金髪ギャルと黒髪女委員長の二人がファミレスで駄弁るだけのお話
これは金髪ギャルと黒髪女委員長の二人がファミレスで駄弁るだけのお話である。
「お待たせしました、クソギャル」
「委員長なんだってアタシにだけ口悪ぃーわけ?」
「貴女のがうつったんです。貴女のせいだから甘んじて受け入れることですね」
「うえー? 本当にー???」
「本当です。といいますか、何食べているんですか?」
「巨大クラゲの踊り食い」
「それ、美味しいんですか?」
「つけタレの味しかしねーし、噛み切れねー」
「相変わらずゲテモノばっかり手を出して。そのうちお腹壊しますよ?」
「挑戦の果てに負けちまったってんなら甘んじて受け入れてやるってーの。あ、食う?」
「お断りです。今日はパフェの気分ですから」
「そりゃー残念。……っつーか昨日もその前もいつだってパフェ食ってなかったっけ?」
「昨日もその前もいつだってパフェの気分だったってだけですよ。あ、店員さんグランドチョコリゾートパフェ一つ」
「また無駄にデケーもん頼んじゃって。お腹壊しても知らねーけど?」
「甘味を追い求めた果ての結果なら甘んじて受け入れます。それより聞いてくださいよ、ねえねえ!」
「ゆーらーすーなーよー。なになに、なんだってーの?」
「今日の朝、電車で痴漢にあったんですよー!」
「うっぐ。……っつーかなんでそんなに明るく言っちゃっているわけ?」
「別に明るく言うつもりはなかったんですけど、仕方ないかもしれませんね。私、その痴漢さんに恋していますから……」
…………。
「ぶぇっぶふう!?」
「うっわっ。汚いですねっ。クラゲを撒き散らすんじゃないですよっ!! ああもうさっさと拭いてくださいっ」
「げほげほっ。いや拭くけど、拭くけどさあ!! その前に、なんだって? 何に恋しているって???」
「ですから、痴漢さんに恋しているんです」
「ばっっっかじゃねえええの!?」
「む。なんでそんなこと言うんですか?」
「なんでもクソも相手が痴漢だからよばーか!! なんでよりにもよって痴漢なんかに恋してんだよ本当馬鹿ッ!!」
「どうして他でもない貴女がそんなこと言えるんですか? 酷いです!」
「酷いですじゃねーよっ。とにかく、その、痴漢なんてする奴はろくでもねー犯罪者なんだから恋なんてするんじゃねーっての」
「言い過ぎではないですか?」
「ないない、全然ないから。大体その痴漢について何も知らねーはずよ。そんな奴に恋もクソもねーっての」
「むむっ。知ってますよ!」
「何を?」
「まず手つきが素人のそれでしたね。雑です。それこそ処女かってくらいに」
「っ」
「後は派手好きで突拍子もないことやるのが日常茶飯事でゲテモノ好きのくせに大好物はハンバーグやカレーといった普通のもので性格最悪のくせに誰もが私を殺人鬼だと決めつけたあの時には即座に冤罪を晴らしてくれたように本当に困っている時はいつだって助けてくれて犬嫌いのくせにイヌミミつけた女の子は大好きでベッドの下というベタな場所にピンクのふりふりのドレスみたいなきゃぴきゃぴしたものを隠していてその他にもいくらだって語れますけど──」
「あれ、あれれ? ちょっちょっとまって……っ!!」
「全部ひっくるめると今日の痴漢さん、貴女でしょう?」
…………。
「うわあんばーれーてーたああああ!?」
「あー! 巨大クラゲが飛んでいきましたーっ!! ああもうおっさんの頭にすっぽりいったじゃないですか。ヅラみたいになっていますよ」
「そんっ、そんなことより! え、今日のバレて、ええ!?」
「すみません、うちのバカが。え、下着見せてくれればチャラにしてくれる? ……もしもーし、警察ですかー。目の前に性犯罪者がいるので捕まえてくれません?」
しばらくお待ちください。
「いやーさっきのクソハゲ、まさかの常習犯だったんですね。捕まって良かったです」
「いやそんなことより、本当に? 本当にバレちゃっていたわけ???」
「逆にバレないとでも思っていたんですか?」
