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016 それじゃ、改めて……また次の呪いで!

 果敢にかけられた呪術は、「月のルーレット」というものだ。

 呪術をかけられた果敢が、一定以上の強さのアウラや魔力を使うと、三日月型の呪印が、次第に満月型に近付いて行く。


 呪印が満月になると、呪いを受ける事が確定してしまうので、果敢は呪印を発動させなければならない。

 発動させると、アスタロト人形とルーレットを載せたテーブルが姿を現し、アスタロトが言うところの「ルーレットタイム」が始まる。


 そして、果敢はルーレットのホイールを回し、選ばれた呪いを、身に受ける羽目になるのだ。

 満月の中に書かれた数字は、呪いのレベルである。


 レベルは五段階存在し、より強力なアウラや魔力を使えば使う程、レベルは上昇してしまう。

 そして、レベルの高さに比例し、果敢にとっては嫌な呪いになっていくのだ。


 今回の呪いはレベル1なので、呪いの中では、最もマシな部類といえる。

 最悪のレベル5となると、果敢は精神的なダメージのせいで、しばらく立ち直れなくなる程に、ヤバい呪いを身に受ける羽目になる。


 ちなみに、果敢が自ら呪印を発動させぬまま、十二時間程が過ぎると、ルーレットタイム無しで、レベル5の最悪の呪いが、自動的に発動してしまう。

 その事を知らずに、呪印を自動発動させてしまった、苦い経験があるので、果敢は呪印の発動を、なるべく先送りにはせず、早目に自分で発動させる事にしているのだ。


 自動発動する十二時間は、呪印が満月になってからではなく、身に受ける呪いの数字が、呪印に表示されてから。

 つまり、レベルが1になってから、一時間後に2に上昇した場合、2になった時間から、十二時間後に自動発動するのである。


 呪印を押して発動させると、アスタロトをぬいぐる風の人形にした感じの幻影……アスタロト人形が現れる。

 アスタロト人形は、この世界の物や人に、触れる事は出来ない。


 故に、アスタロト人形を使い、この世界にある程度の影響力を、与える事は出来ても、アスタロトが世界の脅威となるような事は無い。

 出来るのは、基本的には果敢に対する嫌がらせだけだ(その結果、それなりに世界に影響を、与えてしまう事もあるのだが)。


 呪いによる嫌がらせにより、酷い目に遭うカカンの姿を、アスタロト本人は幽霊界で見物して、楽しんでいる。

 呪印の発動中に限るのだが、アスタロトは自由自在に、果敢の様子を幽霊界の鏡に映し出し、テレビで生中継でも見るかのように、楽しむ事が出来るので。


 大きな鏡を使えば、アスタロト本人だけではなく、他の幽霊達と共に見物する事が出来る。

 幽霊界には、アスタロト・ファミリーの幹部クラスの部下達も送られていたので、果敢が呪いに苦しむ光景は、アスタロトだけでなく、部下達にまでも楽しまれてしまうのだ。


 アスタロトの声と共に、果敢の耳に届いた歓声は、アスタロトの部下達の歓声だったのである。

 実は、見物する為に使われる鏡には、アスタロトの声を果敢に伝える為の、マイクのような機能がある。


 鏡はアスタロトの声だけでなく、周囲で見物している、部下達の幽霊の声も拾ってしまう。

 故に、部下達の声も果敢の元に、届いてしまう訳だ。


 果敢はアスタロトに呪術をかけられ、帰還印に呪印を上書きされてしまい、日本に帰れなくなった。

 だが、果敢が受けた被害は、それだけではなく、呪術自体により、果敢はアスタロトに、嫌がらせをされ続ける被害を、受け続けているのである。


 このような、「死せるアスタロトの嫌がらせ」とでも言うべき状況になってしまった為、果敢は基本的には、強いアウラや魔力の使用を、可能な限り控えるようになった。

 アスタロトからの嫌がらせを、受けたくは無いので。


