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《佳作受賞》魔術機関きっての問題児は魔術師のいない国に派遣されることになりました。  作者: 彩賀侑季
【調査員編】

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九章:別れ①


「だから、エーレハイデでは普通の魔術師は魔術が使えないんでしょう? だから、私が選ばれたんですよ」


 城に戻ったアナベルは再度詳しい状況説明を求められ、仕方なく現在に至る経緯を説明した。


 あの後、少しして兵士たちがあの場に駆けつけた。アナベル達は城に戻り、兵士が『牙』(クルイーク)の行方を追っている。しかし、捕まえるのは難しいだろうというのが皆の意見だった。


 城に戻るなり、アナベルは「お腹が減りました」と食事を求めた。そのため、今アナベルの客間にはたくさんの料理が並んでいる。


 室内にいるのはアナベルを除くと、ユストゥス、ジークハルト、ディートリヒ、ヴィルトリア――それに宰相のメルヒオールと将軍のアロイス・E・ヒューゲルだ。


 アナベルはパンを口に運びながら、行儀悪くもごもごと話す。


「魔術が使えない魔術師なんてただの一般人ですよ。エーレハイデが悪い国で、調査員を人質にとったら困るじゃないですか。だから、エーレハイデでも魔術が使える人間を派遣したんです。『四大』なら魔術が使えるって教えてくれたのはあなた達でしょう?」


 だから、上層部は『四大』の一人であるアナベルを派遣することを決めた。


 他の『四大』を送ろうにも、ウンディーネは高齢だし、サラマンダーは要職についている。ノームは任務でしばらく帰ってこない。消去法的に何の役にも立たない研究に精を出すアナベルしか残らなかったなのだ。


 もちろん、アナベルが非常にしぶといことも選んだ理由だろう。よっぽどのことがない限り、アナベルは死なないと思われている。それは自分でも思っていることだし、事実だろう。


 ちょうどよくアナベルが研究所を爆破したのは上層部にとって都合の良い出来事だっただろう。調査員の仕事を嫌がりそうなアナベルにもっともな理由をつけて仕事を押しつけることが出来たのだから。


「まあ、でも、私が『四大』ってバレると面倒くさいですからね。前に発明した魔術具が西方のお偉いさんの間で人気が出て、私の名前と称号が有名になっちゃったんですよ。なので、本名を名乗ると正体がバレちゃう可能性があって、偽名を名乗るように言われたんです。あとは私が勢い余って正体をバラさないように契約魔術で本名と素性を明かせないようにしたわけですよ」


 各々の反応は違うが、確実に言えるのは誰もが戸惑っていることだ。


 まさか、『四大』の派遣要請に応じるかどうか判断するための調査員がまさか当の『四大』本人とは誰も思っていなかったのだろう。


 唯一、ユストゥスだけが既にその事実を受け入れている。彼がソファに寝そべりながら周囲の反応を面白そうにニヤニヤ見ているのが、アナベルには気にくわなかった。


 アナベルの一番近くに座っているのはジークハルトだ。彼は中々アナベルが『四大』という事実を受け入れられていない様子だ。


 他の人間がアナベルの正体を受け入れ始めているのにも関わらず、彼はまだ難しい表情をしている。ジークハルトが問う。


「本当に、お前がシルフィードなのか」

「そうですよ! これでも、『七百年に一度の逸材』『魔術師の祖(アルセーヌ)の再来』とか呼ばれるすっごい魔術師なんですからね。すごいでしょう。褒め称えてくれていいんですよ!」


 アナベルの持つ魔力量は他の『四大』も圧倒する。


 過去にアナベルほどの魔力量を持った魔術師はそれこそアルセーヌか、初代『四大』以来現れていないとされている。


「………………本当に、お前がシルフィードなんだな」

「何ですか、そのちょっと残念そうな反応は! 本当にすごいんですよ、私!」


 ジークハルトだけでなく、他の人々の視線もどこか可哀想なものを見るようなものに思えるのは気のせいだろうか。


 フラヴィやジークハルトたちの話を聞くかぎり、先代シルフィードであったエマニュエルはアナベルとは全く違うタイプの人間だったらしい。ギャップを感じているのかもしれない。


 ジークハルトは痛そうに頭を押さえていたが、「アナベル」と彼女の本名を口にした。


「今回は君のおかげで助かった。本当にありがとう。感謝している」


 聞いた話によるとやはり、状況は中々切迫したものだったらしい。


 アナベルが介入しなければ、ヴィクトリアは殺され、ジークハルトとユストゥスは連れ去られていた可能性が高かった。アナベルは「ふん」と王子から顔を背ける。


「まあ、私ですから、あれくらい出来て当然のことです! お礼を言われるほどのことではありませんが、感謝の気持ちがあるならそれ相応の対価を要求します!」


 アナベルがそう言うと、ジークハルトがじっとこちらを見つめる。


「何が欲しいんだ」

「――へ?」


 いつもだったら、フラヴィに「馬鹿なことを言うな」と窘められる場面だ。まさか、欲しいものを訊ねられるとは思わなかった。欲しいものを考えてなかったアナベルは返答に詰まる。


