第三話 黒塗りの宝石箱 中身は危険物にて
「匂い、汚い、危険、本当にここは嫌いですなあ。………おや、4Kになってしまいました。マスクを」
コーギーの男はそう言い、埃を吸い込まぬよう、黒服の男からマスクを受け取った。
コーギーの男はジャラジャラと金の装飾を煌めかせながらカッレーへと向き合った。
カッレーがチャラチャラに対し、ジャラジャラである。
10倍ほど装飾の量に違いがあるだろう。
「旦那。こんちゃっす」
「こんにちはカッレーさん。お迎えにあがりましたよ………おっと、邪魔が入りますね」
コーギーの男がカッレーに話しかけた時、高級車を見ていた群衆の中から、釘のついたバットを振りかぶり、男が飛び出して来た。
後ろからも何人かそれぞれの武器を持ち男に続く。
「はっはー! お宝の方からこっちに来てくれるなんて、幸運だぜ!」
よく見れば、その男は先程カッレーの身ぐるみを剥がそうとしていた集団だった。
「あいつら………」
ボッティが止めに入ろうとした時だった。
「ナガル。やっておしまいなさい」
「了解」
ナガルと呼ばれた黒服のブルドックは、コーギーの男に振り降ろされた釘バットを素手で容易く受け止めると、反対の手でその男の腹部にアッパーを打ち込んだ。
「ぐ…ぇ」
男はあっけなく吹き飛ばされ、後ろにいた部下達を巻き込みスラムの壁に打ち付けられた。
「……必要無かったか」
ボッティが拳を引っ込め、腕を組んだ。
「………強そうな男じゃないの」
「止めろ」
リリナが何故かナガルを見てうっとりとした表情をしていた。
「さて、片付いたようですね。ところでカッレーさん、お客さんと言うのは、まさかそちらの方で?」
コーギーの男はボッティを少し嫌そうに見た。
「ああ、そっす。まあダメだったら別にいいっすけど」
「ふむ………まあ、あなたの頼みです。そのお客を招待しましょう」
コーギーの男はそう言うと、黒塗りの高級車の扉を開け、後部座席に座った。
「さあ、早くお乗りください。あまりここに居たくないものでしてね」
「乗って良いのか?」
ボッティが警戒から少し身構える。
それを見て、コーギーの男は少し笑って、言った。
「ははは、警戒しなくて良いですよ。カッレーさんがあなたにお礼をしたいと言うのですから、仕方なく大都市の方まで来てもらう事にしました」
「そうか………」
「前の座席に乗ってくださいね」
ボッティは自動で開いた前の座席に座った。
「狭いな」
「あなたはナガルよりも大きいですからね。ナガルも相当背が高いはずなんですがね」
ボッティが乗り込むと、窓の外からリリナがボッティに話しかけた。
「あんた、ほんとに大都市に行くのかい?」
「ああ。別に用事も無いしな。礼を貰えるなら、貰っといた方がいい」
「へえ。じゃ、せいぜい気をつけな」
リリナは最後に甘い吐息をボッティに吹きかけた。
そして、リリナが窓から離れると窓が閉められた。
「カッレーさんは後ろでいいので、早く乗ってください」
「あ、分かったっす」
ナガルはカッレーが乗ったのを見ると、自動開閉ボタンを押し、扉を閉めた。
「では発車致します」
4人を乗せた黒塗りの高級車は、ナガルの言葉で静かに発進し、スラムの街を後にした。
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