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人次元では最推しです  作者: 聿八路彰
第九章 聖国の灰聖女
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9-7 黄金の雲・3

「ったくもー、なんなんだよあの女! 今日なんかもーすっげームダな時間使った! あっちこっちの部屋出たり入ったり、めんどくっせーったらねーよ!」


「お前の監視役としてつきあわざるをえなかった僕たちに言う台詞か、それ」


「っつか、暇な時間それなりにあったんだろ? なら鍛錬のし放題じゃねぇか。術法使いなら室内でもやれることいっぱいあんだろうから、無駄な時間だけってこたぁねーんじゃねーの?」


「俺鍛錬とか基本キライだもん! 鍛錬しかやることねー日とか、フツーにムダだろ!」


 夕食の席で、今日も全員揃って無駄話をする。今日はせっかくなので、宿の食堂ではなく、それなりに立派な料理店に予約を取っての食事だ。個室にしてもらったので、ジルディンがきゃんきゃんと甲高い声でしょうもない話をしても、誰の迷惑にもならない。


 ちなみにこの料理店でもガレットが相当な種類メニューに載っていた。詳しく見ていってみると、だいたいは卵と野菜と肉ないし魚介類にソース、という組み合わせは変わらないのだが、その組み合わせや具材の量に多様性があって、食べ比べてみるとどれもおいしい。


 考えてみたら、ガレットというのはサンドイッチと料理の種別的には同じようなものなのだから、種類があって当然なのかもしれない。ガレットが名物の街で大きな店を構えている以上、料理人も相応に熱意を費やしてさまざまなガレットを開発しているのだろう。


「……俺はこいつほどひどかぁねぇけどさ。明日は俺も鍛錬休ましてもらうから」


「は? なんでだよ。体力的には俺よりカティの方がずっと上なんだから、疲れ果てたってわけでもねーんだろ?」


「なんでじゃねぇだろ! そりゃ確かに体力的には少しは余裕あるけどな、一瞬でも気を抜けば斬り殺される、みてぇな時間が一日中続きゃあ気疲れで死ぬわ、普通に! しかも相手がお前だぞ、俺よりずっと腕が上の天才野郎なんだぞ!? 全神経使って四方八方に休みなしで気ぃ配ってなきゃなんねぇんだぞ、そんなん連日でやりてぇ奴とかお前みてぇな修行バカしかいねぇわ!」


「そうかぁ?」


「そうだよっ!」


「じゃあ、カティは明日は宿で一日中休息、ってことでいいのか?」


 ネーツェが自分の分のガレットを誰にも分けることなく食べ終えてから、口元をナプキンで拭ってそう問うと、カティフは少し考えるように視線をさまよわせた。


「そうだなぁ……どうすっかな。明日も修行ってのはごめんだが、宿にいても暇なのは確かなんだよな……街中で観光できそうなとこは、初日でだいたい見ちまったし……」


「時間を使うあてがないなら、白の神殿の中にいるといいんじゃないか?」


「へ? なんでだよ」


「今日、白の神殿の中で、術法使いとしての鍛錬をしていてわかったんだがな。どうやらあの神殿の中は、イキシュテアフの御力によらない術法の発動を阻害する効果があるようなんだ。まぁ一国の政治の中枢なんだから、最低限の安全対策、ということなんだろうな。ただまったく発動できない、使用できない、というわけじゃないんだが……魔力制御や術式展開の鍛錬をする時に、それが相当効果的な負荷になるんだよ」


「へぇ……」


「お前の場合、性健術が常時使用型の術法だから、神殿内で昼寝をしているだけでも効果があると思う。お前が使える他の術法も、使用しても危険のないものばかりだし、気が向けばそちらの鍛錬をしてもいいしな。まぁ、なにを為すこともなくひたすらに暇をつぶしているよりはマシだと思うぞ」


「お前、なんのかんので、実はヒュノの次に脳筋だよな」


「はぁ!? なんだそれは、なんだその言いがかり、ふざけるな断固として否定するぞ、僕は曲がりなりにもロヴァガの智の学園に入学ができるだけの勉強をしてきた人間で……」


