっ! よっ、よっ、よくもあんなことしておきながら白々しく………!!」


「は? あなた会話の流れわかってます? ロワくんは、あなたの推しに仲間が悪いことをしたと思っているから、仲間のためにもあなたの怒りを静めようとしてくれてるんですよ? その心遣いに感謝すらせず、上から目線で怒っていい立場だと本気で思ってるんですか?」


「そもそも別にロワくんは、ジル子のしでかしたこと、別に隠してたわけじゃないじゃん。あんたが勝手に責めるの忘れてただけでしょ? だってのに白々しいもくそもないじゃんよ。っつかいっくら加護与えてる子泣かされたのが腹立つからって、泣かした奴の仲間の子に責任押しつける気、あんた? 大人げない、どころかものの道理わかってなさすぎでしょ。そもそも相手十五だよ? 人次元にんじげん基準だって成人したてだよ? そんな子より精神年齢低いとか、あんた社会人の自覚あんの?」


「ぅ、ぅうっ、ぅぐぅっ………」


「まーまー、お二人とも落ち着いて。まー今のはイシュテさんが悪いとは思いますけど、だからって責め立てる形になっちゃうのもよくないでしょ。ものの道理的にも、社会人的にも、かばわれる形になったロワくんの心理的にもね。イシュテさんが責め立てられて委縮しちゃって話が進まなくなったら、一番困るのはロワくんですよ?」


「あっ………そ、そうですね。すいませんでした………」


「あたしは謝んないよ。あたしこの子のこと嫌いだから、いじめても全然罪悪感とかないし」


「ぅ、うぐぅぅ~~~っ………」


「まぁ、ゾっさんが好き嫌いはっきりしてる人だ、っていうのは知ってますけども。今は嫌いな相手とも話さなきゃいけない仕事なんですから、社会人的に、いじめちゃうのもよろしくないでしょ? ゾっさんの気は晴れるかもしれないですけど、仕事には悪影響出ますよね? そーいうプライドのない行為しちゃったら、ゾっさん的にも後悔することにならないですか?」


「チッ………ったく、口達者なんだから。はいはいわかった悪かった、でもそっちもちゃんと謝ってよロワくんに。人次元にんじげんの子相手に凄むとか、普通にパワハラ案件だからね?」


「だ、そうですけど? イシュテさん?」


「ぅ、うぅ………す、すいませんでした………」


「はい、じゃあこの一件については水に流すってことで。いいかな? ロワくん?」


 鮮やかに話をまとめるギシュディオンニクの手並みに思わず感嘆の視線を向けてしまっていたロワだが、その問いには慌てて首を振った。神々相手に不遜だとは思うが、その話が出たならばなんとしても聞いておかなければならないことがあるのだ。


「いえ、あの………すいません、ギシュディオンニクさまのご厚意には感謝しますけど、俺としては、この機会に、イキシュテアフさまにお訊ねしたいんですが」


「………へっ!? ぼ、僕にっ!?」


「はい。それこそ、ジルのしでかした行為について」


「ぇっ、えっ………た、訊ねるって、なにをさ。ぁっ、あのクソガキがしでかしたこと、僕は絶対絶対許す気なんてないからねっ!?」


「許す気がない………つまり、神罰を与えたい、と思っていらっしゃる、ということでしょうか?」


「ぇっ………神、罰?」


「はい。もちろん神々が人界に手出し口出しをすることを、厳に慎んでいらっしゃることは承知しています。ですが、それでも、その禁を破ってでも罰を与えたい、それほどにジルの行為は許されざることである、とお考えならば、俺もそのお考えに沿って、お心を少しでも安んじるべく努力しますよ」


「ぇっ………ど、どういうこと?」


「ジルに代わりに懲罰を加えたり、ジルが今後そういうことをしないように説得したり強制したり」


「ぇっ………そ、それは………」


「ロワくん、ちょっと待ってください! それは………」


「ええ、エベクレナさまたちのおっしゃったことは覚えています。『神々は人界に介入できない』『どんなにしたかろうとも許されない』『だから人界において、神々の意向に沿うためだけに行動を定めることはよろしくない』………ですが、俺はそれ以前に、まっとうな神々を尊敬すべき方々だとも思っています。万能ならざる権限の範囲で、できる限り人界に幸福をもたらそうとする方々だと」


