第二話 妖精のレベルアップ
次元が違う嫁を持つ主人公『糸和和馬』はある日突然妖精と出会い、『フェイル』と名付けた。
フェイルはLv.1でステータスは【ちから:8 かしこさ:3 MP:0】であった。
そんな和馬とフェイルの普通とはちょっと違う学校生活が始まる
昼休みになり俺はいつもの場所に移動していく。
校庭と自転車小屋の間に河川敷のような芝生の坂がある。そこで弁当をゆっくりと食べた後寝そべり、雲を眺めながらゆっくりと目を閉じ、ラノベのIFルートを考えたり、瞑想したりする。
学校の中でもこの場所は一番、風が心地よく吹く。この過ごし方を約一年間ずっと続けてきたのだが、今それが陥落されてしまった。フェイルのせいだ。
「こんなところで寝てないで早く教室でみんなと話しましょうよ」
俺の人間関係を何も知らないくせに何を言っているのだろうか。
「俺は生まれてこの方、友達なんて一人もできたことないし、同級生と最後に話したのは昔入っていた委員会の仕事ぐらいだ」
そうフェイルに言うとなぜか驚いたような顔をした。きっと俺の陰キャ度合いにびっくりしたのだろうと思った。するとフェイルの発言は完全に死角からの内容だった。
「あなたって意外と芯がある声してるのね。人と話していないならもっとひょろひょろした声をしてるのかと思っていたわ」
芯があるってなんだよ、と思ったが聞いても何も生まれないだろうと思い、「おう、そうか」と返しておいた。
「そんな普通に、私相手に話せるなら友達の一人や二人ぐらいできても良いと思うのだけれど」
「俺は好きで友達を作っていないんだ。それに家で俺の嫁、 ”かっこ二次元” と話してるからな。嫁との会話はちゃんとした声じゃないと失礼だろ?」
「ま、まあそうね」
フェイルはちょっと引きぎみに俺にそう返した。
「そんなことより『あなた』とか『君』とかってちょっと疲れるわね。名前は何ていうの?」
そこらへんにあった木の枝を拾い、グラウンドの砂に名前を書いて、漢字と一緒に教えた。するとフェイルは言った。
「糸和 和馬っていうのね、じゃあ間の二文字をとってカズカズね」
なんとも安直だ。こんなところでもかしこさ3を発揮するのか。いや、一周回ってかしこいともいえるだろう。と、考えているうちに休み時間が残り3分ほどになっていた。
いつもなら残り8分でここを出発して、到着する頃にはそれほど時間が余っていないのだ。このままでは5限の授業に間に合わない。俺としたことが、久しぶりの対面の会話を楽しんでしまった。
と、その時、ベルと電子音を足して2で割ったような音がゲームのレベルアップの音のように響いたのだ。もしかしたら、と思いフェイルの頭上のウィンドウに目をやる。予想は当たっていた。"Lv." の後に続く数字がさっきまで1だったのが今は2になっている。
何かの能力が上がったのかと思い、ステータスを見てみるとMPの項目が0から3に上がっていた。フェイルにそのことを伝えると
「私も今の音が聞こえてから体の奥から今までとは違った変な ”力” みたいなのが湧いてきたのよ......見て! カズカズ!! MPを3消費する代わりに『スピードアップ』ってのが使えるそうよ」
「効果を確認してる暇はない。名前的にも速く走れる魔法なんじゃないか? 早く使うんだ!」
そしてフェイルは両手を俺の方に向け、手のひらの真ん中あたりが光ったと思うと、急に体が軽くなった気がした。一体何が原因でレベルアップしたのか、『スピードアップ』とかいうタイミングが良すぎる魔法を習得したのにも疑問を抱きつつ、急いで教室に走っていく。
この際、廊下を走ってはいけないとかいう校則なんてものは気にしてる場合ではない。何より、たった一体の妖精なんかにおれの高校生活皆勤賞の記録をぶち壊されて......いや、これに関しては俺が悪いだろうな。そう考えているうちになんと教室に既についてしまっていた。恐るべきスピードである。
「ありがとうな。フェイル」
「どういたまして〜」
無邪気に笑いながらフェイルは俺の礼に返してくれた。久しぶりに人に感謝を伝えた気がする。俺は授業の準備をし、席に着いた。今気づいたことなんだが、フェイルが『スピードアップ』を使えることを俺は確認できないらしい。
だから今後、他に魔法を覚えていくのであれば俺が何かにメモするか、記憶をしておく必要があるようだ。まあ、いざというときのために記憶しておくことにする。これでも、魔術系RPGもしっかりとやり込んだ身だ。呪文を覚えることなんて朝飯前だ。
授業がひと通り終わり、放課になった。教室を出ようとした時、学校に明らかに重そうな機材を運んでいた業者3人が俺の目の前を通り過ぎた、と思った瞬間、業者の内の一人がつまづき、機材はそのまま他二人が手をかけたまま地面に一直線に落ちていく。
俺に支えられる力があれば咄嗟の判断で支えたかもしれないが、あいにくそんな力は持ち合わせていないし、助けようとして下手に失敗し恥をかくことも考えられる。しかし、目の前で人間2人の足が潰れるのをみるよりかはマシだ。と考えると俺の手は機材の下に回り込んだ。
そして機材に手が触れた瞬間、重いと身構えていた腰に違和感があった。腰がスッと上がり、機材は安定した。思っていたのに反して機材が軽く感じた。
「あ、すみません。ありがとうございます。おかげで助かりました。」
と帽子を取りながら、軽く業者に感謝された。その途端、俺の手にとてつもない負荷がかかり、転びそうになった。すぐさま起き上がった業者さんに代わったのだが、まだ手に重さの感触が残っている。それほどの重さだった。
不思議なこともあるものだと思いながら帰路に着くと、フェイルにさっき起こったことを話した。もちろん、帰りは一人なのでフェイルと話しても問題はない。
「それは私が手伝ってあげたからだよ。ほんと感謝してよね、鈍臭いんだから〜」
とフェイルが言った。どうやら、俺が機材に手をかけたのと同時にフェイルが一緒に持ち上げてくれたようだ。ちからのステータスが8であったことを思い出し、俺は一人納得していた。