9ー10 灰翠対談・2
翌日朝、十四刻。昨日同様、神官たちに言われた通りの時刻に、言われた通りの場所へと全員で向かう。
ロワとしては、もうジルディンなどと聖女が話し合いをするなど許さない、と神官たちが邪魔をしてくる可能性もそれなりに考えていたのだが、さすが大陸中の神官が規範とすべきとみなしているイキシュテアフ神官、いかに気に入らない気持ちがあろうと、義務はきちんと果たしてくれるらしい。今日も言われた場所にたどり着くや、いつも通りにささーっと神官たちが現れて、ささーっと神殿の奥へ導いてくれた。
この段階で邪魔をされると、どうしてもイシューニェンタという国自体に文句をつけざるをえなかったので(そうしないと上の人≒聖女さまを話し合いの場に引き出せない)、正直助かった。ロワとしても、この国に喧嘩を売りたいわけではまるでないのだから。まぁ、ジルディンやヒュノやカティフはそこまで考えていないかもしれないが、ネーツェはたぶん後々に引きずる可能性がないように、できる限り平穏無事に問題を解決したい、と考えているはずだ。
いつも通りに通されたジリオシャクラの私室では、ジリオシャクラがいつも通りに端然と座し、自分たちを待っていた。昨日見せたものについてはどう思っているのかな、とこっそりじっと見つめると、ジリオシャクラからはそれなりにはっきりと恥じらいの気持ちが伝わってくる。
どうやら、昨日自分が見せた行いを、ジリオシャクラとしては、『善行をことさらに自慢げに見せつけた』ように感じてしまっているらしい。ごく当たり前の行いでしかないのに、当然の義務なのに、偉そうに親しくもない相手に自慢げに見せつけてしまった、と。
その気持ちは正直それなりに理解できるのだが、ジルディンにはたぶんとうてい許容できないだろうな、とちらりと様子をうかがうと、予想通りにその態度に苛ついたようで、ぎゅっと眉間に皺を刻みつけている。普段は他人の感情に斟酌することなど考えもしないジルディンとしては、ありえない状態だ。
おそらく、昨夜ずっと他者の心魂と同調することをくり返したせいで、他人の心情に同調しやすくなっているのだろう。これから為すことには有用な変調ではあったが、ジルディン自身としては、気に喰わないことこの上ない状態に違いない。
ジルディンは、ジリオシャクラに無言のうちに椅子を勧められながらも、着席することなく、真正面から告げた。
「あのさ。ジラさ。俺、いくつか言いたいことがあんだけど」
「………なんでしょう」
「いや、言いたいことはいくつもあんだけど、俺がどう言ってもお前に伝わんないだろって言われたからさ」
『お前』と口にするや、今日もしっかりジリオシャクラの背後やら扉の前やらを固めている神官たちから、ぶわっと殺気が吹きつけられたが、ジルディンはまるで意に介した様子もない。共感能力が高くなっている感じだったのにおかしいな、とちらりと思ってから、すぐに内心首を振る。
ジルディンは、ふだんなら殺気を叩きつけられればそれなりに怯えもしたかもしれないけれども、今は夜を徹して死力を尽くした上で、ジリオシャクラと対峙しているのだ。ジルディンなりに必死で懸命なのだ。そんな時に雑魚に殺気を向けられたからといって、怯える余裕などないに違いない。
「だからさ。ロワたちにも手伝ってもらって、俺が昨日の夜から明け方まで、必死こいて感じて回ったこと、お前に直接伝えたいんだけど。いい?」
「……それはつまり、あなたの伝達術や、仲間の方の術法を用いて、私の心に直接想念を伝えたい、ということでしょうか?」
「うん。いい?」
背後の神官たちがざわめいたが、ジリオシャクラは彼らに静かに首を振ってみせたのち、ジルディンに向き直って告げる。
「かまいません。あなたが必死になってまで感じたことを、私に伝えたいとおっしゃるなら、私としても逃げ出すつもりはありませんから」
「そっか。じゃあ、やるぜ」
そう告げるやいなや、ジルディンは、その圧倒的なまでに精緻な魔力制御でもって、術式を発動させた。
「……………!」