 果敢が雑魚専の冒険者でいるのも、強い魔石獣と戦う為に、強力なアウラや魔力を使うと、呪印が満月になってしまうからだった。

 弱い魔石獣だけと戦う、雑魚専の冒険者として活動するなら、強いアウラや魔力を使わずに済むので、果敢は呪いを身に受けずに済むのだ。


 果敢が雑魚専でいるのには、別の理由もある。

 クルトという別人として、潜伏生活を送っている果敢としては、冒険者として活躍し、目立ちたくないというのも、雑魚専の冒険者を続ける理由である。


 ただ、危険な状況に陥っている人を見ると、つい助けてしまう性分の果敢は、結構な頻度で呪印を発動させる羽目になっている。

 自分が本当は強い事を知られないように、助ける時は、祭の仮装行列の為に購入した、猫の仮面をかぶって、顔を隠した上で。


 キュレーター島で話題の猫仮面というのは、クルトとして生活している、果敢の事なのである。

 猫仮面となり人助けをした後、果敢は毎度のように、人知れず呪いを身に受け、酷い目に遭っているのだ。


「それじゃ、改めて……また次の呪いで!」


 去り際の挨拶をやり直すと、アスタロト人形とルーレットを載せたテーブルは、姿を現した時と同じように、地面に現れた光る円の中に、姿を消してしまう。

 まるで、舞台装置の奈落によって、舞台の下に沈んで行くかのように。


「まったく……ふざけた野郎だ!」


 不愉快そうに、果敢は言葉を吐き捨てる。


「魔神とか呼ばれてた時とは、ノリが違い過ぎだ! あんな軽いノリの奴じゃなかっただろ!」


 魔神と呼ばれていた頃のアスタロトには、人族の世界を危機に陥れた、魔族の大物としての威厳があった。

 でも、今のアスタロトは、毒舌と悪ふざけを売りにする、お笑い芸人のような、気楽なノリになっているのだ。


 元からそうだったのか、それとも死んだせいで、色々と吹っ切れた結果、そうなったのか、果敢には分からない。

 ただ、聞こえて来る部下達の歓声や言葉から、元からそんな感じの性格だったのではないかと、果敢は最近は思い始めている。


「あんなの相手に戦う為に、俺はこの世界に呼ばれて、倒した後まで呪われて、帰れなくなってんだよな……」


 果敢は愚痴りながら、胸の呪印を確認する。

 呪印は三日月に、戻っていた。


「まぁ、キャンプ三昧の生活は、楽しくない訳じゃないんだけど、家族も友達も、心配してるだろうから……早く帰りたいよ」


 日本を離れ、この世界に来てから、既に二年以上が過ぎている。

 心配してるだろう家族や友人達の事を考えると、果敢は少しでも早く、日本に帰りたいのだ。


 でも、呪印をどうにかして、帰還印を使えるようにしなければ、果敢は日本へは帰れないのである。

 現時点で、それを可能にする方法は、発見されていない。


「まだ痛いよ……口ン中」


 泣き言を呟きながら、果敢は指輪を元に戻し、帰還印と呪印を隠すと、素早く着衣を整える。

 アウラを使えば、口の中の痛みを、普通なら取れるのだが、呪いで身に受けた苦痛は、アウラや魔力を源泉とした力では、どうする事も出来ない場合が多いのだ。


 ただ、水で口をゆすいだら、楽になったように、アウラや魔力と無関係な手段であれば、ダメージは軽減出来る場合が多い。

 これまで、何度も呪いを身に受けた結果、分かった事の一つである。


 身支度を整え終えた果敢は、呪印が満月に近付かない程度の、少量のアウラを使って、アウラ・アクセルを発動。

 下手な冒険者が、本気でアウラ・アクセルを使った時の速さに、匹敵する程の速さで、果敢は森の中を駆け始める。


 ソロキャンプを続ける為に、シエラ湖の畔に向かって……。



    ×    ×    ×





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