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人次元では最推しです  作者: 聿八路彰
第九章 聖国の灰聖女
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9ー4 黄金の雲

「っつかさー。真面目な話さー。なんで俺があの人と話しなきゃなんねーのー? どーせ明日もまた今日みてーなどーでもいー話しなきゃなんねーんだろ? ぶっちゃけ普通にめんどくせーよ」


「自業自得だろうが。曲がりなりにも一国の信仰の象徴に不用意な発言をするからだ。面倒を避けたいのなら、そういう相手には恐れ入りますとひたすら頭を下げていればいいだけのことだったろうに」


「っつかな! それを言いてぇのはお前よりもはるかにこっちだからな! お前が言いたい放題言いやがらなけりゃあ、あんな依頼持ち出されたりしなかったし、この街に一日多く足止めされるなんて羽目にもならなくてすんだんだっつぅの!」


 その日の夜、夕食の席で、いつものようにそんないまさらながらの無駄話をする。


 宿の夕食のメニューの中にもガレットがそれなりの種類書かれていたので、せっかくだからそれを頼み、あとはライ麦パンとシチュー、というごくありふれた食事。だが味は案外悪くない。イシューニェンタはそれなりの大きさの国土、すなわち農地を有しているので、それなりの食文化も有しているということなのだろう。


「うっさいなー、だったらさー、俺があれこれ言う前にそーいうこと教えてくれときゃよかったじゃん! それもねーのにえらそーなこと言われる筋合いねーんだけど!」


「お前が偉そうとか抜かせる筋合いこそねぇだろうがよ! 人にあれこれ求める前に、まず自分省みろや!」


「というかそもそもな、あの状況で口を挟めるわけがないだろうが。一国の信仰の象徴が、自身の信仰についての疑念を打ち明けてきているんだぞ? 門外漢が横から口を出して不興を買うよりは、お前一人に任せて責任をすべて押しつけた方がまだマシな結果に終わると思ったんだよ」


「へ? なにそのぎねんって。あの人そんなこと言ってた?」


「自信の信ずる神に、なぜ人々をお救いくださらないのかと問いたがっている、というのは疑念に入らないのか? まぁ、宗教問題については僕は門外漢だから、見当外れなことを言っていたら謝るが……」


「けんとーはずれっつーかさぁ……あーいう風に、なんかムダにややこしいこと考える奴、神官の中にはわりといるっつーかさぁ……」


「ほう。まぁ、曲がりなりにも信仰に一生を捧げようというんだから、神学論争やら哲学的思索やらが好きな人も多いだろうからな」


「多いってほどでもねーけど。まーうちのゾシュキア神殿がたまたまそーいうとこだったのかもしんねーけどさ。そんでもあーいう風にあれこれ考える奴はやっぱたまにいたし、そーいう奴はどんどん思ってること口にして、周りの人と話し合った方がいい、みたいなことはいわれてたぜ。一人で考えてると、頭ん中のことだから、どんどん理屈が現実離れしてっちゃうからって」


「へぇ……つまりお前が言いてぇのは、あの聖女さまがお前にああだこうだ言ってきたのは、神官としちゃごく普通の話だから、気にする必要ねぇってことか?」


「んー、まー、そんな感じ。まー三日も話し合わなきゃなんねーってのは、フツーにめんどくさいけどさ」


「けどまー、冒険者ギルドできっちり正式に依頼の契約やらなんやらすましちまったわけだから、ばっくれるわけにもいかねぇだろ。せいぜいがんばるしかねぇんじゃねぇか、俺は行かねーけど」


「ずっりー! 俺一人で行かせる気かよー!」


「俺もわざわざつきあう気はしねぇなぁ……聖女さま相手なんだから礼儀正しくしてなきゃなんねぇし、一日中それ続けるなんてぇのはさすがに面倒だ」


「お、じゃあ俺の稽古につきあってくれよ。やっぱ稽古相手がいた方が鍛錬もはかどるし」


「まぁ……明日一日くらいなら、な」


「僕はとりあえず明日は同行するつもりだぞ。お前一人を放置する方が気になって、どんな勉強も手につかなそうだ。それに、僕の場合どんな鍛錬も、黙って椅子に座っているしかできない状況でもさして不都合なく可能だからな」