「や、だから頭の出来がどうこうじゃなく、どんなことでも鍛えて力をつけてぶち破る、みてぇな発想が基本になってるとこが脳筋っぽいってことだよ」


「なっ……そ、それは単に、それがひとつの真理だというだけのことだろうっ! 力をつけて正面突破というのは、それが可能なだけの能力を有するならば、もっとも成功率の高い作戦であってだなっ……!」


「や、別にそれが悪いたぁ言ってねぇだろ。頭いい奴っぽい発想じゃねぇよなってだけで」


「ぬぐっ………!!」


 顔を真っ赤にして硬直するネーツェを気にもせず、カティは軽く首を傾げて考えてから、うんとうなずいてみせた。


「よし、じゃあ明日は俺もジルの仕事に同行するわ」


「えー、カティまでくんの? 別に面白いこととかなんにもないぜ?」


「わぁってるよんなこたぁ。単に一日中なんもしねぇでごろごろしてるってのも暇すぎるよなって思っただけだ。それに、ジルと聖女さまがどんな話してるかってぇのを間近で見るのも、酒飲み話の種にぐらいはなんだろ」


「えぇー……べっつにおもしろい話とかなんもしてねーけどなー……」


 眉を寄せるジルディンをよそに、無言で食事をしていたヒュノがふいに、ネーツェに訊ねる。


「ネテ、神殿内のその、安全装置? って、そんなにすげぇ負荷になんのか?」


「すごいというか、僕にとってはちょうどいい負荷だった。魔術と他の術法の並列使用をしてるせいもあるんだろうが、負荷に耐えて魔力制御等の鍛錬をする際に、心魂が鍛えられているのが普段よりはっきり実感できるというか……」


「ふーん……なら明日は、俺も一緒についていくかな」


「えー、ヒュノまで? 別になんか役に立つわけでもねーのに、みんな揃っていくとかうっとーしくね?」


「別に仕事のためについてくわけじゃねーんだから、問題ねぇだろ。どうせ明日は術法関連の鍛錬しようって思ってたからな」


「げぇ……結局明日も鍛錬からは逃れられねぇのかよ……」


「いや、カティやヒュノぐらいだったら、負荷に耐えて術法を発動させるだけでいっぱいいっぱいになるだろうから、剣の稽古とはだいぶ趣が違うんじゃないか? 実際、ジルの後ろでぼうっと立っていても暇なんだから、時間つぶしに心魂の基礎鍛錬をやるぐらいがちょうどいいだろう」


「心魂の基礎鍛錬って、魔力制御とかかよ?」


「そうなるな。術法の発動を試みるのは、ゆっくり心魂の鍛錬をして、それに慣れてきたら、ぐらいに考えておくのがいいと思う」


「ふーん……やっぱ年季ってのは大事なんだな」


「は? どういう意味だ」


「俺とカティが女神さまから与えられた術法の力よりも、ロワの術法の腕の方が上だ、ってネテは思ってるってことだろ? 女神さまの加護を与えられたのに、術法の腕では追いつけてないってことは、そんだけこれまでの積み重ねで差ができてるってことなんだろーな、ってよ」


「……お前、それはロワに対してだいぶ失礼じゃないか? ロワは曲がりなりにも、召霊術においては専門家であってだな……」


「いや、専門家って呼べるほどの腕がないのは確かなんだから、ヒュノの言うことももっともだろ。ヒュノとカティの術法の腕も、これからはどんどん俺を追い抜いていくんだろうし」


「それは……まぁ、間違いではないんだろうが……」


 顔をしかめながらぶつぶつとそう言って、ネーツェは黙り込む。ネーツェは自分が矜持を大切にする方だから、他人の矜持に泥が塗られるのも黙って見てはいられないのだろう。その気持ちに感謝の視線を送りながらも、ロワは肩をすくめてみせた。


「女神さまの加護がある以上、たとえ苦手な技術でも、俺が専門でやってることを追い抜いていくっていうのも、ごく当たり前の話なんだろうしな。いまさらいちいち気にしたりしないよ」


「それなら、いいんだが……」


 仏頂面のネーツェをなだめつつ、ロワは内心苦笑していた。本当に、いまさら気にしようとは思えない話だ。自分はどんどんと、このパーティの仲間の足手まといになっていく。邪魔者になり、一緒に行動しているだけで迷惑な存在になっていくだろう。


