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005 クルト・ヴィルトと呼ばれている、レベル1の冒険者の青年

 小さな町なら、そのまま収まってしまいそうな程、広大な地下空洞の中に、冒険者達の声と悲鳴が響き渡る。


「何で第一層に、ゴーレムが出るんだよ? あれ第三層以下にしか、出ない筈だろ!」


「知るか! とにかく、逃げろ! あんなの相手にしてられるか!」


 戦闘服や軽装の鎧、ローブなどを身にまとった冒険者達は、巨大な岩石の巨人……ゴーレムに襲われ、地下空洞の中を、必死で逃走する。

 二十メートル程の高さがあるゴーレムは、普段ならダンジョンの第三層以下にしか、姿を現さない。


 頑強な岩壁に覆われた、この広過ぎる程の地下空洞は、ダンジョンの第一層であり、普段ならゴーレムは出現しないのだ。

 スケルトンやゴブリンなどの、雑魚と言える弱い魔石獣ませきじゅうを狩り、魔石を稼いでいた、レベルの低い冒険者達にとって、ゴーレムは倒しようが無い強敵と言える。


 それ故、レベルの低い冒険者達は、ゴーレムから逃げるしかないのだ。

 逃げ走る三十人程の冒険者達の中に、一人の青年が混ざっていた。


 一見すると、少女と見紛うような見た目だが、青年である。

 日に焼けたかのような浅黒い肌と、明るい栗毛のショートヘアが印象的な青年は、スタイルが細身である為、よく長身の少女に見間違えられるのだ。


 青年の服装は、動き易さを優先した、ゆったりとしたデザインの黒いカーゴパンツに、フィールドジャケット。

 ジャケットの上には、様々な装備を収納出来る、ベストを着ている。


 ありがちな戦闘服一式に身を包んだ青年は、逃げる冒険者達の最後尾にいた。

 明らかに、他の冒険者達に比べ、その青年は逃げ足が遅い。


 至近距離にいる冒険者である青年に、ゴーレムは狙いを定めたらしく、青年に向けて攻撃を仕掛け始める。

 ゴーレムは巨大な拳を、青年に振り下ろす。


 ゴーレムの拳の直撃は、轟音を響かせ、岩石の破片群を吹き飛ばしながら、地下空洞の地面に大穴を開ける。

 この辺りの地面は、分厚い岩盤で出来ているので、吹き飛ぶのは岩石の破片なのだ。


 岩石の破片群の中には、青白く光る物が混ざっている。

 光を放つ発光石と呼ばれている石で、地下空洞の中が、夜道程度に明るいのは、地下空洞のあちこちにある発光石が、照らしているからである。


 岩盤に大穴を開ける程の、ゴーレムの拳による強力なパンチを、青年はかわして逃げ回る。

 巨体の割りには、動きが機敏なゴーレムは、次々とパンチやキックを放ち、青年を攻撃するのだが、攻撃は逃げ回る青年に、当たりそうで当たらない。


 だが、攻撃を躱したせいで、逃げる方向が変わり、ダンジョンの出入り口では無い方向に、青年は逃げ始めてしまっている。

 他の冒険者達とは違う方向に、走り出してしまった青年を、ゴーレムは追い駆ける。


 ゴーレムが青年と共に、別方向に走って行ったので、自分達の命が助かった事に、他の冒険者達は安堵する。

 無論、ゴーレムから逃げ損なった青年の事を、心配には思ったのだが、助けに行くだけの力は、低レベルの冒険者達にはないのだ。


「誰だ? 逃げ損なったのは?」


「クルトだ!」


 誰かが答えた通り、ただ一人、ゴーレムに追いかけられ、他の冒険者とは違う方向に逃げたのは、クルト・ヴィルトと呼ばれている、レベル1の冒険者の青年だった。

 他の冒険者達から離れ、クルトは一人で地下空洞を走り続ける。


 そして、辺りに他の冒険者達がいない、冒険者達の目が届かないだろう辺りまで、クルトは辿り着く。

 周囲を見回し、クルトは周囲に、誰もいないのを確認する。


(そろそろ、いいかな?)


 クルトは立ち止まり、ゴーレムの方を振り向く。

 そして、攻撃の為に身構えた直後、クルトは急接近して来る、他の冒険者らしき気配を察し、攻撃するのを止める。


 すると、二十メートル程離れた辺りにいたゴーレムが、文字通り……切り刻まれてしまう。

 まるで、石のブロックを積み上げて作られた、人型の像であったかのように、ゴーレムはバラバラになって崩れ落ち、地面に落下して、砕けた破片を飛び散らせる。


 地面に落ちた、ブロックのようなゴーレムの破片群は、閃光を発しながら、宝石のような小さな石……魔石に、姿を変える。

 ダンジョンを侵入者から守る、意志無き人造のモンスター……魔石獣は、倒されると魔石となるのだ。


 クルトの前に、長剣を手にした、端正な顔立ちの女性が、姿を現した。

 馬の尾のように後ろで結っている、長い銀髪が印象的な女性は、白い戦闘服に、軽装の金属製の鎧を組み合わせている。


 ゴーレムを切り刻んだのは、この女性だった。


「助かりました! 有難うございます!」


 クルトは女性に、礼を言う。


「余計な御世話じゃなかったかな?」


 問いかける女性に、クルトは即答する。


「そんな! 助けてもらえなかったら、ゴーレムに殺されてましたよ!」


「だったら、良いんだけど……」


 そう言うと、剣を腰の鞘に収め、女性は踵を返す。

 そして、ゴーレムであった魔石を拾いもせず、アウラ・アクセルを使った高速移動により、女性は走り去って行く。


 二百メートル以上の距離を、ほんの数秒で走り終えると、女性は減速して立ち止まる。

 十数名のパーティの仲間達に、女性は合流したのだ。





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