第二十七話 毛布のかかった勉強時間
ドーギニアの妊娠期間は約6ヵ月です。
私とお父さんが結婚してから、しばらく。
嫌と言うほど、私とお父さんは週刊誌とかワイドショーで取り上げられた。
テレビをつければ専門家の意見。
スポーツ誌を見れば根も葉もない記事。
全部お父さんが対応してくれた。
おかげで最近は収まってはいるが、ネット上はまだ噂の嵐。
だから、あまり見ないようにしている。
お父さんは私のつわりがひどい間一旦市長の役を休み、私の身の回りのお世話をしてくれている。
「くしゅんっ」
私は鼻をすすった。
「風邪ひいたかな……」
それは困る。
早めに治さないと………
私は教科書をめくり、次のページを見た。
私は家のベッドの中で勉強をしている。
一応高校生なんだけど、今停学中。
けれど、私は今、高校の勉強をしている訳じゃない。
私がしているのは子育ての勉強。
教科書は子育ての本。
子供を産むってなったら、多分退学になるし、ならなくてももう高校生活は過ごせない。
でも、私はお父さんの隣に永久就職だから、将来の心配はしなくていい。
今不安なのは、数ヶ月先に控えてる出産のほうだ。
まだお腹は大きくなって来ていないけど、それでも命が私の中にあるのを感じる。
お腹が大きくなったら、男の子か女の子か、お父さんと一緒に確認したいな。
あ、来た。
「う……ええっ、ごぼぼっ、げほっ」
私は桶に吐いた。
つわりが辛い。
なんとか食べてはいるけど、すぐ吐いちゃうから最近めっきり痩せた。
私は口をゆすいで、桶の袋を取り替える。
お父さんが出掛ける時は、なんとか自分でやらなきゃ。
そのとき、インターホンが鳴った。
私が枕元のモニターに目をやると、学校帰りなのか、セーラー服に身を包んだ友達のマリリン(ジャーマンシェパード)だった。
そう言えば今日おみまいに来る、みたいなこと言ってた気がする。
私はマリリンを部屋に招き込んだ。
「ひさしぶり、マリリン」
「ラキャちゃん。ひさしぶり」
2週間ぶりくらいに顔を合わせたマリリンは、変わらなかった。
ちょっと心配そうな顔をしてるけど。
「ラキャちゃん、痩せた?」
「うん。ちょっとね」
「……大丈夫?」
「あんまり」
マリリンは両手をベッドに横たわる私の手に乗せた。
「お母さんになるって、私にはまだ分からないけど………頑張ってね?」
「がんばるよ」
「うん」
マリリンは少しほっとしたような顔になった。
「えーと、今日はね、ラキャちゃんにお土産があるよ」
「おみやげ?」
「うん。気に入ってくれたらいいんだけど……」
マリリンはカバンの中から一着の小さい服を取り出した。
ちょうど、両手におさまるくらいの大きさだった。
「これね、私が赤ちゃんの時に着てたやつなんだけど、どう?」
「どうって、くれるの?」
「あ、迷惑だったらいいけど……」
「ううん、全然! 全然かわいいよ!」
「そお?」
マリリンが私にくれると言ったのは、新生児用の、まるで人形に着せるみたいに小さい服だった。
ちょっとだけ色あせた、上下の繋がったピンク色の赤ちゃん服。
私がそれを見ていると、マリリンは嬉しそうに次から次に服を取り出し、結局全て色の違う、5着の服が出てきた。
ピンク、黄色、水色、黄緑色、薄紫。
全部上下が繋がった赤ちゃん服だった。
「お母さんったら、すぐに大きくなるのにこんなにカラフルにしちゃってさ」
「ふふっ。マリリンがかわいかったから、沢山買ってあげたんだよ」
「えへへ~」
「これ全部くれるの?」
「うん。新しいお母さんにあげなって、うちのお母さんが出してきたの」
「ありがとー♪ 着せるのが楽しみ♡」
私は服をたたんで枕元に置いた。
それからしばらく、私とマリリンはいろいろと話した。
他愛も無い話、アニメの話、学校の話。
あっという間に1時間くらいが過ぎた頃、お父さんが帰ってきた。
「ただいま。お、アリーナちゃんか」
「おじゃましてます~」
「あ、お父さん。みてみて! これね、マリリンちゃんがくれたんだけど」
私はお父さんにさっきマリリンがくれた赤ちゃん服を見せた。
「お、子供服か。ちょっと早いような気もするが、ありがとう」
「いえいえ。では、私そろそろ帰りますね」
マリリンは時計に一瞬目をやり、お父さんにそう言った。
多分、お父さんが来たから気を使ったんだと思う。
「ああ。気をつけてな」
「はい」
「じゃあねー」
「ばいばーい」
扉が閉まった後、お父さんが口を開いた。
「さて。貰ったからには、元気な子を産んで貰わないとな」
「うん。………早く産まれて来ないかなー」
「あとこれ。風邪薬だ。あまり強くないのを選んできた」
「ありがと」
私は風邪薬を枕元に置いた。
「くしゅんっ」
「早く治ってくれるのを願うしかないな」
「うん」
「おでこを出せ」
「うん?」
お父さんは私のおでこに優しく、チュッ、と口づけした。
いきなりなんですかっ!?
「俺の力を分け与えた。おまじないだ」
「おまじないって………」
「嫌か?」
「(頬を紅潮させながら首を横に高速に振る)」
「そうか」
お父さんはそのまま夕飯を作りにキッチンに行ってしまった。
お父さんのほっぺ、ちょっぴり赤かった。
自分でも恥ずかしいんかい。
結婚しても、お父さんは不器用だった。
でも、そんなお父さんも好き。
いやむしろ大好き。
感想くださいな。