 それを承知で、自分は、仲間たちに最後通牒をつきつけられるまで、一緒に冒険すると決めたのだ。それが仲間たちに対する筋の通しかたであり、優しい女神さまに対する感謝のあらわれのひとつでもあるのだから。






 ―――そして気がつくと、神の世界以下略。


 まばゆい雲の上で輝く女神エベクレナは今日も美しかったが、表情は重苦しげというか、眉を寄せ今にもため息をつきそうなくらいには気が重たそうに見えた。少し驚き、同時に心配になって、ロワはエベクレナが高台から滑り降りてくるのを待ってから問いかける。


「エベクレナさま、なにかあったんですか。なんだかすごく浮かない顔なさってますけど」


「あ、いえ……すいません、ご心配おかけして。私も正直推しにお会いするのにこんな顔してるのとかマジありえないって思うんですけど……今日の議題というか、ゾっさんとギクさんがこんな話しよーぜって打ち合わせた内容が、ですね。ちょっと……」


「エベクレナさまの気に染まないものだったんですか?」


「ええ、まぁ、はい……」


「それなら『そんな話はしてほしくない』と、はっきり告げられてもいいんじゃないでしょうか。ゾシュキアさまも、ギシュディオンニクさまも、エベクレナさまを苦しませながら会話を楽しめるような方々ではないと思いますし……」


「いや、その、苦しめるとかそこまで大した話じゃないんですけどね。私もそういう話が絶対イヤ、死んでもイヤ、なにがなんでも断固としてイヤってレベルのイヤさ加減なわけでもないので」


「でも、エベクレナさまは気が進んでおられないわけですよね?」


「まぁ、確かにそうなんですけど……私にとって楽しい話、っていうわけでは絶対ないことは確定してますし……」


「それなら……」


「いや、あのですね、確かにイヤはイヤなんですけど、私別にジルくん担じゃないんで。他担の話にまで首突っ込んで、それイヤそれダメとか言いまくるのって、推し活民としてあまりにマナーがなってないと思うんですよ。私だったら絶対イラッときます。あんたに関係ないじゃん首突っ込んでこないでよって言いたくなります。今回はたまたま仕事で同席することになっちゃってますけど、基本的には他担の話には口出し厳禁が吉なんですよ」


「いやでも、今回エベクレナさまが同席するっていうのは決まってることで、そのエベクレナさまがそんな話はしてほしくない、って思ってるわけですよね? 『その話をしなくてはならない』っていう理由があるわけでもないんでしょう? それなのに、同席した相手に嫌な思いをさせてまで、その話をしようとする方が、礼儀がなってないと思うんですけど」


「ええと……いやだからですねあの……別にそんな、真剣に話さなきゃならないようなことじゃなくてですね……」


「? どういうことですか?」


「いや……あの、えっと……うう……ああもうゾっさんっ、とっととこっち来て説明してもらえません!? どうせ見てるんでしょ!? 私にばっか説明させないでくださいよ!」


「いや見てるけどさー。そんなにこれ説明引っ張るような話?」


 唐突に水晶板が現れ、その中のゾシュキアが苦笑しながらロワの方へと向き直る。反射的に身構えながら、ロワもゾシュキアと向き合った。


「いや、別にそんな構えるような話じゃないんだってば。単にあたしらが話そうとしてたのは、ジル子と女子の組み合わせについてだ、ってだけのことなんだから」


「………? どういう意味ですか? 女子との組み合わせ、って?」


「いやだからさー、ジル子にはどういう女子がお似合いかとか、今回絡むことになった女子との相性とか、発展の可能性とか、そーいうこと駄弁ろうぜってギっくんと話してたってだけなんよ。別におかしな話じゃないでしょ?」


「……それには俺も同意しますけど、エベクレナさまがどんなささいな話であれ、俺たちと女性が関わり合うことを嫌ってらっしゃるのはいつものことですし。それなのにわざわざエベクレナさまの前でそんな話をしなくても、という気がしますけど……」


「ぐっふぅっ……! ちょ、ちょっと待ってくださいロワくん……推しの、推しの口からそういうことを言われると、私が女の子が作品世界に登場することを断固として拒否する痛いファンみたいで、ハートがガチで傷つくんですが……! いや、私がそういう痛いファンの要素皆無かっていわれると全然そんなことないというのがいかんともしがたくはあるんですけど……!」


