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《佳作受賞》魔術機関きっての問題児は魔術師のいない国に派遣されることになりました。  作者: 彩賀侑季
【着任編】

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二章:将軍との試合③


 準備が出来た、と呼びに来たのはテオバルトだった。彼についてアナベルは広い訓練場に足を踏み入れる。


 普段何十人、何百人もが訓練をする訓練場は広い。形としては円で、周囲を囲むように二階と三階に観客席のようなものがある。そのうち、二階部分にはたくさんの人が集まっていた。


(随分と野次馬が集まってますね)


 将軍と魔術師が試合をすることを聞きつけたのだろう。兵士らしき男性の姿が多いが、女性の姿も少なくない。


 その代わりではないが、一階部分には人影がほとんどない。訓練場の中央部に二人の人影があるだけだ。近づいていくと、それがニクラスとアロイスであることが分かった。


 アナベルと視線が合うと、アロイスが会釈をした。


「今回、私とテオバルト将軍で審判を勤めさせていただきます。お二人とも無茶だけはなされないようによろしくお願いしますね」

「余計な口上は不要だ。さっさと説明を始めろ」


 ニクラスに急かされ、アロイスは溜息を吐いた。一度咳払いをする。


「今回の試合は実践を模した模擬戦です。お互い、好きなように戦ってください。ただし、極力相手に怪我をさせないよう」

「――ヒューゲル。貴様はそんな生温い試合で本当にこの小娘の実力が図れると思っているのか」


 ニクラスの指摘は言葉も内容も厳しかった。それを聞いたアロイスは表情を消し、黙る。ニクラスは嗤う。


「我々軍人は戦場ではいつも命がけだ。怪我どころか、命の保証もない。元帥の護衛を任された以上、この娘も同様だ。いざというときに、『手加減をしてもらった試合では強い』とほざかれては困る。本気で刃を交えなければ分かるものも分からなかろう。その最中で怪我をしようが、命を落とそうが、それはソイツ自身が弱かったというだけの話だ。その程度なら最初からいらん。――そう思わないか、カルツ」


 アナベルの隣に立ったままのテオバルトに、ニクラスは同意を求める。しかし、テオバルトは何も答えなかった。ちらりとテオバルトに視線を向けてから、アナベルが代わりに答えた。


「そうですね。おっしゃる通りだと思います」


 口元に弧を描く娘に、ニクラスは不審そうな視線を向ける。


「この世は弱肉強食。弱い者には命乞いをする権利もありません。――よく分かってらっしゃるじゃないですか。私はそのルールでいいですよ。怪我をする気も、死ぬ気も毛頭ありませんので」


 アナベルに肯定されたことがよっぽど不快だったのだろう。ニクラスは酷く苦々しい表情を浮かべている。


「……分かりました」


 試合の参加者二人が賛同しているのだ。アロイスも反論は無意味と判断したのだろう。彼は頷く。


「ただし、我々もあなたがたがやりすぎと判断した場合は遠慮なく間に入るつもりなのでご了承ください。私たちは同じエーレハイデを守る同士です。必要以上に負傷させあうべきではありません」

「分かりました」

「勝手にしろ」

「……それと最後に、勝敗のつけ方です。相手を降参するか、相手が戦闘続行不能と我々が判断すれば、もう一方の勝ちです」


 おそらくだが、どんな状況になってもニクラスは降参しないだろう。それはアナベルも同じだ。――相手を戦闘続行不能にさせた方が勝利者ということになるだろう。


「戦闘続行不能とは具体的にどういう状況ですか?」


 アナベルが訊ねると、アロイスは「そうですね」と顎に手をあてる。


「例えば、剣を落とさせたり、気絶させたりでしょうか。相手を動けないようにするというのもありですよ」

「つまりは相手がそれ以上戦えないようにすればいいんですね。分かりました」


 それであれば、手段はいくらでもある。アナベルは頷く。


 これでようやく試合開始か――と思いきや、アロイスがゴホンと咳払いをした。それから気まずそうに口を開く。


「それとですが、……アナベルさん。その恰好で戦われるつもりですか?」


 そう言われて、アナベルは首を傾げた。自身の服装を見下ろす。いつも通りの魔術機関の制服だ。


「何か問題がありますか?」

「……スカートというのは少々」

 

 言われて気づく。魔術機関の制服はスカートだ。一般的には戦闘に不向きと思われても仕方ない。アナベルは説明をする。

 

「魔術師は本来接近戦をしませんから。この制服は戦闘服でもあるんですよ。これでも動きやすく作られてるんです。ちゃんとインナーは履いてますからご安心ください」


 魔術機関の制服は七百年の魔術の研究成果をこれでもかと詰め込んだ一級品だ。魔術で特別な工夫が数えきれないほどされている。普通の服よりもよっぽど丈夫でもあるのだ。わざわざ着替え直すのも面倒だし、着替えた別の服が動きやすいとも限らない。着慣れたこの格好がアナベルとしては一番戦いやすい。


 アナベルの説明にアロイスが納得したのかは分からなかった。ただ、「分かりました」とそれ以上のことをは言ってこなかった。彼はテオバルトと共に、アナベルとニクラスから少し距離をとる。


「では、私の合図で試合開始です。お二人とも準備はよろしいですか」

「聞くまでもないな」

「当然です」


 ニクラスが鞘から剣を抜く。


 細長いレイピアだ。偶然にも、アナベルの選んだ木剣によく似ている。しかし、彼が持つレイピアは真剣だ。金属で出来た刀身が光を受けて光る。


 先ほどの宣言通り、見た目はか弱い女の子であっても手加減をするつもりはないらしい。


 アナベルも同様に剣を構える。しかし、ニクラスに比べると全く様になっていない。隙が多いことは自覚している。ニクラスはアナベルの手に握られている木剣に視線を向けると、元々刻まれている眉間の皴を更に深くする。


「そんな玩具で勝てると思ってるのか」

「ご安心を。あなたはそんな玩具で私に負けるんですよ」


 ニヤリと笑うと、向こうの敵意――というよりは殺気だろうか――が強くなる。二人の間に静かに火花が散る。


「用意」


 アロイスが右手を振り上げる。


「始め!」


 そして、彼が手を振り下ろした瞬間、ニクラスが動いた。

 

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