「俺も一緒に行くよ。なにか役に立てるかどうかはわからないけど」


「むー。まー、二人ついてきてくれるんだったら、いいってことにしとくけどさ……」


「だから態度がでけぇってんだよお前は! ちったぁ謙譲の心ってもんを持ちやがれ! 自業自得で仕事増やしといて、偉そうなこと抜かせる立場だなんぞと考えてんじゃねぇ!」


「うっさいなー、いーじゃんどうせカティはついてきてくんないんだからさー!」


「滞在時間が一日増えたっつぅだけで普通に充分迷惑なんだっつぅの!」


 そんないつもながらの無駄話をぐだぐだと続けたのち、ロワは部屋に引き取って早々にベッドに入った。基本ずっとジルディンの飛翔術で運んでもらっていたので、今日街中をうろついている間中ベッドで休んでいるのと同程度の負荷しか体にはかからなかったわけだが、心身の賦活には睡眠時間もやはり大事だ。


 イシューニェンタはそこまで水が豊富な土地柄でもないし、ゾシュキーヌレフのように海水を浄化して生活用水にする機構が発達しているわけでもないので、風呂は基本贅沢品。身体の汚れは濡れ布巾で拭いてなんとかするしかない。幸いジルディンの浄化術で、きれいな水は簡単に手に入るので、寝る前にざっと身体を拭くくらいのことはできた。


 今日同室のジルディンとカティフは、まだ宿の食堂で無駄話を続けているようだ。明日ジルディンをきっちりジリオシャクラのところへ送り届けるためにも――そして、エベクレナのためにも、さっさと休んでおこう、と目を閉じた。






 ―――そして気がつくと、神の世界以下略。


 きらきらとまばゆく輝く雲を背景に立つ、雲よりもはるかに美しくきらめく女神さまは、ぺこりと一礼したのち、高台から滑り降りてロワの前に立った。


「一日ぶりですね……毎夜毎夜、お疲れのところを呼びつけて、本当申し訳ありません」


「いえ、気にしないでください。疲労回復の術式はきちんと使ってますし……ここ数日だいぶ疲れてたのは確かですけど、エベクレナさまとお話しできない方が、たぶん落ち着かないと思うので」


「おぅふ……息をするかのごとき勢いでのファンサありがとうございます……それが私一人に向けられてるとか、なんかもういろいろ死にそうですが……それはさておき、ですね」


 エベクレナは口元をぬぐってみせたのち、ロワに改めて向き直る。


「実は、ですね。ロワくんは、現在滞在中の国……イシュニで、あと三日間足を止められるわけですよね?」


「はい、その予定ですけど?」


「だから、というわけじゃないんですけど。その三日間に合わせて、ゾっさん……ロワくんたち流に言えば風の女神ゾシュキアと、あともう一人、ゾっさんの知り合いの男性の神の眷族を、この夜会話の面子に加えてもらえないか、っていう話なんですけど」


「え……俺はもちろんかまいませんけど。なんでですか?」


「ええと……まぁ結局のところ、これも調査の一環ではあるんですけど。前回というか、ビュゥユで、ロワくんと私とビュセさんで、ここで話、しましたよね? その時のデータをより発展させたものを取りたいんだそうで……私と、もう一人女性の神の眷族と、さらにもう一人男性の神の眷族、っていう組み合わせで、ロワくんと話した時のデータがほしいんだそうです。エンジニアの人たちは」


「なるほど……ちなみに、なんでゾシュキアさまとなんでしょう?」


「ええとですね、エンジニアさんたち的には、まず精神的に親和性の高い……要するに仲のいい相手同士で話してる時のデータがとりたいんだそうです。前回のビュセさんの時は、わりと口喧嘩っぽくなっちゃったこと多かったせいか、仲間内同士で話してる時のデータと、けっこう違う数値が出たんだそうで……なら男女での仲良しはどうなるのか、ってことらしいですね。ゾっさんめちゃくちゃ顔が広いから、仲のいい男性の神の眷族いっぱいいますし」


