009 クルト君……噂だと、年上の女にモテるタイプらしいけど
「クルト君……噂だと、年上の女にモテるタイプらしいけど、そんな感じに、あちこちで年上の女の保護欲を、刺激してるのかもね」
驚きの表情を浮かべ、ジーナはジョエルに訊ねる。
「そんな噂あるの?」
「ほら、アウラ・アーツの指導教官のアンヘラや、剣術指導教官のカルメンとかが、あんたと似たパターンで、世話焼きたがってるって噂だよ」
「あの二人、確かクルト君が冒険者登録した頃の、指導教官だったよね」
ギルドで冒険者として登録する場合、最初に能力を調べる為のテストを行う。
その際、能力が低いと判断された者は、ギルドが用意した講習を受けなければ、冒険者として登録出来ないのだ。
クルトは一年前の六月中頃、ブラックハウスを訪れた際、テストを受けたのだが、能力は低いと判断された。
ギルドに登録せずとも、冒険者活動は出来るのだが、登録した方が便利なので、クルトは仕方なく、ギルドが用意した講習を、受ける事にしたのである。
冒険者には、様々な技能を持つ者達がいる。
その技能により、様々な戦闘職業に分かれるのだが、クルトが選んだ戦闘職業は、武術を使って戦う戦士。
戦士として活動する為には、アウラ・アクセルやアウラ・アーマーなどの、アウラを扱う武術の技術である、アウラ・アーツが必須となる。
大抵の武術では、アウラ・アーツが必須となっているので。
戦士系の戦闘職業で、冒険者としてギルドで登録する為には、最低限のアウラ・アーツを使えなければならない。
それ故、クルトはアウラ・アーツの講習を、ブラックハウスで受ける事になった。
武器として剣を選んだクルトは、剣の技術も低いと判断された。
アウラ・アーツだけでなく、クルトは剣術の講習も、受けさせられる羽目になったのだ。
クルトのアウラ・アーツの講習を担当した指導教官が、アンヘラ・アティエンサであり、剣術の講習を担当した指導教官が、カルメン・フェルテスだった。
どちらも女性の、上級冒険者である。
「でも、あの二人は……三十代でしょ?」
ジーナの言う通り、アンヘラとカルメンは、三十代の中頃だった。
二人共、名の知られた上級冒険者なのだが、ギルドに請われて、初心者を指導する指導教官としても、活動しているのだ。
三十代を超えると、腕の立つ冒険者は、そういった指導者としての仕事を、頼まれがちなのである。
「幾らなんでも、クルト君は年下過ぎて、男としては見てないと思うんだけど」
「どうかな?」
ジョエルは、疑問を呈する。
「最近聞いた話だけど、あの二人……クルト君を街ン中で見かけると、ひっ捕まえて強引に修行させたり、酒や食事に付き合わせたりしてるらしいよ」
その話は初耳だったので、ジーナは驚きの表情を浮かべる。
「本当の弟子ならともかく、ギルドの依頼で短期間の講習を担当しただけの相手に、そこまで世話焼かないでしょ」
ジーナの言う「本当の弟子」というのは、契約を結んで、正式に師匠と弟子の関係となり、長期間の修行を担当した弟子という意味だ。
そういった本当の弟子は、師匠となった者にとっては、子供……もしくは弟や妹も同然の、親しい相手となる。
「だから、あの二人も……クルト君を狙ってるんじゃないかって、ジムの連中が噂してたんだ」
ジムというのは、ギルドが所有する、修行の為の施設だ。
ジョエルは昨日、ジムに仕事で行ったのだが、その時にジムで働く、ギルドの女性職員達に、アンヘラとカルメン……そしてクルトに関する噂話を、聞いたのである。
「まぁ、クルト君は……彼女はいないって言ってるから、まだアンヘラやカルメンとも、どうこうなったって訳でも、無いんだろうけどね」
ジョエルは、話を続ける。
「他にも、ほら……シロッコが最近、クルト君をスカウトしてるって噂があるじゃない?」
ジーナは頷く。
「レベル1のクルト君を、上級者パーティのシロッコが、能力を目当てに誘う訳ないから、シロッコも……アンヘラやカルメンと、同じなのかもしれないよ」
有り得ない話ではないと、ジーナは不安気な表情を浮かべる。
シロッコがクルトの能力を目当てに、スカウトするよりも、保護欲を刺激され、世話を焼く為にパーティに引き込もうとしているという話の方が、遥かに説得力がある気がしたのだ。
「とにかく、クルト君……年上の女に、モテてるみたいだから、あんたも積極的に行かないと、他の女に奪われちゃうよ」
焦りの表情を、ジーナは浮かべる。
「キャンプに行くのなら、注意ばかりしていないで、『私もキャンプに興味あるから、連れて行って!』くらいの事、言わないと」
「今度は、そうしてみようかな……。いや、でも……あの子の為にならない気が……」
「あんたがキャンプについていって、修行させればいいのよ。あんただって、元々はレベル5まで行った冒険者なんだから、アウラ・アーツや魔術は教えられるでしょ?」
ジーナは元々は、冒険者だったのだ。
剣士ではないので、剣を教える事は出来ないが、アウラ・アーツと魔術の腕は、中々のものだったのである。
子供の頃からの友人グループでパーティを組み、冒険者活動をしていたのだが、無茶をしてパーティのメンバーから、死者が出てしまった。
そのショックから、冒険者を若くして引退し、サポートするギルドの職員に回ったのである。
二十歳になったばかりで、中級のレベル5というのは、かなり優秀な部類であり、間違いなく上級冒険者になると言われていた程に、ジーナは才能があったのだ。
自分と同様に、才能があった仲間達が、ダンジョンで死亡したのを目にしたジーナは、ダンジョンや冒険者活動を、甘い目では見ていない。
故に、ダンジョンや冒険者活動を、侮り過ぎているように見えるクルトを見ると、厳しい言葉をかけ、修行させて強くしようと思ってしまうのである。
そうしないと、クルトが死んでしまう気がするので。
「その手があったか……。今度はキャンプについていって、自然の中でアウラ・アーツの指導……してあげる事にするよ」
「そうそう、その意気だよ。頑張んな!」
友人の背中を押す言葉をかけた直後、ジュリアの席に冒険者が現れたので、二人の会話は終わる。
ジーナの席にも、すぐに冒険者が現れたので、二人は受付の仕事に専念する。
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