それは単なる伝達術ではない。ネーツェに補佐してもらいながら、ロワが同調術で感じ取った人間の心そのものだ。本当に我がことのように、我がこととしか思えないほどの鮮烈さで受け取った心を、ジルディン本人にも感じ取ってもらった記憶の連なりだ。
それはネーツェの勉正術でジルディンの心魂に深く刻まれ、記憶されている。それをジルディンが完璧なまでの伝達術で、取りこぼしなくジリオシャクラの心に伝えているのだ。
ジルディン自身は自覚していないが、おそらく同調術も同時発動しているだろう。一晩ロワと全力で同調し続けた程度の経験で、新しく術法を会得してしまうとは、女神に加護を与えられた天才というものの恐ろしさを再度見せつけられた気分だが。
ともあれ、ジリオシャクラは今、ロワが自分のことであるかのように深く感じ取った、数多の記憶を伝えられている。―――大陸中の高位の神官、司祭をはじめとした高徳の士に夢の中で訊ねた、『年端もいかない娘の苛烈な自傷行為をもって魔物を追い払うという儀式をどう思うか』という問いに対する、本音に満ちた答えを。
正直、『大陸中の高徳の士』なんてものを探し出すだけでも普通は大変だと思うのに、それを居ながらにして数瞬刻でやってみせた上で、その相手が眠りについたのを察知し、即座に伝達術で自分たちとの間に精神的、心魂的な道を作り、ジルディンと比べればお話にならない程度の能力しか持っていない自分ですらも、ネーツェの補助によって、居ながらにして遠方の相手に同調術をかけることができるようにする、などというのはもういったいどれほどの難事なのか見当もつかない。
ジルディンが言うには、相手がこっちの気配を受け容れて、応えようとしてくれることがほとんどだったので、防御結界を解除するほどの難易度ではなかったそうなのだが、これは絶対にそういう問題ではないと思う。
ロワとしては、あくまで近辺、というかゾヌの中での高徳の士(基本宗教関係の人間になるだろうから、ジルディンのことを知っている人も多いだろうし)を探してもらうつもりだったのだが、ジルディンは『どうせならいろんな国の人に聞いてみた方がいいよな』などと考えて、あっさり大陸規模にまで術式を拡大してしまったのだ。
その事実をジルディンは別に話すことでもないや、と口にしなかったので、ロワ(や、ヒュノやカティフ)が気づいたのは、すべてことが終わったのちの話になる。つまり、曲がりなりにも術法使いであるロワが、大陸の彼方にいる相手に、相手が受け容れてくれているとはいえさして苦労もせずに、距離をまるで意識しないまま、術式を発動させることができてしまうほど、ネーツェの補助を受けてジルディンが作った道は高性能だったわけだ。
高性能というか、もはや異常なほどとしか思えなくはあるが―――ともあれ、ジルディンは、大陸中の高徳の士の想いを、(ロワの同調術が、他者同士の心を同調させるという、これまでやったことのない高難易度技法をこなすことができた限りにおいて)我がことのように感じることができた。ネーツェの勉正術によって、心魂にその瞬間の記憶を、感情を、そのまま(一時的に)刻むこともできた。
だから、ジリオシャクラは今、我がことのように感じているはずだ。大陸中の高徳の士が、それぞれの言葉とそれぞれの想いで放った、ジリオシャクラの自傷行為に対する、心底からの痛ましさを。
発した相手はなにせ高徳の士だ、夢の中で唐突に知らされた話であろうとも、一方的に、あるいは大上段に、上からの立場で批判するようなことはしていない。夢の中の話なのであまりはっきりした形になっていないことも多いが、真摯に誠実に、その心がまさに高徳と呼ばれるべき形をしているのがわかるほどに、相手を否定することのない想いを伝えてくれている。
だからこそ、よけいにかもしれない。今ジリオシャクラが感じているのは、自身を否定することなく、それでも真正面から告げられた、自分に対する哀れみの心なのだから。
「…………っ」
