今宵も、月は妖しく光る
「まぁ、あがれよ」
「お、お邪魔します」
あのお泊りの翌日、僕は月さんの家に呼ばれた。なんでも、昨日のことが聞きたいということらしい。
月さんの住んでいるアパートは、そう新しいものではないらしく、所々年季が入っているようだった。:その上、こんなことを言うのもなんだけど、あまり広くもなかった。確かにこれは、僕の家に来たいってのも納得いく。
「ごめんな狭い部屋で、どうしても家賃が安い所を探すとな・・・ 今飲み物持ってくるからちょっと待ってろ」
互いに一段落して、改めて月さんは僕に聞いてきた。
「で、昨晩はどうだったんだよ?」
・・・正直、昨日のあのことを思い出すと死にたくなる。緊張とか興奮とかが色々入り混じって、ああいう形になったと思う。あの後も、僕は泣きつかれたのかすぐに寝てしまったし、一体僕は何しに行ったのだろうと思えてくる。月さんに最初に言われたこととは全然違う気がするけど、隠していても仕方ないので、僕はありのままを彼女に話した。
最後まで僕の話を聞き終えると、月さんはその場で腹を抱えて転がり回った。
「お、お前っ、情けなすぎるだろ・・・!ぎゃははははっっ!!」
「や、やめてくださいよ僕も気にしているんで・・・」
「まぁ確かにアタシは距離を縮めてこいと言ったよ。でもこれって姉と弟としての距離は縮まったけど、男と女としてはむしろ遠ざかったんじゃねぇの!?あ~ひゃっひゃっひゃっ!!! ・・・あー、笑いすぎて腹痛くなってきた」
さすがに僕もむっとして、
「い、いきなり添い寝ってのはハードルが高かったんですよ。もっと他になかったんですか」
「おいおい、アタシのせいにしようってか。うーん、アタシとしても確かに誤算だったな。お出かけ→ホテルにでもすればよかったか?」
「もっとハードルが高いですよ!?最後何させようとしてるんすか!?」
「冗談だって冗談。さて、次はどうするかだな・・・ さっきの話に戻るけど、普通にお出かけするのはどうだ?いきなり二人きりってのはまたお前が暴走しそうだし、アタシと三人にするとか」
「それは良いアイデアだと思いますけど、どこがいいですかね?」
「いやー、アタシも見た目はギャルだけど、高校時代はほぼほぼゲーセンかたまに本屋に行くくらいだったから、そこらの若い奴らが行く場所なんて知らねぇな・・・」
「僕らと同様にただのオタクじゃないですか・・・」
「うるせぇな!漫画やラノベだけじゃなくて普通の小説も読むわ!これでも大学では文学専攻だぞ!」
・・・本当だろうか。入った時から気になっていたけど、部屋を見渡すと多くのラノベや漫画が積んであるのが見える。つっこんだらめんどくさそうだから黙っていよう。
「あ、それで思い出したんだが、光の趣味も読書だったな」
「そ、そうなんですか?」
「なんだお前知らなかったのか?あいつは昔からジャンルを問わず読み漁っていたぞ。昨日部屋を覗いた時も、本が大量に並んでいたな」
そうだったのか。自分から行くのは気が引けるから、お姉ちゃんの部屋なんて見たことがなかったな。
「・・・」
「・・・」
そうなると、答えは一つだった。
そして次の週末、
「わぁ、すっごい大きい本屋さんだね。夜君の家の近くにこんなものがあるなんて知らなかったな」
僕の家のそばにある大きな本屋、とりあえず、そこにお姉ちゃんと月さんとで行くことにした。
仕方ない、二人とも他に行くような場所なんて知らんかったんや・・・
でも、よくよく考えると
「んじゃアタシは漫画見てるわ」
「私は小説見てるね」
「僕は参考書から見ようかな・・・」
やっぱりこうなった、そもそも全員で同じコーナーを見るというのが非効率である。ならば、本屋にいるのが好きな僕らにとってはこうなるのは必至であった。気分によって見たいものを決めさせてくれというか。
(でもこれじゃ来た意味があまりなぁ・・・)
そう思いながらも、たまには勉強面にも気を向けなければまずいなと何故か今思い始め、数学や英語の参考書を見ていると、
「夜君、この教科苦手なの?」
突然後ろからお姉ちゃんに声をかけられた。
「お、お姉ちゃん!?小説見てるんじゃなかったの!?」
「私は幅広く読むタイプだから、一つのコーナーに長時間いることはないんだ。それで、私も勉強関係の本を見ようと思ったから、ここに来たの。それで、夜君は何が苦手なの?」
「数学とか英語が苦手だから、何か買って勉強しようかなって」
「ふーん、それなら私のお古を君にあげようか?ついでに勉強も見てあげるよ?」
「えっ、いいの!?」
こ、これなら二人きりに容易になれる。なんて僕は幸運なんだ・・・!
「ぜ、ぜひお願いします!」
「うん、いいよ。二人で」頑張ろうね」
一方その頃、
「へー、これもアニメ化するのか!あっ、これも新刊出てるから買わなきゃな。うわ、この作品完結したのかよ、ずっと好きだったから悲しいなぁ・・・」
・・・自称ギャルのただのオタクは、ずっと漫画コーナーに居座って、周りの子供から奇異の目で見られていたそうな。