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人次元では最推しです  作者: 聿八路彰
第八章 女王国の第十七王女
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8-33 夜会・2

「……ふん、馬鹿馬鹿しい。男に頭を下げられたところで、こちらは少しも嬉しくも楽しくもない。貴様らのような害虫に許されることは、我ら正しき女の視界に入らず、ひたすらに頭を下げて許しを請うことだけなのだ。むろん、男に生まれた時点で正しき女に許される道理などないがな。そのような輩がどの口で神々がどうだと口にするか。身の程を知るがいい」


 少しでも男に言葉を引き出されたことが腹立たしかったのか、ぶつぶつとそんなことを呟いて、また夜会の映像に視線を集中させてしまうキジャレオーネ。その反応に、ライシュニディアの目がぎらり、と輝いた。


「あら、笑わせてくれるわね。正しき女? あなた、自分たちが正しいと思っているの。本気で?」


「っ……」


「性指向の比率に関してはおいておくとしても。そんな風に当たり前のように他者を、それも自分たちの性指向の範疇外にあるという理由だけで蔑み、見下すような人間が。それも、自分たちよりも圧倒的に高い能力を有する英雄候補にまでそんなことをほざく人間が、正しい、と? 本気で言っているとしたら正気を疑わざるをえないわね。まともな神経を有する人間なら、どこの誰でもそう言うわ」


「っ、我々が男を嫌うのは、単に我々の愛の範疇外にあるからという理由だけではありません! 男どもが、見苦しく醜く、反吐が出るほど野蛮で、身の程を知らぬ愚か者ばかりであるがためにっ……」


「笑わせないでよ。見苦しく、醜い? 私からすればあなたたちの方がよほど醜いわ。いやだと幾度くり返して言っても聞きもせず、しつこくしつこく私を寝台に誘う時の、あの鼻息を荒くしていやらしい目で私を眺め回す顔といったら、豚の方がよほどマシというものよ」


「ぶっ……!?」


「反吐が出るほど野蛮? 性別という、その人間個人の選択とはまるで関係のないところで、人を評価し、差別し、あからさまに蔑む、あなたたちの心の方がよほど野蛮でしょうに。曲がりなりにも文明人を装っておきながら、頭の中は原始人よりもはるかに低劣だわ」


「なっ、にをっ……!」


「身の程を知らないというのは、それこそあなたたちの方よ。言っておくけれど、この人たちは、やろうと思えばあなたたち全員を皆殺しにできるほどの力を有しているのよ? そんな相手に対してせせこましいいやがらせをし、蔑むなんて、頭が悪いにもほどがあるわ。この人たちがあなたたちを殺さないのは、この人たちが人間の世の理を重んじているから。その気になればあっという間に首を落とされているところを、この人たちの厚意によって許されているというのに、身の程知らず? あえて相手にしないでいてくれる上位者の厚意に甘えて大きな口を叩く、あなたたち自身のことでしょうに!」


「ひっ……」


 ライシュニディアの言葉に、キジャレオーネは半ば反射的に身を引く。どうやら、彼女にも(そして、ロワに感じられる範囲では、他の女騎士たちにとっても)、ロワの仲間たちの活躍というか、おそるべき強さを見せつけられたことは、それなりに衝撃だったらしい。あえて普段の、というかこれまで同様の自分たちの生活に集中して目を逸らしてはいるが、『目の前にいる男たちはいつでも自分たちを皆殺しにできる』という事実は、恐怖と怯懦を呼び起こす事実だったらしいのだ。


 それでも男に対して弱気な態度で接することは、それこそ彼女たちがこれまで積み上げてきた矜持というか、『自分たちは男どもよりはるかに優れ、正しい存在なのだ』という認識が許さないのだろう、あくまで接する際の態度は傲慢で高慢なままだ。だがそれでも戦う者として、目の前の相手が自分たちが束になってかかってもかなわない相手だという事実は理解できてしまっているのだろう、現実を思い起こされると怯えが顔を出す。それがまた彼女たちの誇りを傷つけるようで、すぐにすさまじく不機嫌になって目を逸らすのだ。