その娘が死に物狂いでしてのけたことを、否定する資格は自分にはない。けれど、その行いは無残で、哀れだ。一人の年端もいかない少女が、ひとつの街とそこに住まう人々の命を背負わされている、その重み、苦痛はいかばかりか。
その少女一人に命を救う役目を押しつけるのは、大人としてしたくない、すべきではないことだと思う。見過ごしたくない、できることなら救いの手を差し伸べたい。
その少女には頼ることのできる大人という存在がいないのではないだろうか。痛ましさを感じずにはいられない。その少女一人に自分たちの命を背負わせている、街の人々も苦しいのではなかろうか。
そんなさまざまな人間、それぞれの思考と想念、そのすべてを順繰りに心魂で受け取った、ジリオシャクラの顔からは血の気が引いていた。おそらく彼女は、ジルディンに出会うまで、他人に否定されることのなかった身だ。
自身のすべてを常に全肯定される、というのはそれはそれでしんどいことでもあるだろうが、常に周りから護られるのが当然だった育ちであることも間違いのない事実。そんな彼女にとって、他者に否定されることの衝撃は普通の人間よりはるかに強烈に感じられるだろう。だからこそジルディンとまともにやり合った時に常に負け続けてきたわけだし。
そして、今のように、自分のしたことそれ自体を否定されることはないながらも、哀れまれる、悲しまれる、気遣われる、嘆かれる、といった形の他者の負の感情を受け取ることも、これまではまずなかったはずなのだ。
一国の首長、一宗派の首座、そういった地位に据えられた人間を、もののわからない子供のように、愚かな世間知らずのように、気遣われながら哀れむ、という扱いをする人間はそうそうおるまい。昨晩ジルディンが接触した高徳の士たちも、イキシュテアフの聖女についてではなく、ジルが自身の感情混じりにぶつけた、自身の身を傷つけて魔物を追い払うという真似をしている、一人の少女のことについて答えたわけだし。
その辺りはジルディンの単純さというか一途さというか(ジルディンの中で、ジリオシャクラは最初から変わることなく、『なんか偉いってことになってるえらそーな女』なのだ。その地位も権威も、まるで実感していない)と、イキシュテアフの聖女が魔物を追い払う方法について、国外ではほぼ知られていないというせいも大きいのだろうが。
なんにせよ、夢の中で問いかけた(そうやって夢での話ということにしてごまかさないと、高徳の士なんて人とちゃんと会うにはそれ相応の人に仲介役になってもらわなくてはならないため、時間がまるで足らないのだ。ロワの案としては、それなりの人数の意見を集めることで、ジリオシャクラに意見の例示として認めてもらいたいという考えがあったので。まぁ大陸中から意見を集めてくる、なんてことをしているとは思わなかったが)せいもあって、高徳の士の意見はほとんどが率直で、素直で、相応の本気の気持ちに満ちたものだった。それはジリオシャクラにもはっきり感じ取れたはずだ。
つまり、自分のやってきたことは、ほとんどの人間に、哀れまれるような、嘆かれるような行為である、と。
……もちろんジリオシャクラのやり方を積極的に評価する人間もいたし、イキシュテアフの聖女の務めを知っているのか、どちらともいえない物言いをしたり、徹底して意見を避けた人間もいた。そういう人々から伝わってきた感情もジルディンは伝えたようだが、それでも大多数の意見が(ある意味)否定寄りだったのは間違いない。
そんなこちらが全力で揃えた手に、どう反応するか。ロワなりに懸命に注視して反応を見守る。周囲の神官たちは、ジルディンがなにをしたのかよくわからないながらも、ジリオシャクラが血の気を引かせたことに反応して、ざわめきうろたえているが、なにせなにがあったかもまるでわからないので、まずは聖女がどう反応するかを見守るのが第一と考えたようだ。とりあえず邪魔はしてこないだろう。
そんな風に、部屋中の視線を集めているジリオシャクラは、長い沈黙ののち―――静かに、ただし力をこめて首を振った。