「えっ……だって、エベクレナさまって、俺たちの視界に女性が入るだけで嫌なんですよね?」


「ぐはあぁぁっ……!! 痛い、痛い……ハートが痛いッ……! 否定ができないだけに、これまでそんなにも推しの前で見苦しい、推しに認識させるべきじゃない生きざまを晒しまくってきたのかと思うと真面目に死にそうにハートが……!」


「え、えぇぇ?」


 本気で胸を抑えてのたうちまわるエベクレナに、困惑して思わず目を瞬かせてしまう。いやだって、これまでそういうそぶりしか見せてこなかったというのに、なんでいまさら苦しむことがあるというのだろう。神々にとってはその理屈が正しいのだろうと、ロワなりに納得しているというのに。


「ぐあぁぁぁ………!! 死ぬ、本気で死ぬ……! 私、ホントに、真面目に、自分処すしかないのでは……!?」


「あーはいはい、わかったわかった、いいからエベっちゃんちょっと向こういって落ち着いてきなさいって」






「さって! そんじゃ、全員揃ったとこで! ジル子と女子の絡みについて、語ってくとしましょーか!」


「いぇー」


 水晶板の向こうで、満面の笑みを浮かべて身を乗り出すゾシュキア。同じく水晶板の向こうで、ぽすぽすと軽い音を立てて手を打ち合わせるギシュディオンニク。そんな二人をよそに、エベクレナは一人どっぷりと落ち込んでいた。


 大丈夫かな、とロワは内心心配する。一応ゾシュキアから説明を受けて、エベクレナたちの『女性が加護を与えた人間に近づくのを厭う気持ち』というのは、エベクレナたち自身正しいことだと思っているわけではなく、不満を抱くことはあるけれども自分たちの想いに応じて改善を求めているわけでもない、むしろそんな風にきちんと対応されると申し訳なさといたたまれなさしか覚えない、という理屈は理解したつもりではあるのだが。


 それでもエベクレナたちが自分たちに女性が近づくことを拒絶しているのは確かだろうし、エベクレナの前でその話をしてほしくない、という気持ちがなくなったわけではない。大丈夫かな、とうつむいているエベクレナに気遣う視線を送った。


『うううぅぅぅ……ロワくんが、ロワくんが優しすぎて辛い……いやそういうところもすっごい推せはするんですけど! 優しすぎるがゆえに相手を苦しめてしまういい子とかマジ推す以外の選択肢ないですけどぉ! なんかもう私すっごい勘違いした痛いファン確定って感じじゃないですか!?』


『あたしに文字チャで愚痴ってもしょーがないでしょーが。本人に言いなよ本人に、目の前にいるんだからさ』


『言っても絶対理解してもらえないですよこんなめんどくさいファン心理! っていうかゾっさんの冷静な解説受けても、私が本心では女が自分たちに近づくの嫌がってるんだろうから、できればその話はしてほしくないな、とか考えちゃう子ですよ!? 私がなに言っても絶対文字通りに受け取ってくれませんって! 本心では女に近づかれるのイヤなんだろうな、って考えちゃいますって! そしてそれがまぎれもない真実なんですから本当もうどーにもできないというか……!』


『はいはい、わかったわかった、いーからあんたはちょっとそのまま落ち込んでなさい』


『ううぅぅぅー……』


「っつかね。あたしはね。少なくとも現段階では、ジル子と女子がまともに関係持つとか、ありえねぇって思ってるわけよ」


「ほほう、のっけからこの駄弁り全否定ですか」


「だって、ジル子って少なくとも現段階ではクソガキじゃん? クソガキが女子と関係持つっつったら、敵対関係以外ありえないでしょ。恋愛関係だの惚れたの腫れたのだの、それどころか好意を抱きあう関係すら持ちえないと思うわけよ。ジル子、現段階ではほんっとにガキだから」


「ゾっさんは、ガキは女子とまともな関係なんて持てない派ですもんねー」


「うん、あたし的には断固としてそう主張したい。もし女子の方からガキに好意を持ってくれたとしてもだよ、ガキは絶対拒否っちゃうから。だってガキって発情期前なんだもん。男の優しさなんて十割性欲、とまではいわないけど、女子向けの優しさをクソガキが発揮するためには、まず発情して女子に好かれたい、って思わないとどーにもなんないから。発情期前のクソガキじゃ、女子の方からキスされても『きったねー!』っつってゴシゴシキスされたとこ擦っちゃうから、絶対」