 だがライシュニディアは、キジャレオーネのそういう反応すらも容赦する気がないようで、目をぎらぎらと輝かせながら追撃する。


「怖いの? あれだけ身の程知らずな言動をくり返しておきながら? 自分より強い相手の厚意に甘えて、さんざん噛みついておきながら、いざ相手が自分に敵意を向けたら被害者面をするわけ? 笑わせないで、としか言いようがないわね。自分たちの見苦しさも、低劣さも、愚かしく醜いところにはすべて見ないふりをして、一方的に相手を責めておきながら、その反応? あなたたち、それでも人間? 人として扱われるに足る、最低限の尊厳も持っていないじゃないの」


「っ………!」


「なぁに、泣きそうな顔で私を睨みつけて。それが被害者面だ、って言っているのよ。私にさんざんいやがらせを、それもあたかも好意で善行をやってあげていますよ、という顔でやってきた、どころか本気でそれが善行だと思い込んでいる、最高にたちの悪い、最低の人間がしていい顔じゃないでしょうってね」


「っ、れは……!」


「あなたの常識とか、性的指向とか聞いていないの。微塵も興味がない、どころか聞くだけで耳の穢れだわ。自分たちの都合を、相手の心情や都合を考えずに押しつけるのが当たり前だ、と思っているような連中の言い分なんてね。傲慢で高慢で見苦しい、劣悪で醜悪で鬱陶しい、それなのに少し責められれば被害者面をして、相手を悪者にしてもいい、なんて考えるような身勝手この上ない連中の言い分を、まともな社会に生きている人間が、聞き入れてくれる相手がいるはずないでしょう?」


「っ―――!」


 泣きそうな顔で必死に口をぱくぱくと開け閉めするも、キジャレオーネの口からはまともな反論の言葉は出てこない。ライシュニディアの言葉に感じ入ったというよりは、すさまじい勢いでまくしたてられ、圧倒されて頭と口が動かなくなってしまったのだろう。


 ロワの経験からいっても、たいていの女性はたいていの男より口喧嘩が強い。細かいことに気づきやすい性分であることが多いし、主婦や奥方など、会話技術を磨きやすい、社交が必須となる仕事に就いていることが男より多いからだ。だが、それを考えに入れても、ライシュニディアのとうとうとまくしたてる言葉の勢いは大したものだった。これもやはり、彼女がそれだけ優秀な頭脳の持ち主であるという証左なのだろう。


 だから、ロワは、口を開いた。


「被害者と加害者なんてものは、簡単に入れ替わりますよ」


「―――なんですって?」


 ライシュニディア、のみならずその場の全員の視線がロワに向けられる。だが中でも特に鋭い視線を叩きつけてきたのは、当然ながらライシュニディアだ。


「あなたは、なにが言いたいのかしら?」


「被害者の経験があろうがなかろうが。どれだけ苦しめられていようがいまいが。人はいつでも簡単に加害者になれる、傷つける側に回れるんだ、ってことです。今あなたが身をもって示したようにね」


「っ――、これは!」


「俺は、ここに来る前にも、女性同性愛者の人とは何人も会ったことがあります」


「……だから、なにが言いたいわけ」


「彼女たちはみんな、切なくなるぐらい周りに気を使っていました。人を傷つけず、悪口や陰口も控え、できる限り周りに親切にし、それでいて八方美人とは言われないように、自分の意志や意見は周りを気遣いながらもはっきり口にして。どんな時も場の空気を和ませることに気を配り、人間関係が少しでもマシな方向に進むように、いつも懸命に周りに働きかけて。――女性同性愛者だという理由で蔑みや敵意を向けられた時に、そんなことを言う奴の方が最低の人間だ、と周りに思わせて、かばってもらうことができるように」


