4話
翌日、今日もまだ学校が始まったばかりなので、帰りは早かった。にも関わらず、僕はそれでも急いで帰宅していた。なぜなら、月さんから呼び出しがあったからだ。昨日の帰り際に連絡先を交換したのだが、早速帰ったらすぐ、家の近くの公園に”一人で”来るよう連絡があったのだ。理由は書かれていなかったので不可解だが、ともかく言われたのだから行かなければ・・・
家に荷物を置き、すぐに公園へと向かった。そう遠くはない、走れば数分だ。公園に着いて周りを見渡すと、ベンチに座ってスマホをいじっている月さんを発見した。僕にすぐ気が付き、手を振ってきた。
「おーい、ここだここだ」
「すみませんお待たせして・・・ どんな用事ですか?」
「いいっていいって、アタシが急に呼んだんだから気にすんなって。それより、金やるからそこの自販機でコーラ二本買ってこいよ」
「なんで二本なんですか」
「アタシとお前の分に決まっているだろ?おごってやるから気にすんな、昨日の礼だよ。・・・それと、お前もそれがあった方良いだろうしな」
少し変なことを言うなとは思ったけれど、ありがたくお礼を言って頂戴した。
「おっ、ありがとな。じゃー、早速本題に入るとするか・・・」
僕がコーラを買ってきて早々、月さんはこう切り出した。
「お前、光のこと好きだろ」
「・・・はい!?」
僕の思考がショートした。いきなり何をいっているんだこの人は!?
「あのさぁ、アタシは何年間あいつの友達だと思ってるんだ。お前みたいな目をしたやつなんかめっちゃ見てきたっての。それに、昨日もお前の視線はずっと光にいっていた。従姉だっと言う割にはなかなか挙動不審だし、ついでに言えば、お前があいつと話すときチラチラと胸ばかり・・・」
「や、やめてくださいって!」
「ハハッ、図星か」
月さんは僕に向かってニヤニヤする。うぅ恥ずかしい。友達も含めて、誰にも話したことなんてなかったのに・・・
「で、そんなお前に朗報、かつアタシからのお礼その2があるんだが・・・」
「アタシがお前の恋愛アドバイザーになってやってもいいぜ?」
「・・・どういうことですか?」
「アタシはお前の知らないことをたくさん知っている。その気になれば、光についての色々な情報を教えてやれるさ。そうだなぁ、まずはお前が一番気になっていることだ」
「な、なんですか?」
「あいつに彼氏がいるかどうか、だ」
・・・確かにそれは知りたかったことだし、ついでに言えば、一番聞きたくなかった。
もしお姉ちゃんにそんな人がいたら、僕は正気を保てそうにない。
「ハハハっ、お前コーラ飲むスピード早くなってるぞ?」
「うぅ、早く言って、くださいよ・・・」
「・・・安心しろ。あいつには現在進行形どころか、アタシが知っている限りでは一度も誰かと付き合ったことはない」
僕はそれを聞いてそっと胸をなでおろした。まったく、寿命が縮むとはこのことだろうか。
安心したのか、僕はまたコーラを一口飲んだ。
「だがな・・・ それはお前にとってあまり喜ばしい話でもないんだ」
月さんは神妙な面持ちでそう言った。
「そもそもあいつは、恋愛というものに関心があるのかもわからない」
「それって、どういう・・・」
「あいつの決まり文句はこうだ、『ごめんなさい。別にあなたのことが嫌いとかではないけれど、私そういうことには興味がないの』今まで何人もの男が告白してきたが、いつだってあいつはそういう。だからアタシは『まさか女の子どうしのあれこれが好みなのか!?』って聞いたけど、そういうわけでもないらしい。そこだけは、親友のアタシにも意味不明なんだ・・・ すまん」
僕は混乱した。月さんの言っていることがよくわからない。でもこんな嘘をつくとは思えない、それがますます僕を困らせた。
「だけど、もしお前が本当にあいつを欲するなら協力してやる。できる限りのことをしてやる。アタシとしても気になるんだ、アイツの心の内が」
月さんは僕にここまで言ってくれている。無下にするなんてできなかった。
「・・・ぼ、僕はお姉ちゃんが好きです。付き合いたいです。結婚したいです。他の男にとられるなんて、まっぴらごめんです」
下を向きながらも、僕ははっきりとそう口にした。すると月さんは僕の胸に拳をあてて、
「今の言葉、忘れんなよ。アタシも、絶対忘れねぇから」
そして月さんは真面目な顔からいつもの明るい表情に戻って、
「よっしゃまずはお前のことを意識してもらうことからだな!アタシも色々作戦を考えるから、その時には連絡するからな!」
「あ、あのっ、今日はありがとうございました。それと・・・ごちそうさまでした」
「いいって、じゃ、アタシはここで失礼するか」
そう言って手を振り帰ろうとする月さんに、僕は最後にこう聞いた。
「あの!なんで僕にここまでしてくれるんですか?」
「・・・言ったろ、アタシは義理堅いんだよ。それと、友人としてだ。今はそれ以上でもそれ以下でもないさ」
月さんは、そのまま振り返らず去っていった。
今日はまだ、夕日が見えていた。