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017 一カ月振りに会いに来たのに、何よ……その嫌そうな顔は?

「あー、楽になったわ」


 ボトルに入っていたミルクで、口の中をゆすぎ……飲んだクルトは、安堵の声を漏らす。

 シエラ湖の畔にある、自分のキャンプに戻った果敢は、日本にいた頃、バラエティ番組で見た光景を、思い出した。


 激辛料理を食べる罰ゲームを受けたタレントが、ミルクで口の中をゆすいでいたのを、思い出したのだ。

 それを真似てみたら、口の中の痛みが、ほぼ無くなったので、果敢は安堵の声を漏らしたのである。


 口をゆすぎ終えて、ボトルをテーブルに置いた直後、果敢は自分の方に近付いて来る、人の気配を察する。

 敵意や殺気の類は感じなかったが、一応は警戒しつつ、気配がする方に目をやる。


 すると、サングラスをかけた女性が、近付いて来る姿が、果敢の目に映る。

 短めの黒髪に、肌の色はブラウン、果敢より拳一つ半は背が高い、長身といえる女性だ。


 この世界におけるジーンズといえる、ジェヌカという下衣を穿いていて、シンプルな黒いジャケットを着ている。

 スーツに合わせるようなジャケットではなく、ウインドジャーマーという、風よけの機能に優れた、アウトドア用のジャケットであり、内側に着ているシャツは見えない。


 サングラスで目元を隠していても、気配と動きで、果敢には誰だか分かった。

 かなり濃い時間を、共に過ごした相手だったので。


「良くここが分かったな」


 声をかけた果敢に、女性は答を返す。


「アパートにいなかったんで、この辺りのキャンプ場を巡れば、見付かるだろうと思っただけよ」


「ダンジョンに行った可能性だってあるだろ?」


「カカンの場合、ダンジョンよりキャンプ場にいる可能性の方が、高いでしょ」


「いや、ダンジョンに入ってる日の方が、多いんだけどね……一応は」


 カカンは大抵、週の五日をダンジョンで過ごし、残りの二日ををキャンプで過ごすという感じの生活を続けている。

 ダンジョンに入る日の方が、一応は多いのだ。


「いや、それより……カカンって呼ぶなよ、今はクルトなんだから」


「別に良いじゃない、誰も聞いちゃいないって」


「誰かにつけられたりは、してないだろうな?」


「そんな間抜けなミス、する訳ないでしょ」


 当たり前だと言わんばかりの口調で、女性は続ける。


「世界第二位の魔女と言われてる、このアシェンプテル・ビエナートが」


 果敢の元に辿り着いた女性は、サングラスを外す。

 晒された素顔は、ヴェントス・インヴィクトの仲間として、果敢と共に戦った魔術師、アシェンプテルであった。


 果敢は椅子の背もたれを倒し、二人が並んで座れるようにする。

 一人で座るだけでなく、完全に背もたれを倒すと、複数の人が座れる、長椅子のようにも出来る、組み立て式の椅子なのだ。


 アシェンプテルと並んで、果敢は椅子に座る。


「それで、何の用?」


 右に座ったアシェンプテルを、半目で見ながら、果敢は問いかけた。


「一カ月振りに会いに来たのに、何よ……その嫌そうな顔は?」


「だって、どうせ……また何か厄介事を、押し付けに来たんだろ?」


「それはまぁ、そうなんだけど」


「ーーだと思ったよ。お前が俺の所に来るのは、そんな時くらいだからな」


「何よ、そのキツイ言い方は?」


 アシェンプテルは不満気に、言葉を続ける。


「強引に処女を奪った女を相手に、よくもまぁ……そんな口をきけたものね」


 一年前の話を持ち出され、果敢は狼狽しつつ、言い訳の言葉を口にする。


「いや、あれは……その……呪いのせいで……」


 焦ってしどろもどろになる果敢の顔を見て、アシェンプテルは気が晴れたのか、勝ち誇った風な笑みを浮かべる。

 この話を持ち出せば、果敢に優位に立てるのを、過去の経験からアシェンプテルは知っているのだ。


 一年前、アスタロトを倒した後、アスタロト・ファミリーの残党狩りをしていた頃、ヴェントス・インヴィクトは一時的に二手に分かれた。

 ハインリヒとローランドが、母国の部隊に一時的に招集され、別行動を取る事になったのである。


 残党狩りの際、果敢はアシェンプテルやマレーンと共に、魔族達と戦った。

 既に特級魔族は残っていなかったので、上級魔族以下ばかりではあったが、それなりに数が多い残党達を相手に、アウラと魔力を使って戦ったのだ。


 三人は戦いの後、途中で合流したグリム諸国連合軍の、女性だけで構成されるパーティと合流。

 一時期、行動を共にしていた事から、果敢達にとっても親しかった、その女性パーティと共に、グリム諸国連合軍が、非常時の宿として利用する為に借り上げていた、森の中の空き家で、夜を過ごす事になったのである。


 その夜、果敢の呪印が、初めて発動した。

 まだ、どのような呪印なのかは、分かっていなかったので、何の対処も出来ぬ状態で、発動してしまったのだ。


 果敢の「月のルーレット」という呪術の呪印は、満月の状態となった後、自分で発動させれば、ルーレットタイムが始まる。

 だが、自分で発動しないまま、十二時間程放置すると、呪いが自動的に発動してしまうのである。


 自動的に発動する場合、最悪と言えるレベル5の中から、自動的に呪いが選択され、発動してしまう。

 この時に発動したのが、「淫らな夜と気まずい朝」という呪いであった。


 この呪いは夜になると、果敢を強制的に発情させてしまう。

 しかも、近くにいる女性達、しかも交際相手や配偶者ではない女性達を、果敢に対して同時に発情させてしまうのだ。


 つまり、この呪いが発動すると、果敢は巻き込まれた女性達を相手に、「淫らな夜」を過ごし、「気まずい朝」を迎えてしまう羽目になるのである。

 一度発動したのなら、「淫らな夜」も「気まずい朝」も、果敢は決して、避ける事は出来ない。


 呪いが発動した時、近くにいたのは、宿にしていた空き家にいた、マレーンとアシェンプテル、そして合流した女性パーティの五人のメンバー達。

 この全員と果敢は発情し、「淫らな夜」を過ごし、「気まずい朝」を迎えてしまったのだ。


 グリム大陸は、広まっている宗教……グリム聖教の影響のせいで、性的なモラルが日本よりも厳しい。

 その影響のせいか、果敢の相手となった女性達は皆、果敢の相手をするまでは、処女であった。


 アシェンプテルの言う、「強引に処女を奪った」というのは、この時の事を言っているのだ。

 呪いのせいであり、アシェンプテル自身も発情していた為、無理矢理という訳ではない。


 だが、最も強く呪いの影響を受けた果敢が、かなり強引に女性達に迫ったのは事実。

 そのせいで、割と真面目なタイプである果敢は、気まずいどころか、かなりの罪悪感を覚える羽目になってしまった。


 故に、処女を奪ったような形になった事を、アシェンプテルに持ち出されると、それが呪いのせいであっても、果敢は強くは出れなくなってしまう。

 その事を、アシェンプテルは知っていて、利用する時があるのだ。





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