「あなたのお働きと、幾人もの、それこそ数多といっていいほどの方々からのお気持ちは頂戴いたしました。けれど、私がこののち行いを―――自らを傷つける儀をもって、魔物たちを静める行いを改めることは、決してありえないと、申し上げさせていただきます」
……まぁ、そうだろうな、とロワはこっそり、一人うなずく。
ジリオシャクラは、曲がりなりにも一宗派の首座だ。一柱の神々を信ずる人々のすべてが、自分たちの主としてふさわしいと認めた人間なのだ。まぁイキシュテアフの聖女というのはイキシュテアフ御自らが加護を与えると定めた人間をさすのだから、信徒の意見が介在する余地がないのも確かだが、それでもその選び方に納得がいかなければ不満ぐらいは生まれるだろう。この国にそんな気配はまるで感じられなかった。
もちろんイキシュテアフという神直々の選出なのだから、そもそも不満を抱かれるような人物が選ばれるはずはない、という当たり前の話でもあるのだろうが。どちらにせよ、ジリオシャクラは一宗派の首座として、ふさわしい精神性を有した人間であるはずだ。
そうでなければ、たとえすぐに癒されるといっても、自身の身体を痛めつけることで魔物の失われる命を減らす、なんて行為を大真面目に、怖気づくことなく続けられるはずがない。よってたかって護られながら育ってきたせいで、打たれ弱いところや世間知らずなところも目立つが、むしろそんな風に世間の荒波から遠ざけられた状態で、たまたま行き会った人間の悪性を見過ごせずに、それなりの大金まで支払って、依頼という形で教誨を行う、なんて誠実かつ求道的な心を持ち続けていられること自体が驚異的なのだ。
そんな人間が、これまで何百年も続けられてきたイキシュテアフの聖女の儀式を、その場の感情で改めるなどということをするはずがない。この大陸の常識で客観的に考えて、イキシュテアフの聖女の行いというのは普通道理に外れていると考えられるという事実は、善意と優しさでもって行いを否定された事実も含めて、それなりに衝撃ではあるだろうが、ちょっと衝撃を受けた程度で行いを変えるような人間が、あんな真似をしてのけられるはずがないのだ。
だから、ロワが今回の一件でなんとかしたいと考えていたのは、ジリオシャクラではなく。
「………っだよ、それ。納得いかねー。俺が一晩中かけて大陸中の人らから話聞いてきたのも、その人らがほとんどみんなお前のやったこと嫌がってたってのも、お前にはぜんぜん関係ねー、ってことかよ」
ぎっ、と力を込めて睨みつけてくるジルディンに、ジリオシャクラはまた首を振った。
「いいえ。……正直な気持ちを申し上げれば、衝撃ではありました。私は私なりに、イキシュテアフさまから加護を与えられた人間として、日々修行に励んでいたつもりだったのですが、その行いがこれほど何人もの、善良な方々に憐れみを覚えさせるような行いだったとは、まるで考えていなかったのです。私の行いが本当に正しいものであるのか、常に自身と向き合い、行いを正してきたつもりでしたけれど、とても考えさせられました。………けれど………」
ジリオシャクラはじっ、と真正面からジルディンの瞳を覗き込み、真面目に、誠実に、真摯に告げる。
「それを知った上で、改めてイキシュテアフさまから授けられた加護と、術法と、これまで積み重ねられた代々の聖女さまの行いと、懊悩を鑑みて、改めて思ったのです。きっと、イキシュテアフさまは、そういった考え方が当たり前だから、『例外』を創ろうとなされたのだろうと」
「なんだよ、それ………」
「生きるためには、食べるためには、よりよい生活のためには、他の命を殺し、奪い、死体を骨の髄まで利用するのが当然で正しいこと。その考え方を、否定はできません。そういった生き方でなければ、今これほどの人間がフェデォンヴァトーラ大陸に満ちることはなかったでしょう。けれど、それは、その考え方や生き方が、もはや変化させる必要のない、絶対的に正しい真理だ、ということではありません」
「……………」
