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008 キャンプの準備と同じくらい、冒険の準備も真剣にやってくれたら、少しはマシになるのにね……

「まぁ、とにかく……換金お願い。明日の準備を、しなきゃならないから」


 クルトは黒いカードを、職員に差し出す。

 ブラックハウスに登録している冒険者の、身分証明書であるブラックカードだ。


「キャンプの準備と同じくらい、冒険の準備も真剣にやってくれたら、少しはマシになるのにね……」


 職員はブラックカードを受け取ると、カウンター内にあるレジスターの側面に記されている、魔術印に触れさせつつ、クリケを呟く。

 そして、レジスターを操作し、四枚の緑色の百ベクシルム紙幣を取り出すと、ブラックカードと四枚の紙幣、レシートをまとめて、クルトに手渡す。


「確認して、領収書書いてね」


 手渡された百ベクシルム紙幣を四枚、四百ベクシルムを確認。

 その上で、カウンターの上の箱に入っている、領収書とペンを手に取ると、金額の欄に四百ベクシルム、名前の欄に「クルト・ヴィルト」とサインして、職員に手渡す。


 紙幣とカード、レシートをまとめて、クルトはベストのポケットに入れる。


「キャンプ……今度は何処行くの?」


 職員の問いに、クルトは答える。


「シエラ湖の畔に行く予定だけど」


「シエラ湖か……だったら、西の森には入らないようにね」


「何で?」


「シエラ湖の西にある森の中に、ゲートレス・ダンジョンが見付かったんで、三大ギルドが協力して、調査中なんだ」


 職員はクルトに、理由を説明する。


「ゲートレス・ダンジョンは癖が強くて、トラブルが多いから、調査が終わる前に、クルト君みたいな雑魚専の冒険者が近付くと、トラブルに巻き込まれて危険だよ」


 職員の言うゲートレス・ダンジョンとは、門の無いダンジョンの事だ。

 キュレーター島を象徴する、キュレーター・ダンジョンなど、多くのダンジョンには、出入り口に何等かの門のような存在がある。


 だが、キュレーター島では時折、門の無いダンジョン……ゲートレス・ダンジョンが発見される。

 ゲートレス・ダンジョンは、門がある普通のダンジョンとは、色々と性質が異なる。


 最大の違いは、大抵は数か月しか、存在し続けない事だ。

 門のある普通のダンジョンは、常にキュレーター島に存在し続けるのだが、ゲートレス・ダンジョンは、発見されてから数か月が過ぎると、消え去ってしまう、現れては消える存在なのである。


 違う点は、他にも色々と存在する。

 普通のダンジョンであれば、深い層にしかいないような、非常に強力な魔石獣が、浅い階層から出現したり、普通のダンジョンには現れない魔石獣が、出現したりもするのだ。


 普通のダンジョンとは、色々と違っている点が多い上、新しく発見されたゲートレス・ダンジョンは、情報が無いも同然の状態。

 当然、冒険者にとっては、普通のダンジョンよりも、危険性が高い。


 それ故、ゲートレス・ダンジョンが発見されると、ギルドは協力して、調査するのが慣例となっている。

 三大ギルドが協力し、上級冒険者を集めて組織した調査団を、ダンジョンに送り込んで、どのようなダンジョンなのかを調査するのである。


 三大ギルドは、調査結果を冒険者達に公表し、ゲートレス・ダンジョンの危険性を引き下げるのだ。

 大抵の冒険者達は、調査団の調査結果が公表されてから、ゲートレス・ダンジョンを探索する。


 もっとも、腕に自信がある上級冒険者達などは、ギルドの調査結果の公表を待たず、発見されたばかりのゲートレス・ダンジョンに、入ったりもするのだが。


「ダンジョンに近付くだけでも、危険なの?」


 クルトの問いに、職員は頷く。


「ダンジョンの外にまで、魔石獣が出て来ちゃうゲートレス・ダンジョンもあるんだ」


 普通のダンジョンの場合、魔石獣はダンジョンの外には出ないのだが、ゲートレス・ダンジョンの中には、魔石獣が外に出て来れるダンジョンが、希に存在する。

 ダンジョンに侵入した冒険者達を追撃し、外に出て来てしまったりするのである。


 故に、魔石獣が外に出て来る可能性がない事を、調査団が確かめ終えるまで、ゲートレス・ダンジョンには、弱い者達は近付かない方が、無難なのだ。

 職員はクルトの身を案じ、ゲートレス・ダンジョンが見付かった、シエラ湖の西にある森には入らないように、警告したのだった。


「その手のダンジョンは希だし、魔石獣が外に出ると言っても、ダンジョンから遠くまで離れたりはしないから、危険性は低いんだけど……」


 職員は説明を続ける。


「もしも、そういうダンジョンだった場合、クルト君みたいに弱い人だと、命の危険があるからね。近付かない方が良いんで、シエラ湖の西の森には、入っちゃダメだよ」


「教えてくれてありがとう、気を付けるよ」


 クルトは椅子から立ち上がる。


「じゃ、ジーナさん……また明日!」


 そう言った後、たぶん今週は、もう来ないだろう事を思い出し、クルトは言い直す。


「じゃなくて、また来週!」


「またの利用を、お待ちしています」


 一応、マニュアル通りに一礼し、言葉を返してから、職員……ジーナ・アバーテは付け加える。


「せめて、アウラ強化の修行くらい、キャンプしながらでも、やりなさいよ! あれは自然の中だと、効果が高いんだから!」


「覚えてたらね!」


 クルトは踵を返しつつ、言葉を返す。

 そのまま、クルトは出入口に向かって足早に歩き続け、大きなドアを開けて外に出て行く。


「彼女いないの分かって、良かったじゃない」


 ジーナから見て、左隣のカウンターの席を担当している、同じような年頃の女性職員が、冷やかすように声をかける。

 その席は空いていたので、職員はクルトとジーナの会話を、聞いていたのだ。


 さり気ない会話の流れを利用し、クルトに彼女がいるかどうかを、ジーナが確認していた事に、女性職員は気付いていたのである。


「聞いてたんだ、ジョエル」


 女性職員……ジョエル・ベルトネは、涼しい顔で頷く。

 ジョエルはウェーブのかかった長い黒髪に、日に焼けた風な肌の色をした、色気のある雰囲気の女性だ。


 どちらも美女の部類であり、生真面目そうなジーナと、そうではなさそうなジョエルは、タイプは異なるのだが、仲は良い。


「まぁ、いくら見た目が可愛くても、あそこまでやる気が無い男の子に、あんたが惚れたのは……意外だわ」


「あの子見てると、私が世話を焼かないと、駄目になっちゃう気がして、色々と気にかけている内に、気付いたら……」


 冒険者が来ないので、ジーナは少し恥ずかし気に、会話に応じる。





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