3話
・・・えぇと、今の状況を整理しよう。
笑い転げる月さん
エプロンを着たお姉ちゃん
ーそして、スモッグを着せられた僕
「じゃあ夜君、先生と一緒に遊びましょうね」
「お、お前その格好お似合いだぜ・・・っ、ぷぷっ」
話は数十分前に遡る。
「ねぇ夜君。今日は勉強をお休みして、少し手伝ってほしいことがあるの」
「何?お姉ちゃんの頼み事なら僕は全然構わないよ」
「ありがとう。あのね、私が大学でお勉強していることって知っているかな?」
「・・・そういえば聞いてなかったかな。月さんと同じで文学じゃないの?」
「ううん、違うの。私の将来の夢はね、幼稚園の先生になることなの。だから、今はその資格を取るために勉強してるんだ」
「へぇ、そうなんだ。それで僕に何を、」
僕はここまで言ってはっとした。・・・いや、まさかね?だって僕中学生だよね?いくら弟代わりといったって、いくら少し抜けているお姉ちゃんでもそんなことはまさか・・・
「夜君が幼稚園児役になって、私の実習の練習相手になってほしいの」
・・・
・・・
・・・当たっちゃったよ。
「あーよかった、ギリギリサイズがあってる」
あまり背が高くなくて悪かったですね。
「で、僕は何をすればいいの?」
「そうだね、できるなら実践的なことをやりたいから・・・」
そう言うと、お姉ちゃんはおもちゃの車とクマのぬいぐるみを持ってきた。
「夜君には、このぬいぐるみをお友達に見立ててこのおもちゃを取り合ってる体にしてほしいな」
・・・ん?彼女は今なんて、
「あの、恥ずかしいとは思うけどやってくれないかな・・・?こんなことを頼めそうなのは、私には夜君しかいないの・・・ ダメ?」
そんな目で見られたら、断れないでしょうが・・・
「こ、これはぼくのなの、かえしてよ」
自分でもだいぶ棒読みだとは思うが、とりあえずは合わせようとした。
「やだ、これはぼくのだ!」
お姉ちゃんが、ぬいぐるみの後ろから声を出す。僕と違って結構迫真だなぁ・・・
「あら、どうしたのかな?喧嘩はだめだよ?」
今度は、お姉ちゃんは先生になる。
「わかったそれじゃあかえす・・・」
と、僕がさっさと終わらせようと車を渡そうとすると、
「もー、だめだって夜君!君がそんなにいい子だと、先生がいらない子じゃん!」
「えぇ・・・ どうすればいいいのさ」
これは喜ぶべき状況なのかもしれないが、なんか複雑だ・・・
「もう、そんなこと言うなら・・・こうだっ!」
そう言うと、僕はお姉ちゃんに抱きかかえられた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?何するのお姉ちゃん!?」
「だって夜君全然相手してくれないんだもん!」
「と、とにかくおろ・・・」
「ちぃーす、遊びに来たぞ~」
月さんが部屋に何食わぬ顔で入ってきた。
そして、そのままドアを閉じた。
「「待って!いや誤解だって!」」
「そ、そうなのか・・・いやー、あやうくお前がショタコンに目覚めたのかと」
「やめてくださいよ縁起でもない・・・」
「でも、お前これはこれでいいんじゃね?ショタを相手にするみたいに甘やかしてくれるかもしれんし、その格好も相まって・・・ ぷっ」
「わ、笑わないでください!」
「甘やかす・・・ なるほど」
お姉ちゃんがまた何かをひらめいたようだった。やっぱり、嫌な予感が・・・
「ねぇ夜君、光先生と何して遊びたい?」
だ、だめだってそんな甘々な顔で迫られたら・・・
「どうしたの?先生と遊びたくないの?」
「お、お前目がとろーんって・・・ くくっ」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~!!!!!」
僕は無我夢中で走り出した。そして、とりあえずトイレに駆け込んで鍵をかけた。
だ、だめだ、本気で頭がおかしくなる。脳みそが溶けてしまう。
「おーい、夜?」
「あっ、月さんここですここ」
「お前、とりあえず帰ってこい。アタシ一人じゃめんどいわこれ・・・」
僕が部屋に戻ると、お姉ちゃんは体育座りでうずくまってた。
「・・・言っとくけど、お前は別に悪くないからな?健全な男子の当然の反応だろ。でも、あいつあれでも落ち込んでるからお前なんか言ってやれ」
うーん、お姉ちゃんなりに頑張ったんだろうししょうがないかな。
「お、お姉ちゃん・・・?」
「夜君ごめんね、びっくりさせちゃったよね。私、いっぱい勉強したつもりで頭ではわかっていたつもりだったのに、うまくできなかったよ。夜君が中学生だということを完全に無視してたよね・・・?」
これは相当落ち込んでいるな・・・
「あ、あの、僕は僕なりに楽しかったし、お姉ちゃんもしっかり練習しようとしてるんだってやる気も伝わってきたよ。だから、そんな気を落とさないでよ」
「・・・ほんとに?」
「ほんとだって!」
「・・・ん、ありがとう、夜君」
そして、お姉ちゃんはすっくと立ちあがり、
「今日は色々ありがとうね夜君、またもし良かったら協力してくれると嬉しいな」
お姉ちゃんはいつもの笑顔に戻ったようだった。
突然、月さんが僕の耳元で囁いてきた。
「・・・なぁ、これでわかったか?アタシの言ったことが」
「はい、なんとなくは」
「誤解しないでほしいが、アイツは自分なりに頑張っているんだ。それは信じてやってくれ」
そう言う月さんの目は、やっぱりどこか寂しげだった。
お詫びというかなんというか・・・
僕は、幼稚園教諭の免許の取り方とか全く知らないのでそこはご勘弁ください。
だって、甘々な話を書きたかったんや・・・