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《佳作受賞》魔術機関きっての問題児は魔術師のいない国に派遣されることになりました。  作者: 彩賀侑季
【着任編】

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二章:将軍との試合②


 将軍の一人であるニクラス・O・クロイツァーと、魔術機関から派遣された王宮魔術師が試合をする。――二人が対決することが決まってからずっとジークハルトは眉間に皺を寄せたままだ。


「どうするつもりだ」

「もちろん、あの憎たらしい男をこてんぱんに打ち負かせて見せてやりますよ!」

「だから、どうやってだ」


 試合開始までもう少し。アナベルは訓練場の休憩所を控室代わりにしていた。


 休憩所にいるのはアナベルとジークハルトだけだ。ディートリヒには試合に必要なものを取りに行ってもらっている。


「そりゃあ、もちろん魔術を使ってですよ。さすがに魔術なしではボロ負けなのは目に見えてますからね」

「言うまでもないと思うが、ニクラスにも魔力はない。相手の肉体に働きかけるタイプの魔術は通用しないぞ」

「ええ、もちろんそれぐらいは分かってます。一応言っておきますが、攻撃魔術を使うつもりもありませんよ。自軍の将軍を再起不能にしたり、殺すのはまずいでしょう? ギャラリーに被害者も出かねませんしね」


 『牙』(クルイーク)に対してあれだけ攻撃魔術を発動していたのは、殺してもいい相手だったからだ。


 アナベルは手加減もコントロールも苦手だ。攻撃魔術を扱う場合、必ず相手を死亡させたり、周囲を巻き込むリスクが出てくる。


 いくら気に入らない相手とはいえ、ニクラスを殺したり、大怪我をさせたりするつもりはない。


「なら、どうやって」

「……まあ、やりようはいくらでもあります。肝心なのは試合のルールですね」


 試合のルールに(のっと)ってアナベルはニクラスを負かすつもりだ。それ自体はそれほど難しいことではないと思っている。


 ――それより、問題なのは目の前の王子だろう。

 アナベルは暗い表情を浮かべたままのジークハルトを見つめる。


「何をそんなに気にしているんですか? 私としてはあの将軍はとても気に入りませんが、あの人の主張は当然だと思いますよ」


 エーレハイデの人々は魔術に疎い。


 兵士たちもジークハルトのために魔術師が必要という説明はされているが、実際に必要性は実感しにくいだろう。一度、アナベルの強さをハッキリと見せつけておくのは悪くないと思っている。


「言っておきますけど、あの将軍がどれだけ強くても私は勝ちますよ。私がただの将軍風情に負けるわけないじゃないですか」


 傲慢とも受け取られかねない発言だが、アナベルとしてはただの事実を言っているだけだ。ニクラスが言ったように、『四大』であるアナベルがこの程度のハンデで負けるわけがない。ここについては絶対的な自信がある。


 諫められるだろうかと思ったが、ジークハルトはアナベルの傲慢な発言に何も言及しなかった。代わりにとても言いづらそうに口を開く。


「君が」

「私が?」

「…………心配だ」


 さすがにその発言にはアナベルも「はあ?」とマヌケな声を上げてしまった。


「あの、覚えてます? 私、シルフィードなんですよ? 確かに今回の試合は私に若干不利な部分もありますけど、そんなのハンデでも何でもないですよ。ジークは私よりあの陰気で神経質な将軍の身を心配すべきです」


 この国で魔術師の凄さを一番理解しているのはジークハルトのはずだ。その彼がアナベルを心配するとは一体どういうことだ。


 ジークハルトは沈痛な表情で目を閉じる。


「分かってる。分かってるが」


 ちょうどその時、ディートリヒが戻って来た。

 彼は何本か剣を手にしている。中には練習用の木製の剣も混ざっている。


「お待たせ。頼まれたもの、持ってきたよ」

「ありがとうございます」

 

 机の上に置かれた剣を一つ一つアナベルを手に持って、確認していく。


「言われたとおり出来るだけ軽いものを探してきたけど、どうかな?」

「……やっぱり重いですね」


 金属で出来た剣は細身のものでもずしりと重い。アナベルでは振り回すことさえ満足に出来なさそうだ。そもそも、出来たとしても危なすぎる。


「ちなみにさ、アナベルちゃんは剣扱えるの?」

「まさか。ほとんど手にしたこともないですよ」

「だよね」

「うん。これが一番軽いですね」


 そう言って、アナベルが手に取ったのは木製の剣だ。レイピアを模しているのか、細くて長い。何回か木剣を振り、アナベルは満足げに笑う。


「決めました。これにします!」

「……アナベルちゃん。本気で剣で戦うつもり?」


 アナベルはディートリヒを見る。彼の表情はどこか暗い。


「ええ、まあ」

「あのさ、余計なお世話って言うかもしれないけど、もっと別の手段を使った方がいいと思うよ。二クラス将軍は女の子相手でも手抜いてくれないよ。本気で君に挑んでくる。怪我どころか、下手をしたら命を落としかねない」


 ディートリヒも心配をしてくれているのだろう。彼もアナベルの実力を見ていない人間の一人だ。


 ――やはり、一度アナベルの実力は示しておくべきだろう。


「やっぱり皆さん分かっていませんね。私、とっても強いんですよ。あんな将軍の一人や二人、叩きのめせなくて何が『四大』ですか」


 わざとアナベルは不遜な物言いを選んだ。

 胸を張り、手を当てる。

 

「ご心配なく。エーレハイデの新しい王宮魔術師はとっても強いんだって、証明してみせますから」


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