第六話 不意な危機には妖精を
宿泊学習で一人山に登った先には、川で溺れているところを助けてあげた木沙良太晴が。
それから二人の趣味の合致を知った和馬は太晴に心を許し、そのまま宿泊学習は終わっていったのだった。
今はLv.5でステータスは【ちから:10 かしこさ:7 MP:10】だ。
宿泊学習は終わり、1学期のテストも終わった。もう少しで夏休みに入る。
俺は宿泊学習で出会った木沙良太晴という同級生とゆっくりとした日常を送っている。
休み時間は談笑し、昼休みには俺の、いつものおすすめスポットである、グラウンドのそばの芝生で一緒に弁当を食べ、食べた後は二人で考えた、アニメの自作IFルートのストーリーの磨きをかけて過ごし、下校はたまたま家が近かったため同じ道を通って一緒に帰る。
という本当にのどかな生活を毎日送っていた。正直ここまで平和だと、ラノベでは敵が襲ってきたり、事件が起きたり、と何か悪いことが起きるのがテンプレだ。
「和馬君、今日も一緒に帰ってくれてありがとう!」
相変わらずテンションが高いまま話すやつだ。
「おう、また明日な」
というように、いつも通り何気ない会話で解散していった。俺は振り向いて、太晴の背中を遠目で眺めながら後ろ歩きで自分の家に帰った。
玄関のドアを開けながらフェイルは俺に話しかけてきた。
「最近、カズカズ楽しそうじゃない? やっぱり木沙良くんのおかげなの?」
「まあそうだな、趣味がちょうどマッチしてんだよ」
「それは良かったわ。じゃあもっと友達も増えていくかもね」
「よしてくれ。俺には太晴がいれば十分なんだよこれ以上いたら大変になるだけだ」
俺が靴を脱ぎながらそう言い返した直後、俺の家の郵便物入れに何か入れられた音がした。
いつも通り手紙の中身を確認しようとした。が、なぜか俺の手がその手紙に触れることに対して拒否反応を示しているような感じがした。恐る恐る手紙に手を伸ばし、手紙を掴み、体の方まで近づけた。
中身を読む。
『お前の唯一の友人は頂いた。返してほしくば、誰にも言わず一人でここへ来い』
と書かれており、その下には住所と思われる文字列があった。頭が一瞬真っ白になった。
「太晴をさらって何になるんだ。別に世間一般で俺も太晴の家もあまり金は持っている方ではないはず......」
「とにかく行ってみましょ!」
そうフェイルに言われたのでその住所に向けて行くことにした。
俺は走っている間に太晴がさらわれた理由をひたすら考えた。喧嘩を売ったり買ったりした覚えはない。誰かの秘密を握ってしまったわけでもない。ではなんだ? 考えても考えても理由はわからないまま。何も答えが出ないままただただ走っている。
そして奴らの基地についた。廃工場のような場所だった。工場の真ん中には縄で縛られた太晴がいた。ゲームでしか出てこないような展開だったが、そんなことを考える暇もなく俺は太晴のところへ真っ先に走っていった。
すると左右から、見るからにどこかの族に入っているかのような服を着たヤンキーたちが出てきた。どのヤンキーもなにかしらの武器を持っている。そこへ、族の長のようなオーラを感じる人が現れた、と思うとどこかでみたことある顔と体型をしている......。『いつぞやの、下校中に俺が逃げた悪ガキだ。』
「この前は俺が聞いたことに対して無視した上に、よくも逃げてくれたな。今ここでお前の秘密をもう一回聞いてやる。答えなければ......どうなるか分かってるよな。お前はあの時、誰と話してたんだ??」
俺は何があってもフェイルのことは誰にも言わない。そう決めている。世間に出回ったらこの族にされること以上にひどいことが社会の洗礼としてされそうに思ったからだ。だからその質問に対しても断固拒否した。
「ならば仕方がねえ。俺に歯向かった刑で殺してやる!! お前らかかれーーー!!」