「あー、わかるわかる、わかります。っつかそれってクソガキじゃなくても、女に発情する前の少年だったら、大なり小なりみんな持ってるとこじゃないですかね。ある意味イノセントとも表現できるとこですけど、ゾっさん的にはあくまでガキくささって感じなわけですか」


「うん、あたし的には少年の推しどころって、そーいうクソガキが強くたくましい男に成長してくとこだからねー。発情期前後の変化とか、もうおいしさしか感じないわ」


「俺からするとわりと真逆っつぅか、将来強くたくましい男になる少年が、現段階では弱くて無垢でくじけたり泣いたりしちゃう、っつーとこにめっちゃクるんですけど。どーいう子が好みか、っつー点では俺らわりと似てますけど、方向性からするとマジで正反対ですよね」


「まぁねー。……でも、あたしら、どっちも共通してガチで楽しめるシチュ、あるよね」


「ありますねー」


「まーもったいつけずに言っちゃうけど、アレだよね。初恋ネタ」


「でっすよねぇ。俺、基本推しの少年が女子や女性とくっつくの、断固拒否ってわけじゃなくても微妙にテンション下がるんですけど、初恋ネタはマジでガチで好きですわ」


「クソガキだったり心と体がよわよわだったりする子供が、クソガキなりに子供なりに、初めて他人を、自分以外の存在を認識する瞬間! 自分の中に受け容れようとする瞬間! もーあれだよね、そーいう瞬間見れたらもう本気でエクスタシーっつーか!」


「そうそうそうそう、生まれて初めて自分の方から他人に『好かれたい』『近づきたい』と思う、でもクソガキだったり子供だったりするからそういうのが全然うまくできなくて相手傷つけちゃったり関係ぶっ壊しちゃったりしちゃう! その大人の萌芽と現在の未熟さのマリアージュが! もうエモなんつー次元じゃなくクるっつーか! これたいていのガキ好きは問答無用で好きですよね!?」


「そーなんよぉ、推しの初恋とか是が非でも最初から最後まで見届けたいよね!? くっついてもくっつかなくてもどっちでもおいしい! 最終的に成長して人生のパートナーになるとこまでいっても、いつのまにか疎遠になっても、悲しい思い出になっても全部ぱくぱくいただけちゃうわ!」


「ですよねですよね! ……で、今回の話に移るわけですけど。聖女ちゃんがジルくんの初恋の相手になれるか!? って話になるんですけど」


「あたし的にはだいぶガチで期待してるんだよね! 今までジル子の人生に、まるで存在しなかったタイプの女の子だから! 未知に対して好奇心と興奮を覚えるのは若さの特権!」


「まーそーいうご意見もわかるんですけど、ジルくんの興味をそこまで引けるか? っつー懸念もありますよ? 純粋培養の女子って、好きな奴はホンットに好きですけど、嫌う奴も多いでしょ? ジルくんも今はむしろ悪感情覚えてるっぽいですし。いやむしろ単に興味ない感の方が強いっつー、恋愛的に一番アウトなスタンスですし」


「まーそーだけどね、聖女ちゃんもただの純粋培養女子じゃないし……ジル子があの国の聖女の仕事を見ることがあったら、絶対ショック受けると思うんだよねー、ガキだから。それがいい方向に転んでくれたら、マジで可能性あるんじゃないかって思ってる」


「え、ゾっさん、その口ぶりからすると、あの聖女ちゃんのただ者じゃない的エピソード、もう知ってるんですか?」


「そりゃまぁ、信仰のメインになってる国のご近所さんの話だし……っつかギっくん知らなかったんだ? へー、こりゃもう今回はネタバレなしでそのエピソードに遭遇してもらわなきゃだねぇー」


「えー、なんか怖いな。まぁゾっさんがそう言うなら楽しみにしときますけど。俺も今の推しの子の動向チェックとかあるんで、見逃さないように、エピソードが起こった時と場所とかは教えてくださいよ?」