「命を奪うことは、死した者の遺骸を利用することは、たとえそれが当たり前になっていることだとしても、決して正しいことだとは私は思いません。できることなら、本当ならば、家畜相手からも命を奪うことなく遺骸を利用することなく、人間以外の相手にも迷惑をかけることなく生きていくことができたらいい、と私は思います。それが、世の多くの人々から否定される理屈だとしても……私自身にとっては、間違いだとは、思えません」
「……………」
「そんな私たちを……他の命を奪わなければ生きていけない愚かな私たちの摂理を、哀れんでくださったから、イキシュテアフさまは代々の聖女に、強力な感与術を授けてくださったのではないでしょうか。その摂理が絶対のものではないと示すために。いずれ私たち人間がもっとずっと賢くなれば、真に強い力を得ることができたなら、殺さずとも、遺骸を使わずとも、心豊かに生きていくことはできるのだ、という可能性を示すために」
「……………」
「だからこそ、私はあなたに問うたのです。神々はなぜ、私たち愚かな人間という生き物を、もっと完全に、正しく創ってくださらなかったのかと。神々に直接導いていただくことができたなら、数多の命と遺骸の、世が生まれた時より続いてきた無残な積み重ねを、最初から作らずにおくことができたろうに、と。………あなたは、それを知った今ならば、私の問いに、どう答えてくださいますか?」
間近からじっと瞳を見つめられながらの、心清き聖職者の真剣な問い。それにジルディンは、かぁっと顔を真っ赤にして、ぎっとジリオシャクラを睨みつけて怒鳴った。
「ふっざけんなよ!? なんだよそれっ、なんだよそれっ! そんなん……そんな、そんなんじゃ……まるで、俺が悪いみたいじゃんっ!!」
「あなたが悪い、と申し上げているのではないのです。『当たり前』とされている摂理に従っている方々が悪心を抱いているとも思ってはいません。ただ、『当たり前』ですまされていることが、いつまでも当たり前であり続けることが、絶対的に正しいとはいえないのではないかと……」
「うっさい!! あーもううっさい!! なんだよもうふざけんなようっさいうっさいうっさいうっさい! 覚えてろよもうっ、俺絶対お前のこと許さないかんなぁっ!」
怒鳴って騒ぎ喚き散らした末に、ジルディンは「〝祈天転〟!」と叫んで転移していってしまった。白の神殿の中なのだから、イキシュテアフ以外の神に通じる術法は発動に負荷がかかるはずなのだが、ジルディンならばそんなものはさほどの障害でもなかったのだろう。
姿を消したジルディンに、ジリオシャクラは深々と息をつく。またジルディンへの教誨を果たすことができなかったという想いに加え、真正面から向き合って逃げられた、という思考も重なっているのだろう。
―――だからこそ、『ここだ』と思えた。ロワは立ち上がり、ジリオシャクラの前に立つ。
「ジリオシャクラ、猊下。少しよろしいでしょうか」
「はい………? っ、あなたは、〝女神の巫〟………!」
「……いや、あの、すいません、その二つ名というか、そもそも二つ名で呼ぶのをやめてもらってもいいですか」
話す前からごっそり気力を削がれた気がしたが、気を取り直してジリオシャクラに告げる。
「ジルを連れ戻すことは不可能ではないですが、それなりに時間がかかることだと思うので。つまり、ジルを指名しての依頼だとはいえ、俺たちからすれば、パーティメンバーが勝手に依頼を投げ出して遁走するのを止めることができなかった、ということになるわけです」
「……そうですね、確かにそうとも言えるでしょう。けれど、私としてはあなた方を責めるつもりは……」
「お言葉はありがたいですが、俺たちも一応冒険者という仕事で食べている人間です、仁義として通すべき筋というものがあります。俺たちのしでかした失敗を取り返すため、という形で恐縮なんですが、俺にできる形で、今回の依頼の補助を受け持たせてはいただけないでしょうか」
「補助……ですか?」
「はい。イキシュテアフ神ご自身から、この国の聖女の方々が続けてきた行いについて、お言葉をいただく、という形で」




