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006 たぶん、あの子は……相当に強いよ。ひょっとしたら……私よりも

「面倒見が良いね、ラティは。わざわざ助けに行くなんて」


 銀髪の女性……ラティーシャ・ラヴレスに、パーティの仲間である、栗毛のボブヘアーの若い女性が、声をかける。

 黒い戦闘服の上に、魔術師用の黒いローブを着ているので、栗毛の女性が魔術師であるのは、見た目で分り易い。


 魔術だけでなく、武術系の技術も身に着けている魔術師は、動き易さを優先する為、ローブを着ない場合が多い。

 防御力が高く、多くの装備を内ポケットに収納出来る、魔術師用のローブを纏う栗毛の女性は、武術系の技術を身に着けていない、完全に魔術に特化したタイプなのだ。


 ラティーシャも栗毛の魔術師も、年齢は二十代中頃で、どちらも背が高い。


「ゴーレム程度を倒せないのに、ダンジョンに入るような、自称冒険者連中を、いちいち助けてやるなんて、甘過ぎだっつーの!」


 二十代前半と思われる、野性的な印象の青年が、ラティーシャに助けられた、クルトがいる方向を一瞥しつつ、言葉を吐き捨てる。

 赤い戦闘服に身を包んだ、この赤いショートヘアーの青年は、素手で戦う流派の武術家なので、武器を携帯していない。


 このパーティはダンジョンの奥底に向かう途中、ゴーレムから逃げて来た、低レベルの冒険者達に遭遇。

 ゴーレムに追われて一人逃げた、クルトの存在を知った。


 話を聞いたラティーシャは、即座にクルトを助けに向かってしまった。

 ゴーレム程度は、ラティーシャ一人で簡単に片づけられるので、パーティの他のメンバー達は助けには行かず、ラティーシャが戻って来るのを、待っていたのだ。


 ラティーシャが戻って来たので、パーティは移動を再開する。


「確かに……今回は、助ける必要は無かったのかもしれないな」


 ラティーシャは続ける。


「あの子はたぶん、ゴーレムくらいなら、余裕で倒せたと思うし」


「あの雑魚専ざこせんのクルトが? 無理に決まってるだろ、あいつレベル1だぜ!」


 雑魚専というのは、ダンジョンの浅い階層で、雑魚といえる魔石獣を狩って、魔石を稼ぐ冒険者の事だ。

 レベルの低い冒険者の中で、成長する気もない者達を、揶揄する言葉でもある。


 冒険者のレベルは十段階に分かれ、レベル1は最低のレベルなのだ。


「ギリアン、あの子……知ってるの?」


 ラティーシャに問われ、赤髪の青年……ギリアン・モンテーロは答える。


「最近、少しばかり話題になってんだよ。何故だか知らないが、レベル1の雑魚専のガキを、シロッコが熱心にスカウトしてるって」


 ギリアンは短く、付け加える。


「そのガキってのが、さっきのクルトって奴だ」


 このパーティに、ゴーレムに追われて逃げた、クルトの存在を知らせた冒険者達は、クルトの名を出していた。

 それ故、ラティーシャが助けた相手がクルトなのを、ギリアンは知っていたのだ。


「詳しいね」


 栗毛の魔術師に、ギリアンは言葉を返す。


「前に一度……酒場でシロッコのジュリアが、スカウトしてた場面に居合わせたんで、知ってるんだ。まぁ、噂話にもなってたしな」


 シロッコというのは、少数精鋭といえる、若い女性だけのパーティである。

 実力が高いだけでなく、見た目にも恵まれた女性揃いな為、かなり注目度と人気が高いパーティなのだ。


 そんな女性限定のパーティだと思われていたシロッコが、何故か最近、一人のレベル1の少年……に見えるが、青年の冒険者を、熱心にスカウトしているという噂が、冒険者達の間で流れていた。

 その噂を事前に聞いていたギリアンは、酒場でスカウト現場を目にしていたので、クルトを知っていたのである。


「シロッコの子達も、気付いたんじゃないかな」


 ラティーシャは続ける。


「たぶん、あの子は……相当に強いよ。ひょっとしたら……私よりも」


 パーティの仲間達は、驚きの余り絶句する。

 ラティーシャの冒険者としてのレベルは9、現役の冒険者の中では、最強の候補の一人として、名を挙げられる程の存在なのだ。


 そんなラティーシャが、レベル1の雑魚専であるクルトを、自分より強いかもしれないと言ったので、皆は驚いたのである。


「驚いたよ、ラティが冗談を言うなんて」


 ラティーシャとは古い付き合いの親友である、栗毛の魔術師は、驚きの声を漏らす。

 魔術師だけでなく、パーティの皆は、ラティーシャの言葉を冗談だと受け取る。


 ギリアンは呆れ顔で、言い放つ。


「何だ、冗談かよ。笑えない冗談だ」


 冗談では無く本気で言っていたので、ラティーシャは微妙な表情を浮かべる。

 ただ、ラティーシャ自身も、何となく感じただけで、具体的な根拠があっての発言ではなかった。


 それ故、ラティーシャは冗談では無く本気で言ったと、言い返す事はしなかった。

 結果として、ラティーシャの発言は、冗談だという事で、落ち着いてしまう。


 会話に花を咲かせながら、去って行くパーティを目で追っていたクルトは、ぼそりと呟く。


「危なかったな。顔を隠してないのに……人前でゴーレムを、片付けちまうとこだったぜ」


 ゴーレムであった魔石を、クルトは拾い始める。


「拾わないで行ったって事は、要らないんだろうし……俺が貰っても良いよな」


 魔石の大きさと数を確認しつつ、クルトはベストのポケットに仕舞う。


「これだけあれば、一週間は暮らせそうだし、今日はもう……ダンジョンから出ても良いか」


 十分な魔石を手に入れられたので、クルトはダンジョンでの仕事を切り上げる事を決める。

 ダンジョンの出入り口に向かって、クルトは岩盤に覆われた地下空洞の中を、足早に歩いて行く。



    ×    ×    ×






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