『――――!』


 その言葉は、ライシュニディアのみならず、キジャレオーネに対してもいくぶんかの衝撃を与えたようだった。目を見開き、驚きを示しながらも、きっとこちらを睨みつけてくる二人に、ロワはできるだけ淡々とした声で続ける。


「それだけじゃなく、あの人たちは、自分たちの女性に向ける視線についても、本当に気を使っていました。他の女性たちとは水浴びも着替えも一緒にしないし、着替えの時すらもできる限り同じ場所で着替えたりすることのないよう根回しを怠らなかった。自分たちが女性を性的な目で見る機会そのものを、全力でなくそうとしていたんです。それどころか、必要以上に親しくなることさえ避けている人がほとんどでした」


「……なぜ、そんなことが言えるの」


 低く投げかけられたライシュニディアの問いに、ロワは真正面から、やはり淡々と答える。


「その人たちに聞いたからですよ。なぜそんなことをしているのかって。その人たちの答えはこうでした。――『好きにならないために』。必要以上に親しくなって、恋愛感情を抱くことがないように、って」


「へっ? ちょ、ちょっと待ってよ、それおかしくね? 異性愛者を同性愛者が口説き落とすなんて、別に珍しい話じゃないじゃん?」


 ネーツェに黙ってろとばかりに服の裾を引っ張られながらも、それにまるで気づかずにジルディンが口を挟む。ロワは慌ても怒りもせず、そちらに視線を移して答える。この話は、できることなら、仲間たちに対しても伝えたいと思っていた話だからだ。


「ゾヌならそうだろうな。豊かで、人が多く、高い文明を保持しているから、同性愛に対する拒否感も小さい。だけど、俺が巡った土地は、その正反対――貧しくて、人が少なく、有する文明も程度の低い場所ばかりだった。そういう場所は、同性愛を許容する余裕がない。たくさん子供を作らないと、共同体が維持できないからだ。結婚も恋愛でなく、社会に都合がいいかどうかで定められるから、愛し合っている者同士が術法に頼ることでしか子供が作れない同性愛者たちは拒絶される。そんな場所で自分が同性愛者であると自覚したら、共同体を出奔する以外に道はないだろう?」


「そりゃ……まぁ、そっか」


「それに、なにより――自分の性的指向の対象外から、相手の性的指向の対象と同じ姿をしているってだけの理由で性愛を抱かれる、なんて体験を、好きになった人にさせたくない。そんな風に思う人が大半だったからだろうな」


「え……なんで? ど、どゆこと?」


「自分たちが、男たちにずっと味わわされてきた、最悪の体験だったからさ。自分が男を好きになる女と同じ姿をしているから、性欲を向けられる。それがどれだけ気色悪く、反吐が出るほどの拒否感しか覚えない体験か、その人たちは知っていたから」


『―――――』


「それは別に、相手の男が悪いわけじゃないってことも、その人たちは理解していた。その人たちのいた社会では同性愛は受け容れられない、つまり存在しないことになっている代物なんだから、好きになった相手がたまたま女性同性愛者だっていう可能性なんて、普通の男は考えない。でも、それでも、その人たちは強烈な不快感と嫌悪感を覚えずにはいられなかったそうだよ。自分の性的指向を、心情を無視して、相手の都合だけで欲望や感情を叩きつけられているとしか感じられなかった。それが心底気持ち悪かったから、男という存在そのものが苦手になってしまう人もいたほどに」


「……当たり前だ。真っ当な女性なら、そんな仕打ちに耐えられるわけがない」


「ええ。そういうことを、あなたはライシュニディア王女殿下にしてきたわけです。この国の女性がみんな苦手になってしまうほどの拒否感を覚えさせるような、相手の都合を無視して欲望や感情を叩きつける行為を」