 そこに冷や水をかける発言をしたのはユストゥスだ。


「でもさ。そもそも君がブリッツェ食堂の子供たちに正体を明かしてなかったら、こんなことになってなかったよね」

「うっ!」


 そうなのだ。カイと――ミヒャエルに、自身が魔術機関の魔術師であることを明かしたのはアナベル自身だ。


 王都観光の日、アナベルが調査員と知ったミヒャエルは二人と別れ、――おそらく、買い出しに行く最中に死んだ魔術師に接触し、彼に命じてアナベルを殺そうと企てた。それが失敗に終わり、今度王城に直接出向き魔術師を使ってアナベルをどうにかしようとした。運悪く不在だったアナベルの代わりにジークハルトが対応したのが今回の騒動の発端だ。原因の一端はアナベルにもある。


「今回のことは君が自分自身の不始末を片づけた。そういう解釈でいいよね?」


 ユストゥスは憎らしいまでにキラキラした笑顔を浮かべる。


 ――本当にこの男はどこまでも気にくわない。


 アナベルは反論したいのをこらえ、渋々「そういうことでいいです」と謝礼の要求を撤回した。


「いや、今回の件の責任は私にある」


 沈痛な表情で口を開いたのはジークハルトだ。


 今回、ジークハルトが魔術にかかったことで、兵士たちは上手く統率が取れず、多大な被害が出てしまった。


 軽傷者が四十人。それと、重傷者が一人だ。幸いなことに死者は出なかった。これはミヒャエルたちが急いでおり、相手を殺すより戦闘不能にして追っ手の人員をそちらに割こうと考えたのが原因だろう。


 一番の怪我人であるニクラスは幸いにも一命は取り留めた。ただし、剣を振るえるようになるには二ヶ月以上かかるだろうと言われている。


 ジークハルトさえ魔術にかからなければ、ここまで大きな被害は出なかった。そのことに責任を感じているのだろう。


「それを言ったら、ディートリヒをジークハルトにつけたままだったら、彼らと接触することを止められた。ディートリヒに仕事を頼んでいた僕にも責任はあるさ。もう終わってしまったことをいつまでも悔やんでいても仕方がない。反省は次に生かすためにするものだよ」


 そう言うと、ユストゥスは体を起こし、真剣な表情のまま指を組んだ。


「さて、今回の件の情報を整理しようか。まず、一つ目。スエーヴィルにレオンが協力していることが確定したことだ」

 

 ミヒャエルはレオンの名前を口にした。


 そして、彼らはジークハルトに魔術が効くことも、王族に魔術解除の能力があることも正確に把握していた。これでレオンの裏切りは動かぬ事実となった。


「今後はレオンが敵に回ったことを前提に物事を考えていくべきだ。レオンの知るエーレハイデ側の事情は全て知られていると思った方が良い。そのことを重々胸に刻んでおくように。――次に、ブリッツェ食堂の次男、ミヒャエル・ブリッツェの件だ」


 脳裏に浮かぶのはまだ幼さの残る黒髪の少年だ。


 彼はエーレハイデ人であり、子供であった。それにも関わらず、今回の騒動の主犯格であったように見える。


「彼については不明な点が多い。先ほど、ブリッツェ一家を王城へ呼び出した。後程、詳しく事情聴取を行おうと思っているが……あの子についてはディートリヒが一番詳しいか。何か心当たりはある?」


 ユストゥスはディートリヒに視線を向ける。ディートリヒは残念そうに首を横に振る。


「本当に何もありませんよ。普通の子供だと思ってました。あの一家は昔から王都に住んでいますからね。スエーヴィルとの関係なんて何も思いつきません」

「本当に何にもない? 何でもいいんだよ。ブリッツェ一家の事情で魔術に結びつきそうなこととか、普通のエーレハイデ人と違うところとかさ」


 そう言うと、ディートリヒは少し考えるようなしぐさをする。


「……確か、おやっさんの奥さん――ミヒャエルの母方の祖父は異国出身だったはずです。元々行商人だったのが、奥さんと恋に落ちて、ウチに移り住んだって」

「じゃあ、ミヒャエルは魔力を持っている可能性があるね。ブリッツェ一家に魔力検査を行った方が良い。準備しておいてくれ」

「ジークみたいにミヒャエルも魔術をかけられていると?」

「あの子、ずっとこの国で暮らしてるんでしょ? なら、まず魔術師ではあり得ない。本人も魔術使ってなかったしね」


 もし、異国出身の祖父の血の影響で魔術師の才能があったとしても――おそらく、ミヒャエルは魔力欠乏が原因で幼少期に死んでいるはずだ。なら、魔力があって魔術が効くという点で物事を考えていくのはおかしくない。


「そうなると、何かしらの魔術をかけられてるっていうのは疑うべき可能性だよね。敵は何かしらの魔術でジークハルトを言いなりにさせた。死んだ魔術師だって、死ぬ危険性があるのにバンバン魔術使っていたんでしょう? 何かしらの精神に作用する魔術を扱えると考えるべきだ」


 ユストゥスの言葉に苦々しい表情を浮かべたのは一通り食事をすませ、ハーブティーを飲んでいたアナベルだ。


「あなたはあの魔術師以外にも、スエーヴィルに魔術師が――それも禁術を扱える魔術師がいるとでも言いたいんですか」

「そうとしか思えないだろう?」


 二人の会話を理解出来たのはジークハルトだけだ。それ以外の魔術の知識を持たない人間は一様に首を捻る。


「禁術とは何ですか?」


 疑問を口にしたのは将軍のアロイスだ。三十代後半の爽やかな風貌をした青年だ。テオバルトと比べると大分個性は薄い。


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