「ああ~……はい、わかりました。くり返しになりますけど、俺の方はぜんぜんかまいません」


「ありがとうございます、それじゃちょっと待ってくださいね。今ちゃちゃっと呼び出しかけますから」


 言いながら水晶板を軽くいじった、と思うや、自分とエベクレナの中間あたりに、新たに二つ水晶板が出現する。同時に椅子と卓も出現し、ロワとエベクレナが卓を挟んで向かい合う両脇を、新たに現れた水晶板が埋める格好になった。


 そのロワの方から見て右側を占める水晶板が、くるりとこちらを向いて器用に頭を下げてくる。そこに映っていたのは、予想通りゾシュキアだった。


「おっひさー。や、まぁおひさっつーほどしゃべってなかったわけでもないけど、ノリ的に。今日は全力でゆるっゆるのおしゃべりさせてもらうんでよろー」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 ゾシュキアがゆるい感じのおしゃべりをしていなかったことなどロワの記憶にはなかった気がするのだが、そんな感情を棚上げにしてとりあえず頭を下げ返す。尊敬する女神さまの一人に頭を下げられて(水晶板に映るゾシュキア自身は別に頭を下げていなかったとは思うが)、ああだこうだ細かいことを言い立てるような奴でいたくはない。


 続いて、ゾシュキアの対面の水晶板、の中に映る男性神もぺこりと頭を下げてきた。こちらは神ご自身に頭を下げられている形になるので、少しばかり気後れする。


「はじめまして。自分はギシュディオンニク。人次元にんじげんでは試練と成長の神、って呼ばれてる神の眷族です。仕事で来てるとはいえ、気楽に仲良くしゃべるように、ってエンジニアの人たちからも言われてるんで、本気で気を抜いて楽しくしゃべらせてもらうつもりだから……君には反応に困る話題が多くなっちゃうかもしれないけど、できる限りフォローはするから、よろしくね」


「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」


 ロワも頭を下げ返しながら、こっそりと相手の様子をうかがう。ギシュディオンニクはごく朗らかというか、穏やかな笑顔を浮かべたさわやかな印象を与える方だった。神にふさわしい絶世の美貌を有し、神威や威厳も間違いなく有しているのに、その表情のせいか優しい声のせいか、威圧感をあまり感じない。


 敵意や拒否感もまるで感じないので、ビュセジラゥと違い、ギシュディオンニクの方から自分やエベクレナたちに悪感情を抱いているということもないのだろう。仲のいい者同士のおしゃべりをしてほしい、ということなのだから当たり前だが。


 そこに、エベクレナがやや緊張の色をにじませた声を上げる。エベクレナにしてみれば、自分に大きく関係する仕事に呼びつけてしまった形になるのだから、場の話題を主導するべきだと考えたのだろう。基本人見知りぎみのところがある方だから、やや声が硬くなってしまったのは否めないが。


「ええと……今のところ、話さなくちゃいけないような議題もないので、ただのよもやま話として、なんですけど。ギシュディオンニクさんとゾっさんって、どういう風に知り合われたんですか?」