「っ―――!」


「でも、それはあなたに限ったことじゃない。――そんな苦痛を味わわされた女性同性愛者の人たちは、みんな安住の地を探していました。ありのままの自分を受け容れてくれる、自分が自然な気持ちのままにふるまうことができる場所を。それはたいてい女性同性愛者の人たちが集まる集落や都市の一角で、放浪の末にそんな場所にたどり着いた女性同性愛者の人たちは、みんな喜び勇んでそこに根を張った。そして、しばらく経ったあとにまたその土地に行き会った時には、その人たちはみんなその土地に馴染みきっていました。女性同性愛者じゃない女性たちも、かまわず口説けてしまうほどに」


『っ………』


「それはある意味当然のことなんです。自分の感情を素直に表せることが、自分本来の在り方に正直にふるまえることがどれほどありがたいことか、抑圧されてきた人はよく知っている。だからこそ、その喜びをしゃぶりつくさずにはいられない。自分の感情を味わうことに夢中になって、相手の感情に向ける気遣いをなくす。なにより、その人たちのいる場所は、『自分と同じもの』ばかりが集まる場所なんです。『自分と違うもの』がいない場所で、自分と違う視点に、考え方に配慮し続けるのは難しい。だってそれは、ものすごく大変なことなんですから」


「大変……? って?」


「『自分は間違っているのかもしれない』って、いつも思い続けなくちゃいけなくなるからさ。『自分は正しい、過たない』って考える方が、すごく楽で、その上生きる分には効率がいい。ジル、お前だって、今日自分が食べた食事が他の命を奪うことで成り立っているってことや、ゾヌの豊かさが他の貧しい国々から金を上手に巻き上げ続けることで生じているってことや、孤児の自分が今日まで十分な衣食住を得ることができてきたのは、貧しい国から奪い取った豊かさによるものだ、なんてこといつもいつも気にし続けていたくはないだろ?」


「そっ、れは、まぁ、そうかも、だけど……って、っていうかそーいう問題なのかよこれ!?」


「そういう問題だよ。『自分は間違っているのかもしれない』って思い続けることは、すごく疲れることなんだ。本当にいつもそう疑い続けて、犯した過ちを正そうと思い続けていたら、生きることさえ難しくなるぐらいに。毎日自分への疑心を、自分を斬り裂く刃を懐に抱き続けるってことは、自分をいつも傷つけ続けるってことなんだから。……逆に言えば、『自分はいつも正しい』と思い込むことさえできれば、敵国の住人の虐殺も、家族や弱者に対する虐待も、同僚や後輩に対するいやがらせも――自分を傷つけた相手に対する過剰な復讐も、心地よささえ感じながらやれてしまえるんだよ」


『…………!』


 息を呑むような気配が、ビュセジラゥリオーユ国民である三人、全員から伝わってきた。中でもライシュニディア王女は、瞳に殺気すらひらめかせ、強烈な敵意と憤懣に満ちた眼差しをロワに叩きつけてくる。


「それが、いけないことだと? つまりあなたはこう言うわけ、私に。やられっぱなしになっていろ、と。これまで、生まれてからずっと、私はこの国の人間に苦しめられ続けてきたというのに。この国が吐き気がするほど嫌いになるまで、傷つけられいたぶられてきた相手に、復讐する権利も私にはないというわけ?」


「いいえ」


 きっぱり首を振る。驚いたように目を瞬かせるライシュニディアに、素直な感情を端的に告げた。


「傷つけられた人間が復讐する、それを責める権利こそ普通の人間にはないだろう、と俺は思います。復讐の権利、といっていいものかどうかはともかくとして、復讐が悪いものだとは俺は思わない。加減を知ってさえいれば」


「っ……」


「自分は自らの感情のために、屈託や憤懣を解消するために、相手を利用しているんだってことを。かつて自分を苦しめた人間と同じことをしているんだってことを、自覚してさえいるならね。やり返す人間は、人を傷つけ返す以上、自分への疑心の刃を持ち続けないわけにはいかないんです。それを忘れれば、いつでも復讐者は『自分はいつも正しい』と思い込んでいる連中と同じ、どんなひどいことも鼻歌交じりにできる、心ない人間になってしまう。――この国の人々と、同じように」


