第五話 宿泊学習がくれたもの
『スイマー』を習得したフェイル。
そのスキルで和馬は宿泊学習の川遊びで溺れていた木沙良太晴を助けた。太晴は和馬に友達になってほしいと頼み、フェイルの強引なサポートもあり和馬はそれに渋々了承した。
今はLv.5でステータスは【ちから:10 かしこさ:7 MP:10】だ。
次の日になった。2日目の大きなイベントとしてはスタンプラリーがある。
これは俺が一番楽しみにしていたイベントだ。宿泊学習に行こうか迷ったとき、色々理由を出して行くことに決めたが、結局行く決め手となったのはこのスタンプラリーだ。
宿泊の前日に説明した通り俺の班はオワコンメンバーで、カップル2人に最近いい感じの陽キャ男女2人がいて、プラスで俺が入っているという状態だ。
この宿泊先は山が綺麗と評判があり、夕方の景色は特に最高らしく、たぶんカップル2人と陽キャ2人は班を離れ、それぞれ自分達で色々なところを回るだろう。そうすると必然的に俺が一人になるのだ。
一人で見る自然というのは実に心が惹かれる。そんな最高な景色を誰かと共有しながら見るなんてごめんだ。俺は独り占めしたい。
それが決め手となった理由だ。やがてスタンプラリーが始まった。案の定、俺以外の4人はすぐ、それぞれどこかへ行ってしまった。
「あ、はぐれちゃった。すぐ追いかけましょ」
フェイルがいらないことを言う。
「いや、追いかける必要はない。ここからは俺のほのぼのした旅の始まりなわけだ」
「まあ集合時間と場所は決まってるし、分かったわ。カズカズの自由にしていいわよ」
やっと、邪魔者はいなくなった。夕方になるまでに山の頂上に着くため、出発した。
できれば日の入りを見たいから夕方よりも少し早めに着きたい。スピードアップを使えばすぐ着くじゃないかと思うかもしれないが山というのは山頂だけでなく山頂に着くまでの道のりの景色も楽しめるのだ。
どんどん標高が高くなり、段々と広がっていく景色は自然の夢や希望さえ感じられる。
時間が経つにつれ、空気が段々とオレンジに色づき始める。やっと山頂に到着した。すると、山の向こうの景色を見ている一つの影が見えた。あれは......木沙良太晴だ。俺が昨日、川で溺れそうになってたところを助けてあげたやつだ。
やがて太晴は俺の方に気づくと、話しかけてきた。
「和馬くんもここにきてたんですか。偶然ですね」
俺が楽しみにしていたものにメスを入れられた気分だ。
だがここまできて楽しまないわけにはいかないと思い、
「そうだな」
と、俺は太晴の言葉を軽く流し、景色を一人で楽しんでいた。
なのに太晴は話しかけてきた。正直あまり会話をする気にはなれなかったが、友達になってしまったわけだ。普通の会話ぐらいするか、と思った。
「和馬くんも山が好きなんですか?」
「まあ、山が好きというよりかは山の景色が好きって感じだな」
「へえ、僕は山の壮大さが好きなんですよね。なんか、人には到底敵わない大きさで堂々とそびえてる感じが好きなんですよ」
なかなかマニアックな感性だ。すこしオタク気質なのだろうか。
「ちょっと話変わるんだけど、アニメとかゲームとかなんかやったりしてるの?」
話す話題が見つからず俺が唯一熱く語り合える話題を振った。それに、オタクというのなら少し聞いてみたかったしな。
すると、太晴はいきなり話す口調と速度を変え、自分の好きなものをこれでもかとマシンガンのように熱く語ってきた。まるで俺のようだ。中には俺がやったことあるゲームもあったのでそれについてしばらく話していた。
つい時間を忘れて長い時間話してしまった、もう日が地平線の向こうへ入り切ってしまった。それからは二人で集合時間に間に合うよう歩速をあわせて山を下っていった。
その夜、俺は布団の中でうずくまった。今までの人生で感じたことがないくらい心地が良い夜だ。なぜだろうかと考えているとフェイルがまるで俺の心を読んでいるかのように
「さっきのカズカズ、今までに見たことがないぐらい楽しそうだったわ。よかったわね」
その言葉が妙に自分の心の箱にすっぽりと収まった。きっとそれが心地よく感じた理由なのだろう。俺はあの、『太晴』との会話が楽しかったのだ。そう思った瞬間心の中のモヤモヤした感じが一瞬でスッキリとした。そして俺は、そのまますぐに眠りに落ちた。
次の日になった。宿泊学習最終日で、あとは帰るのみ。しかし俺は午前中の間、太晴と話したい。その思いでいっぱいだった。
恐らくだが、俺は何年も友達というものを持ったことがなかったために友達との会話に普通以上に楽しんでしまい、一種の依存という物になってしまったのかもしれない。我ながら、恥ずかしいことだ。
あれだけ友達という物に対して忌み嫌っていたというのにたった一日でここまで完璧な手のひら返しをしてしまったわけだ。『穴があったら入りたい』まさに今はそんな言葉がふさわしいだろう。
そして宿泊学習は俺の『友達』に対する考え方に思いもよらぬ影響を残したまま、終わっていった。