「ギクでいいですよ。なんならギっくんと呼んでくれてもオッケーです。……そうですねぇ、どういう風に、と聞かれると……言ってもいいかな、ゾっさん?」


「もちろん。どんどん言っちゃって、なんでも明かしてくれてオッケーだから」


「それじゃあ正直に言っちゃうとですね……まぁ要は趣味友というか、自分の推しのこーいうとこが好き、っていうのを語り合うサークルで知り合って、仲良くなったんですよ」


「へぇ……ゾっさんと趣味が合った、ってことですか?」


「はい」


「ゾっさん、女子でも普通に推しにできるくらい雑食ですもんね。私無駄にこだわり強いんで、どんな趣味の相手とでも仲良くなれるっていうのはちょっとうらやましいです」


「や、ゾっさんのそういうとこは自分も好きですけど、俺とはそっちで仲良くなったわけじゃないですよ?」


「え?」


「自分ぶっちゃけ、ガチめのショタコンなんで。少年についての好みが、自分とゾっさんわりと合うんですよね」


 ロワにとってはいつも通りに意味のわからない言葉をギシュディオンニクが告げるやいなや、エベクレナの表情は一瞬見事に固まった。


 ただ、固まったといっても、本当に一瞬のことだ。それからすぐにエベクレナは気合を入れた顔で笑みを形作り、ギシュディオンニクに再度話しかける。


「そうなんですね。ゾっさんの好みで把握してるのって、ジルくん……こちらのロワくんのパーティ面子の一人に似た感じの顔が癖、ってぐらいなんですけど……ギクさんも、そういう感じの子が好みなんですか?」


「いやエベクレナさん、そう気を使わないでいいですから。さっきびっくりして一瞬固まったでしょ? そんなの気にする必要全然ないですって。こっちはそういう反応織り込みずみっていうか、予想した上でやってきてるんですから、そういうとこ素直に出してくれて全然オッケーなんで」


「っ、す、すいません……私その、前世でもあんまり、というかほとんど男性と話す機会がなかったので、男子好きの男性と関わる機会っていうのも全然なくて……ええとその、なんていうかその、ギクさんはやっぱりその……若い子好きの男性同性愛者、ってことでいい、んですかね……?」


「違います」


「えっ……」


「や、まぁそういう人もいるっていうか、普通に多いですけどね。俺は前世では普通に結婚して子供いましたし、リアルの男子見て顔が緩んだり、とかも全然経験ないですから」


「え、ええと……じゃあ、二次専的な……?」


「まぁ、近いですね。俺の性癖ぶっちゃけちゃうとですね、むっちむちのぷに系の二次元『男子』が好きなんです。守備範囲は『ピーッ!』までで、『ピーッ!』に入ったらアウトですね。というか毛とか生えた時点でアウトっつーか、マジありえねぇってレベルです。俺的には、むっちんむっちんのぷにっぷにの、体中すべすべやわやわ卵肌、って感じの男子が『ピーッ!』狂うとことか見るともうガチでクる、っつーか」


「え、えと、は、はぁ……」


「あ、それなら女子でいーじゃん、的なこと思いました? まー俺、最初はロリ系からこっちの道に入った奴なんで、そのご意見にもうなずけちゃうっつーか、今でも普通に好きなんですけどね、ろりぷに系女子。ただですね、俺からすると、女子って基本的に愛でる対象なんで、あんまひどいことできないんですよ、脳内でも。そーいう本とかでも、ひどいことされてるろりぷに系女子見ると、『かわいそうだろ!』『女子にひでぇことすんな!』とか言いたくなっちゃうっつーか。男子だったらそこらへんの遠慮なしでいけるっつーか、がっつり好きなだけ『ピーッ!』できるっつーかね!」


「そ、う、ですか……」


「あとまぁビジュアル的に、むちぷり系男子の肉にうずもれそうな『ピーッ!』とかすげぇクるんですよね! 俺がぷに系好きなのは、『ピーッ!』が映えるってのもありますけど、お肉を好き放題にいじめられるっつーか、いたぶれるっつーのもだいぶあるんですよ! お肉過多な子って、基本自己管理ができてないわけじゃないですか? そーいう子におしおきっつーか、上の強い立場で情けない『ピ―――ッ!』に罰を与える、短小『ピーッ!』をいじめ倒す、みたいなシチュもうマッジ好きで!」


「は、あの、はい……」


「なんで基本は穏やかないい子を指導して服従させる、みたいな流れが好みなんですけど、クソガキを徹底的にしつけてわからせる、っつーのも大好きなんで、今のゾっさんの推しの子もわりと好みの範疇ですよ。あ、今あの子はそこまでぷにってないのに、って思いました? まぁ確かにそういう意味では俺の好みから外れてはいるんですけど、俺基本男子の一番好きなタイプの顔が幼児顔っつーか、赤ん坊っつーか……赤ちゃんの人形みたいな顔が好きなんですよね。そこがゾっさんの好みとかぶってるんです。なんであの子をぶくぶく太らせて、わからせるっつーのはだいぶイケるシチュっつーか――」