「ぅ………そ、そういう言い方も、しようと思えばできるかもしれないですけど………」


「そういった尊崇すべき方々のお一方が、なんとしても罰を与えねばならないとお考えになるほどに、ジルの振る舞いが看過できない代物だとしたら、それを正すのは、それこそ仲間としての義務だと思いますから」


 ………それに、曲がりなりにも仲間であるジルが、神の怒りを買っている、という状況はさすがに嬉しくない。少しでもその神に憂さ晴らしをしてもらって、ジルが『神罰を喰らわされるかもしれない状況』からは脱しておきたいのだ。一応冒険者としてパーティを組んでいる身としても、借りを作っている身としても。


 そうだ、自分はジルには(他の仲間たち同様に)大きな借りがある。それなのに、『神罰を落とされるかもしれない状況』を看過できるわけがない。相手にひれ伏してでも、その奴隷となってでも、ジルの無事を確保しなくてはならないのだ。


 ………そんなことを考えているロワの横で、なぜか急に顔をうつむけながらちらちらこちらを見て、やたらと咳払いを連発し始めたゾシュキアをよそに、エベクレナは難しい顔をしながら問うてくる。


「でもその………ロワくんは、別にジルくんの言ってたことややってたことに、そこまで問題があると思ってたわけじゃないんでしょ? そうでなきゃ、これまで放っておくわけがありませんもんね、ロワくんが」


「そうですね。俺としては、問題というか………ジラさんとの対話に、横から口を出すのはよくないだろう、って思ったんです。ジルの仕事だから、っていうのもありますけど………素のジルの、自分は棚に上げて言いたい放題自分勝手なこと言ってっていう、クソガキなところと真正面から向き合おうとした人なんて、初めてだったから。どっちもとことんまでやり合って、自分たちなりに納得しないと、どちらも成長できないんじゃないかって思ったんですよ」


「成長、ですか」


「はい。もちろんジラさんはジルとは比べ物にならないぐらい成熟してる部分もありますけど、それでもまだ成人年齢にも達してない子供なのには変わりありません。なにより、ジラさん自身が『成長したい』と思っていたみたいなので」


「ぇっ………」


「あぁ~………それは、確かに………」


「『人は神々に隷従すべき』、つまり『神々に世界を救ってほしい』っていうのは、宗教的救世欲もあるでしょうけど、現状に満足していないって気持ちの表れでもありますよね。世界はもっとよくできる、もっと変われる、それなのにそうしようとしていない人たちへの苛立ちとか腹立ちとか、そういう気持ちの大本が、単純に自分の現状への不満から来てることってよくありますし」


「っ………」


「どちらにせよ、ジラさんには『今のままでいたくない』『もっと変わりたい』って気持ちがあって、でも周りは基本自分を全肯定する人ばっかりで、鬱屈してたんだと思うんです。だから自分とある意味対等だと思えた、ゾシュキアさまから加護をいただいた神官であるジルを、向き合う相手に選んだ。まぁ、ジルがそういう気持ちとかどうでもいい奴だったんで、話が通じなかったというか、ジラさんの思ってもみなかった方向から求めてないところに向けて直球射撃されたわけですけども」


「っ………、っ………」


「だから、というか………俺としては、どっちにとってもぶつかり合って成長するのに、ちょうどいい相手なんじゃと思ったんですよ。お互いにとって、自分のいる世界とは全然違うものを見てる相手だから、自分の考えとか気持ちとか………というか、たかだか一人の人間の考えたことなんて、めちゃくちゃちっぽけなものだ、っていうことが実感できるんじゃないかな、って」


「なるほどねー。ロワくんいいこと言うわ~。そーいう自分の世界の殻を破ってくれる相手って、大っ嫌いな相手だったりする時もあるけど、人生に効いてくることあるよね~」


「ええ………ただまぁ、あくまで俺の視点から、俺の人生経験に基づいて考えた浅知恵なので、イキシュテアフさまにとって気に入らないことが目につくのも当然だと思います。なので、俺の勝手な考えで対立を放置しておいた身としては、イキシュテアフさまにお許しをいただけるよう、できる限りのことをさせていただきたい、と思っていますので………」


