野戦病院
補給物資を輸送した帰り敵の長距離ロケット弾による攻撃に巻き込まれ、足に破片を浴びた僕を近くにいた兵士達が川の近くの野戦病院に担ぎ込んでくれた。
野戦病院の周囲は怪我を負って動けない将兵で足の踏み場もない程混雑している。
その中を険しい顔の軍医や衛生兵が忙しく動き回っていた。
だけど僕を担当してくれる先生は温和な顔をしている。
先生の助手をしているのは先生と同じくらいの歳の女性と高校生と小学生くらいの歳の少女2人。
手術台の上に抱え上げてくれた若い衛生兵が事情を話してくれた。
「あの方は軍医では無く、此処の近くの町の出身で首都で開業医を営んでいた方なのですが、野戦病院の医師が足りないと聞いて一家で駆けつけてくださったのです。
あの女の人たちは先生の奥様と娘さん達です」
先生が近寄ってきて話しかけてくる。
「物資が不足していて麻酔を注射してあげる事が出来ない。
かなり痛いが我慢してくれ」
木の棒に布を巻いた物を咥えさせられ、若い衛生兵や比較的軽傷の兵士達に身体を押さえつけられ手術が始まった。
痛みで呻く僕の手を小学生くらいの女の子が両手で握り「頑張って」と励ましてくれる。
傷口から破片が取り除かれ消毒液が振りかけられ縫い合わされて手術は終わり、真っ白な包帯を高校生くらいの女の子が巻いてくれた。
手術台に腰かけている僕に、若い衛生兵が化膿止めの錠剤と2メートルくらいの長さの棒を差し出しながら告げてくる。
「野戦病院の周囲は自力で動く事が出来ない将兵で埋まっているので、動ける方は部隊に戻ってください」
棒を受け取りそれにすがって部隊に向けて歩む。
上官の少尉が棒にすがって戻ってきた僕に問う。
「負傷したのか、何処で手当てして貰ったのだ?」
「川の近くの野戦病院です」
「そんな馬鹿な!
あそこは先週敵の放ったミサイルの直撃を受け壊滅しているぞ」
え!?僕は足に巻かれた包帯を見る。
包帯が透けていく…………否、包帯だけでなく僕の足も透けて行く。
そうだ! 野戦病院の人たちだけでなく僕も上官も周囲にいる将兵も皆死んでいるのだ。
周りの人たちの姿も景色も全て消えていく。
戦争がどんどんエスカレートして3日前の朝、全面核戦争が生じ人類は滅亡したのだった…………。