「はぁ、あの、はい………」


 なぜかエベクレナの顔がどんどん蹌踉としていくのを見て取り、ロワは心を決めて一歩前に踏み出した。ギシュディオンニクがなにを言っているかはいつものようにロワにはまるでわからなかったが、ピーという音が何度も鳴っていることからして、少なくとも穏当な話だけをしているわけではないことはわかる。


「あの、すいません。お話しの最中に申し訳ないんですが、少しよろしいでしょうか」


「えっ……」


「あ、うん。なに?」


「失礼な言い方になっていたらお許しください。その、さっきからエベクレナさまが、少しお加減が悪いように見受けられるのですが」


「え……」


「え、あ、もしかして体調悪いのに話につきあわせちゃってました? だったら申し訳……」


「いえ、あのっ……」


「私見を申しますと、体調が悪いというより、ギシュディオンニクさまのお話が、いささかエベクレナさまに負担をかけているのではないか、と。ギシュディオンニクさまがなにをおっしゃっているのか、神ならぬ自分には理解することはできませんが、男性神であられるギシュディオンニクさまにとって当然の事実であることが、女性神であられるエベクレナさまにとっては精神的に負担になる、という事態もあるかと存じます。差し出がましいことを申しますが、できれば女性には、もう少し気を使っていただけると……」


「………ぐへえぇぇえ!」


 ロワの言葉に、真っ先に苦悶の声を上げたのは、なぜかエベクレナだった。


「えっ、え、エベクレナさま……?」


「キツいっ……マジで、ガチでキツいっ……! 推しに女子として自分が労わられるとか、いたたまれなさすぎて悶死するッ……! 自分がふらふらになってたのは女子としてどうこうじゃなくて、フ的に趣向のズレてる話を聞かされてしんどかっただけだというのにッ……!」


「え、ええと……?」


「あの、ホント別に、私そんなロワくんが思うような理由で苦しんでたわけじゃないんで! 苦しんでたっていっても本当ちょっとショック受けてふらふらになってただけなんで! そういう風に気とか使わなくていいですからホント!」


「え、でも、衝撃を受けてふらふらにはなってたわけですよね? ギシュディオンニクさまの話で。それなら男の方が、気を使ってしかるべきなのでは?」


「いやだからそのですねなんというか、そういう女性的なデリカシーがうんぬんという話ではなく、いやまあデリカシーといえばデリカシーなのかもしれないですけど、あくまで趣味趣向の話というか、私が私である以上譲れない推しに対する想いと相容れない次元で推し的な話をされて、ちょっとしんどかっただけでですね……ああぁ推しについての話を伝えられないからなに言っても絶対気ぃ使わせる感じの話になってしまうッ! 自分のこんな反応すら真面目に大丈夫かと気を使わせちゃう印象になっちゃうとかっ! 自分で自分の業が呪わしい……ッ!」


 頭を抱え、喚き、卓の上でのたうち回るエベクレナ――の前で、ふいにふふっ、とギシュディオンニクが笑い声を立てた。反射的に視線を向けたロワに気づいているのかいないのか、ふよふよとエベクレナの前に下り、ぺこりと水晶板の頭を下げさせてみせる。


「まぁ、エベクレナさんの業はともかく。俺の話し方もよくなかったですね、エベクレナさんが精神的にショックを受けてるなんて、まるで気づきませんでした」


「え……あの、いえ……」


「ゾっさんの仲良しの友達だっていうから、下ネタいける系の人だと勝手に思い込んでたんですけどね。初対面の女性にする話じゃなかったかも。どうもすいませんでした、エベクレナさん」


「い、いえ……というかっ、私別に下ネタがダメとかいうんじゃないですからね!? 推しに向ける解釈というか、情念的に『自分と違う』って思っただけで! なにより愛している存在のことだからこそ、趣向や主義のちょっとしたズレがすっごいモヤるっていうかストレスになるっていうか……!」


