第二十八話 7つの命、ベッド2つ
ラキャの妊娠が発覚してから約1ヶ月。
ラキャは無事風邪が治り、つわりも収まった。
なにより、お腹が膨れてきた。
妊娠してから3ヶ月が経ち、時期的にも丁度良いということで超音波検査で中の様子を確認するために病院にいる。
ちなみに、俺はまだラキャの様子を見るために、市長の仕事を休んでいる。
あまり長いこと休んではいられないため、今回の検査で安定してると解れば、一週間以内には職を戻す方針だ。
「あ、ここです。まだ小さいですけど、分かりますか?」
「はい」
「おお……」
俺は思わず声を出した。
医者が画面を指さすと、そこには白い小さなシルエットがあった。
よく見れば、それは抱え込むように丸まった、手足の生えた生物に見えた。
子供だ。
鼻をすする音がしたため横を見ると、ラキャが泣いていた。
感動したのか、落涙しながらせき込んでいる。
「わだしさいぎん泣いてばっかり………」
俺がプロポーズした時も確か泣いていたなとおもいながら、俺はラキャにティッシュを渡してやった。
チーンと鼻をかむ音がする。
「それで、男の子か? 女の子か?」
俺が聞く。
今日は体調の安定の他に、産まれて来る子供の性別を確認するという目的もあって来たのだった。
俺は心の中でわくわくとしながら画面に目をやる。
ちなみに男か女かはついてるかついてないかで分かるらしい。
俺は男が良い。
「えーと、少々お待ちください……あ、ついてませんね。女の子です」
「女の子かぁ………」
「女の子か………」
ラキャはうっとりしたように自分のお腹を見つめ、俺は少しだけ耳が下がる。
まあしょうがない事だ。
残念じゃないと言えば嘘になるが、別に女の子が嫌いという訳じゃない。
どっちだって、俺とラキャの子だ。
「あ、待ってくださいね。男の子もいます」
「も?」
「も、とは、どういう事だ?」
医者は検査機をラキャのお腹の上で滑らす。
「ああやっぱり。ここ、見えますか?」
そこには白い、まるで抱え込むように丸まっている小さなシルエットがいくつもあった。
数えれば、合計で5つ。
角度が変わったことできちんと見えるようになったようだ。
俺は心臓が高鳴るのを感じた。
「おめでとうございます。五つ子です」
「五つ子!?」
ラキャが驚きの声を上げた。
俺は超音波写真の画面に見入った。
双子はよく生まれると言うが、五つ子は俺も聞いた事が無いぞ。
しかし、確かに5つある。
「五人もいたのか。よく、頑張ったな」
「どうりで重いわけだよぉ」
ラキャが苦労いっぱいといった声をあげる。
医者が言うには、五人とも元気で、異常は無いということだ。
しかし、五人もいるため、人一倍に体調管理と万全に期せなければならないといった事だ。
どのみち、だ。
我が家がとても賑やかになることだけは確定しているだろう。
「五人だってね。みんなのぶんのベッド買ってあげなきゃ」
「ああ」
喜びを隠せない、といった様子で、すこし膨れたお腹に手をおきながら子供用ベッドの前でラキャがもじもじとしている。
病院に行った後、ラキャが全員分のベッドを買いたいと言い出したので、早速ショッピングモールの家具売り場に来ることにしたのだ。
因みに、ベッド一つの大きさはだいたい一抱え程だ。
産まれたばかりの赤ちゃんはまだ手のひらにのる大きさだから妥当だろう。
1年で直ぐに大きくなりベッドにはいりきらなくなるのだが、それでも様々なデザインのベッドがある。
「やっぱり、可愛いの買ってあげたいよね~。うーん。耐久性も欲しいし……」
ラキャが値札を手に取り悩んでいる。
「別に5つ買う必要も無いだろ。それに、場所がない」
「あ、そっか」
「そうなるとあっちだな」
俺はそう言って売り場の奥へ歩く。
そこは何人かの赤ちゃんが一緒に入ることができる大きなベッドが並べられていた。
「大きいね」
「ああ。何人か一緒に入れるし、十分の広さの遊び場にもなる」
「でも、高くない?」
「性能だとこの3つだな。値段はまあ気にする必要は無いから、好きなやつを選べ」
「そう? じゃあ………」
ラキャはそう言ってからじっくりと悩んだ。
3つのベッドの前を行き来しては、子供達が戯れる姿を幻視したのか時々にやつき、行き来してはにやついてを繰り返して20分後、ラキャは一つのベッドに決めた。
「これがいいかな?」
「うん。いいと思うぞ」
ラキャが選んだベッドは他の2つに比べると僅かに木の色合いが明るく、自然な木目が温かみを感じさせる。
確かに、良いベッドだ。
「買うか」
「うん!」
そのままレジで支払いを済ませた。
ベッド自体は便で後日届くようなので、このまま帰る事にした時だった。
「あっ、お父さん。ちょっと待って」
「ん? どうした?」
「ほら、あれ」
ラキャはそう言った方向を見ると、ショッピングモールの通路の端に、子供が座り込んでいた。
3才から4才ほどだろうか。
右手に大きなペロペロキャンディを持ち、性別は解りづらくクリーム色の毛色をしていた。
周りを見てみるが、親と思われる大人はいない。
人は行き交ってはいるが、誰も気にした様子はない。
「どうしたんだろう?」
「迷子か?」
「そういえば、さっき迷子のお知らせがあったような………。ちょっと待ってて」
ラキャが子供に歩み寄り、優しく話しかけた。
「どうしたの?」
「…………………………まいご」
子供は顔を上げ、ラキャにそう言った。
目の下には涙が流れた後がある。
「迷子か。お名前は?」
「アランド…………」
アランドと名乗った少年は、鼻をすすりながらラキャの質問に答える。
「お父さんとお母さんと一緒に来たの?」
「うーん。おかーさん。あとおねーちゃんたち」
「お兄ちゃん達?」
「うん。ストリアおねーちゃんとサウジおにーちゃんとイラおねーちゃんとネシアおねーちゃん。あと、ジェリアちゃん」
………ん? どこかで聞いた名前だな。
気のせいか?