いきなり戦闘になった。大体敵は10人ぐらいだろうか。もしかしたらたたかうこともあろうかとここにくる時にスピードアップを使わないでおいて良かった。早速フェイルにお願いしてLv.4にレベルアップしたときに習得した魔法、『パワーシェア』を発動した。
ちからのステータス10のフェイルの能力が俺にも反映されるようになる。残りMPは10。パワーシェアは一回で1分、効果が持続する。そして消費MPは3だ。ということはこいつらを残り3分で倒さなければ俺がピンチになることは間違いない。『俺はどこぞやのアニメの、3分間で帰ってしまうヒーローか!!』というツッコミを思いついたが、そんなこと言ってる余裕はない。
やつらは一斉に俺の方へ武器を振りかざして襲ってきた。はじめに、隙だらけの2人の後頭部を打った。するとそいつらは失神した。
俺はこの戦闘において人を殺してはいけない。一応学生だからな。未来はあるのだ。
次に1人が襲いかかってきた。そいつの腹に一発かましてやり、悶えているところで顔面めがけて拳を振り上げてやった。あと7人だ。
それからもう1人襲ってきたところでそいつに足をかけてやり、転んだところでさっきと同じように顔面パンチでとどめをさした、と思うと相手はびくともしなかった。1回目のパワーシェアが切れたのだ。相手が起き上がるまでに魔法をかけるには時間が足りなさすぎる。そこで力がなくても相手をノックアウトできる、急所目がけてパンチを喰らわしてやった。見事相手は倒れ込んだ。その間にフェイルはパワーシェアを俺に対して使ってくれ、次の2人も着々と倒していった。残り4人。
そろそろ疲れが出てきた。ちからが強化されるだけで体力は強化されない。しかし残り4人を倒さないと俺の地位も名誉、その他もろもろ、なにもかもが奪われる。そう思い、最後の力を振り絞って敵に向かっていった。今まで倒してきたやつが持っていたバットで襲ってきた一人を倒し、そこで2回目のパワーシェアの効果が切れた。またフェイルに俺に魔法をかけてもらう。これで最後のパワーシェアだ。残りは族長含め3人だ。
もう俺の体力は限界に近づいてきている。もうこれが出せる力の本当の最後だろう。俺は近づいてきた2人のうち1人の脚を持ち、ハンマー投げのように振り回した後にもう1人にぶつけた。ぶつかった方は倒れた。そして今持っているやつを地面に叩きつけた。これで下っぱらしきやつらは全員倒した。と同時にパワーシェアも切れた。
「お前なかなかやるな」
族長が俺にそう言ってきた。今こいつと戦ったら絶対に俺は負ける。逃げる体力も残っていない。俺は覚悟を決めた。負ける覚悟だ。どうやってもこいつには勝てないと判断したわけだ。
「お前の喉元切り裂いてやっ……」
族長が、持っていたナイフを俺に向けながら飛びかかろうとした次の瞬間、声と共にやつは倒れた。
「私のカズカズには指一本触れさせないんだから!!」
そう、フェイルが後頭部に全力の一発を食らわしてくれたのだ。
「フェイル〜!! あでぃがど〜!!!!!」
俺は半泣きの状態でフェイルにお礼を伝えた。そして太晴の顔が俺の視界に入ってきた。
縄を解いてやると、あの、川で助けた時のようにすごい勢いで抱きついてきた。
「和馬くん!! ありがとう!! また命を救ってくれたね! ところで、フェイルって誰のこと?」
しまった! 聞かれた。俺は頭をフル回転させた後に言い訳を思いついた。
「俺の二次元嫁の名前だよ。ここに来る前に元気をもらったんだ」
俺の苦し紛れの言い訳を太晴は納得してくれた。そして俺らは自分達の家に帰った。
どうでしたか? やはり妖精の相棒というのは憧れますね。いざとなったら助けてくれる存在というのは何かをする上で心強い支えとなるので筆者はすごく和馬くんが羨ましいです。
とうとう次話で最終話を迎えます。第一話と比べての和馬の成長に注目して読んでみると面白いかもしれません。果たして、和馬の行末は如何に......