「あー、時々フの女性ってなぜかたまに下ネタがダメなわけじゃない、って主張しますよね。俺からすると、そこらへんがどう違うのかいまいちピンとこないんですけど……」


「えッ!? なんでですか、そこめっちゃくちゃでかい違いじゃないですか! 曲がりなりにもフの女が、下ネタダメなピュアな女だなんて舐められて黙ってるわけにはいかないですよ! 私はただ推し活する者として、推しに対するスタンスの違う相手とは基本魂の根本から相容れないということが言いたいだけでですね……!」


「あらー、初っ端から嫌われちゃいましたかー。こりゃ残念」


「えっ、まっ、違っ……! べ、別にギクさんが嫌いとかそういうわけでなく……! 本当に、ただひたすらに、推しを愛しているがゆえの業というかなんというかでして……!」


「あはは、わかってますって。前世でもたまにそういうタイプの人と飲んだりしてましたし、気にしてませんよ。俺の存在とか推しに比べれば塵芥っていう価値観も含めて、ちゃんと理解してるつもりですから」


「ぐ、ぐぬぅ……そう言われるとなんか私がすごい人非人のような……かといって違うとも言い切れない辺りが本当我がことながらアレですが……!」


「弄ばれてるねぇ、エベっちゃん。まぁエベっちゃんって真面目に弄ばれやすいタイプだけどさ。大丈夫? ホストとかに本腰入れて口説かれても、ホイホイ契約とか結んじゃダメだよ?」


「結びませんから! というかホストクラブになんて行きませんから! 私三次元の男見ても基本キモいって思っちゃうタイプなんで!」


「うっわ……エベっちゃん、うっわ……そういう子だってわかってはいたけど……」


「ガチで正気疑う視線ぶつけるのやめてもらえます!? 本気で心が抉れるんで!」


「あっは、まぁホント、けっこういますからエベクレナさんみたいなタイプ。うまいこと口説かれるとけっこうコロッといっちゃうけど、そういう出会いがなかったら一生独身って感じの。でもこの世界だったら独身の方が圧倒的多数だし、別に気にしないですよね、前世から一生独身でも?」


「あんたら……別にいいですけどけっこう言いたい放題言ってくれますね……」


「あー、気に障ったらすいません。ゾっさんからよく話に聞いてるもんで、初対面って気がそんなにしなくって」


「え……ゾっさん、私のことどんな話題にしたりしてたんですか……?」


「いろいろですけど……まぁ、基本チョロい子だっていう話はよくしてましたね」


「ちょっとゾっさん!?」


「いやだってエベっちゃん真面目にチョロい子じゃん……あんた、ギっくんがうまいこと自分のこと掌で転がして、距離縮めてってるのに気づいてる? ギっくんに悪気があったら、うまいこと性犯罪契約結ばされて人生転落死パターンだよ」


「えっ……なんですそれ。え、ジョークですよね。単にゾっさんが私からかってるだけですよね?」


「あっはっは」


「笑ってないで質問に答えてもらえません!? ていうか本当もうそういう話、ロワくんの前でするのやめてほしいんですけど!」


「あの……すいません、エベクレナさま。俺も正直、ゾシュキアさまのおっしゃる通りだと思うというか……もちろん、神々の世界でぞういう下劣な犯罪が行われてるとは思わないんですけど、一応もう少し気をつけた方がいいのでは、というように思うんですが……」


「えっ」


「ほーれみー。ってかね、エベっちゃん、エベっちゃんのロワくんを永遠にピュアボーイにしておきたいっていう欲望の是非についてはまぁおいとくとしても、少なくともこの手の犯罪系の話についちゃ、エベっちゃんよりロワくんの方がよっぽど詳しいから! 犯罪者とまともに渡り合ってきたこともある子の人生経験舐めちゃ駄目っしょ」


「え、え、えぇえ……」


 エベクレナに愕然とした表情でがっくりとうなだれられ、ロワは(一応善意から忠告したわけではあったものの)、ある程度予想できた反応そのままが返ってきたことに、小さくため息をついた。

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