「だって、その、化粧落としていたし、マスクやサングラスで顔を隠していたし!!」
「その程度で貴女のことが分からなくなるわけないじゃないですか」
「ううっ!!」
「それより、なんで痴漢なんてしたんですか?」
「…………、言わなきゃだめ?」
「別に黙っていたっていいですよ。さっきのクソハゲみたいに警察につき出すだけですから」
「言う言います言わせていただきますう!!」
「ああもうすがりつかないっ。で?」
「そ、その……むらむらして」
「むらむら?」
「だっだって! アタシたちって女同士じゃん」
「はい」
「女同士で結ばれるには前よりマシになったとはいえ未だ障害が多いじゃん」
「まあ、はい」
「でも好きな気持ちを押さえられなくて悶々と悩んでいるうちに、その、我慢できなくなっちゃった。てへっ☆」
「てへっ☆ じゃないですよ。あんまり調子に乗っていると本気で警察につき出しますよ?」
「待って待って待ってよお! この歳で前科持ちはちっとばっか厳しいってえ!!」
「はぁ。本当どうしようもないクソギャルですね。痴漢なんてしなくとも、言ってくれれば私の身体を触るくらいは許してあげましたのに」
「いや、ウェルカムなのはちょっと違うのよね。大切な友達を穢している背徳感が最高なんだから!!」
「嫌いになりますよ?」
「ごめんなさい」
「はいはい。……で?」
「で、とは?」
「私は『痴漢さん』に恋をしているんです。ここまできて返事しないというのは無しだと思うのですが」
「……、女同士だよ?」
「はい」
「今の世の中、未だ女同士で結ばれるには障害が多いよ?」
「まあ、はい」
「アタシ、痴漢するような女だよ?」
「貴女がどうしようもないクソギャルだというのはとっくの昔に分かっています」
…………。
…………。
…………。
「アナタが好き、付き合って」
「はい、喜んで」
これは金髪ギャルと黒髪女委員長の二人がファミレスで駄弁るだけのお話である。
ーーー☆ーーー
「あ、貴女が私に痴漢していた姿スマホで撮っていますから」
「へ?」
「付き合ったからって度を越えた行為強要しようものならこの映像を警察なり家族なりクラスメイトなりにばら撒きますので、そのつもりで」
「付き合ったばかりだというのにヒエラルキーが確立しちゃった!?」
「貴女の好きにさせるとどんな目にあうかわかったものじゃないですからね。確かに付き合ったので恋人らしいことをするのはやぶさかではありませんが、貴女のそれは絶対に危険なものですもの!!」
「そんな、別におかしなことしないって。恋人らしいことっしょー。となれば、とりあえず野外プレイかなーって感じだし」
「とりあえずのハードル高くありませんか!?」
「え? 流石にいきなり首輪やイヌミミなんかは無しだよ???」
「いきなりは無しってことはいずれは首輪やイヌミミなども追加するつもりなんですか!? ダメですそんなの絶対ダメです! 付き合っているからといって普通そんなことはしません!! 恋人らしいことというのはもっと、こう、とにかくそんなものではありませんからっ」
「えー。ならなんだったらいいってんだよー?」
「その、手を繋いだり?」
「いつもしてんじゃん」
「それじゃあ、デートしたり?」
「週五くらいでしてんじゃん」
「じゃあじゃあ、一緒に寝たり!!」
「毎週のお泊まりでしてんじゃん」
「きーすー!!」
「寝ぼけている時とかしてくるじゃん」
「……あれ? 恋人らしいことってなんでしたっけ???」
「普通の恋人らしいことなんてとっくに超えちゃっているんだから、その先に突き進まないと新鮮味ないってー。大体、ほら、真面目な奴ほど一度堕ちるとずぶずぶ堕ちちゃうものだし諦めることっしょー」
「そ、そそっ、そんなことないです! 健全な学生同士のお付き合いをするんですからぁ!!」
「……、アタシのような奴を好きでいてくれる委員長が健全なままで満足できるとは思えないけどねー」
「健全なお付き合いをするったらするんですー!!」