「みんな、ぼくがおもちゃにむちゅーになってるあいだに、どっかいっちゃったの。うぇ、ひぐっ」
泣き出してしまった。
ぼろぼろと涙を流しながら、手に持つペロペロキャンディをガジガジと噛んでいる。
「と、とりあえず、お母さんのところに送ってあげるから、ね」
「ええええ、うえええっ、ひぐっ」コクン
「ラキャ。迷子センターは一階だ。その子は俺が抱っこしておこう」
「うん」
俺はそっとアランドを抱き上げる。
「ひっぐ、たかい………」
「あ、嫌だったか?」
「ううん。ぐすっ。たかくて、おもしろい」
「そうか。それは、良かった」
アランドは俺の胸でペロペロキャンディを舐めている。
そのまま迷子センターに向かっていると、いつの間にかアランドはペロペロキャンディをくわえながら眠りについてしまった。
「寝ちゃったね」
「ああ」
「………私達にも、子供が出来たらこんな感じなのかな?」
「これの五倍も大変だろうがな」
「そうだった。楽しみだね」
「……………楽しみだな」
俺が喉につまらないようにアランドのペロペロキャンディを口から離すと、よだれが服についた。
「あ、よだれが………」
「あとで拭けばいい。それに、どうせ直ぐに体験する事だ」
「うふふっ。そうだね。抱っこは、お父さんにお任せだね」
そんな会話をしながら、俺とラキャが一階に着くと、迷子センターに子連れの女性が心配した顔でいた。
しかし、あの女性は………
「ああ! アランド!」
その女性は俺が抱き上げているアランドを見るなり、駆けつけてきた。
よく見れば女性自身もまだ小さな子供を抱えている。
「ってアンタ!」
駆け寄ってきた女性はリリナだった。
「ボッティじゃないか。久しぶりだね。アンタがアランドを見つけてくれたのかい? 感謝するよ」
「ああ。久しぶりだな。ほら、起きろ。お母さんだぞ」
「ん………」
アランドは目を覚ましたが、まだ半目だった。
とりあえず地面に下ろし自分で立たせると、リリナの足にしがみついた。
「アランド。心配したんだから。他の人に迷惑かけるなって、いつも言ってるだろう?」
「ん。ごめんなさい………」
「ストリア。アランドの世話しててくれるかい?」
「はい、お母さん」
リリナが連れていた子供達の中で一番大きい少女がアランドを連れ目の届く距離に置いてあったベンチに座った。
「お父さん。この人、知り合い?」
「ああ、知り合いだよ。アンタには合ったこともあるんだけど、覚えてないかい?」
リリナがラキャをまじまじと見ながら言った。
ラキャは首を傾げる。
「………??」
「ほら、昔よく一緒にカルタしたじゃないか」
「カルタ………あっ!?」
ラキャが口元を抑え、リリナを見る。
「リリナさん!?」
「やっと思い出してくれたね。そうだよ、リリナだよ」
「わ……本当に久しぶりです。こんなところであうなんて」
ラキャはリリナの腕の中にいる赤ちゃんと、ベンチで遊んでいる5人の子供達を見ていった。
「お母さんになってたんだ……」
「それはこっちのセリフだな。そんなにお腹を大きくして……。テレビでいろいろと騒がれてたじゃないか」
「あ、はい。でもお父さんが守ってくれたおかげで、いますごく幸せです」
「幸せ、ね」
「………なんだよ?」
リリナは片方のまゆをあげ、俺を見た。
やけにニヤニヤとしている。
「本当に幸せそうだ。良かったじゃないか。でくの坊のアンタを選んでくれて」
「まあ、な。幸せにするって言ったしな」
「お、お父さん。そんなことリリナさんに言ってたの?」
「ああ。割と前から相談相手になってくれていたんだ」
「ふ、ふーん。幸せにする、ねぇ……」
ラキャが顎に指を当ててもじもじしている。
なんだかニヤニヤもしている。
その時、リリナがラキャの肩に手を置いた。
「ラキャちゃん。アンタもママになるんだし、先輩ママの私にいつだって相談しても良いからね」
「リリナさん…………。はい!」
やはり、リリナは頼もしい。
変な言い方になるが、俺もラキャも子育て初心者だ。
小さい頃の知人というのもあり、ラキャの大きな心の支えになるだろう。
「宜しくお願いします、リリナさん………!」
「あらためてよろしく。ラキャちゃん」
その日はラキャとリリナがリンネ(メッセージアプリ)を交換したことで解散した。
「ところでラキャは五つ子を身ごもっててな」
「へ? 五つ子?」
「どうした?」
「一人でも十分大変なんだが………新人ママなのに五つ子とは、神様は酷だねぇ……」
「……全力でサポートに徹する」