「わかってるってー。エピソード見てちょっとでもキたら、投げ銭してあげてね? ……ね、ロワくん的には、ど? ジル子の初恋とか、ありえると思う?」


「えっ」


 不意に声をかけられてロワが慌てて答えを返すよりも早く、さっきからずっと黙り込んでうつむいていたエベクレナが猛然と顔を上げて割って入ってくる。


「ちょおぉ……ゾっさん、あなたまたロワくんに会話内容聞かせてたんですか……!?」


「別にいーじゃん、際どい所はちゃんと隠してんだし。それに今回はノマ話なんだから、聞かせられないような話とかしてないと思うけど?」


「ぬぐっ……それは、そう、かもしれないですが……」


 むにむにと口ごもりつつ唇を尖らせるエベクレナに、とりあえず今回はそこまで拒否感を感じる案件ではないらしいと踏んで、それでも一応小声でエベクレナに問うた。


「エベクレナさまが俺の答えを聞きたくない、ということでしたら答えないようにしますよ?」


「いえ、あの、拒否感が全然ないといったら嘘になりますが、この程度のことにもいちいち目くじらを立てるというのも大人げがなさすぎるというか、痛いファンにもほどがあるというかなので……どうぞ、お気遣いなく……」


「そう、ですか。それでええと……ジルの、初恋、ですか?」


「うん。仲間として、ジル子の初恋がありえるかどうかとか、聖女ちゃんはジル子の初恋の相手としてどうかとか、思うとこを聞かせてほしーんだけど」


 にこにこ笑顔で言ってくるゾシュキアに、ロワは申し訳なさを感じながらも首を振る。


「俺、仲間のそういう話にあんまり深入りしたくないです。そんな話聞いても、一緒に仕事をする上で、ろくなことにならないと思うので」


「へー、そーいうもん? わりとドライに仲間との関係とらえてる系?」


「いやいやギっくん、それは早計だよ?」


「そうですよ、うちの推しの子舐めないでもらえます!? そんな程度の軽い感情で仲間なんて抜かせる子じゃないですから! ロワくん、最後まで心からの本音をぶつけてあげてくださいよ!」


「………俺だったら、仲間に自分の惚れた腫れたに、首突っ込まれたくないですから。仲間って関係と、恋だのなんだのっていうのは別物ですし。同じ土俵の上に立たせて、どっちが上だ下だ、って比べるものでもないっていうか……比べたりしたら、どっちの関係も歪んじゃうと思うので」


 神々は基本人間を見ただけでその心の内が見抜けるわけだから、改めて本音を最後まで話すってめちゃくちゃ意味ない話なんじゃないかな、と思いつつもエベクレナに逆らうという選択肢があるわけはないので、ロワは言われるままに最後まで思うところを語った。ゾシュキアは満足げにうんうんとうなずき、エベクレナは香を聞く時のようにうっとりと目を閉じてしまったので、まぁ女神さまたちを興じさせる役には立ったんだろうと思うことにしたが。


 ギシュディオンニクは、そんな二人を眺めて苦笑しながらもうなずいた。


「ま、言いたいことは理解した。男として、それなりに気持ちはわかるけど……君的には、仲間の恋バナも拒否感覚えちゃう感じ?」


「少なくとも、本人がいない場所でするべきものじゃないと思います」


「なるほどねぇ……こりゃ、エベさんが目の色変えちゃうわけだわ」


「え?」


「いやこっちのこと。じゃあ、基本的には聖女ちゃんとジルくんの間にそーいう関係が結ばれるかも? ってなった時も、基本的にはおせっかい焼かない感じなんだ?」


「そうですね。ジルが助けてくれ、手を貸してくれ、っていうんなら別ですけど、そうでなければ放っておきます。余計なお世話になる可能性の方が、はるかに高いと思いますし」


「ま、正論だな。ただねー、なんっかフラグくさいっつーか……そーいうこと言ってる奴が、どーしよーもない状況で、後腐れありまくる面倒ごとになるのを承知の上で、そーいうおせっかいを焼かざるをえない状況に陥る、ってわりとあるあるだと思うんだけど。大丈夫? その覚悟できてる?」


「……とりあえず、そういう不吉な予感に関しては、実際に起こってからなんとかする方向で……」


 神ご自身が、『わりとある』なんぞと明言している段階で、不吉な予感というより八割がた的中しかねない不吉な未来であるような気はしたが、ロワとしては正直それ以外に答えようがない問いだったのだ。

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