『ぇっ……』


「この国の人たちも、最初はそういう気持ちだったんだろうと思うんです。自分たちは虐げられてきたのだから、苦しめられてきたのだから、少しくらい仕返ししてもいいだろう、思い知らせてやってもいいだろう。自分の気を済ませるための、復讐の禊だったんじゃないかと。けれどそれが定着し、当たり前のことになってしまえば。自分たちを顧みる目を忘れてしまえば。自分たちだけで結束して、それ以外の視点を、世界を排除してしまえば。暴走するのも、過熱するのも、いきすぎるのもやりすぎるのも当然だと思います」


『…………』


「『正しい』場所から、安全圏から、他人を攻撃するのは楽しいことだから。『自分は正しい』と思い込んで、一方的に他人を攻撃するのは心地いい。それがかつて自分が味わった苦しみを拡大再生産してるんだ、なんてことには気付かずに。それがどれほどの醜行で、どれほど人を傷つけ、苦しめ、損なうものかということを無視して。だから――『自分は正しい』と言うのならば。『自分は真っ当だ』と思うのならば。これは忘れてはいけないことだと思うんです」


「え、これ……って?」


「自分たちはいつでも、加害者になりうるんだってことを。世界で誰よりってくらいに苦しんでいても、泥を食むような辛い日々を送っていても、自分は、自分たちはいつでも他者を苦しめられるんだってことを。苦しめることができてしまうんだってことを。これまで自分がひどいことをしてくる相手に思ってきたように、敵意や殺意を抱かれ、憎まれ恨まれ疎まれて、自分のいない世界こそを何人もの人に望まれうるんだってことを。忘れれば、誰でも……俺も、あなたも、加害者に――『迫害する側』になってしまう。その自覚は、常に抱いてなきゃいけないと思うんです」


『…………』


「自分に対する疑心――自分を斬り裂く刃の中でも、これは間違いなく、抱き続けなきゃならない刃のひとつだと思うから」


 そう最後に付け加えると、ライシュニディアはふぅっ、と深く息をついた。ジュディオランは完全な無表情で、キジャレオーネは顔を真っ赤にしてこちらを射殺しそうな勢いで睨みつけている。だが、三人全員に、ロワの言葉が深く刺さったのは、未熟なロワの同調術でもしっかりと感じ取ることができた。


「………あなた、もしかして、キジャをずっと退席させなかったのは、これが理由なの? この国の女にも、あなたのこの気持ちを、伝えなければと思ったから?」


「見当違いの思い込みで、『加害者』になって、あなたに俺の恨みつらみをぶつけてしまったわけですからね。そのくらいの償いはしなくちゃと思ったし……単純に、この国の人たちに、この当たり前の理屈を伝えておきたいと思ったし。俺の立場で伝えられそうな相手というのは、キジャレオーネさんしかいなかったので。女王陛下は立ち位置が違いますから、伝える相手としては不適切でしょうし。なにより……俺が請けた仕事は、あなたの教師なので。教え導く側として、このくらいは伝えておかなくちゃと思ったんです」


「なるほどね……」


 ふぅっ、ともう一度息をついてから、ライシュニディアはぎっとロワを真正面から見据え、口元だけでにやっと笑ってみせた。その表情は作り笑いと言えば言えるのだろうが、不敵で苛烈なその笑みは、ライシュニディアにひどく似合っている。


「覚えておくわ。たぶんあなたのことも含めて、一生忘れないでしょう。最後まで楽をさせてくれなかった、最高の教師としてね」


「それは……光栄ですけど、さすがに過分な評価じゃないですか?」


「仕事の評価っていうのは、基本的に顧客がつけるものでしょう? あなたはそれくらい、私に合った教師だった、ってことよ」


 そう言ってふふんと鼻を鳴らすその顔を見て、なんとなくロワは、『この子はたぶん何人もの男に惚れられるだろうな』と思った。その惚れ方が、彼女の意に沿うものであるかどうかは、ともかくとして。

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