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第7話 フラグ管理


 真代依は教室に入ると、抄花を廊下へ呼び出した。これは前の周と同じ行動だ。舞人の女性関係について情報収集をするつもりだった。


 ところが、今回は抄花の方が先に話しかけてきた。


「真代依ちゃん、大丈夫?」


 抄花の反応が前周と違っていることに真代依は焦った。まだ初日だというのに、自分は何か選択ミスをしたのだろうか。


「え? 別に何も……」


「でも、なんだか顔色が悪いよ」


 抄花は首をかしげつつ、髪の毛を指でいじっている。


「そう? 昨日ちょっと夜更かししたから、そのせいかもね」


 真代依はそう言ってごまかした。心当たりはある。登校中に紡から言われたことが、頭の中にずっと残留していた。


『――すごく残酷なことだと思う』


 真代依はタイムリープによって、舞人が後夜祭で告白されることを知ってしまった。

 舞人への告白を――自分の失恋を阻止するためにはどんな手でも使う。そう決心して動くつもりだったし、前の周では実際に、佐藤里巳の告白を回避したのだ。……結局、別の女からの告白は防げなかったが。


 そんな自分のやり方を、仮の話とはいえ、はっきりと否定された。


 顔色が悪いように見えているのなら、原因は紡にある。相手はただのクラスメイト。雑談をふっかけるだけのストレス解消の相手。そう考えていたのに、意外とショックがあったらしい。


「って、そんなことはどうでもいいんだよ、庄内抄花君。君は舞阪君と同じ中学校だそうだが、彼について何か知っていることはないかな?」


 前回の恋敵である『凛々しい女子』の口調を真似してみた真代に、抄花はますます心配そうに眉をハの字にする。


「ど、どうしたの真代依ちゃん、いきなり妙ちきりんなしゃべり方で」


 初めて聞いたときは不覚にもちょっと格好いいと思ってしまったこの口調だが、はっきり妙だと言われると、急に恥ずかしくなってきた。


「……こういう変な口調の女子に心当たりはない?」


「心当たりも何も……、それって生徒会長だよね」


 当たり前のように抄花は言うが、真代依はそもそも生徒会長のことをよく知らない。


「そうなの? 全校集会とかじゃ、あんな口調じゃなかったと思うけど」


「さすがに公の場では控えてるんじゃないかな……。でも、生徒会とか部活との話し合いとか、もっとこじんまりした場だと、さっきみたいにしゃべってるよ」


「ふーん、そう……」


 真代依の返事が重くなる。

 生徒会長。そんな大物が出てくるとは思わず、内心ため息をつく。


「ねえ抄花。会長と舞人って接点あったっけ」


 舞人の名前を出した途端、抄花は目を丸くする。


「えっ? ど、どうだろ、よくわからない。舞阪君と生徒会長が一緒にいるところ、見たことないし……。そういうの、真代依ちゃんの方が詳しいんじゃないの?」

 

 と今度は上目遣いにじっと見つめてくる。こちらの機嫌をうかがうような視線は、中学のころと同じだ。容姿は見違えるように垢抜けても、内面はそう簡単には変わらないということだろうか。


 自分もそうだと真代依は思う。制服は変わったし身長も伸びたが、昔の自分と今の自分がそれほど違っている気がしない。失恋でタイムリープをしてしまうのもあの頃と同じだ。胸部の成長と精神的な成長がまったく実感できなかった。


「あたしも知らないから聞いてるんじゃない」


「……だよね」


 反論すると、抄花はうつむいてしまう。いつもならそれで話は終わるのだが、今日の彼女は少し違った。下を向いているのは、真代依の顔を見ないようにしているのではなく、心を決めるのに時間がかかっているから。そんな感じがした。


「ねえ真代依ちゃん、もしかして、後夜祭で――」


 そこでタイミングよくチャイムが鳴って、抄花の言葉がさえぎられる。


「後で話そっか。教室、戻らないと」


 真代依がそう促すと、抄花は弱々しい愛想笑いでうなずいた。


 友達がふり絞った勇気が霧散してしまったことに気づいていながら、真代依はそれをかき集める手助けをしない。時間の経過とともに、散り散りになって消えてしまいますように。そう願いつつ、真面目ぶっておとなしくチャイムに従った。


(歴史は繰り返す……)


 くすくすと耳障りなマヨイの含み笑い。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇



 昼休みになると、真代依は2年3組へ向かった。舞人のいるクラスだ。

 一周目とも二周目とも違う行動を取るのは少し不安だったが、このまま何もせずにいれば、また同じ結果になってしまう。午前の授業中に考えた末の結論だった。


 悲劇しつれんを避けるために取るべき行動のひとつ。

 それは舞人と里巳を接触させないことだ。


 二周目で現れた生徒会長は要注意人物だが、だからといって一周目の敵である里巳も無視はできない。それに、彼女の対処方法ならば前の周で確立されている。簡単に対応できる、攻略済み(・・・・)の相手だ。


 舞人と里巳の接触は、タイミングによるもの。つまり偶然だ。

 しかし、偶然が発生するにも理由がある。前の周の記憶をさかのぼって自問自答し、真代依はそのポイントを絞り込んでいく。


 ――舞人はなぜ里巳と接触したのか?

 それはクラスの買い出しに出かけたから。


 ――どうして舞人が買い出し係になったのか?

 それはじゃんけんで負けたから。


 ――舞人をじゃんけんで勝たせるには?

 自分の弱点を理解させればいい。


 二年三組の教室に入って舞人の姿を探し、すぐに見つけた。彼は教室の一角で男友達と弁当を食べていた。


「ねえ舞人、ちょっと話があるんだけど」


 よその教室は居心地が悪い。敵視されているわけじゃないとわかっていても、勝手に場違い感を感じてしまうのだ。そんな中で、少し大きめの声で男子に声をかけるのは、物怖ものおじしない真代依であっても緊張することだった。


「ん? ……、……、……どうした真代依」


 舞人はもぐもぐと口の中の食べ物をしっかり噛んで飲み下してから、話の続きをうながした。そういうちょっとした行儀の良さも好ましいと真代依は思う。


「ここじゃ言いにくいことだから、ちょっと来て」


 いかにも秘密のお話であるかのように、顔を寄せて小さな声で言う。しかし舞人はその距離の近さにも動じてくれなかった。


「いや、俺まだ昼飯の途中――」


「お願い」


 最後のとどめ。真代依が両手を合わせて頼み込むと、舞人の友人たちから援護があった。


「さっさと行ってやれよ」「冷たいやつだなお前は」「心配しなくても弁当はちゃんと守ってやるから」そんな冷やかしの声である。計算通りだった。外圧に耐えかねた舞人が重い腰を上げる。

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