「ぁ………」


「あ、あと俺なんかが口に出さなくともご承知のこととは思いますが、この機会に申し上げておかないのもジラさんに申し訳ないので………ジラさんとお話になる時には、ジラさんの言っていた『なぜ神々が人間を直接教え導いてくれないのか』っていうことにも、イキシュテアフさまからお答えをいただけると、ジラさんにとっても救いになると思います。一人で子供の価値観で思い悩んで生まれた疑問とはいえ、ジラさんなりにずっと一生懸命考えてきたことみたいなので………イキシュテアフさまから直接答えがいただけるなら、なによりだと思うので」


「…………無理ぃ…………」


「え?」


 きょとんとしてしまったロワの視線の先、水晶板の向こうで、イキシュテアフは机の上にのろのろと突っ伏した。そのままぼそぼそと、むせび泣くように、意味のまったくわからないことを呻く。


「無理ですよぉ………もうやだぁ………なんでこの子当然みたいに僕の聖女ちゃんの気持ち理解してるわけ? 人次元にんじげんの子なのに? これがリアル生きてる子の力ってわけ? 悪かったねぇどうせ僕は神次元しんじげんから心が読める状態で見てるにもかかわらず聖女ちゃんが悩んでるなんて全然気づかなかったよぉ………うぅぅ、うぁぁ………」


「ちょっとあんた、いっくらロワくんに聞こえないようにフィルターかけてるからって、あたしらにはあんたのそのクッソしょーもない愚痴しっかり聞こえてんだけど? 見苦しいったらないからやめてくんない? っつかやめろ」


「ゾシュキアさんはそう言うだろうなって思ってましたけどぉ………僕にとってはめちゃくちゃショックなんですよぉ………僕の聖女ちゃんを一番理解してるのは僕でありたいのに、神次元しんじげんにいるおかげでその絶対条件今まで崩れたことなかったのに、あっさり簡単に、別に深く関わったわけでも関わるつもりもない子にこんなになんでもないことみたいに………うぅぁぁぁ………」


「ぅ、うーん………基本推しに敵対する気配を感じたら即全力で敵対するつもり満々の私ですが、こういう風に気づかれないように一人ひたすら愚痴る、というタイプに対してはどう反応するべきか………というか正直、めちゃくちゃ身につまされるというか、自分もこういう状況下に追いこまれたら絶対似たようなこと思っちゃうと思うので責めづらいッ………!」


「んー、まぁ放置でいいんじゃないですかね? イシュテさんだって単に愚痴りたいだけというか、甘えても大丈夫そうな相手だと見極めつけたから自分のみっともないとこさらけ出しちゃってるってだけですよ。こっちに別になにか求めてないですって。エベさんが責めたいなら別にそれはそれでいいと思いますけど、責めづらい相手に道理を重んじて責め立てても、かえってストレスたまりません?」


「ぅ………」


「あたし別にこいつ甘やかしたいわけでもなんでもないんだけど?」


「でも別に好んでいじめたいわけでもないですし、見捨てもしないでしょ? 最初っから期待してたわけでもないし。イシュテさんの方としても別に好かれたい相手ってわけでもない。そういう相手って、イシュテさんみたいなタイプからすると、一番楽に話せる相手なんですよ」


「微塵も嬉しくないなー」


「……………」


 なにを言っているのかさっぱりわからないことを、うつむいてぼそぼそと喋りまくるイキシュテアフを、ロワはとりあえず、無言で見つけ続けるしかなかった(他の神々もなにを言っているのかさっぱりわからないことを話し始めたので、よけいに)。


 ただまぁなんのかんので神界での会話が終わるまでには、ジリオシャクラにいつどのようになにを話すか、ということも含めて決めておくべきことは決めることができたので、とりあえずは問題なしといっていいのだろうが、イキシュテアフがジルディンに対して神罰を与えたいと思っているかどうかは結局聞き出せなかったので、ロワの心中には少しばかりの不安が残ったのだった。

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