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《佳作受賞》魔術機関きっての問題児は魔術師のいない国に派遣されることになりました。  作者: 彩賀侑季
【調査員編】

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六章:王子の秘密④


「――どうなるんですか」

「私は魔力を持っている。でなければ、あのハーブティーを上手く淹れることも、魔術具を扱うことも出来ない。ただ、体内の魔力を認識することは出来ない。それを基に魔術を扱う事も出来ない。だから、魔術師の定義からは外れる」


 それだけだったら、エーレハイデ人以外の一般人と同じだ。


「その上で、王族の体質は中途半端にしか継承出来なかった。魔術解除は出来ない。ただし、魔力及び魔術の吸収が出来る。――簡単にいうと普通の人間より遥かに魔術が効きやすい」


 アナベルは頭を押さえる。


「えっと、意味がよく分からないのですが」

「五歳のとき、母が寝つけない私に睡眠導入の効果がある魔術薬をミルクを飲ませてくれたことがある。翌朝になっても私は目覚めなかった。母が今度は逆の効果を持つ魔術薬を使ったが、今度は全く眠れなくなった。エーレハイデの国王は代々、他者に魔術解呪を施せる宝具を持っている。だが、ちょうどその時父は視察で南部に出かけていた。父が帰って来るまでの三日間、私は眠ることが出来なかった」


 アナベルは絶句した。


 しかし、重要な部分を話し終えたせいか、王子は淡々とした口調に戻っている。自分自身の事なのに、妙に他人ごとの口調だ。


「それ以外にもいくつか実例があるが、あまり聞いて面白い話はないな」

「えっと、つまり」


 理論的な部分はアナベルもさっぱりだが、一つだけ説明されて理解出来た部分はある。


「あなたは魔術師の攻撃にとーっても弱い、ということですか?」

「そういうことだ」


 改めてアナベルはジークハルトをまじまじと見つめる。見た目ではやっぱり、他の人間との違いがまるで分からない。実際に魔術をかけて彼の体質を確かめてみたい好奇心はあるが、先ほどの話を聞く限りはやめておいたほうがよさそうだ。色んな意味でシャレにならない。


 ジークハルトはアナベルの視線を受け止めていたが、視線を落とし、呟いた。


「誰も悪くないんだ」


 それは誰に向けた言葉だったのだろう。


「ずっと、この国は魔術から隔離されていた。だから、父も母も生まれてくる子供がこんな体質になるとは思っていなかった。……だが、母は私が魔術に弱いのは自分のせいだとひどく苦しんでいた。母はせめて、少しでも魔術に対抗できるように魔術の知識を私に授けた。エーレハイデ人の体質について研究をした。黒鉱石の研究を進め、黒鉱石から魔術具を作ることに成功した。そのおかげで私は魔術師でないにも関わらず、指輪の魔力を基に、魔術具で魔術を使う魔術師の真似事が出来るようになった。今のところ、私のこの体質による弊害をほとんど感じていない。この国では魔術が使えない。私のこの体質のことを知っている人間もごく僅かだ。スエーヴィルとの戦闘で魔術を使われることもない。だから、何も問題ないと思っていた。――だが、スエーヴィルが西方の魔術師を雇ってしまった。当然、私に危険が及ぶ可能性がある。だから、王太弟殿下はこの国に魔術師を呼ぼうとしたんだ」


 そう言われ、ようやく、アナベルは理解した。


 彼の説明通りなら、この国は魔術からの攻撃に強い。


 確かに魔術師が捨て身の覚悟で国内で魔術を発動させた場合、被害は出るだろう。しかし、魔術が通用するのは一部の国民だけ。そして、そもそも国の防衛を担う軍の最高責任者は魔術に関する知識を持っている。適切な対応を取るのはそこまで難しくないだろう。


 それ以上に問題になるのは、目の前にいる王子自身だ。


 申告された内容を信じるのであれば、彼には魔術が効く。それもとても弱い魔術であってもだ。自身も魔術具を使って魔術は使えるようだが、防衛には限界がある。


 ジークハルトは軍人だ。当然、戦場にも赴く。そうなれば、真っ先に魔術の被害を被るのはジークハルト自身だ。『魔術による攻撃が行われれば、必ず死者は出る』と王太弟は言った。その死者になる可能性が限りなく高いのは──おそらく、ジークハルトだ。彼を守るためには正しく魔術の知識を持ち、この地でも魔術を扱える魔術師が必要だ。


「王太弟殿下が、魔術師派遣を要請したのはあなたのためだったんですね」


 正直、アナベルは王太弟に良い印象を抱いていない。


 『調査には全面的に協力する』と言いつつ、アナベルの本当の目的である遺品探しの邪魔をし、最初の謁見以来一度も会ってくれようとしない。アナベルが死ぬ可能性を承知の上で、危険性について何も説明せず、アナベルを自国に招いた。アナベルにとって間違いなく敵と言ってもいい相手だ。


 だが、彼がそもそもアナベルにそんな非道を行うのは目の前にいる甥のため。血も涙もないと思っていた王太弟にも情はあったのだ。


 そして、エマニュエルがフラヴィに手紙を書いた理由も、魔術に弱い息子を思ってのこと。

 自分が死んだら、息子の周りには魔術師がいなくなる。だから、代わりに信頼する親友に手紙を送ろうとしたのだ。


「おそらく、君の母親に手紙が届いたのも王太弟殿下の仕業だろう。あの人の目的は私のためにこの国に魔術師を招くことにある。だから、君は私の行いに対して何一つ感謝する必要はない。君がこんな目に遭っているそもそもの原因は私なんだ」


 口元を僅かにあげて王子は笑ったが、その笑みは自嘲めいて見えた。


 アナベルが大変な思いをしたのも元を辿れば、原因は王子だ。彼がアナベルに殊更優しかったのももしかしたら罪悪感から来るものだったのかもしれない。


 けれど、今のアナベルには目の前の王子を責める気持ちにはなれなかった。


「なんとなく」


 アナベルは手をいじりながら、呟く。


「なんとなく、この国の事情は理解しました。…………あなた、とっても大変なんですね」


 ジークハルトは反応を返さなかった。アナベルは首を傾げる。彼は「驚いた」と呟く。


「まさか、君からそんなことを言われるとは思っていなかった」

「はあああ!? 何でですか! それはひどくないですか!」

「いや、怒りを向けてくると思っていた」

「そんなことする訳ないでしょう! 女神のように慈悲深い心を持っているんですよ、私!」


 ジークハルトの発言には憤慨するが、正直否定は出来ない。しかし、それでもアナベルが大嘘を口にすると、「それは嘘だろう」とツッコミが入った。アナベルはわざとらしく咳払いをする。


「とにかく! 母様に手紙届いた経緯は理解しました。親切ご丁寧なご説明ありがとうございましたっ」


 アナベルは無理やり話を終わらせると、「なら」とジークハルトは口を開いた。


「これでもう、この国に残る理由はないな」


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